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消化器疾患?実はAMI [救急医療]

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急性心筋梗塞は、致死的な病気である。その診断は、12誘導心電図が極めて有用である。しかも、ST上昇型の心筋梗塞(STEMI)が確定したならば、次は、迅速な治療戦略が要求されるのである。

では、急性心筋梗塞を発症した患者は、どんな自覚症状を呈するのであろうか?
実は、これが厄介なのである。 胸痛のみならず、いろんな自覚症状でやってくるのである。

代表的なものでは、心か部痛で来院した成人には、心筋梗塞に気をつけろ!というのがあるだろう。
(関連エントリー → 引継ぎに潜む地雷で紹介した自験例)

さて、本日紹介するのは、それと似たような話である。 まずは、最近遭遇した症例から。

85歳女性  腹痛+下痢   救急搬送。

ADL完全自立の女性。 当院初診。時間は、20時。 救急隊の第一報 「腹痛の患者さんです。血圧は80。脈は75。やや発汗はあるようです。痛みは現在自制内です。受け入れよろしいですか?」
私は、悩んだ。引っかかったのが、血圧80と発汗だった。
「もしかしたら、血管緊急かもしれない・・・。だとしたら、うちでは対応できない。転送だ。どうしよう・・・」

胸痛はないという救急隊のプッシュに流されるまま、結局、この要請を私は受諾した。

患者が到着した。

たしかに、問診しても胸痛はないという。そしてお腹を押さえると軽い圧痛がある。下痢を一回したら腹痛がやや軽減したというのだ。

「腹痛が誘引となった、血管迷走神経反射による、一過性の血圧低下か?」とも思った。

しかし、いつもの診療の型(関連エントリー → 引き算診療の考え方)を行った。つまり、このような患者において、搬送後まず何よりも最初に行うこことは、12誘導心電図をとることなのである。

なんと、Ⅱ、Ⅲ、AVFでST上昇!! STEMIだったのだ
(※STEMI:12誘導心電図で、STが上昇しているという特徴的な所見がある心筋梗塞のこと。
        つまり、  心筋梗塞⊃STEMI   という包含関係である。)

ホットラインを受けたときのいやな予感が的中した形となった。

STEMIとわかると、今度は、時間が勝負だだからこそ、どうせ心電図をとるなら、一番最初がよいのだ。

すぐに病棟の医師に応援をたのみ、複数の医師で、ライン確保などの処置、家族への説明、転送交渉などを同時に行った。

右側胸部誘導で、右室梗塞はなさそう。 背部痛などもチェックし、解離や腹部大動脈瘤もなさそうでることも確認、初期対応としての、バイアスピリン投与、酸素投与(ニトロは血圧低めなので行わず)もおこないつつ、簡単な紹介状も書きつつ、家族にきびしめの説明もおこなったのだ。とにかく急いだ。だらだらしていれない。全速力だ!結果、当院搬入後、28分で、なんとか近隣の専門施設に私が救急車同乗で転送先に向けて出発することができた。 

こんなに複数の医師で急いで対応しても、28分もかかるのだ! 私はこのとき、自施設の対応として100点満点の対応であったと自負しているが、それでも、ガイドライン(下記引用参照)ぎりぎりなのだ。

AHA STEMI guidline ( Circulation, Aug 2004; 110: e82 - e293 )より

V. Prehospital Issues
D. Prehospital Destination Protocols
Patients with STEMI who have contraindications to fibrinolytic therapy should be brought immediately or secondarily transferred promptly (ie,
primary-receiving hospital door-to-departure time less than 30 minutes) to facilities capable of cardiac catheterization and rapid revascularization (PCI or CABG). (Level of Evidence: B)

どうして、こんなに急ぐのか? 医学的には、心筋の壊死をできるだけ少なく押さえるために血流の再疎通を図る治療は、早ければ早いほどいいからである。 ただ、それだけではない。次のような裁判例があるからだ。

加古川の事件(関連エントリー → 90%の生存率って)だ。転送時間がかかりすぎたために医師有責と判断された裁判例だ。

自分がベストと思えた体験でさえ、ガイドラインぎりぎりであった。一人で対応したら、もっと時間がかかる。正直言って、ガイドラインどおりは無理だと思う。加古川事件は、ガイドラインどおりでなかったから、有責というロジックではないもの、それでもやはり、私は、あの加古川事件の裁判結果には、納得がいかない。

さて、転送時間の話から、腹痛とAMIの話へ戻す。

最近出たER本:ER診療の実際-研修医からの質問283- P606より引用

特に見逃しやすいのは急性下壁梗塞患者です。下壁梗塞の場合は、横隔膜に接する下壁の梗塞であるために、患者は胸痛でなく、心か部が痛いと訴え、また迷走神経反射の影響で、悪心、嘔吐、下痢などの症状を伴うこともあります。 (一部略) 心か部痛、悪心、嘔吐、下痢があれば消化器疾患であろうという思い込みがあると心電図検査さえ行われない可能性もあるのです。

まさに、私が最近遭遇した上記事例もこのとおりだと思う。

心筋梗塞という地雷を踏まないためには、12誘導心電図は、印象がちがうと思ってもとりあえずとってみる。そしてどうせとるなら、診療の一番最初にとる。 この姿勢が私は、大事だと思う。
ただし、勘違いしてほしくないことがひとつある。 心電図が正常だからといって、心筋梗塞を否定してはいけないのである。 具体的なデータを紹介する。
AMIに対して、ST上昇の所見は、陽性尤度比62、陰性尤度比0.61である。
Evidence-based on call Acute Medicine P32より)

このデータを信じて、算数をすれば、心電図でST上昇がなくても、安易に心筋梗塞を否定できないことは算数的にも明らかになるのだ。 (関連エントリー → 診断とは確率に過ぎない
まとめます。

本日の教訓
消化器疾患と思い込みそうになるAMIは存在する。12誘導心電図をとる習慣、どうせとるなら診療の一番最初にとる習慣をつけること。

 


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コメント 8

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ミチバ

いつも興味ある症例ありがとうございます.二つ教えてください.
①私も消化器症状の患者さんは,つねにAMIがないかと考えるのですが,「下痢」というのは,どの程度のものまでAMIで起こり得るのでしょうか?
②AHAのガイドラインでは,最初にAMIを受けた病院から専門病院へ出発するまでが30分以内が望ましいということですね?でも,出発が30分以内としても専門施設がとても遠い場合は,AHAはどう考えているのでしょうか?当院から専門施設まで長ければ救急車で30分位かかってしまいます.
by ミチバ (2007-07-19 13:39) 

コラレス

 いや〜、28分は素晴らしいです。本当にこういう時は時間はあっという間に過ぎて行くといつも痛感します。この状況なら診断がついた時にすでに15分経過というのも、十分あり得ると思います。
by コラレス (2007-07-19 16:46) 

勤務医です。

① 症例呈示に 下痢は 主訴にあっても 経過に出て来ないのは 何故? 下痢は 未確認? 下痢と 思い込み?
ふつうに考えれば、 下痢⇒ 脱水⇒ 血栓形成傾向⇒ AMI だったのではないでしょうか。
それとも AMIで 下痢も本当に起きる?
AMI⇒ 血圧下降⇒ 動脈硬化などがあって 腸管虚血⇒ 下血 ??


ちなみに
急性ではなく 慢性の場合は ERには お世話になる機会が少ないだろうと思いますので、こんなこともありますよ という話ですが、

電動車椅子レベルの四肢麻痺の患者さんですと、
慢性の消化器症状 が 呼吸不全の症状であったり、心不全の症状であったりするので、消化器内科での検査は異常なしだった患者さんについて 訪問看護師さんが 「異常」に気付いて 連絡を頂いたものの、 その直後に 患者は死亡 という不幸な事例があります。早くに 気付いてあげて NIVを導入したかったなあ。
by 勤務医です。 (2007-07-19 21:53) 

元なんちゃって救急医

>ミチバ様
私の感覚で申し上げます。きちんと調べているわけではありませんので、その点をお許しください。
① ほとんどない でどうでしょう。 キモは、下痢情報で、完全に消化器にきめつけてしまうとはまる可能性があるということでしょう。

② AHAはだからこそ、TPAを推奨しているのだと思います。日本は、多くがPCIが可能な施設が多いので、どちらかというとPCIで転送なんだろうと思います。ただし、医療崩壊のご時勢を考えると転送に時間がかかる施設では、あらかじめTPA投与のコンセンサスを準備しておく必要があるかもしれません。
by 元なんちゃって救急医 (2007-07-20 20:28) 

元なんちゃって救急医

>コラレス様

ありがとうございます。 いつも心電図を最初にとれと周りには言っています。 
by 元なんちゃって救急医 (2007-07-20 20:30) 

元なんちゃって救急医

>勤務医です様

するどいご指摘をありがとうございましす。オフィシャルな症例報告であるならば、主訴を腹痛、下痢と書くべきでないケースだと思います。なぜ、私が下痢を目立つように文章の中においたかというと、引用部分のメッセージを強調して伝えたいがための演出なのです。

実際、一回の排便を本人が下痢といっただけで、もしかしたら、ただの軟便だったかもしれません。そこは、下痢の性状をつきつめるのは必要のない切迫した状況であっただけに、真相は不明です。
by 元なんちゃって救急医 (2007-07-20 20:33) 

脳外科見習い

一度入院中の方が、突然死したことがありました。
看護師さんの話によると、その日トイレによく行っていたそうです。
心臓外科の先生から、AMIの患者さんはよく消化器症状を訴えると教えてもらっていた僕はそこではっと。

下痢はショック症状の一つと考えても良いのでしょうかね?
by 脳外科見習い (2007-07-24 01:26) 

元なんちゃって救急医

>脳外科見習い様

下痢とショック症状は、直接的ではないかもしれません。
by 元なんちゃって救急医 (2007-07-24 19:49) 

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