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妻の力にはかなわない [救急医療]

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 Against medical advice(AMA)という言葉がある。端的に言うと、医師の方針に反抗する患者のことだ。例えば、医師は入院が必要と判断しているにもかかわらず、患者は、断固として入院を拒否する場合などである。

こういう時は、医師側もいろいろと気を使うことが多く、説明もカルテ記載も通常の場合に比べ、膨大な手間を要するのだ。 AMAの場合の説明は、特別説明料として保険点数をとってほしいくらいだ。

最近の事例である。

52歳男性  中小企業の社長さん   主訴 胸痛

元来、健康。ヘビースモーカー。やや、メタボ体型。デスクワーク中に突然、胸部圧迫感が15分ほど持続。冷汗と嘔気を伴っていた。本人、心臓かも?と考え、本人の意思で、独歩来院。 内科外来看護師が胸痛ということで、トリアージをかけ、救急外来で診察を始めることになった。

私:「おはようございます。どうですか?」
患者:「もう、すっかりよくなりました。もう大丈夫です。お騒がせしました。」

12誘導心電図は正常。 心臓超音波も正常。胸部レントゲンも異常なし。採血データ異常なし。

初回の諸検査において、すべて異常は認められなかった。

私:「今回のエピソードは、初回の検査に異常が出なくてもあぶないと思います。入院しましょう。」
患者:「いや、それは困る・・・・。もう、帰りますわ・・。会社があるし。」

困るのはお互い様である。 「ああ~、AMAだなあ」と私は思った。

私は、本人に対して、もうすこし粘って説得を試みたが、それでも本人の意思は変わらなかった。

私は、説得の相手を変えた。 会社から患者の妻をすぐに呼び寄せた。
私は、妻に、私の医学的見解を説明した。妻は、入院の必要性を理解してくれた。

こういう状況で、私がよくやる常套手段は、救急外来での家族会議の場設定である。

「では、10分ほど、お二人だけの時間を設けますので、十分にお話ください。私は説明をもう尽くしてあるので、あとはご家族の統一された御判断に従います。」

と述べて、場を離れた。

AMAについて説明してある本を紹介する。日常診療のよろずお助け Q&A 100 
P196を一部改変して、引用する。 AMAの場合のカルテ記載のポイントである。
(1) 医学的に患者に判断能力があることを確認。
(2) デメリットを十分説明し、それでもアドバイスに反して帰宅することを記載。
(3) 患者の身体的得策のため、医療者は十分説得したことを記載。
(4) 予想できる障害が発生したときは、いつでも患者を受け入れることを説明したと記載。
(5) 可能であれば、(1)-(4)の議論に家族も加わってもらう。
(6) 同意書に患者のサインおよび、医療者(できれば2名以上)のサインを記する。

このように大変なのである。医療者側にとっては、時間も手間もかかる作業なのだ。国の診療報酬システムには、このような現場の苦労は何も反映されていないことを、ぜひ、多くの一般の方々にも知ってもらいたいものだ。
しかも、混んでいる救急外来であれば、一人のAMAのために、多くの患者の診療が停滞するのである

家族会議の間、私はせっせとこの同意書作りを準備していたのであった。

しばらくして、夫婦の話し合いが終わった。

患者「入院しますわ。負けました。」

さすが、妻である。説得成功である。私の説得も妻の力にはかなわなかったということである。

患者はその後CCUで経過を見ていたが、12時間後に、心筋逸脱酵素の上昇がついにつかまり、緊急の血管造影が施行された。責任血管病変に対して、カテーテル治療が施され、後日無事退院となった。

妻の説得がなければ、この患者は自宅で頓死していたかもしれないのだ。

最初の検査では何も異常がなかったことに加え、患者の帰宅の意思が強かったため、医療者側もつい流されそうなところであった。このケースのように、時間がたって始めて心筋梗塞の診断が可能になることもあるだけに、そこそこの年齢の人の胸痛には要注意である。いつ地雷にあたるかわからない・・・そういう恐さが常にある。また、このような危険なケースをAMAとして帰宅させる場合には、自分の身を守るために、完璧なまでのカルテ記載をめざさないといけないのである。まとめます。

本日の教訓
AMA患者に遭遇したら、必ず家族を巻き込むべし

コメント一覧
AMAは日本で医療スタッフの間に日常的に使用されていますか?私は自分のブログでDAICHAN先生に教わるまで知らなかったものですから。医師2人以上のサインが望ましいのはこちらでも同様です。TBさせて頂きます。

written by Tai-chan / 2007.06.28 05:46

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コメントありがとうございます。TB先拝見させていただきました。勉強になりました。

by なんちゃって救急医
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勉強になります。救急外来での家族会議とても大事ですよね。中には愛憎劇があったりして救急医療って人間ドラマだなあとかいうこともあります。
何日もドアが開きっぱなしということで隣人が部屋に入ってみたらアルコール依存症の男性が寝たきりで脱水や栄養失調で大分厳しくなっていました。彼は家族と絶縁しているということで誰にも連絡するなというのですが、説得して苗字だけ教えてもらいタウンページで相当する住所の同じ苗字の人にかったぱしから電話をかけたら2時間くらいして家族のひとがわかり5年ぶりの再会となり涙でした。しかしその後やはり怒りがこみ上げて「もう連絡してくれるな」といって帰ってしまいました。
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米国にて初発の胸痛では中年以上でリスクがあれば検査は陰性でも殆ど入院します。日本では非典型的な胸痛による厳しい結果となる症例への意識が薄いのか循環器の先生に相談しても殆ど帰宅となってしまい、しょうがないので救急外来に4-6時間いてもらって採血と心電図を再検して帰ってもらっていました。
http://emp.cocolog-nifty.com/blog/2006/07/post_7fc5.html
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何でも刑事訴訟になる今の日本の医療ではもう少し胸痛診療に対して保守的になった方がよいのではないかと思うこのごろです。
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長くなってすいません。胸痛といえば高齢女性の非典型的な大動脈乖離を間接経験しそのたびに恐怖を覚えます。

ありがとうございました。今後ともご指導よろしくお願いいたします。

written by しへい / 2007.06.28 06:40

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貴重な体験談ありがとうございます。胸痛の対応は日本でも施設間差があるのかもしれません。今の病院は、私以外でもけっこう皆さん、検査陰性リスクありの胸痛患者は入院させています。

by なんちゃって救急医

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昨日この記事を拝見しました。
今日外来でAMA患者に遭遇しました(^^;

「奥さんに説明さしあげます。」の一言で、入院に同意されました。

本当に適切なアドバイスありがとうございました。(^^

written by doctor-d / 2007.06.29 12:53

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コメントありがとうございます。
お役に立てたようで私もうれしいです。

by なんちゃって救急医
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なんちゃて救急医先生へ
アメリカでも同じ方法を使います。でもだめな場合、カルテに、莫大な記述をします。記事ありがとうございます。まさに、妻強しです。

written by DAICHAN / 2007.06.29 21:27

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コメントありがとうございます。
妻強しは世界共通ですかね。

by なんちゃって救急医
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当院でも似たような事例で失った患者がいます。
循環器科医が問題ないとして帰してしまったのです。
帰ってすぐに亡くなりました。

"The Sorry Works"を地でいくようなケースで、力不足で申し訳なかったと謝罪して、かえって恐縮して頂いて、訴訟にはなりませんでした。

今回のエントリは勉強になりました。

written by bamboo / 2007.06.30 09:48

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コメントありがとうございます。私も似たような事例を身近に経験しました。ER医がコンサルトして、循環器医の判断で帰宅となった方でした。難しいですね。結果論から論じられません。

by なんちゃって救急医

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 訴えられても負けぬ準備 (マイアミの青い空)
http://blog.m3.com/Neurointervention/20070623/1

 


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pyonkichi

勉強になりました!
by pyonkichi (2007-07-02 00:01) 

元なんちゃって救急医

>pyonkichi様
コメントありがとうございます。
by 元なんちゃって救急医 (2007-07-02 10:25) 

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