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怖い失神(2) [救急医療]

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本日のエントリーは、怖い失神シリーズの第二弾です。

前回のエントリーでは、失神の触れ込みで救急外来にやってきた患者の最終診断は、急性大動脈解離(Stanford A)でした。 さて、本日は・・・・?

いきなり症例から入ります。

76歳 女性  絵画教室中に失神

ADLは自立。近くの開業医で、高血圧で通院加療中。 本日も、いつものように近くの文化センターで絵画教室に向かって家を出た。それまで特に変わったことはなかったという。 座位で絵画の最中に突然様子がおかしくなり、突然倒れたという。その際、両脇を抱えられるようにして倒れ、呼びかけには反応しなかったという。顔色も悪く、絵画講師が救急車を要請した。 救急隊到着時には、呼びかけにも反応し、名前や月日などには正確に返答できたとのこと。

当院には、脳外科がないため、救急隊からの情報の時点で、プレホスピタルトリアージをかけ、脳外科対象疾患の可能性が高いと考えれる場合は、第一選定の病院を近隣の脳外科緊急対応の可能な救急病院へのお願いをするという背景がある。 以下、当院への搬入を要請してきた救急隊と私のやりとり・・・・。

救急隊:「76歳女性、気分不良 、嘔吐 意識は清明。バイタルは、170/100 脈拍は76整です。」
   私:「 嘔吐ですか? 頭痛や胸痛はないですか?
救急隊:「いずれもありません。 一時的に意識消失した模様です。」
   私:「頭痛や胸痛は本当になかったのですね?」 
      (触込み違いの搬入で痛い目にあった経験から、必然的に質問はしつこくなる)
救急隊:「本人から確認済みです。ないと言ってます」
   私:「わかりました。では、どうぞ。」

プレホスピタルでこういうやり取りを経て、患者が当院へ搬送された。

   私:「覚えてますか? 頭痛や胸痛はどうでしたか?」
  患者:「いやあ、覚えてないんです。気がついたら救急車でした。痛いところはどこもありません。」

やや、顔色が悪いという第一印象だった。 いつも診療の型として、12誘導心電図と血糖チェックは、すぐに終わらせた。いずれも問題はなかった。 搬入されて、私達の目の前で、2回立て続けに嘔吐した。

さあ、これから、点滴ラインを採って、初期評価に必要な諸検査のオーダ、それらの処置が流れ始めた後から、問診と身体診察かなあというプランが私の頭の中には想定されていた。

この患者をメインで診るのは、初期研修医1年目のS。
私は、Sのバックアップという構図だ。

バックアップ医の私の立場は、常に微妙である。 研修医の考える方針、想定される疾患の緊急度などを勘案して、Sには学習させつつ、患者側への安全も考えないといけないのだ。 

こういう観点から、私は、「そりゃあねえだろう・・・おめえさんよお・・ 」というのも、あえてすぐに介入せず、研修医を泳がせることがある。もちろん、研修医の対応が自分の設定する安全ラインを超えたと自分が判断した場合には、有無をいわざず研修医診療に介入し、自分の責任で診療を行なうようにはしている。その設定ラインの引き方がグレーで悩ましいのだ。

さて、症例に話を戻す。

私は、Sのやり方に任そうと思った。 STEMIと低血糖は否定済みなので、まあ、少しゆっくりでいいんじゃないかと考えたからだ。 

Sの対応は、こうだった。

「先生! CTとりましょ!CT頭の!・・」

私の心の中 ( そんな慌てんでもええのになあ、びびりさんやなあ・・・・)
私は、答えた
「君の考えるようにやってごらん・・・」

Sは、ラインをとり終えると、問診もままならないまま、CT室へ患者を連れて行った。
そしたら、今度は私がびびる番になってしまった・・・・・

「SAH(くも膜下出血)だ!」 

おそらく、激しい頭痛とともに失神し、それゆえ本人が覚えていなかったのであろう。
本人が頭痛を否定しても、失神している場合は、SAHも想定しないといけない。

1)失神患者は大変数が多く、しかも大多数の例が結果として軽症である。
2)SAHは、致死的疾患であり、CTの感度特性から、CTが正常でもSAHの100%否定はできない。

1)、2)を根拠として、失神だからといって、全例に頭部CTをとればすむ問題でもない。

では、この症例で、何か鍵はないのか? 実はある。

それは、嘔吐だ。 

何回も吐いてる患者のworst scenarioは、頭蓋内緊急疾患、心血管緊急、緊急開腹を要する腹部緊急などと大変幅広いのだ。 救急の現場で、何回も吐いている=急性胃腸炎 という短絡思考は地雷直行だ。 気をつけたほうがいい。

※参考の裁判例   嘔吐、下痢の触れ込みのSAH事例


患者は、直ちに脳神経外科のある救急病院へ転送となった。

今回のケースは、研修医Sの判断が、速やかな診断へとつながっている。 

失神を主訴としてやってくる患者は、若者から高齢者まで多彩である。割合としては、帰宅可能な軽症が圧倒的に多いのだ。だからこそ、このような事例が地雷となりえるわけである。
まとめます。

本日の教訓
患者が頭痛を否定しても、SAHの場合もある。

 なかのひと


コメント(10)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

コメント 10

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しへい

勉強になりました。失神の鑑別にくも膜下出血を考えることはできてもどのような人にCTをとるべきかというのは結構難しいですね。
頭痛をしつこく聞くこと、しつこい嘔吐には要注意と思っておきます。

たいてい頭部CTは必要ないというのが一般的な意見だと思うのですが、それだけにじゃあいつ必要かというのがとても大事であるということを肝に銘じました。ありがとうございます。
by しへい (2007-07-28 14:01) 

コラレス

いつも勉強になる記事をありがとうございます。
 本当に嘔吐というのは手足以外のどこからでもおこる可能性があって、しかもそれなりの重症度をともなうので、地雷の重鎮ですね。
 簡単にCTをオーダーをする研修医を諌めつつ、いつも念頭にあるのはこういうケースです。もし、自分が診ていたら100%最初にCTはとらないと思います。 しかし、入院する前には採っていたいといつも思っています。
 こういうケースに注目するためになにかいい名前はないものでしょうか。
by コラレス (2007-07-28 14:36) 

rinzaru

SAHの発症で意識消失するほどの激しい痛みがあったのに、その後ケロッと痛みを感じないこともあるんですね。
ところでこの研修医S先生は、嘔吐が続くことからSAHを予想して頭部CTをオーダーされたんでしょうか。
by rinzaru (2007-07-28 14:53) 

乳がんの基礎知識 治療、検査、他人事ではない知らないでは済まされない

とても参考になるブログですね。これからもちょくちょく見させていただいて、勉強させていただきます
by 乳がんの基礎知識 治療、検査、他人事ではない知らないでは済まされない (2007-07-28 22:41) 

偽精神科医

えーっと・・・、この研修医Sって僕ですか??

絵画教室で~っていうところに何となく記憶がありますので。

僕がみた症例の場合だったらば、確か・・・
「頭痛ありませんか?」と聞いたら、「ない」と患者さんは否定されました。しかし、「頭の前側(横だったかな?)が変な感じがする(重い感じがするだったかな?)」みたいなことを
とおっしゃったので、
「先生~、とりあえずCTとりましょ~」って言った気がします。


CTから帰ってから、患者さんが「頭いたい~」って言い出したのも印象的でした。
by 偽精神科医 (2007-07-28 22:45) 

Rホーリック

失神主訴のSAHって怖いですね。よく勉強されているDrほどリスク因子がなければ頭部CTは取らないでしょう。研修医が羽根をのばして診療できる環境づくりが良い結果を導いたのでしょう。指導医とはそうありたいものです。
 私が失神で注意するのは心血管系疾患と同等にSAH(他の脳血管疾患ではなく)です。本人の自覚症状や前兆もなく、周囲の人からみてもビックリするほど前兆なく突然すぎて、何が起こったのかわからない・・・こんなエピソードはまずSAHを疑い頭部CTをとりにいきます(血圧が高く、嘔吐を伴えばますます強く疑います)。そのようなエピソードでなければ、一般的な失神の診療を行っていきます。
 先生の仰るように、ホントに激痛による失神で頭痛があったのを覚えていないのでしょうね。
by Rホーリック (2007-07-29 12:07) 

脳外科見習い

失神と嘔吐というふれこみだけで、
うわーくるかな~といつも思っています。

それがトイレでだとますます怪しくなります。
排尿失神では嘔吐はないような気がします。
トイレで倒れていたというエピソード、
経験上ですが、SAHではよくみかけます。
by 脳外科見習い (2007-07-29 16:55) 

元なんちゃって救急医

>しへい様
>コラレス様

たしかに、失神=CTではないですよね。よく勉強していることがかえって落とし穴にはまる・・・・、そういうピットフォールもあるのかも・・・

>inzaru様
当事者がコメントをくれました。御参考ください。

>偽精神科医様
S先生、当事者としてご意見をありがとうございます。
そうでしたか・・・・、頭の違和感を言ってましたか・・・
それは知りませんでした。 これは先生のファインプレー症例として、今の研修医にも語り継いでいますよ。

>Rホーリック 様
コメントありがとうざいます。全く同感です。

>脳外科見習い 様
そうですね。私の叔父もトイレでなくなりました。SAHでした。
先生の経験は一般化できそうな気もします。
by 元なんちゃって救急医 (2007-07-30 09:53) 

研修一年目

二次救急病院で研修していますが、失神主訴の救急受診は多く、いつも頭のCTを取るか迷います
上の先生に聞いた所「症状が純粋な失神のみでけいれん・麻痺・意識障害の遷延がない」なら頭部CTは必要ない、との返答だったのですが、机上の理論では確かにそうなるのですが(↑のような症例を見るとなおさら)、実際の臨床では何も考えず頭部CT施行したほうが時間節約にもなると思います
ぜひお考えを聞かせてください
by 研修一年目 (2014-03-13 02:16) 

元なんちゃって救急医

>研修一年目 先生

その診療の「場」にも左右されると思います。その「場」は、常態としての「場」と一時的な「場」の要因のどちらも含みます。

何も考えず というのは、ある意味極論であるとは思いますが、たしかに、
効率的な「引き算診療」の実践という意味においては、さっさとCTをとってしまうという選択肢がでることもあります。(これは常態としての「場」がどういう場なのかに大きく左右されます。

ただ、研修という目的から考えると、思考停止的な診療スタンスの型が好ましくないとも言えます。

まあ、常に、画一的な答えに落とし込むのではなく、多様性をもった思考を身に着けるべく努力を続けられてください。
by 元なんちゃって救急医 (2014-03-26 21:01) 

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