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患者に物語を語らせよう [救急医療]

夜間に急な身体症状を訴え、診療所や地域の急性期病院の時間外診療を訪れる患者の多くは、救急車で救命救急センターに運ばれる患者に比べると、軽症であることが多い。その一見軽症と思える患者群の中には、実は隠れた緊急の重症患者も確実に紛れ込んでいる。非典型的な症状や非典型的な病態のために患者自身も重症とは思わず、歩いて自分で病院へやって来るのだ。そのような患者群の中から、隠れた緊急の重症患者をすばやく見つけ出すことは、救急初期診療におけるファンプレーの代表的なパターンである。


しかし、救急初期診療におけるファインプレーは、そのような隠れた緊急の重症患者を見つけ出すことだけなのであろうか?もちろん、それだけではない。そこで、本日は、いつもの地雷探しとは異なるパターンの症例を紹介してみたいと思う。

症例 76歳 女性  繰り返すめまい感とふらつき

ある日、私の当直の時間もあと少しで終わろうとしていた朝の午前7時ごろ、一人の高齢女性が、独歩で来院した。 めまい感とふらつきが主症状だ。不眠もあるようだ。少し焦燥感も漂わせていた。2日前には、同じ症状で、神経内科と耳鼻科を受診しており、特に異常は指摘されておらず、様子を見るようにとの指導を受けていた。もちろん、頭部の画像検査(CT、MRI)で、これという異常がないことも確認済みだ。

私は、患者のバイタルサインに高血圧などの異常がないことを確認のうえ、今なら他の救急患者もおらず救急外来の状況にも余裕があることだし、ゆっくりと時間をかけて患者の話を聴いてみるという方針をとることにした。

「検査で異常がなくても、体のいろんなところが調子悪くなることは良くあることですよ。少しお話を聴かせていただけますか?」

私は患者が話をしやすい雰囲気となるように意識的に会話を誘導した。

すると、出るわ、出るわ・・・・・・。 

若いときはずっと音楽大学講師をやっていたこと、最近夫と死別したこと、近くに住む子供たちと上手くいっていないこと、自分の将来が不安であること・・・・。

まあ、ざっとこんな感じで患者は語り続けた。一方、私はひたすら聞き役に回った。20分くらい経ったところであろうか、いつの間にか患者の両目に涙がいっぱい浮かんでいることに気がついた。結局、適時相槌を入れながら、30分くらい聴き続けた。ほぼ、患者が言いたいことを言い終わったと思えた時、患者は私にこう言った。

「ありがとうございます。随分と楽になりました。こんな時間にこんなにお相手をしていただきとてもうれしいです」

私は、最後に、軽いうつ状態も重なっている可能性などを含めて、私なりの病態的な考察を患者に説明し、患者を帰宅させた。

患者と医師との対立の問題を語るとき、しばしば、両者間のコミュニケーションの問題が言われる。診療において、患者の話を十分に聴き、そこから信頼関係を構築できるかどうかは、その状況に応じて、様々な因子があり、一概に語れるものではない。ただ、救急診療においては、軽視されがちな側面ではある。もちろん、救急診療の場に余裕がない場合、つまり、他の緊急性のある患者を診察中とか、待ちの患者が多くて一人当たりにかけられる診療時間に限界がある場合などは、診療の優先順位と効率という観点から十分に話を聴くという体制がとれないのはやむを得ないと考える。

しかし、ここで紹介した事例のように、救急診療の場に余裕がある場合において、患者の話を上手に聴き、患者の気持ちを癒すことができる診療というのも、一つのファインプレー診療ではなかろうか?この場合、医師側に「患者のため」という思いが強すぎても、どこかに無理が出るものである。そう思うのではなく、あくまで患者の話は自分のためになるかもしれないと思いながら、対応するのがコツだと思う。患者の話は、自分の今後の医師としての成長というか自我の持ち方というか、そんな自分の内面性の向上に役に立つのではないだろうかという認識を日頃から持っておけば、自然と患者の話に自分も入りやすいものである。そして、そのような対応が、患者の心を癒し、同時に、医師として、いや人間としての自己の内面をより豊かにしていくことにつながれば、まさに一石二鳥のファインプレーと考えることはできないだろうか。

こういう医師の姿は、今のところ報道を通して世に伝えられていることはない。


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コメント 3

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nervenarzt

まさに支持・受容・共感という精神療法の基本中の基本を実践されたのだと思います。このように診断的面接がそのまま治療的面接と不即不離となっているのが理想ですね。
こういう面接を行うと、救急の常連さんになっちゃうんじゃないの、と心配される向きもあるかもしれません。たとえそうでも二度目、三度目は時間がかからなくなることが多いようです。もう「ツボ」がわかっているようなもので、後はそこを適度に押すことで満足するものです。
二度目以降も時間がかかるようだったら… やはり精神科か心療内科でしょうね。
by nervenarzt (2010-10-21 12:46) 

なんちゃって救急医

nervenarzt 様

コメントをありがとうございます。ご指摘の通り救急外来で二度三度続く要となれば、適確な継続性のある場へつなぐ必要はありますね。
by なんちゃって救急医 (2010-10-24 09:26) 

こねこねこ

1週間たっても咳が止まらなかったので、医者に行ったのですが、普通の検査をするだけで特に見立てらしいことは何も言われませんでした
紹介状を持たされなかったので、さほど危険な病気ではないとは思いますが…やっぱり不安になってしまいますし、ちょっとだけ不信感を抱いてしまいます

by こねこねこ (2011-06-20 12:45) 

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