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本当に腸炎でいいですか? [救急医療]

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後医は名医」という医者なら、だれでも知っている有名な言葉がある。

実は、この言葉は、後知恵のバイアス (もう一つの参考URLもあります)とも実に関連深いのではないかと私は常々思っている。

初期研修医が時間外診療(前医)を行い、各専門外来でスタッフ医師(後医)を行う形の診療は、研修指定病院では日常の診療型だと思う。
そして、そこでよくあるやりとり。 
(時間外診療で腸炎と思った患者が、翌日の再来で虫垂炎とわかったという状況)
スタッフ医師 「だめじゃないか、こんな典型例みのがしちゃ。しっかり問診したの?しっかりお腹さわったの?典型的だよ、リバウンド。」
研修医「・・・・、すみません。忙しかったので・・・」(内心では、おめーも、夜中に当直しろよ 怒!)

是非、御自身が後医の立場に立ったとき、この後知恵バイアスのことを思い出して、そのバイアスをよく差し引いて、前医の立場を考えてほしいなあと思う。

後知恵バイアスは、認知のバイアスの一つであるから、意識をしておいてもなお完全にそのバイアスを取り除くのは難しい。意識してなきゃなおさらそうだ。
(参考図書:リスク心理学入門 P61-69 フィッシホフの実験)

表現を変えていえば、前医は、後医よりも、あきらかに誤診のそしりをうけやすい ということである。

だからこそ、前医にたつものは、このことをよ~~~~くわかったうえで、注意深く、脇をしめて、説明やカルテ記載を行う必要があるのだ。


最近の当院での実例を示す。 

症例 22歳女性。 腹痛で再来。

元来、健康。3日程前の深夜3時に腹痛で来院。下痢が一度だけあったという本人の申告もふまえ、担当医(前医)は腸炎の疑いということで帰宅させた。妊娠反応は(-)であった。その後も、下腹痛が続くということで内科を再来。虫垂炎も疑われるとのことで、内科医師より救急外来での診察依頼(後医)があった。バイタルは、体温も含め異常なし。腹部は、右下腹部に最強点をもつが、リバウンドははっきりしない。全体に圧痛を訴える。WBC5700。CRP 2.4。ところが、エコーを当てると、ダグラス、モリソンにエコフリースペースあり。妊娠反応再検するもやはり(-)。結局、婦人科にコンサルトして、卵巣出血の診断で入院となった。

ありがちな経過だと思う。ただ、前医のカルテ記載の脇が甘いかなと思った。(ただし、前医の時点で、診断がつけられなかったことの是非はここでは問わない)

そのカルテ記載のアセスメントは次のように書かれていた。

A) 急性腸炎が最もうたがわしい

具体的な病名が書かれていたのは、ここだけであった。帰宅の根拠を求めるとすれば、カルテ記載上、腸炎という病名に求めるしかない書き方であった。つまり、腸炎という診断だから帰宅させたと受け取られても仕方がない書き方ということである。(いや断定はしていない。だから、疑いって書いてあるだろ。書いた当人としては、こう反論したくなる気持ちはよくわかる。)

病名がよくわからないとき、ありがちな頻度的に多い病名をついカルテに書いてしまう医師は多いと私は自分の経験から感じている。
この症例も、まさにそれだと思う。

後医は名医の立場にたち、後知恵バイアスのことをまったく考慮してくれない人ならば、このカルテを見て、「見逃した」「誤診した」などと批判してくるであろう。
患者側がカルテ開示を通して、これを見たら、誤診の証拠としてとりあげてくるかもしれない。

時間外診療で遭遇する腹痛患者に、安易に腸炎という病名をカルテに書かないほうが無難である と私は言いたい。 
参考までに、日本を代表するER医の一人である林寛之先生の著書:当直裏御法度P126-129にかけても「胃腸炎」というごみ箱診断はするなと明記してある。

では、どのように書くのがお薦めか?上記症例では、次のように書いてみてはどうだろうか?

A) #1 腹痛(原因未確定)
   #2 下痢(一回のみ)
   痛みは自制内であり、バイタル、理学所見より、帰宅の上経過を見れる全身状態であると考えられる

勝手に直ってしまうことの多い腸炎という病名をつけることで、誤診というそしりをうけるリスクが高まるくらいなら、最初から書かないほうがましだと思いませんか? 
それに、勝手に直ってしまえば、それが腸炎であろうがなからうが誰も文句は言いません

むしろ、「時間」という救急外来診療においてきわめて有効な診断ツールを上手に使い、そのような診察をおこなったという診療録を残しておくことのほうが、結局は、批判を与える隙のない脇のしまった診療につながるのではないかと思う次第です。 皆様方のご経験、ご意見を頂戴できれば、また自分も勉強になるかなと思います。よろしくお願いします。

まとめます。

本日の教訓
よくわかない腹痛に安易に腸炎とカルテに書かない。
むしろ、原因不明と書いたほうが安全
診断には、時間の有効活用を

コメント一覧
まことにごもっともなご意見だと思います。
ただ、私などはぺーぺーの時に「初診時に診断をつけろ」ということを徹底的に叩き込まれたので、症状ないしは状態像のみの記載にとどめるというのは、心理的に抵抗がありますね。
「誤診でもいいから、もっとも考えられる診断をつけ、そう考えた根拠を記載せよ」
「誤診であったのなら、なぜ誤ったのかを考えよ」
「誤診は恥ではない。誤診を放置しておくことが恥である」
という風に教わったもので。
まあ誤診しても短期間にクリティカルな事態になることはほとんど無い科だからかもしれませんが。

written by 某P医 / 2007.06.19 10:02

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コメントありがとうございます。
診療の「場」がどういう場であるかによって、考え方が大きく変わってくるかと思います。

私が想定している診療の「場」とは、
『本来、自分の専門でないと考えている医師が、病院の方針である意味仕方なく「時間外診療」をやっている。そこでは、緊急的致死的なのものを見逃さずに、確定診断よりも応急処置が優先されている。』
そのような場です。そのような場で、無用な批判を避けるにはどうしたらいいかというスタンスでエントリーを書きました。

by なんちゃって救急医

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産婦人科医です
確かにムダな病名はつけるだけ損、というか「恥」に近いかもしれません。

ただ、お示しになった症例のことだけ申し上げれば、産婦人科的に「卵巣出血」はたいて安静のみで治る疾患です。
わたくし的には「腸炎」で押し通して整腸剤でも飲んで2~3日自宅安静でよかったのにな、と思いました。

written by suzan / 2007.06.20 12:41

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コメントありがとうございます。ご指摘のとおり、この症例に限れば、腸炎でおしていても問題は少なかったかもしれません。

自分が地雷を踏まない、他人に地雷を踏ませないという視点を考えた場合、このエントリーで示したような視点が有用ではないだろうかという提案をしてみたわけです。

by なんちゃって救急医


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コメント 2

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落ちこぼれ消化器科医

腹痛(腸炎を含む)への対応の仕方には診察した当直医の経験、考え方、センスがもろに出るといっては言い過ぎでしょうか。腸炎様の症状(下痢+アルファ)を伴う腸炎以外の地雷は結構あると思います。ごく軽い腹痛や心療内科的疾患でない限り、成人患者が、わざわざ深夜に腹痛で受診した場合は、聴診器代わりにほぼ全例腹部エコーをしています。腹部エコーによる診断にも限度があり、腎機能が許せば造影CTまで勧めることも少なくありませんが、費用はかさんでも何とかして欲しいという人は多く、たとえ翌日に症状が改善した場合でも患者から無駄な検査だったとクレームがついたことはありません。これらの検査をするようになってから、触診、単純X線だけで得られる腹部の情報は非常に少ないことを実感しています。夜間当直では時間ツールを使えない待ったなしの状況もあり、若いころは怖いもの知らずでエコーもせず帰していましたが、今ではこれらの検査なしに帰宅させることは考えられなくなりました。時間というツールを使う場合にもある程度重い疾患が除外されているとお互いストレスが減りますよ。
by 落ちこぼれ消化器科医 (2007-07-04 18:22) 

元なんちゃって救急医

落ちこぼれ消化器科医様

コメントありがとうございます。

>腸炎様の症状(下痢+アルファ)を伴う腸炎以外の地雷

穿孔後の虫垂炎がそのひとつですかね。

エコー、CTは仰るとおり夜間でも必須だと思います。理学所見が画像所見に勝る場合もあり、ほんと、難しいです。日々苦労しています。
by 元なんちゃって救急医 (2007-07-04 19:55) 

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