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医者を欺く肺塞栓 [救急医療]

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肺塞栓という病気がある。 その多くは、突然死する大変怖い病気だ。
前エントリ- → 肺塞栓症という地雷   (薬物中毒の触込みで実は重症肺塞栓の一例)

前エントリーに、この病気の性質や診断の難しさについてはすでに述べたので、本エントリーでは省略する。

さて、本日、購入した本がある。 研修医とっておきの話 三輪書店

聖路加の研修医の体験談がいろいろとまとめられている本で、医師-患者関係にまつわるよき思い出を語る経験談が目に付く一方、当ブログの一貫したテーマである「地雷疾患」に関するひやりとした体験談もそこそこに載せてある。例えば、尿路結石らしき患者が実は大動脈解離であったという体験談などだ。参考:尿路結石に潜む地雷(1)

この本から、肺塞栓症例の体験談を引用させていただく。(原文どおりではなく内容を要約しての引用です)

体験者は、当時卒後3年次であったとのこと。M医師とさせていただく。

P127 重症気管支喘息?

重症の呼吸不全の60代女性が搬入されてきた。
申し送り内容は
「重症気管支喘息と考えられるので、ICUで加療してほしい」

M医師は思った。彼には、何十例かの気管支喘息患者を診てきた経験があった。
「何か違う!」
「喘息の診断は本当に正しいのであろうか?」


しかし、ICUへの搬入が急がれている状況であった。
それでも、M医師は、その前に無理してでも肺造影CTをとる決断をした。

彼の判断は適切だった。
「肺血栓塞栓症だった」

その後、ICUに入室して、気管支喘息としての治療ではなく肺塞栓症としての治療が開始された。

M医師のこの体験を通して、次のように結んでいる。
「何かが違う」と感じたら、是非それを究明すべきだ。

続いて、自験例その1   62歳男性  精神科単科病院入院中 紹介

「心不全」という触れ込みで、紹介された患者。 数日間の呼吸困難感に加えて、トイレで意識消失したため、紹介。搬入時、意識は清明。バイタルは安定。 胸部レントゲン写真ができ、数名の医師が、う~ん、心不全でいいかなあ?討論していた。そこへ、私が加わった。 レントゲンの第一印象は、心不全はおかしい?。 そして、カルテに書かれた病歴をみて、またまた、心不全はおかしい? であった。 そして、見せられた12誘導心電図で、確信した。これは、肺塞栓だ! すぐにエコーを見る! と叫んだ。 12誘導心電図は、しっかりとV1からV4にかけて陰性T波が出現していたのだ。案の定、心エコーではっきりとした右室負荷の所見が認められた。 この時点で、循環器当直医を緊急コールした。
肺血管造影で、診断が確定し、肺血栓塞栓としての加療が行なわれた。

自験例その2  31歳男性  左足の腫脹

生来健康、基礎疾患なし。2週間前から左足の腫脹に気がつき、内科を初診で受診。担当医は、R/O深部静脈血栓症ということでCTの予約を入れた。しかし、整形外科的な要因を主に考えていた。その予約日、合わせてとっていた採血の値でDダイマーが異常高値であることに加えて、深部静脈血栓がしっかり認めれたゆえに、急遽追加で、肺血管造影まで行なったら、しっかりと肺血栓が認められた。しかし、心エコーでは右室負荷の所見はなく、病歴でもまったく呼吸器症状は無かった。しかし、CT上の血栓の状況から、ハイリスクと考え、CCU管理の入院となり、肺血栓塞栓としての治療が行なわれた。

自験例その3  75歳女性  呼吸困難、発熱

上記主訴で、近医より肺炎疑い、入院依頼で紹介。 レントゲンで、右下肺に広範囲に陰影で認められ、肺炎の診断で入院。その夜、急変し、死亡。剖検の結果、肺動脈に血栓が多量に認められ、肺血栓塞栓症が、死亡原因と判断された。

最後は、訴訟例でどうぞ。

○○高裁 ○○2病院 4600万円賠償命令 誤診認め逆転判決
2006.07.14 朝刊 29頁 (全420字) 
 外科手術後に発症した肺塞栓(そくせん)症がもとで死亡したのは病院の誤診で処置が遅れたためとして、K県Y市の男性(48)の遺族が、Y病院と転院先のK病院(K市)に計約九千五百六十万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が十三日、○○高裁であった。N裁判長は原告敗訴の一審判決を取り消し、両病院側に計約四千六百三十万円の賠償を命じた。判決によると、男性は二〇〇X年X
月Y日、Y病院で右ひざの異物の除去手術を受けた。術後に、呼吸困難となる肺塞栓症を発症したが、同病院の医師は「急性冠不全症」または「急性心筋梗塞(こうそく)」と誤診。転院先のK病院でも担当医の誤診のため適切な処置が遅れ、転院から三日後のX月X日に死亡した。N裁判長は男性を誤診した両病院の医師の過失が「死亡との間に相当の因果関係が認められる」と判断した。両病院はそれぞれ「判決が届いていないのでコメントを差し控えたい」としている。

最終診断はすべて肺血栓塞栓症  なんともいろんな顔で医者を欺く疾患であることか!

ああ、怖ろしや、肺塞栓!!

前エントリー : 薬物中毒
聖路加の症例: 重症気管支喘息
自験例その1: 心不全
自験例その2: 左足の腫脹 →整形外科疾患?
自験例その3: 肺炎
訴訟例   :  急性心筋梗塞

まとめます。

本日の教訓
肺塞栓症は、医者を欺く顔をもっている。まずは、疑うこと!

コメント(8)  トラックバック(0) 

コメント 8

僻地外科医

 全くおっしゃる通り。肺血栓/塞栓症は疑わなければ絶対診断できない病気だと思います。そして、何より恐ろしいことは、最初比較的軽症であっても二次血栓から一気に急変することが希ではないことだと思います。
by 僻地外科医 (2007-07-16 06:41) 

Dr. I

心電図で肺梗塞を疑うとは。
さすがです。

肺梗塞に特徴的なレントゲンとか、心電図って一応ありますけど。
全例に出るわけじゃないですからねー。
本当に、疑わないと診断できないですよね。

最後の訴訟の例は、術後呼吸困難になったなら、まず肺梗塞を疑うべきだと、個人的には思いますね。
治療をして助かったかは、また別の問題だと思いますが。
by Dr. I (2007-07-16 11:17) 

moto

しかし、最後の訴訟の例は、「ひざの異物の除去手術」だから、整形の先生が関節鏡で遊離体を除去した、ってことですよね。
たしかに術後ですが、肺梗塞起こすような手術とは思えないし、AMIの疑いで転送すれば、整形の先生としては十分に働いたような気もするのですが・・
紹介状にへたに専門外の病名記すのは地雷、っていう教訓ってことでしょうか?
by moto (2007-07-16 11:42) 

僻地外科医

>moto先生

 実は整形の下肢術後の深部静脈血栓症ってのは結構多いんです。膝関節の術後では約50%に深部静脈血栓が認められるという報告もあります。
深部静脈血栓症があると言うことはすなわち肺塞栓症超ハイリスクと言うことですから、現在では当然これは考慮に入れなければならないです。
(深部静脈血栓症の50%に肺塞栓症あり(無症候を含む)、肺塞栓症の原因の85%が深部静脈血栓症)


 ただ、事件の正確な時期は分かりませんが、その当時に整形の医師に十分深部静脈塞栓のリスクが知られていたかどうかは疑問だと思いますが・・・。
by 僻地外科医 (2007-07-16 15:30) 

moto

>僻地外科医先生
うーん、そう言われるとなるほど・・
膝関節の手術ということは、もともと可動制限もあっただろうし、飛行機のエコノミークラス症候群でさえ肺梗塞のリスクなわけですから(もっとも空気中の湿度も関係しているそうですが)ねえ・・
血管いじったわけではないし、手術のためにふだんとらない肢位をとって、もともと出来てた深部静脈血栓がとんだんでしょうか?
by moto (2007-07-16 15:56) 

山口(産婦人科)

ずっと産婦人科やってますが、一例だけ深部静脈血栓を経験しました。
それも婦人科手術の退院後!
 退院の翌日くらいに「左足が腫れてなんか痛いんです。」との訴えで受診、即怪しいと思って外科紹介。大当たりでした。結局婦人科で2週間、そのあと外科で3-4週間入院していました。

産科術後は幸いにして経験がありません。
by 山口(産婦人科) (2007-07-16 18:35) 

僻地外科医

>moto先生

 というより、膝関節屈曲が出来ない=下腿筋ポンプ機能が働かない->深部静脈の血流速度低下が深部静脈血栓症の原因だと思います。

 んで、深部静脈血栓症があればいつ肺塞栓症になってもおかしくないです。
by 僻地外科医 (2007-07-16 19:59) 

なんちゃって救急医

>僻地外科医様
専門的見地からの有益なコメントをありがとうございます。

>Dr.I様
多少は、循環器をかじったことが役に立っているようです。

>moto様
確かにピンポイントの確定診断名のみかくより、ポイントとなる症候をメインで書いて、自分は鑑別として・・・・と考えたという論調のほうが無難かもしれません

>山口(産婦人科)様
私は、卵巣腫瘍のため、DVTが続発し、肺塞栓となった地雷症例の経験があります。38歳女性、自分で整形外科に独歩受診ですよ!
by なんちゃって救急医 (2007-07-16 21:31) 

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