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除脳硬直とCT検査 [救急医療]

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先日、大淀病院での妊婦死亡事例に関する2回目の裁判が行われました。 僻地の産科医様がその詳細をブログを上げてくれています。

大淀裁判、裁判記録の閲覧情報

奈良大淀病院の裁判! その2

奈良大淀病院の裁判傍聴にいってきました!

大淀病院!第二回裁判

裁判記録にはこのような記載があるということです。

夫の身内 (当病院の救急で勤務経験) 来院
[原]身内が
除脳硬直と判断し、CT等の検査を要求したが、担当産科医は「子癇なので、動かさないほうがよい」として検査せず、「転院先を探している」と言うだけ。

身内さんの判断が正しいかどうかは、知る由もありませんが、国立循環器病センターの記載<右脳(?)に7cmの血腫、明らかなMidline Shift、脳幹にも出血、脳室穿破>という記載と合わせれば、きっと正しかったんだと思います。

除脳硬直がどんなときに起きるかというとこんなときにおきます。 ⇒ http://www.jaam.jp/html/report/dictionary/word/1007.htm
除脳硬直とはこんな様子です。(絵は、UpToDateより拝借させていただきました)

裁判の詳細はそちらにお任せするとして、本日のエントリーでは、その中から、「除脳硬直」にまつわる症例を、私の実体験から提示してみたいと思います。
(※いつもことですが、医学的要旨は変わらないようにしながらも、提示症例は個人特定とつながらないように、いろんなところに脚色を入れています。)

症例1 38歳 男性  けいれん(という触れ込み)

元来健康。新規開業するファミリーレストランの店長として、日々開業準備に追われて、連日の深夜帰宅であったという。ある日、突然、唇のまわりがしびれると言い残して、痙攣発作が出現。救急車を要請したという。

救急隊「 38歳男性 けいれんです。今はおさまっています」 と第一報。 
CPR(心肺蘇生処置のこと)中だったけれど、まあ、待たせておけば大丈夫だろうとこの要請を私は受けた。

痙攣発作を起こしたが、今は治まっている。 救急搬入とすれば、よくあるパターンだ。特に小児科領域では、よくある熱性痙攣がこのパターンだろう。当然、内科領域も、てんかん発作や心因反応などが痙攣の原因としてよくあるパターンだ。

だが、この症例では違った。 こちらもうかつだった。 

「どうせ、いつも痙攣だろ」とたかをくくっていた。 本当にそうならば、どんなに救急外来が多忙であっても、この患者を受けても現場は対応可能だ。(但し、患者さんには多少お待ちいただくことをご理解ご了解いただかないといけないが。)

その搬送依頼があったとき、他部署の応援を求めずになんとか対応できるマンパワーでぎりぎりでCPR対応していた。 だから、私は、CPR中の患者が一段落ついてから、この痙攣患者の対応を始めようと思っていた。

救急車が到着した。

救急隊のストレッチャーに乗せられた患者が救急外来に運ばれてきた。それをみて、一瞬自分の目を疑った・・・・・・・・・・

「除脳硬直やんか(驚き!!!)・・・・・・」 それと、救急隊の制服が何かいつもと違う・・・・・

その救急隊は、ぽかんとしている。何の切迫感も伝わってこない。無理もなかった。その搬入は、救急車要請が同時に殺到したため、救急救命士がいる隊は、すべて出払っていて、急遽、消防士が患者搬送を手伝ったということを後で聞いた。 ( 注:少し記憶が不正確です。何か私の事実誤認があるかもしれません)
ならば、プレホスピタルで的確な医療情報を提供できなくても仕方がないかなと私は思った。

ちなみに、救急救命士法 
第四十五条 救急救命士は、その業務を行うに当たっては、医師その他の医療 関係者との
緊密な連携を図り、適正な医療の確保に努めなければならない。

日々、現場で努力する救急救命士に敬意を表します。

さて、話を続けます。

当院搬入時には、レベル300、失調性呼吸、除脳硬直肢位だった。 低血糖を否定の後、すぐに気管挿管で気道を確保した。

「話とぜんぜんちがうやんか!!!」

救急隊と救急の医師がしばしば、けんかになる原因のうち、最たるものであろう。しかし、どちらが正しい悪いという問題だけでは片付けられない。救急隊と現場の医師のコミュニケーションには限界があり、それをよくわきまわえておかないといけない。この場合は、後知恵バイアスがかかった目でながめてしまいがちなのが医師のほうであり、話がちがうと救急隊を批判する場合は、よくよく考えた上でその物言いをしないと救急隊とけんかにしかならないであろう。医師は特に注意が必要であることを忠告しておく。

では、「もし、救急隊から除脳硬直の情報を聞いていたら」?
私の判断を言います。  搬送依頼を断ります。
もちろん、別の患者のCPRをしながらでも、新たな重症患者に対応できるだけの余力があれば受けますが、それがなければきっぱりと断ります。

いくら精神論的な批判を受けようとも、今目の前の患者が最優先です。

今、医療資源は厳しくなる一方です。 医療者という「人」なる資源が一番厳しいかもしれません。
あなたが、救急患者になってしまったとき、医師不足のためベストな医療をしてもらえないかもしれません。そういう背景をふまえて、医療を受ける側の心構えとしては、「今回は仕方がなかった。誰を責めてもどうにもならない。あきらめよう。」 そういう気持ちをもう今のうちからどこかに持てるようにしておいたほうがいいかもしれません。この気持ちを持って普段から心の準備をしておくことによって、もしあなたが、そういう医療の中での医療を受けられなかったという当事者になってしまったとしても、あなた自身の人生が、誰かに恨みを晴らすために生きる人生とならずに、あきらめることによって次の人生を前向きに考えることができると思うからです

再び話を戻します。

とにかくおかげで、現場は大混乱となった。 私は、すぐに脳外科医師の応援を呼び、この患者の対応を最初からお願いすることで、この混乱をなんとか乗り切った。

患者は、脳幹部(橋)出血だった。 手術適応もなく、対症療法のみで対応し、3日後に死亡した。

(橋出血のCT像の引用元:http://www.neuropat.dote.hu/uj/1998f.htm

除脳硬直をきたす状況とは、その時点できわめて予後不良な状況です。 今すぐCTをとろうがとるまいが、予後が変わるわけではありません。
大淀病院の細かい体制まで存じ上げませんが、CTがすぐに取れない(技師呼び出し、移動に時間がかかるなどの要因)状況かつ脳外科緊急対応ができない状況で、私が除脳硬直をきたす患者に遭遇したら、その場所でCTを撮る事よりも高次施設へ転送依頼を優先します。つまり、大淀病院で対応した先生と同じ対応をした可能性が高いということです。

今後も大淀病院裁判に関しては、大淀病院支援の立場で支持を続けていきたいと思います。


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コメント 6

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Taichan

商売柄、除脳硬直はかなり見ました。脳底動脈急性閉塞でtPA静注でも効果なく血管内治療で再開通(日本では使用できない頭蓋内ステントで無理やりと言いますか)した症例は後遺症は残しましたが救命出来ました。
しかし、これはあくまで脳幹梗塞急性期で院内到着が早かったケースです。
正直言いまして脳内出血で除脳硬直は緊急手術して助けた経験がありません。助けたとしても植物状態でした。

脳内出血で除脳硬直をみたら絶望的だと思います。
by Taichan (2007-09-02 12:31) 

元ライダー

残念ながら大淀裁判で「適切な時期に脳出血としての治療を受ける期待権を侵害した。」との判決が出るかもしれません。
言うまでもなく、医療は数年単位の裁判とは異なり、数時間、時には数分数秒以内での判断が求められます。限られた時間で何らかの判断(経過観察も含めて)をしなければならない。しかし与えられた情報からは確実な判断はできないことも多い。そうのような時には、より確からしい判断を行うという意味で試行錯誤という手段を取らざるをえない場面もあります。裁判所の言う期待権は試行錯誤であっても「錯誤」は許されないということです。医療においては試行錯誤で問題を解決するという手段をとってはいけないという事です。言い換えると「試行錯誤を行ったら結果責任を問うよ」ということです。ERできますか?
by 元ライダー (2007-09-03 15:24) 

元なんちゃって救急医

>Taichan様

専門的見地からのこめんとありがとうございます。TBさせてもらいました。

>元ライダー 様

コメントありがとうございます。厳しい問いかけですね・・・
はっきりというと、非医療者の心を折るかもしれないので、ここでは勘弁してください・・・
by 元なんちゃって救急医 (2007-09-03 23:08) 

Dr. I

CPR中だったら、当然断りますよね。
他の病院に行ったら、助かるかもしれないんですから。

なんか、「救急患者を断る=悪」のような図式でマスコミが報道してるのが、気に入りません。

大淀病院の件で、記事を引用させて貰いました。
TBも失礼します。
by Dr. I (2007-09-05 23:32) 

元なんちゃって救急医

>Dr. I 様

コメントとTBありがとうございました。同意です。
by 元なんちゃって救急医 (2007-09-07 12:45) 

たる

はじめまして。
「除脳硬直」というキーワードで検索して、このページを拝見しました。
私は3年前、もやもや病による脳内出血のため 急性水頭症を発症しました。

手術を受けた病院に搬送された時は、その時の状況を主治医に聞くと、もう瀕死の状態(瞳孔散大、除脳硬直)だったそうです。
そのような状態でしたが、脳室ドレナージ術を受けることで 幸い一命を取り留めることができました。

上記の記事を拝見しても、主治医から聞いた「瀕死の状態」というのが再確認されて、助かって本当に良かったと思わずにいられませんでした。

ちなみに、リハビリなどのお陰で、今では趣味のバスケットボールを楽しめるくらいに回復できて 日々の生活を送っています。

健康でいられることの有難さを 痛感した経験でした。
by たる (2009-05-06 10:51) 

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