So-net無料ブログ作成

怖い失神(3) [救急医療]

 ↓ポチッとランキングにご協力を m(_ _)m
   

本日のエントリーは、久々の怖い失神シリーズとしてみます。 第三弾です。

ちなみに

第一弾:怖い失神(1)  ・・・・急性大動脈解離(Stanford A)
第二弾:怖い失神(2)   ・・・・クモ膜下出血

でした。 さて、今回はどんな地雷なんでしょう・・・・

さっそく症例に入ります。

症例 81歳男性  消化管出血の疑い(紹介)

ADLは完全自立。現在、とくにかかりつけの医院はなし。定期服薬もなし。10年前に胃潰瘍の既往歴があり。3,4日前から、全身倦怠感あり。腹痛や嘔気は特に感じていることはなかった。最終排便は、今朝、硬さはやや軟便。便の色は見ていないので、わからないとのこと。本日、昼食後、トイレに立ったときに失神を認めた。意識はすぐに回復したが、家族の勧めで、近医受診(初診)。 眼瞼結膜が、貧血様であったことから、消化管出血(胃潰瘍再発?)の疑いで当院を紹介受診。家族の車で来院。 来院時バイタル、血圧117/57 脈80整 体温35.9 呼吸数<20

来院直後の血糖と心電図に異常はなかった。

さあ、指導医の立場としては、ここから、初期研修医一人に診察を任せますか? それとも・・・・・  (9月30日 記 続きは後日)

(以下 10月1日 追記)

moto様、しへい様、pulmonary様、コメントをありがとうございました。 いろいろなご指摘ありがとうございました。 現場で、初期研修医の先生を泳がす前に、気をつけることは、超緊急的な地雷の有無です。自分の目でざっとチェックを入れて、とりあえず、そのイニシャルチェックで、とりあえずは、大丈夫そうだと判断して、彼らを泳がすようにしています。もちろん、途中や最後でチェックを入れますけどね。

その視点で、上記症例は、まだ、初期研修医を一人泳がして診療させるわけにはいかないと判断したケースなのです。 

では、続けます。

私は、この症例を、初期研修医のA先生に持たせようと思った。

私:「おい、A君よお、VINDICATE+P (本エントリーの一番下のところ参照)って知ってるかあ?」  A:「 は? あ、あ・・・・、はふう・・・ わかりません。」
私:「まあ、いい、とりあえず、「V」はvascular(血管)を覚えろ救急外来では、この「V」に一番地雷が多いんだ。だから、このVINDICATE+Pで病因をチェックすれば、かならず最初にVを想起することになるからな・・・・。 だから、便利なんだよ。」

私:「高齢者、失神、貧血をキーワードにV的な地雷疾患を挙げてごらん?」
A:「あ、あ・・・・??・」
私:「”あ”じゃない。”えー”だ!」
A:「え、え、え・・・・・、あっもしかしたら、スリーAですかあ?」  

※スリーA(トリプルAともいう):Abdominal Aortic Aneurysm(腹部大動脈瘤)の業界用語

私:「おお、いいねえ、それそれ。 心電図は見て、STEMIでないこと確認済みだし、次はAAAはみておきたいね。AAAだとお腹に拍動性の腫瘤をふれることもあるんだぜ、みてみようか。」

私は、半分冗談まじりに、半分教育のためと思って、A先生と一緒に患者の腹を触ってみることにした。

す・る・と・・・・・・  ドクン・ドクン と何かが触れる・・・・・ まさか・・・・・ほんとに・・・・・

私:「おい、エコーだ! 早くエコーもってこい! それとA先生、普段の患者の血圧を確認してみて」

ほどなく、A先生「 先生、普段は、自宅の血圧計で160から170程度だそうです。」
私:「 ショックバイタルか・・・・」 
たとえ、血圧117/57 脈80整の数値的には一件正常バイタルであってもその人にとってはショックバイタルのことがある。要注意だ

エコーが来た。 こんな写真の感じだった。


私:「AAAの切迫破裂だ! すぐに転送する!」 もちろん、エコーでここまでわかれば、うちでCTなんか取っている暇はない。

近隣の心臓血管外科の医師と電話交渉して、受け入れ先を確保。直ちに、転送の段取りをとった。
転送時は、すでに血圧が80代になっていた。一刻の猶予も許さない状況だ。私が、救急車で同乗した。
それでも、残念ながら、救急車内で急変し、心肺停止になってしまった。結局、手術までたどり着かず、患者さんはお亡くなりになった。
血管緊急は、分または秒の単位で患者が急変する。だからこそ、地雷的なのだ。血管緊急にはつねに細心の注意が必要だ。

また、高齢者は、腹痛などの痛みをあまり表に強く出さないことがある。まさに今回のケースもその一例といえるだろう。

というわけで、怖い失神の第三弾は、AAA切迫破裂による失神でした。

もし、この患者が、見た目に拍動性の腫瘤も触れず、自分で大血管をエコーでちらりとみて、心臓の動きをちらりとみて、問題がなさそうであったならば・・・・・
初めて、その時にA先生を一人泳がせて診療を始めさせていたと思う。この症例、早く気がついてあげることはできたが、それでも患者を救えなかった。医療は常に病気に勝てるわけではないのだ。それでも、我々は日々の努力を続けるしかない。

本日の教訓
VINDICATE+Pの「V」には地雷満載である。地雷は「V」から考えよ

VIDICATE+Pの解説   vindicate: 立証する という意味がある。
V
ascular                      :血管性
Infection / Inflammatory  :感染/炎症
Neoplasm                      :新生物(悪性腫瘍、良性腫瘍) ⇒ 破裂も考慮
Degenerative                 :変性
Intoxication                   :中毒
Congenital                     :先天性
Allergy / Autoimmune      :アレルギー、自己免疫
Trauma / Torsion            :外傷、捻転    ※Torsionは、私の思いつきです!
Endocrine ・ metabolic      :内分泌、代謝
Psychiatric / Psychogenic :精神、心因性

引用元
めざせ外来診療の達人 P9
病院を網羅するための接頭語VINDICATEに精神・心因性のpsychiatric / psychogenicの頭文字Pを加えている。

<時間外診療の場の視点から見たこの記憶法の良いところ>
地雷的な疾患の多くが血管性であり、それが記憶の第一番目にくるところ。
頻度の多い疾患は、感染症であり、それが記憶の第二番目にくるところ。
時間外でスルーしがちな腫瘍性疾患が、記憶の第三番目にきて我々に注意喚起してくれるところ。


コメント(8)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

コメント 8

コメントの受付は締め切りました
moto

うーん。怖い失神ということなら、アダムス・ストークス症候群かな?
by moto (2007-09-30 07:51) 

しへい

日本でもこちらでも失神の患者さんがきたらモニターを常につけ・静脈確保も行います。モニターをつける環境であれば(除細動器・ペースメーカーが必ずそばになければならないでしょう。)その状況であって初めのバイタル(SPO2もしりたいですね。)・心電図がよければ5-10分研修医の先生に任せると思います。チラチラ覗き見ながら。覗き見て大事な問診ができていないようでプランもできていないようなら(正直研修医の先生の出来のばらつきというのは非常に大きいものがあるとおもいます。失神=頭部CTという人も結構多いのではと思います。)自分も参加します。何をしているときなのか。失神前に前駆症状(胸痛・呼吸困難・吐き気・頭痛・心か部痛など)やふらつきがったか失神後にも同様の症状があったのか。以前に同様のことがあったのか。突然意識を失って頭部・頚椎外傷などがないかを判断します。目撃者を確認するようにして痙攣でなかったことを確認します。心血管のリスクファクター(とくに陳旧性心筋梗塞・心不全を大事にしながら)を再確認します。
バイタルサインを再確認、胸腹部の診察両側の脈の確認・簡単な神経学的診察をしてトロポニン・胸部X線も行います。この症例の場合は消化管出血という病院前の情報もあるので直腸診を行い出血がなければ胃管を挿入し確認します。
トロポニン・胸部X線に異常がなく頭部CTをとらない場合(頭痛・嘔吐がない)・上下部出血の可能性が低い場合・Wells criteriaにも引っかからない場合・san francisco syncope ruleやOESIMにしたがって危険度を考えます。
http://emergency-medicine.jwatch.org/cgi/content/full/2006/721/2
この患者さんの場合高齢ですから確実に入院が必要と思います。
トイレ関連で何か起きた場合迷走神経といきそうですが、中高年の方々は実はトイレ関連でいろいろな病気を起こすことがあるのでトイレ関連の場合は疑ってかかるようにしています。一回トイレに行こうとして倒れた人が心タンポナーデだったことがありました。数日前の胸痛=MIで心室穿孔したらしいと循環器の先生との推論しました。いつもありがとうございます。
by しへい (2007-09-30 14:03) 

pulmonary

いつも楽しく拝見しております。
高齢者の(初回)失神はいつも悩まされます。
この症例もNMSとくにsituational syncopeで排便・排尿後失神の可能性も高いと思うのですが、最悪の病態を考えるのが救急医ですよねぇ。
来院時vitalが落ち着いていて、自覚症状もなし。
一般的な心原性、肺塞栓、消化管出血は当然疑うとして、私の経験からレアなものは、排便時にいきんだ時の消化管穿孔なんかでしょうか。
by pulmonary (2007-09-30 22:33) 

しへい

いやあやっぱり見逃してしまいました。難しいですねえ。救急医療は。いつものお腹の診察で気がつくかなあ。。。

UK Small Aneurysm Trialでも6cmが無症状でも手術でしたね。今後失神の患者さんのお腹に気をつけます。意識していないと忘れてしまいそうです。いつも素晴らしい症例提示をありがとうございます。
by しへい (2007-10-02 00:36) 

Med_Law

mnemonicは便利なんだけれど、直ぐに忘れてしまいます。。。。汗

カリカリして三振で誤算 (Kの正常値が3.4-5.3)

とか、日本語の上手い語呂があれば良いのですけど。
by Med_Law (2007-10-02 08:30) 

安達太良

毎日、勉強させていただきます。
このエントリーは、特にすばらしいと思います。
ありがとうございます。また続けてください。楽しみにしております。
by 安達太良 (2007-10-03 12:32) 

元なんちゃって救急医

>しへい様  コメントありがとうございます。

> Med_Law 様  おお、これは知りませんでした。

>安達太良 様 はげましのお言葉ありがとうございます。
       
by 元なんちゃって救急医 (2007-10-03 17:17) 

pulmonary

そういえば林先生のケアネットDVDでも全く同じようなシナリオがありました。腹痛+失神(見えない出血)で考えるのは消化管出血、AAA切迫破裂、子宮外妊娠ですもんねぇ。
by pulmonary (2007-10-03 22:46) 

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。