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メディア・リテラシーと「死」の受容 [医療記事]

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私がこのブログを通して、発信し続けているメッセージは、マスコミをうのみにするな、ということである。まずは、ある書物の引用で、同じ主旨のことを述べておく。キーワードは、メディア・リテラシーだ。

リスクとつきあう 有斐閣選書 P102-103を引用

マスメディアの伝える情報が、正確で公正なものであるかどうかを見分ける能力を一般の人々が持つべきであるという考え方が、近年広まりつつある。このような、マスメディアを社会的文脈で批判的に読み解き主体的に使いこなすことのできる力は「メディア・リテラシー」といわれる。直訳すれば、マスメディアに対する読み書き能力ということになる。このようなメディア・リテラシーは、リスク・コミュニケーションにおいても注目すべき考え方だと思われる。それは、リスク・コミュニケーションの伝え手の一つであるマスメディアの発信する情報を、より批判的に読み解くことができるようになることが、情報の受け手にとって、今後一層重要になってくると考えられるからである。
 現代の多くのリスクは、われわれが直接体験できないものが多い。こうした多くの直接体験できないリスクについて、我々は、マスメディアを通して知識を得ることができるようになった。しかし、多くの場合、マスメディアが伝えられる情報は、一般の人が理解しやすい形に加工されている。そこには、
マスコミの主観的な解釈が入る余地がある。また、人々が興味を引くように、必要以上にドラマティックに伝えられるような場合もある。これらのことが、すべて悪意で行われているとは限らないが、少なくとも、マスメディアが伝える情報がすべて正しいものではないことを、われわれは知っておく必要があるだろう。

さて、この引用をふまえて、みなさんは、次の記事をどのように読みますか?

エホバの証人:手術中に大量出血、輸血受けず死亡 大阪
毎日新聞 2007年6月19日
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/news/20070620k0000m040060000c.html
 信仰上の理由で輸血を拒否している宗教団体「エホバの証人」信者の妊婦が5月、大阪医科大病院(大阪府高槻市)で帝王切開の手術中に大量出血し、輸血を受けなかったため死亡したことが19日、分かった。病院は、死亡の可能性も説明したうえ、本人と同意書を交わしていた。エホバの証人信者への輸血を巡っては、緊急時に無断で輸血して救命した医師と病院が患者に訴えられ、意思決定権を侵害したとして最高裁で敗訴が確定している。
一方、同病院の医師や看護師からは「瀕死(ひんし)の患者を見殺しにしてよかったのか」と疑問の声も上がっている

 同病院によると、女性は5月初旬、予定日を約1週間過ぎた妊娠41週で他の病院から移ってきた。42週で帝王切開手術が行われ、子供は無事に取り上げられたが、分娩(ぶんべん)後に子宮の収縮が十分でないため起こる弛緩(しかん)性出血などで大量出血。止血できたが輸血はせず、数日後に死亡した。

 同病院は、信仰上の理由で輸血を拒否する患者に対するマニュアルを策定済みで、女性本人から「輸血しない場合に起きた事態については免責する」との同意書を得ていたという。容体が急変し家族にも輸血の許可を求めたが、家族も女性の意思を尊重したらしい。

 病院は事故後、院内に事故調査委員会を設置。関係者らから聞き取り調査し、5月末に「医療行為に問題はなかった」と判断した。病院は、警察に届け出る義務がある異状死とは判断しておらず、家族の希望で警察には届けていない。

 エホバの証人の患者の輸血については、東京大医科学研究所付属病院で92年、他に救命手段がない場合には輸血するとの方針を女性信者に説明せずに手術が行われ、無断で輸血した病院と医師に損害賠償の支払いを命じる最高裁判決が00年に出ている。最高裁は「説明を怠り、輸血を伴う可能性のあった手術を受けるか否かについて意思決定する権利を奪った」としていた

私は、本日、自分の職場で周りの看護師さんたちに、この記事を読んでもらい、自由に感想を言ってもらいました。(メディア・リテラシーの話はこちらから一切していません。) その中で、いくつか抜粋してみます。

・結局、何がいいたいのかわからない。
・十分な説明と同意がなされており病院側に問題はないと思う。
・「見殺し」という表現で、まるで病院に責任があるかのような書き方が気になる。
・見出し文に悪意を感じる。
・そもそも、記事にする必要があった出来事なのか?
・本人や家族の意思を尊重することは良いことだ。
・エホバの証人の患者と接することに強いストレスを感じる。

看護師さんたちの感想は、総じて言ってしまえば 「これって何が問題なの?」となりそうです。

いったい、この記事の真意は何なのでしょうか?エホバの証人という話題性でしょうか?
生命倫理に関する社会への問題提起なのでしょうか? 
エホバの証人の方々にとっても、マスコミに騒がれるより、そっとしておいてほしいと思われているのではないのでしょうか?
私には、余計なお世話だ としか思えません。

事前にマニュアルを作り、予側範囲内での事態が起こり、マニュアル通りに適切に対応しているだけだと思います。そこに、「死」という結果が付随しているだけ。 日常医療のひとつに過ぎないのはないでしょうか? 新聞社は、記事にしている以上、そうは思ってはいないのでしょうが。

彼らには、妊婦が死ぬなんてとんでもないことで、その理由を問わず決してあってはならないことという潜在意識があるのかもしれません。だから、死をもってすら貫き通そうとする強い個人の信念に逆らってでも、医療者はなんとか救命すべきではなかったのかという暗に今回の病院の対応を批判するメッセージを社会に投げかけようとしているのではないかと思いました。

それは、伝聞の形をたくみに取りながら
「瀕死(ひんし)の患者を見殺しにしてよかったのか」と疑問の声も上がっている
の一文に最もこめられているように思います。

「見殺し」という言葉を使うところに、新聞社の医療者側への悪意を強く感じます。
なぜ、わざわざこういう言葉を選ぶのでしょう。記者とデスクの見識を疑います。担当した医師たちは、本当は救命したかったのではないのでしょうか?その医師の苦悩の気持ちに少しでも気遣いがあれば、こんな文章は決して出てこないと思います。記者達の人間性さえも疑ってしまいます。
さらにいえば、このような不確かなで伝聞様式であれば、それ相当の情報源には信頼性があると思われたという建前のもとに、いかようにでも報道者側の意図に合わせて、文章は捏造できます。(関連エントリー 奈良妊婦死亡事件をみて思うこと

よって、この一文だけで、この記事は正確かつ公平でないと、多くの人にそう読んでほしいものです。これが、メディア・リテラシーをもった新聞記事の読み方だと思います。

大淀病院の事件の際は、家族の意見をあれほど偏向的に大きく取り上げ、病院の主張はほとんど書きませんでした。ところが、この記事は、家族の気持ちがまったく書かれていません。意図的に取材しなかったか、情報としては持っているがあえて記事にはしなかったのでしょうか?

そうだとすると、これも公平さを欠いているといえないでしょうか。

おそらく、家族が何か病院に対し不満に思っていることがあれば、それはそれはきっと大々的に報道したことでしょう。そう、大淀病院のように。

このように、マスコミ情報を批判的に読み解く能力(=メディア・リテラシー)をもつことは、今一人一人の国民に求められていることではないかと思います。個人的には、国民ひとりひとりのメディア・リテラシーの向上が、たとえ間接的であるにしても医療環境の改善につながってくれることを望んでいます。

以下、この記事を踏み台にして少し脱線します。
ここからは、まったく私の個人的な考えで、マスコミ批判はありません。

新聞記者は、この事例をわざわざ記事として取り上げ、一方、医療者はなんでこれが記事になるの?と思っている。この両者の温度差の違いは何なのでしょうか?
私は、「死」に対する受容性の違いでないかと考えました。

医療者は、業務の中で第3者の死に頻繁に遭遇するので、社会がもっと「死」を受容すべきだという感覚が強いのかもしれません。

私は、社会の中での「死」の受容は、重大なテーマだと捕らえています。この記事も、「死」の受容の大切さを社会的に意識させるという意図を組み込めば、
「残念ながら娘(妻)は亡くなった。子どもを残して自分だけ先に逝ってさぞ無念だったとは思う。しかし、彼女の生き方は、私たちが子どもにしっかりと伝えていこうと思う」と患者の両親(夫)は、その死の無念さをかみしめながらも、懸命に娘(妻)の死を受け入れようとしているようであった。
という書き方もできるのではないかと思います。(もちろん、家族がそういうニュアンスのことを述べたという裏が取れていた場合にですが)

小松先生の最新著作「医療の限界」の第一章は、日本人の死生観について触れてあります。「死」を受容できない日本社会を、小松先生はしっかりと指摘しています。それが今の医事紛争と密接に関与していると述べています。私が気に入った一文を引用します。この引用をもって本日のまとめとさせていただきたいと思います。

「医師はみなヤブ医師である。なぜなら、いくら医師が努力しても必ず失敗して、人間はいずれ死ぬから」


今後も日本人の死生観のあり方について個人的な考えは書き続けていこうかと思っています。
関連エントリー 思い通りになかなか死ねない日本社会
          ある老人の突然死
コメント一覧
だいたい、これ、医療事故じゃないし。
なんで新聞記事になったのか、わかりません。
やはり「毎日新聞」的には、妊婦が死んだらもうそれは医者が悪い、医療事故って事なんでしょうかねー。

written by Dr. I / 2007.06.20 23:07

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コメントありがとうございます。
同じような感想が私の周りでも多数でした。

mixiでこのニュースをネタに感想を書いている人を見ていると医療者と似たような感想は少数派です。やはり、医療者独特の視点なのかもしれません。非医療者の感想として、医療者に同情の気持ちを表明している人はけっこういましたね。

by なんちゃって救急医

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職場の人達とは、かなり違う感想ですが、「エホバの証人の「輸血をしない」って教えのおかげで、救えるはずの命を救えなかった医師や看護士達が
>「瀕死(ひんし)の患者を見殺しにしてよかったのか」
と言う後味の悪い思いをさせられてしまっている。
エホバの証人を信仰すると助かる命も助からなくなっちゃうよ! とこの記事を深読みしてしまいましたが・・・」

この患者さんの場合はお子さんは助かったみたいですが、母子共にだったら、もっと後味悪くなりますよね!!

家族のオペ前に自己血輸血は出来ないかと、何度か聞いたら、「何か宗教やってます?」って疑われてしまいました。
「昔、叔母が輸血した時に免疫反応出ちゃって、そっちで危なくなった事が有ったので!」で疑惑は晴れましたが・・・

written by 患者家族で~す。 / 2007.06.21 02:42

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コメントありがとうございます。
命と宗教観を天秤にかけた結果、それをどう判断するかは、人それぞれでよろしいかと私は思っています。
個人の価値観、社会一般の平均的な価値観を、強制する必要はないとも言えるかな。

by なんちゃって救急医

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「瀕死(ひんし)の患者を見殺しにしてよかったのか」と疑問の声も上がっている
     ↑
この1文は私もひっかかりました。
とにかく毎日新聞は医療者を叩くのが大好きなので、こうやって心象操作をしているのでしょう。


と同時に、毎日新聞はエホバの証人の戒律?(宗教観になるのかな?)自体も批判したいのだと思います。
エホバの証人や創価学会のような排他的宗教は、個人的には嫌いですが・・・。これを読む限りこの記事を書いた人は、確実にエホバの証人に対して悪意を持っていますよね。政治がからむのではなく、個人の生死に関わる問題なので、こういう報道は問題ですねぇ。
きっと今頃エホバの証人から毎日新聞に抗議が行われてるでしょう、決して報道されないと思いますけど。

written by 偽精神科医 / 2007.06.22 00:07

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コメントありがとうございます。
みなさん、思っていることは同じですね。

by なんちゃって救急医

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エホバの証人 (「やぶ医師のつぶやき」?健康、病気なし、医者いらずを目指して)
http://blog.m3.com/yabuishitubuyaki/20070620/1

医療報道を変えるヒント (五里夢中於札幌菊水 )
http://blog.goo.ne.jp/peak1839/e/c2b4f02347b641af14560077669bea09

エホバの証人と尊厳死 (天国へのビザ)
http://blog.m3.com/Visa/20070622/1

 


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コメント 2

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非臨床系医師

ブログ主さまご指摘の通り、

”瀕死(ひんし)の患者を見殺しにしてよかったのか」と疑問の声も上がっている”

およそまともな報道機関であれば、情報ソースを明記するべきです。そういう声がどこからどう上がっているのか。

後日の責任追及されるのを避けるために、自分たちの意見なのにあえて伝聞の形式したあたり、毎日新聞の卑劣さがよく現れていると思いました。
by 非臨床系医師 (2007-07-18 12:21) 

元なんちゃって救急医

>非臨床系医師様

コメントありがとうございます。ご指摘のとおりだと思います。
by 元なんちゃって救急医 (2007-07-19 10:52) 

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