So-net無料ブログ作成

秋葉原トリアージ問題 読売も指摘 [医療記事]

 ↓ポチッとランキングにご協力を m(_ _)m
   

先々エントリーで、サキヨミのトリアージ批判について考えるを書きました。 活発なご意見が多く、コメント欄はそれなりに盛況でした。今度は、読売新聞もフジテレビに追従したようです。こんな記事が出ました。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20081014-OYT1T00667.htm

秋葉原事件で重傷2人収容に1時間、トリアージ運用見直し

 17人が死傷した東京・秋葉原の無差別殺傷事件で、東京消防庁が実施した救急搬送のトリアージ(患者の選別)について、読売新聞が被害者の搬送時間を調べた結果、「最優先で搬送」と判断された負傷者7人のうち、少なくとも2人が通報から病院収容まで1時間近くかかっていたことがわかった。

 トリアージの対象外だった別の2人は30分以内に搬送が始まり、数分で収容されたとみられ、トリアージが、かえって搬送の遅れを招いていた。同庁は、情報伝達など現場の連携ミスが原因とみて救急搬送の運用指針を見直す。

 17人の被害者が搬送された12病院は現場から700メートル~数キロの範囲にあり、搬送時間は数~十数分程度。このため都や同庁、医療関係者などで作る「検証委員会」が今回の救急活動を検証している。今回の事件では発生3分後の6月8日午後0時36分ごろに最初の119番があり、7分後に1台目の救急車が現場に着いて応援を要請し、30分後には計14台の救急車が現場に到着していた。

 同庁は負傷者が多数に上ることから現場交差点の東約50メートルの路上に指揮本部を設置したうえで、現場に駆け付けた医師とともに、交差点付近で倒れていた15人にトリアージを実施した。

 このうち5人は致命的な損傷があるとして「搬送を先送りする」と判断され、3人は「簡単な救護処置で間に合う」だったが、7人は「生命の危険が迫り、最優先での搬送が必要」という判断だった。

 この7人について読売新聞が調べたところ、状況が判明した5人のうち、最も早く病院に収容された人が通報の36分後で、40分後と50分後が1人ずつだったほか、腹部を刺されて重傷を負った30歳代の女性は57分、右胸を刺されて一時重体に陥った50歳代の男性も54分かかっていた。

 これに対し、100メートル以上離れた路地に倒れていたためトリアージが実施されなかった重傷者2人は、指揮本部の指示から外れた救急車2台が30分以内に搬送を始め、最も近い700メートル先の病院に収容した。

 最優先の負傷者の搬送に1時間近くかかった理由について同庁幹部や検証委は、〈1〉現場が広く、指揮本部と被害者の間の情報伝達に時間がかかった〈2〉規制線などで一部の救急車が被害者のそばまで行けなかった――などを挙げている。

 同庁や検証委は、搬送を先送りされた5人を含め7人の死者は、搬送時間が短縮できても救命は困難だったとみているが、トリアージマニュアルの見直しも含め、搬送の在り方を再検討している。

 ◆トリアージ=多数の負傷者が出た場合、多くの命を救うため、けがの程度から救急隊員や医師が搬送や治療の優先順位をつける行為。赤(最優先)、黄(優先順位2番目)、緑(軽処置)のタグのほか、死亡または救命不可能で順位が最も低い黒タグがある。2005年4月のJR福知山線脱線事故でも実施された。

(2008年10月15日03時07分 読売新聞)

新聞記事としては、よくまとまっているのかもしれません。問題点の指摘もまっとうなのかもしれません。「マスコミは、社会の問題点を指摘し、批判し、そのことによって世を改善するのがその努めなのだ。マスコミとはそういうものなのだ。」という前提を認めてしまえば、何の問題もない記事かもしれません。

しかし、この記事を読んだ私の感想はサキヨミの時と変わりません。

こういう批判は、果たして医療をよりよくするのに役に立つのでしょうか?
いったいマスコミは何をどうしたいのでしょうか

ということです。

この国は、

専門家に対する敬意

なるものを持ち合わせてないのでしょうか?  本当にさびしい国だとほとほと悲しくなりました。

今、北海道で救急医学会が開催中です。 このエントリーは、そこから発信しています。

ある演題では、救急救命士の黒タッグ使用に際する「ためらい」に関するデータが報告されています。

救急救命士が黒タッグを使用した場合に、心的負荷を感じたという方が、275名(94%)と大多数を占めていた
というデータです。このデータから、心的負荷を軽減する方策の検討が必要であると結ばれていました。 

どうも、私には、 サキヨミといい読売新聞といい、安全地帯にある人が、事後から、後知恵バイアスという存在の気づきもないまま、言いたいことを好き勝手に言ってるだけとしか感じません。つまり、私は、好意的に記事を受け取られないのです。

その感じ方自体は、私自身の心に常に内在している「救急という現場に生じる自分で制御できない不確実性」なるものに対する不安と恐怖があるから故かもしれません。

現場の人たちは、程度の差はあれこそ、大なり小なり私の感じ方と似たようなものがあるのではないでしょうか?

私が言いたいことは、トリアージのあり方という視点だけではなく、現場の人の心のありようまでに想像力を働かすという視点をできるだけ多くの人に持ってほしいということです。


コメント(17)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

コメント 17

コメントの受付は締め切りました
saki

サキヨミのあとなのでえらくまともな記事に見えてしまいます。
少なくともトリアージ(トリアージ施行者)に対する批判でないことは救いです。ただ、≫トリアージ運用見直し≪というよりは搬送体制の再検討ですね。

by saki (2008-10-15 08:53) 

しま

この報道に関しては「サキヨミ」とは違うように受け取ります。つまり、必要な報道ではなかったかという事です。

トリアージの趣旨から考えれば、「最優先」と判断された患者が、最優先で搬送されなかった事は問題であり、検証されるべきだと思います。

もっとも、これは私が安全地帯にいる故の発言であり、「最優先」タグを付けた患者は100%最優先で搬送されると思っているだけの話なのでしょうが。

トリアージのタグによる優先度はあくまでも目安であり、現場の状況によっては最優先患者が、優先患者より遅れると言う事もあるのでしょうね。
by しま (2008-10-15 09:04) 

しま

この報道に関しては、読売新聞の報道によってマニュアルが見直されたり、搬送のあり方が変わるのであれば、「医療をよりよくすることにつながった」と言えると思います。

もっとも、東京消防庁がすでに事後検討しているのであれば、無意味な報道という事になると思いますが、
by しま (2008-10-15 09:19) 

僻地外科医

この記事、検証そのものに救急医療を理解していないが故の大きな間違いがありますよ。

>、東京消防庁が実施した救急搬送のトリアージ(患者の選別)について、読売新聞が被害者の搬送時間を調べた結果、「最優先で搬送」と判断された負傷者7人のうち、少なくとも2人が通報から病院収容まで1時間近くかかっていたことがわかった。

> トリアージの対象外だった別の2人は30分以内に搬送が始まり、数分で収容されたとみられ、トリアージが、かえって搬送の遅れを招いていた。

 これは当然の話で、最初の2人に関してはまだマンパワーがある状態での受け入れですから受け入れ先は広かったと思いますが、そのあとの15人については死の危険がある重傷者ですからそう簡単に受け入れが可能な病院がたくさんある訳じゃありません。トリアージが搬送の遅れを招いたのではなく、マンパワーが不足しているから搬送の遅れを招いたものでしょう。
 こんなごく基本的なことが分からないで記事を書く神経を疑いますね。

 東京消防庁が検証すると言っているのは、「さらにより短時間にして救命率の向上を図る」という意味合いのものだと思います。
by 僻地外科医 (2008-10-15 09:32) 

町医者

トリアージ問題じゃなく、救急搬送問題のような。
だって、トリアージで重症と判断されたのに、搬送が遅れたという指摘でしょう?

読売の記事が事実だとしたら(再度言います、事実だとしたら)、救急搬送システムの再点検をし(規制線などで一部の救急車が被害者のそばまで行けなかったなんて、いったいどういうことか)、重症と判定された人を、他の軽症とか黒と判定された人より早く搬送されることが確保されるようにすべきで、これは、トリアージされることを前提にしての話しのはず。
読売の記事が事実だとしたら(くどいですが、事実だとしたら)、トリアージするもしないも同じことのような。目の前の患者から順番に、近くの救急病院(一次だろうが三次だろうが関係なく)に運ぶってのと違わない。
by 町医者 (2008-10-15 10:00) 

ちゃんこ

トリアージと搬送の混乱は別問題だと思うのですが、搬送の遅れをトリアージのせいにする、医療ジャーナリスト気取りの人間がいるというのは悲しいことです(こういう問題点がわかっていない人間は医療ジャーナリストを名乗る資格は無い)。
ただの素人ならともかく、医療を変えていこうという人間が問題点もわからずにただ世論をあおり、医療者の努力を批判し、医療崩壊になればまた自分たちの責任を医療従事者に押しつけ・・・もういやになりました。

ただ、搬送の遅れについては見直しする必要があるとは思いますが、トリアージは私が知る限りではすでに直しようのない最高の方法です。トリアージに不満は私だってあります。でも、それ以上の方法は現実的に無いのですから・・・。
それを無理にトリアージと救急搬送の不備を結びつけるマスコミの意図がわかりません。
by ちゃんこ (2008-10-15 11:14) 

ビビりの研修医

何度読んでみても、的外れ感がぬぐえない記事でした。
まず、トリアージの対象外だった二人が早く搬送されたことと、トリアージの対象となった15人の搬送が遅れたことが、トリアージを行ったことによる搬送開始の遅延と結論付けてますが、それを示す根拠がどこにも見当たりません。ここまで言うのであれば、現場で起こったことを正確に時系列で示してほしい。この二人が、トリアージの「開始前」、あるいは「開始直後」に搬送先が決まり、搬送されたということではない、という証拠を示してほしい(指揮本部の指示から外れ、とあるのは、僕の見間違いでしょうか。この一節が妙に気になる私のほうが変なのでしょうか。)。これではまるで、「納豆を食べたからダイエットできた」という考察と全く変わらないように思います。

残りの15人の方については、トリアージとは全く関係のない問題点を無理にトリアージに結び付けているとしか思えません。最優先に搬送の必要がある=最重症であり、当然治療にそれなりの人員、施設が要求される、つまり、搬送先の選択幅が非常に狭いということが全く考慮されていません。
病院が搬送を「断る」、搬送先がなかなか決定しない、という、その理由についてあまりにも考察が浅すぎるのではないでしょうか。


トリアージについて、一応の説明がされていること。黒タグの「曲解された」意味に引きずられた論調にだけはなっていないこと、など、サキヨミの報道内容から考えると、多少改善されている点もあるとは思いますが、私の印象としても、たいして変わりがない、としか言いようがありません。

記事を読んでいて、ひとつ気になったことがあります。
このような大規模な事件が起こった場合、現場周辺の医療機関への情報伝達というのは、どうなっているのでしょうか。各救急隊が搬送先へ、めいめいじかに伝えるのか、それとも、何らかの統一された情報源から、周辺のある程度の規模の医療機関に一斉に発信されるのでしょうか。私には経験がなく、この点については全く知りません。
この点をご存じの先生方がおられましたら、ぜひともご教示いただけましたら幸いです。
by ビビりの研修医 (2008-10-15 18:43) 

こんた

マスコミの番組構成、記事は、すべての事例において
"悪、不具合などのネガティブな原因が存在する"
"マスコミには、それを指摘する使命があり、それを改善する能力がある"
が前提となり、
それを行うのが彼らの存在意義だと思いこんでいるのでしょう。

マスコミが性悪説的な立場で記事を書く以上、(基本的に)性善説で働かざるを得ない医療関係者と相容れることはありません。
by こんた (2008-10-15 20:53) 

tobby

いつも勉強させていただいてます。
救急で長く働いていたもので、今回の件について感じていることを書かせてください。
今回は、「トリアージ」という言葉にマスコミが魅力を感じたのではないでしょうか。ワンフレーズで問題を集約する手法は、大衆に「何となく分かったような感じ」を与えるため、マスコミや政治家がよく用いる方法ですよね。「トリアージ」は、“今が旬”ということだと思います。
その危険性については彼ら自身も(おそらく)分かっているはずですが、自分たちの日常(=「生命」という意味では安全地帯だが、「キャリア」という意味ではそうとは言えないかもしれない)を優先するという、サラリーマン記者・編集者なら当然の思考回路に陥っているのだろうと思います。ゆえに、彼ら個人個人については同情の余地があるかもしれません。
振り返って我々はどうか?こういった誤解を解くために何をすべきか?マスコミにより公正な報道をさせるための現実的な手段は何か?きれいごとではなく、考えるべきかと思いました。
by tobby (2008-10-16 07:02) 

元脳神経外科専門医

この内容だけでは今回の件がどうかはわかりませんが、一般的に考えて、トラウマバイパスという概念を考慮すれば結果的に軽症者の方が早く搬送されるということは十分考えられるのではないでしょうか?
今回はそこにトリアージが絡んだだけで、皆さんおっしゃるようにトリアージと搬送システムとは別に検討しなければいけないと考えます。

そういったことを全く無視して早さだけを取り上げてトリアージを問題視するのは、救急医療の無理解かあるいは故意に情報操作を行なっているのではないかとさえ思ってしまいます。

どうか非医療者の方は医療者のヒステリーと思わず、記事の裏に隠されている事実を理解してください。
by 元脳神経外科専門医 (2008-10-16 10:59) 

石部金吉

一般市民もマスメディアも、患者を収容したら、すぐに救急車が動き出さないと、サボっているように見てしまうのかもしれませんね。実際は、適切な搬送先を探すために、停まっている救急車の中で色々と苦労しているのだと思いますが。


さて、マスメディアを見ていると、
● 悪者リスト:政治家、官僚、悪の陰謀組織、医者、権力者
● 可哀相リスト:患者、被害者、庶民、医者以外の医療者
という構図の中で、何が何でも
「悪者リストの誰かが可哀相リストの誰かを苦しめている」
というストーリーに当てはめているように思えます。

天災で人が死んだときですら、何かの理由をつけて人災ということになり、行政が槍玉にあげられます。

きっと、悪者リストの中から犯人をみつけだして、そいつを懲らしめれば、皆がハッピーになると本気で信じているのでしょう。

そのような単純でわかりやすいストーリーに対して、我々が正論で答えても一般市民の理解を得るのは難しく、むしろ「真犯人はコイツだ!」と、悪者リストの中の別の誰かを生贄にする方が、効率的なのかもしれません

もちろん冗談です!


ところで、マスメディアの人たちは、同業他社に良い記事を先に書かれると、心底辛いみたいです。なので、もし良い記事や良い番組があったら、「あの記事は良い!」「素晴らしい番組だった!」というコメントを出していくのも大切なのでは、と思います。

なんちゃって救急医先生、他の先生方、よろしくお願いいたします。


by 石部金吉 (2008-10-16 12:31) 

なんちゃって救急医

> saki 様

搬送体制の再検討・・・・そうかもしれないですね。

>しま 様

内部では一生懸命やってますよ。
おそらく関係者でPTSDもしくはそれに近いメンタル状態になっている人もいるのではないでしょうか?

外部の人たちは、そういう関係者の心理に気がつき、配慮と節度を持ってコメントしてほしいと私は願っています。

少なくとも新聞報道にそういう視点のかけらもありません。

>僻地外科医先生

そうですよね・・・東京といえども一人重傷者を助けようと思えば、ほいほいと受け入れ先がわいて出るとは思えませんものね。

>町医者先生

なるほど。。。。 事実だとしたら・・・このあたりが微妙かもしれません。

>ちゃんこ様

マスコミの意図は、「注目」というのがキーワードになるのかもしれません。

>ビビりの研修医先生

う~ん、どうなんでしょうねえ。現場のケースバイけーすなのでしょうか? DMAT研修など受ければわかるのかもしれません。

>こんた先生

まったくおっしゃるとおりだと思います。ありがとうございます。

>tobby 先生

「今が旬」という先生の表現が腑に落ちました。なんかすっきりしました。ありがとうございます。

マスコミに公正な報道をさせること・・・フェルマーの大定理の難問かもしれません。

>元脳神経外科専門医 先生

記事の裏を考えることの重要性を主張してくださりありがとうございます。私がブログ上で一貫して主張し続けていることです。

>石部金吉先生

3連休で産業医の更新研修を受けてきましたが・・結局一緒ですね。 

ほめること

大切ですよね。


by なんちゃって救急医 (2008-10-16 21:34) 

石部金吉

今回の秋葉原事件と比較されるイギリスの大規模災害(なぜか黒タグ2枚しか使わなかった)というのは、2007年7月7日に起こったロンドン同時爆破事件のことですね。これについては Lancet に詳細な報告が出ているので紹介します。

できれば皆さん、原著で読んでみてください。小説を超える臨場感がありますよ。
Lancet 2006; 368: 2219-25

 【以下、内容要約。 「→」 は私のコメントです】
 2005年7月7日午前8時50分にロンドン市内の地下鉄3ヶ所で爆発が起き、さらに9時47分にバスの爆発が起きた。
 被災者は合計で775名、うち現場で死亡と判断されて医療機関への搬送の対象外となったものが53名であった。うち2名は一旦はトリアージ対象とはなったが、結果的に黒タグと判断された(→ 黒タグ2枚の正体。51名はトリアージすらされず、死亡とされた)。
 667名は緑タグと判断されて簡単な手当てを受けたものが349名、手当ても受けなかったものが318名であった。以上、53名の黒タグ相当と667名の緑タグをのぞく55名が赤タグまたは黄タグと判断されて近隣医療機関に搬送された。
 最も中心的な活動を行った王立ロンドン病院では、最初の被災者到着(赤タグ)が災害発生より1時間30分後で、その15分後に救急室内の被災者数がピークに達した。最後被災者到着は赤タグが災害発生より2時間30分後、黄タグが4時間30分後である。受け入れた被災者は赤タグ8名、黄タグ19名であったが、再トリアージの結果、黄タグの2名は赤タグになった(→ いわゆるアンダートリアージ)。赤タグに対しては多人数からなる外傷チームが対応し、黄タグに対しては医師1名看護師1名を1チームとしてそれぞれに対応した。緑タグも多数受け入れたが、院内の全く別の部門で対応した。
 同病院で災害発生時に行っていた予定手術は6例であるが、11時30分前後には全室被災者用に使用可能となった。被災者の最初の手術は10時45分に開始された。以後の14時間に17名に対して最大7並列で手術が行われ、264単位の輸血が使用され、うち赤血球は130単位であった。手術はダメージコントロール主体であり、術者は必ずしも外傷専門医ではなかった(→ 普段は癌などを切っている一般外科医だろう)。開頭・開胸・開腹手術は数としては多くなく、四肢切断やデブリ(壊死組織切除)がメインであった。
 病院到着後に死亡した赤タグは王立ロンドン病院で2名、他院で1名であるが、いずれも救命不可能であった。合計27名の赤タグ・黄タグのうち、事後にオーバートリアージであったと判定されたものは10名である(→ 現場のトリアージで重症にとりすぎていたのが10名という意味です)。
 4ヶ所の現場で最初のトリアージが行われたが、オーバートリアージ率が最も高かったところでは88%、最も低かったところでは27%であった。前者では救急隊や通行人(医療従事者)がトリアージを行い、後者では専門家である London-HEMS がトリアージを行った。その結果が、このような数字となったものと思われる(→ 医療資源を浪費してしまうオーバートリアージも一種のトリアージミスになります。ただし、アンダー、オーバーとも起こり得るものとして、許容範囲が数値で決められています)
 以下、オクラホマ、ブエノス・アイレス、ベイルート、9.11事件などとの比較がされていますが、これらは省略します。
 【以上、内容要約終わり】

 いやあ、さすがにランセット凄いです! このような報道を我が国のテレビや新聞に期待してはいけないのでしょうか。

 さて、この記事から読み取れることは、
(1) イギリスの大規模災害では黒タグが2枚しかつけられなかった → 53名の現場死亡者のうち、黒タグをつけたもらった人が2人だけということのようです。51名は黒タグすらつけてもらえなかったということですね。因みに英語の黒タグには morgue (死体安置所)と書いてあります
(2) 最初の赤タグの病院到着が爆発発生から1時間30分後、最後の黄タグ到着は実に4時間30分前後かかっている → 「腹部を刺されて重傷を負った30歳代の女性は57分、右胸を刺されて一時重体に陥った50歳代の男性も54分かかっていた」という秋葉原事件についての読売新聞の記事は、いささか悪意に満ちているように思います。ロンドンで1番早い人が秋葉原で1番遅い人よりも遅かったのですから。

私は、現場の人たちはよく頑張った方だと思いますよ。

(番外1) 日本のトリアージの歴史は1995年の阪神大震災の反省から始まったものと思います。私の友人の医師も震災当時、来院時心肺停止の被災者に一生懸命蘇生処置を行い、病院中の救急薬品を使い果たしてしまい、その後は丸腰状態になってしまったそうです。今なら心肺停止(=黒タグ)は後回しにして、赤タグ・黄タグの救命に全力を注ぐでしょう。

〈番外2〉 読売新聞の記事の中に 「今回の事件では発生3分後の6月8日午後0時36分ごろに最初の119番があり、7分後に1台目の救急車が現場に着いて応援を要請し、30分後には計14台の救急車が現場に到着していた」 とあります。実は、以前に似たような事件があった時、先着した救急車が事件の重大さに気づいて応援を要請しようとしたところ、「早く病院に連れて行け!」と通行人たちに詰め寄られ、応援要請どころではなかったということを消防から聞きました。その時に比べると、応援要請することができた分、通行人たちも進歩したのかもしれません。

皆様の参考になれば幸いです。
長文、失礼いたしました

by 石部金吉 (2008-10-19 11:30) 

なんちゃって救急医

>石部金吉 先生

ありがとうございます。黒タグ相当53名のうち2名にしかタグが付けられなかったというのは、重要なご指摘ですね。

爆発事件ですから、頭部離断や体幹離断などの死亡(非医療従事者からみてもどう考えても救命不可能な死亡)も相当数あったのかもしれないと思います。そういう事情で黒タグさえ、使う必要がなかっただけかもしれませんね。

いずれにせよ、秋葉原事例との比較そのものに意味をなさないことがよくわかりました。

メディアは世を混乱させる元凶ですね。猛省を期待したいものです。(期待はずれでしょうが・・・)

by なんちゃって救急医 (2008-10-19 15:10) 

ビビりの研修医

>なんちゃって救急医先生
そうですよね。やっぱりそうそうあることではないし(またそうそうあっては困るのですが。(笑)、テンプレートを作るのが難しいでしょうね。
事件発生の第一報の後、周辺の高次救急対応病院では、受け入れ準備のためにまるで戦場のような光景が繰り広げられたことだろうと思います。その時間も含めて一時間以内。立派なものじゃないのかなぁ、と思います。
こんな時は現場は混乱して当然だと思いますし、情報も錯綜することでしょうね。しかし、これでも「情報を整理し、混乱させないこともこのような場合に必要であり、今回の事件ではその点に問題があったため搬入が遅れた患者がいたと考えられる。」などと言われてしまいそうで少し悲しいです。混乱させたのはほかならぬ「5人をトラックではね、12人を刃物で切りつけた」犯人なのですが。

>石部金吉先生
はじめまして。興味深く読ませていただきました。今は外病院で研修中なので、本来の研修病院に戻った時に司書さんがおられるのを見つけたら原著を取り寄せてもらおうと思います。(もしかしたら図書室に2年前のランセットが残ってるかもですが。)
そうでしたか。「実質」黒タグ53枚の、さらにトリアージしての2枚でしたか。汚いやり方が垣間見えましたね。論文を全く読んでいないか、「どうせ視聴者は原著になんか当たらないだろう」と甘く見て、恣意的な報道をしたか、いずれかでしょう(もっとも、読んでいなかったのは私も同じなので、ここは猛反省しようと思います。)。感染症で有名な岩田健太郎先生の著書によると、メディアから取材に来られる方に原著論文を読むことを勧めると、ほとんど全員が「忙しいから」「英語は読めないから」と嫌がり、「つまるところ炭疽にキノロンは効くのですか」などという質問に固執するそうです。
ただ、放送を見た時の記憶がちょっと定かではなく(お酒も多少入ってましたので。)間違っているかも、なのですが、番組では具体的に「ロンドンの同時爆破事件」とは言ってなかったような…。ただ、これは本当に覚えていないので、はっきりしたことは言えません。ちゃんと言っていたかもしれません。

それにしてもこの論文はいろんなことを教えてくれますね。私は救急医を目指していますので、多少はJATECなどで多発外傷についても勉強はしていますが、臨床経験は全くなく、病院でどんなことが起こるのか、知りませんでした。
>以後の14時間に17名に対して最大7並列で手術が行われ、264単位>の輸血が使用され、うち赤血球は130単位であった。手術はダメージコ>ントロール主体であり、術者は必ずしも外傷専門医ではなかった(→ 普>段は癌などを切っている一般外科医だろう)。開頭・開胸・開腹手術は数>としては多くなく、四肢切断やデブリ(壊死組織切除)がメインであった。
この文章が現場の凄まじさを物語っているように思います。やはりこんな規模で一度に傷病者が発生すると、一期的に根治へ持っていくのは無理なんでしょうね。こういったことを非医療者の方にぜひとも知っていただきたいですね。

私が一番、腹立たしく、そして悲しくなる瞬間というのは、こちらのアプローチに対して、非医療者の方に、
「私たちは素人なんだから難しいことは知らないし知る必要もない。医者はプロなんだからとにかく悪い結果を出さずに、自分たちを満足させればそれでいいのだ」
と言わんばかりの態度をとられることです。
できることといえば、毅然と、しかし限度を超えない程度に受容的に接しつつ、正しい情報を発信し続けること、でしょうか。
by ビビりの研修医 (2008-10-19 17:41) 

石部金吉

ビビリの研修医先生

救急医を目指しているとのこと。是非、頑張ってください。

ウチの救急部長によれば、救急医になるために最も大切なことは、頭の良さでもなく、体力でもなく、「心」だということです。つまり患者さん・御家族からどんなキツイことを言われてもメゲないタフな心が必要なのだそうです。

さて、ランセットを読んで思うことは、王立ロンドン病院の対応です。赤タグ8名、黄タグ19名を受け入れて、最大7並列で手術を行うというのは、我々から見れば離れ業だといわざるを得ません。「この点、日本の病院はどうなっているのか?」とマスメディアに突っ込まれれば、「う~ん」と言わざるを得ません。フジテレビも読売新聞も突っ込みどころが違っているわけですね。

私は日本とイギリスの医療水準・医師のレベルは、どちらが優れていて、どちらが劣っているということもなく、それぞれに得手不得手があるのだと思います。しかし、爆弾テロや災害への対応に関していえば、かの国の方が上なのかもしれません。

彼らにできることを我々日本の医師にできないわけがなく、「赤タグ8名+黄タグ19名受け入れ、7並列手術」を達成する秘密を知りたいと思います。

※ 万一、ここを読んでいるテレビ局の方がおられたら、ロンドン取材を行って検証番組を作ってみられたらどうでしょうか? おそらく「サキヨミ」を超える素晴らしいものができると思いますよ。もちろん、番組全体のトーンとして「イギリスは素晴らしい、それに比べて日本の医療は駄目だ」ではなく、「イギリスは素晴らしい。それに習って日本の医療を育てよう」という前向きなものにする方が好感が持てることは言うまでもありません

by 石部金吉 (2008-10-20 06:38) 

なんちゃって救急医

コメンテーターの方へ。

申し訳ございませんが、このエントリーおよび

サキヨミのトリアージ批判について考える
http://case-report-by-erp.blog.so-net.ne.jp/20081007

の両者のエントリーのコメント受付を締めさせていただきました。

攻撃的なコメントばかりをしてくる一人の方に嫌気がさしたというのがその理由でございます。

ご理解のほど何卒よろしくお願いします。

by なんちゃって救急医 (2008-10-20 14:24) 

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。