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家族の検査希望が救った命 [救急医療]

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診断過程は、基本的に確率であり、かつ病気は自然現象だ。つまり、診断とは、天気予報のようなものだ。さらには、救急診療や時間外診療の場では、判断に必要な時間も限られており、その他も悪条件であることが多いのも特徴だ。それで、どんなに誠意をもって診断しようとしても、どんなに一生懸命勉強してありとあらゆる知識を仕入れて診断に挑んでも、どんなに複数の検査を繰り出して診断に挑んでも、ある一定の確率で、自分の想定外の結果が起きておきてしまうことは避けられないのだ。この事実を、まず自らが認めることが大切だ。普段から、地雷を踏まない努力もさることもながら、地雷を踏んでしまっても、不毛な紛争にまでは発展しないように、日ごろの診療を根回ししておくことは、極めて重要だと、私は思う。だからこそ、自分の次には、患者や家族にも確率に基づいた診断の限界性を理解してもらう必要があるのだ。

しかし、辟易するのがマスコミの医療報道だ。やれ、夢の治療法だの、やれ○○の名医だの、医療に対して過度の期待を持たせるニュアンスの報道が多すぎるように思う。病気は自然現象であり、医療の限界性をもっと世論に啓蒙してほしいものだ。まともなメディアリテラシーを持ってほしい。

さて、このように、診断の限界性を自分が認識していると、家族や本人からの検査希望は無下に断らないほうが無難だと自然に思えるようになってくる。ただ、その要求の程度問題というところもあろうが、おおむね、私は、検査施行基準が甘い方かなと思っている。

今日の各論は、時間外診療における頭部単純CTの検査についてだ。時間外でも比較的頭部CTを希望する人たちは多い。頭痛であれ、頭部打撲であれ、内科系も外科系も関係ない。

私の基本的スタンスは、 「検査提示+自分の私見」という形での患者との相談だ。
例えば、緊張型頭痛の病歴の患者に対して、「まずは経過だけをみても大丈夫だと思いますが、CT検査を今見ておくことも可能です。万が一調子が悪いのが続けば、初めてその時にCTを採ることを考えてもいいですよ。どうしましょうか?」といった感じである。

時に、妙に患者側が検査を積極的に希望するときもある。 こんなときに無理に自分の意見を押し通して、その結果が凶と出てしまったときは、目も当てられない。最悪だ。紛争勃発は避けられない事態となるだろう。

最近、こんなケースに遭遇した。

症例 70歳女性  主訴:後頚部から下腿の違和感 (こったような感じと本人談)

高血圧で近医にかかりつけの患者。 ある朝、起床後、トイレに向かう途中に、突然上記主訴が出現した。10分程度で軽快した。その後、ゆっくりと前頭部の違和感が出現してきたという。娘の車にて朝7:30に当院の内科時間外来を初診。担当した当直医は、血圧が若干高めであることを除いては、身体所見にこれといった異常を認めなかった。かかりつけ医があと少しで診察ができる時間となるので、もうそちらにいってもらおうか当直医は考えていた。しかし、家族が頭部CTを希望するので、当直医は、「検査しても脳梗塞は直ぐにはわからないこともありますよ」とCTにやや否定的な意見を述べた。それでも、家族は検査を強く希望した。
仕方なくというか、あきらめてというか、抵抗するほうが面倒なのでというか・・・・・、とにかく、当直医としてはいまひとつ乗り気ではなかったが、CTをとった。

なんと画像的には典型的なSAH(くも膜下出血)だった・・・・・・・・即刻、脳外科に入院となった。

家族のファインプレーだ! 患者のみならず、当直医も救ってくれた

もし、家族の押しがなければ、当直医はSAHという地雷を間違いなく踏んでいたことであろう。SAHの症状は典型的な激しい頭痛だけではないのだ。今回の症例でしいて言えば、「高めの血圧」・「突然」がキーワードになるのかもれない。本当に、恐るべしSAHである。SAHの診断は難しい。それを、患者側の方にもわかってほしいし、多くの医師達が現場でその難しさと格闘し日々勉強をしているという事実も知ってほしい。

では、仮に、この症例でCTをとらずに帰宅させ、その後に再出血を起こし患者が死亡した場合を考えてみよう。その場合、医師の過失でしょうか?私は違うと思います。なぜなら、診断は確率だからです。上記病歴の場合、CTをとっても何も起きていない場合のほうが確率的には、はるかに高いと思われます。だから、これを過失と決め付けて、一方的に責められたら、医師側としては到底納得がいかないのです。しかし、マスコミがいったんこういう話をかぎつけようものなら、あっという間に、お得意の印象操作によって、「医師が悪い」と印象が世間に植えつけられてしまい、ますます、医師側と患者側の溝は深まるばかりになってしまうだろう。それが今の医療報道のあり方です。大淀病院事件の報道がその典型です。

たとえ、医師の過失ではなくても、突然の不幸を時間をかけて家族が受け入れられるような心的対話的アプローチは医療者に必要であることはいうまでもありません。マスコミには、そういうプロセスの必要性をもっと報道で強調してもらいたいものです

本日の教訓
家族希望の検査は、無下に断るべからず

 コメント一覧
はい。私も患者サイドから「これこれの検査して下さい」と言われたら、(必要ないけどなー)と思いながらも言われたとおりにしています。必要ない検査を行えば医療費が高騰しますが、今の時代は患者の言うとおりにせざるをえないと思っています。頭痛患者の場合は、病歴から筋緊張性頭痛だろうと思っても「CTを撮りましょうか、どうしましょうか?」と患者に判断を委ねます。断られたら「CT勧めたが拒否」とカルテに書きます。一種の防衛医療です。

written by 春野ことり / 2007.05.28 09:22
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ことり先生
コメントありがとうございました。
まったく一緒ですね。
防衛医療は、仕方がないことです。

        by なんちゃって救急医
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こんにちは。

同じような症例で、
当直の心臓外科の先生が
御家族の希望で仕方なくMRIをとったら
SAHだったということがあります。

症状は軽そうに見えても、
突然発症、普段病院にかからなさそうな人
というのがやはりキーワードとなるでしょうか。

written by 脳外科見習い / 2007.05.28 10:43
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コメントありがとうございます。
「突然発症」
というキーワードは、血管緊急事態を想定する
大切なキーワードだと思います。

             なんちゃって救急医

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私も全く同じ方針です。
家族の希望ばかり聞いて不必要な検査をしているという後ろめたさもありますが、今回ご提示の例と同じ経験もあり、家族の意見は必ず尊重しています。(^^;

臨床症状も乏しいのに、検査をせずに見過ごしたからと誤診だと決め付ける人は、医療とはなんたるかを知らない訳で医療を語る資格が無いとなりますね>マスコミ

written by doctor-d / 2007.05.28 11:54

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コメントありがとうございます。
皆さん、ほんと同じですよね。

これをみる非医療者の方々へ少しでも我々の気持ちが伝われば幸いです。

       by なんちゃって救急医
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CTを見ますとSAHが若干washoutされてきているといいましょうか、病歴と併せて考えると発症は前日だったかもしれません。通常は頭全体が痛いと表現されますが、髄液の循環とともにSAHは大孔の方へ流れていきますとC2の領域、後頭部が痛くなってきます。
ですから肩凝りと誤診されたり、痛みの場所が移動することはよくあることです。

私の経験に基づいた推論でした。痛みが移動するという事、後頭部の痛み、その前はどこが痛かったか?寝る前はどうだったか?聞いてみたい気がします。

written by Tai-chan / 2007.05.29 09:55
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これは、鋭い指摘だと思いました。
確かに少し薄いんですよねええ・・
漠然としていた私の感覚を先生が
見事に指摘くださったような気がします。
ありがとうございます。

by なんちゃって救急医

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教科書に載せたいくらいの、キレイな画像ですね。
家族の希望の検査・・・大切ですよね。

「以前から、ずっと主治医の○○先生に頭の検査してって言ってたのに、・・・・どう思います???」
とある悪性腫瘍多発脳転移の家族に詰寄られた経験があります。
こっ言葉気をつけないと、訴訟になるかもと、ドキドキした事を思い出しました。

written by メタボ / 2007.05.29 12:46

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私も自分の受け持ちでずっとCTをとらずに
脳転移の発見を遅らせてしまったことがありました。

ほんと、言葉の選び方は難しい。
こちらが同じことを言っても、そのニュアンスを
受け取るのは相手しだいですから。

by なんちゃって救急医

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私も緊張型頭痛様症状のSAHを見たことがあります.その方は発熱があり,カゼっぽいのだけれど・・・.と救急外来を受診されました.頭痛があったので,首の前屈をさせると項部硬直があり,髄膜炎かもと思い,腰椎穿刺をする前に一応CTをと思って撮ったらSAHでした.
教科書的にはSAHの80%は突然の激しい頭痛の病歴があるとされていますが,私の印象では非典型例はもっと多い印象があります.もっとも,私の勤務していた病院は外科と整形しかない救急病院なので,突然発症の激しい頭痛はその時点で脳外科のある病院に行っているのかもしれませんが.

written by 田舎の一般外科医 / 2007.05.30 14:26
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コメントありがとうございます。
髄膜炎とSAHの診断にまつわる訴訟として大阪の枚方市民病院の判例が、JBMになりますね。
ほんとに非典型例SAHは怖いです。

by なんちゃって救急医
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総合科.米国の悪しき追随 (マイアミの青い空)
http://blog.m3.com/Neurointervention/20070531/_._

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