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田沢湖病院訴訟についての私見 [救急医療]

今回、救急医療に関するある医療裁判において、逆転判決がありました。
なぜ、逆転判決となったのか非常に気になるところです

今回の記事は次の通りです。

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2012032800980
医療ミス、一転認める=高度病院へ転送遅れた-仙台高裁支部 (2012.03.28)

秋田県仙北市で2002年、交通事故に遭った男性が死亡したのは、搬送先病院の診断ミスで高度治療が可能な病院への転送が遅くなったのが原因として、遺族が病院設置者の同市や担当医を相手に計約1億4000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、仙台高裁秋田支部は28日、請求を棄却した一審秋田地裁判決を変更し、同市と担当医に計約2500万円の支払いを命じた。
 卯木誠裁判長は、担当医は男性が腰に痛みがあると訴えていたのに、視診や触診などの必要な診察をせず骨盤骨折の発見が遅れたと認定。早期に適切な治療ができる高次医療機関に搬送する決断をすべきだったとし、適切な診断と男性の転送ができていれば救命できた可能性が高いとした。
 判決によると、60代の男性は02年6月8日午後2時半ごろ、仙北市をオートバイで走行中、普通乗用車と衝突して負傷。同市立田沢湖病院に搬送後、岩手医科大付属病院へ転送されたが、同病院に向かう救急車で心肺停止となり、到着後、骨盤骨折による出血性ショックで同日夕に死亡した。
 仙北市は「判決の内容を精査し、今後の対応を考えたい」としている。(2012/03/28-19:59)


この記事からでは、経過がどうにもわかりませんので、G-Searchという有料のデータベースを使って、過去の関連記事をさがしてきました。地裁判決が出る前に、これだけの記事を書いていました。地方紙の関心の高さがうかがえます。

この記事です。

2004.12.29 河北新報記事情報 
法廷 内と外/秋田・田沢湖病院訴訟/救急医療の態勢を問う

交通事故で会社役員男性=当時(62)=が死亡したのは、応急処置を怠り治療可能な病院に転送する判断が遅れたためとして、秋田市の遺族が田沢湖病院を運営する秋田県田沢湖町に、約1億4400万円の損害賠償を求めた訴訟が、秋田地裁で行われている。なぜ早く転送できなかったのか-。遺族の問いが救急医療現場に向けられている。
 訴えによると、男性は2002年6月8日午後2時半ごろ、田沢湖町の国道でオートバイを運転中に対向車と衝突。午後3時前後に田沢湖病院に救急搬送された後、岩手医科大高次救急センターに転送されたが骨盤骨折などの重傷で同6時55分ごろ、出血性ショックで死亡した。
 搬送時、田沢湖病院は時間外で非常勤の当直医が担当し、男性をレントゲン室に運んだ。室内からは看護師が電話で院長と、「すぐには来られないのですね」などと話す声が聞こえた。
 1時間半後、男性はCT室に移され、当直医から家族に「この病院では手に負えない」と説明があった。その後男性の容体が急変、看護師が点滴しようとしたが出血多量のため処置できなかったという。
 秋田県内では現在、24時間体制で対応する救急告示医療機関が34ある。事故などで運ばれた患者のうち、高度な治療が必要な場合は秋田市や他県の救命救急センターに転送される。県医務薬事課によると、交通事故で救急搬送されたのは03年に4078人で、うち55人が死亡、9人が転送された。
 救急告示医療機関は時間外には当直医がいるが、ほとんどは1人だ。ある自治体病院の院長は「医師確保は難しい。自分の守備範囲がしっかりでき、高度な病院との連携がうまくできるかどうかが問題」と話す。
 厚生労働省の調査によると、交通事故などによる外傷で、01年に全国の救命救急センターに運ばれ死亡した患者の約4割は、適切な治療をしていれば助けることができた可能性があるという。
 厚労省研究班班長の島崎修次杏林大医学部高度救命救急センター教授は「センター以外の医療機関も含めると避け得た外傷死はもっと増えるのでは。交通事故は多発性外傷が特徴的で、脳や骨だけを見ていては不十分」と指摘。(1)救急隊員らの教育(2)医師の教育(3)救急搬送システムの整備-などを課題に
挙げる。
 田沢湖町は「時間の認識にずれがある。相応の処置はしている」と争う構え。男性の命は救えたのか。解明の場となる法廷にはカルテや関係医師の証言、医療鑑定などの証拠が提出される。

さて、これによりますと、搬送されたのは時間外ということがわかります。そして、院長を呼び出そうとしていたことがうかがえます。つまり、誠意をもって病院での総力をあげて対応しようとしていた姿勢と考えてもよさそうです。そして、CTを撮って評価をしていることがわかります。 そこまでに1時間半経過しているわけです。 しかし、最初に点滴ラインは確保していなかったのか?という疑問も生じます。いずれにせよ、最初は自分たちの範囲で頑張ったうえでの転送判断ということだけは言えそうです。大淀病院では、CTを撮らなかったことが、あれだけ徹底的にマスコミから責められたのに、この事例では、逆転判決の記事において、こういうCTを撮るなどの患者評価のプロセスは、記者編集にてカットされ、

「担当医は男性が腰に痛みがあると訴えていたのに、視診や触診などの必要な診察をせず

という書き方にまとめてくるあたり、新聞社による医療報道は、つくづく変わらんのだな~と思います。

2008年に地裁判決が出ています。スルーせずにちゃんと敗訴判決を記事にしたのは、河北新報の姿勢を評価したいと思います。

2008.04.01 河北新報記事情報 
仙北・田沢湖病院訴訟/「転送判断適切」妻子の請求棄却/秋田地裁判決

 仙北市田沢湖病院で2002年、交通事故で搬送された会社役員男性=当時(63)=が死亡したのは、治療可能な病院に転送する判断が遅れたためだなどとして、秋田市の妻子3人が同病院を運営する仙北市と治療した医師に慰謝料など計約1億4400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、秋田地裁は31日、請求を棄却した。
 金子直史裁判長は「医師は搬送を受けた後、血圧低下に対して輸液をするなど必要な措置を取った。骨盤骨折の有無や重症度もコンピューター断層撮影(CT)検査をするまでは不明で、転送を判断した時期も適切だった」と指摘した。
 判決によると、男性は02年6月8日午後2時半ごろ、仙北市田沢湖刺巻の国道46号でオートバイを運転し対向車と正面衝突。骨盤骨折などの大けがをし、搬送先の田沢湖病院から盛岡市の救急センターに転送されたが、出血性ショックで死亡した。
 傍聴していた妻子は判決後、「納得できない。代理人と話し合って控訴を検討したい」と話した。

この地裁の判決のほうが妥当だと個人的には考えます。確かに、CTは死のトンネルとも言われ、とりゃええ~というもんでもありません。そのことは、過去の私のブログでも主張した通りです。 こちらです > CT室で失われた命

もしかしたら、今回逆転したのは、また違う鑑定医が、CTを撮るぐらいだったら、転送を優先すべきだったと主張したのかもしれません。(まったくの推測です)

しかし、私は思います。 もし、そのような根拠でもって、救急車を受けた初期医療機関に賠償を課すなら、、もう一段時間を遡って、 救急隊による病院選定に過失があったのでは? という話になりませんか? 私は積極的にそう主張したいというわけでありませんが、そういう感じ方をする初療医療機関関係者は少なくないのではないかと思います。また、そういう議論の進め方をどんどんしたら、救急医療そのものが成り立ちませんよね。裁判官には、そういう全体の社会的医療バランスの中で、判決をだしてほしかったなと思います。(そもそも裁判とはそういうことを考える必要はない! というご意見を厳しくいただきそうですが、あくまで個人的希望を込めてあえてこう主張します。)

今回の判決は、最後の砦の救命センター以外の医療機関において、「診たら負け」を強く印象付ける判決だと感じました。

残念な逆転判決です。



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虫垂炎の診断遅延と検察審査会 [救急医療]

読売の記事からです。

http://osaka.yomiuri.co.jp/e-news/20111126-OYO1T00349.htm
虫垂炎症状見逃し患者死亡 医師の不起訴「不当」…検察審議決

という見出しです。

検察が不起訴にしても、検察審査会が不起訴不当という議決を出したとのことです。まあ、起訴相当ではなかっただけでもまだましかもしれません。こういう不確実性の高い救急診療に、遺族の処罰感情を慰撫するために、刑事罰への道がある社会システムってはなはだ疑問に個人的にはおもいます。

この症例の経過をもう少し知りたくて、有料のデータベースGsearch で検索をかけてみました。産経が以下のような報道をだしていましたので、引用します。 (固有名詞部分は改変しました)記事で引用されている医師の話も当然産経の編集のもと、けっこう後知恵バイアス感の強い印象を個人的には持ちました。


大阪・XXの病院 虫垂炎見逃し?患者死亡 「風邪と誤診」遺族告訴状

 大阪府XX市のXX病院で平成18年11月、腹痛を訴え受診したXX市の男性=当時(43)=が30代の担当医に「風邪」と診断され、翌日に壊死(えし)性虫垂炎による敗血性ショックで死亡していたことが14日、病院関係者への取材で分かった。病理解剖の結果、男性は死亡の数日前から虫垂炎とみられる炎症を起こしており、医師が診察時に適切な治療をしていれば、死亡しなかった可能性が高いという。

 男性の遺族は、医師の「誤診」で死亡したとして、業務上過失致死罪でXX署に告訴状を提出。病院側は今年7月、当時の解剖結果や検体などを同署に任意提出した。同署は関係者から事情を聴くなどして慎重に捜査している。

 病院関係者や遺族によると、男性は18年11月XX日午前8時45分ごろ、激しい腹痛を訴え受診。担当した男性内科医が聴診器を使うなどして調べたが、「風邪」と診断し、風邪薬を処方して帰宅させた。

 男性は翌朝になって体調が急変。自宅で心肺停止となり、同病院に運ばれたが、午前9時半すぎに死亡した。同病院が遺体を病理解剖したところ、男性の虫垂に穴が開き、そこから漏れた細菌が腹膜に感染、血流に乗って全身に広がり、急死したことが分かった。

 死亡後、医師は男性の遺族に謝罪したが、診断書には男性が腹痛を訴えたとの記載がなかった。医師は病院側の内部調査に「診察時には腹痛を訴えていなかった」と説明。診察時の症状について医師と遺族の間で説明に食い違いもみられるという。

 ただ、専門家が当時の病理組織を検査したところ、虫垂炎の発症時期は少なくとも死亡日の数日前だったことが判明。医療関係者によると、診察時に血液検査や超音波検査などの適切な処置をしていれば、死亡しなかった可能性もあるという。

 病院側は「患者が死亡されたことは大変気の毒だが、当時の対応に問題があったかどうかは捜査機関に委ねるしかない」としている。

 同病院では平成17年2月にも、ヘルニア手術を受けた当時1歳の乳児のぼうこうを誤って切除するミスが起こっている。

                   ◇

 ■症状類似 難しい診断

 虫垂炎は、風邪ウイルスによる感染性胃腸炎などと症状がよく似ており、一般的に正確な診断が難しい疾患とされる。

 典型的な症状としては、みぞおち付近に痛みが出て、時間の経過とともに右下腹部へと移動することが多い。ありふれた疾患だが、右下腹部の痛みを伴う症状は胃腸炎など別の原因も考えられ、虫垂炎の所見を見落として治療が遅れるケースもみられるという。

 「外科医と『盲腸』」や「孤高のメス」などの著書がある阿那賀診療所(兵庫県南あわじ市)の大鐘稔彦院長は「問診や触診をきちんと行ったうえ、血液検査で白血球数を調べたり、超音波やCT検査で炎症反応や虫垂の状態などを確認すれば、そんなに見落とすことはないはず」と話す。

 ただ今回は、担当医が初診の段階で「(患者が)腹痛を訴えていなかった」と主張。遺族の証言と食い違う部分もみられ、医学的観点からの十分な検証が今後、求められる。

 大鐘院長は「初診から患者が死亡するまでの進行が早く、かなり前に発症していた可能性が高い。最近は虫垂炎の手術例が少なくなったこともあり、経験不足が不幸な結果を招いた可能性も否定できない」と話している。

 一方、死亡した男性の遺族は産経新聞の取材に「まさか虫垂炎で息子が亡くなるとは思わなかった。あのとき適切な診察をしてくれていたら、きっと助かっていたはず…」と話している。

産経新聞社

患者に物語を語らせよう [救急医療]

夜間に急な身体症状を訴え、診療所や地域の急性期病院の時間外診療を訪れる患者の多くは、救急車で救命救急センターに運ばれる患者に比べると、軽症であることが多い。その一見軽症と思える患者群の中には、実は隠れた緊急の重症患者も確実に紛れ込んでいる。非典型的な症状や非典型的な病態のために患者自身も重症とは思わず、歩いて自分で病院へやって来るのだ。そのような患者群の中から、隠れた緊急の重症患者をすばやく見つけ出すことは、救急初期診療におけるファンプレーの代表的なパターンである。


しかし、救急初期診療におけるファインプレーは、そのような隠れた緊急の重症患者を見つけ出すことだけなのであろうか?もちろん、それだけではない。そこで、本日は、いつもの地雷探しとは異なるパターンの症例を紹介してみたいと思う。

症例 76歳 女性  繰り返すめまい感とふらつき

ある日、私の当直の時間もあと少しで終わろうとしていた朝の午前7時ごろ、一人の高齢女性が、独歩で来院した。 めまい感とふらつきが主症状だ。不眠もあるようだ。少し焦燥感も漂わせていた。2日前には、同じ症状で、神経内科と耳鼻科を受診しており、特に異常は指摘されておらず、様子を見るようにとの指導を受けていた。もちろん、頭部の画像検査(CT、MRI)で、これという異常がないことも確認済みだ。

私は、患者のバイタルサインに高血圧などの異常がないことを確認のうえ、今なら他の救急患者もおらず救急外来の状況にも余裕があることだし、ゆっくりと時間をかけて患者の話を聴いてみるという方針をとることにした。

「検査で異常がなくても、体のいろんなところが調子悪くなることは良くあることですよ。少しお話を聴かせていただけますか?」

私は患者が話をしやすい雰囲気となるように意識的に会話を誘導した。

すると、出るわ、出るわ・・・・・・。 

若いときはずっと音楽大学講師をやっていたこと、最近夫と死別したこと、近くに住む子供たちと上手くいっていないこと、自分の将来が不安であること・・・・。

まあ、ざっとこんな感じで患者は語り続けた。一方、私はひたすら聞き役に回った。20分くらい経ったところであろうか、いつの間にか患者の両目に涙がいっぱい浮かんでいることに気がついた。結局、適時相槌を入れながら、30分くらい聴き続けた。ほぼ、患者が言いたいことを言い終わったと思えた時、患者は私にこう言った。

「ありがとうございます。随分と楽になりました。こんな時間にこんなにお相手をしていただきとてもうれしいです」

私は、最後に、軽いうつ状態も重なっている可能性などを含めて、私なりの病態的な考察を患者に説明し、患者を帰宅させた。

患者と医師との対立の問題を語るとき、しばしば、両者間のコミュニケーションの問題が言われる。診療において、患者の話を十分に聴き、そこから信頼関係を構築できるかどうかは、その状況に応じて、様々な因子があり、一概に語れるものではない。ただ、救急診療においては、軽視されがちな側面ではある。もちろん、救急診療の場に余裕がない場合、つまり、他の緊急性のある患者を診察中とか、待ちの患者が多くて一人当たりにかけられる診療時間に限界がある場合などは、診療の優先順位と効率という観点から十分に話を聴くという体制がとれないのはやむを得ないと考える。

しかし、ここで紹介した事例のように、救急診療の場に余裕がある場合において、患者の話を上手に聴き、患者の気持ちを癒すことができる診療というのも、一つのファインプレー診療ではなかろうか?この場合、医師側に「患者のため」という思いが強すぎても、どこかに無理が出るものである。そう思うのではなく、あくまで患者の話は自分のためになるかもしれないと思いながら、対応するのがコツだと思う。患者の話は、自分の今後の医師としての成長というか自我の持ち方というか、そんな自分の内面性の向上に役に立つのではないだろうかという認識を日頃から持っておけば、自然と患者の話に自分も入りやすいものである。そして、そのような対応が、患者の心を癒し、同時に、医師として、いや人間としての自己の内面をより豊かにしていくことにつながれば、まさに一石二鳥のファインプレーと考えることはできないだろうか。

こういう医師の姿は、今のところ報道を通して世に伝えられていることはない。


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見事な予言的中 [救急医療]

最近は、今流行のツイッターのほうで中心にネット活動をしておりますが、今日は、突然思い出したようにブログエントリーを入れてみたいと思います。今の私は、急性期医療から主軸を撤退し、ゆるやかな時間の中で人の生と死を考えることをやりやすい慢性期の医療環境にその身をおいてます。そして、非常勤で少しだけ急性期医療には関わっています。


そんな自分ですので、救急医療をメインにエントリーを継続することは無理ですが、このように気が向いたときだけ、不連続にブログエントリーを入れてみるのもよいかなと思っている次第です。テーマは、救急医療に限らず、死生観がらみの話、あるいは全く個人的な趣味での受験算数などをテーマしてみたり、時にはツイートをまとめてみたりと、要はまったく気まぐれで好きなようにやってみたいと思う次第です。

まあそれでも、ブログタイトルは、これまでの流れ上、このままにはしておきます。

というわけで、皆様よろしくお願いいたします。m( _ _ )m

では、今日のエントリーへ入ります。

症例:35歳女性 右季肋部(右側の肋骨の下あたり)の痛み

ある日の救急外来、右季肋痛を訴える患者が独歩で来院した。一瞥すると、顔色はそう悪くない、汗もかいていない、つまり、より緊急性の高いショック状態ではなさそうだ。ただ、痛みで顔が少し歪んで見えた。この患者を担当したのは、元外科医のスタッフ医師(T医師)であった。

「バイタルは?」 とT医師は看護師に尋ねた。

救急外来のスタッフ医師は、皆、最初に患者のバイタルサインに注意する習慣がついているのだ。

「血圧120/65、脈拍65、体温36.6、呼吸数24 です」 と手馴れた看護師がすかさず答えた。

「少し呼吸が速いけど、痛みのためかな?」とT医師は考えながら、次の指示を下した。
「心電図を先にとって!」

普通、35歳女性の上腹部痛において、その原因が、急性心筋梗塞であるとは考え難い。しかし、本当にもし心筋梗塞であったなら、次の手以降が時間との勝負である緊迫した診療体制に激変する。時に、心電図検査は、その重大な手がかりを与えてくれるのだ。しかも、心電図検査は、検査自体の危険性が皆無である。しいて言えば、若い女性の場合は、「腹痛なのに、なんで、胸をあらわにしなければならないの?」といらぬ誤解を与え、心情的に不愉快な思いをさせる危険性はないことはないが・・・・・・。そういう誤解を防ぐためには、ほんのちょっとした一言がとても大切だ。

救急診療は、ありとあらゆる患者が、突如やってくる場である。つまり、どんな患者が、どんな形でいつやってくるか全くわからないということを想定して、日々の対応をしなければならないのだ。そこで、その場に常駐する私達救急医は、そのような場でも、最大公約数的に効率よく、診療を進めるための方法論というものを持っている。私は、それを診療の型と呼んでいる。一件可能性が低そうな人にも、こうやって心電図検査を確認しておくのが、そのような型の一つなのである。このような型は、その診察場に関わる人たちと共有しておくことでより効果を発揮する。

ただし、心電図検査の解釈については、誤解のないように言っておかないといけないことがある。以下の通りだ。

正しい解釈
○検査で心筋梗塞に合致する異常がある ⇒ 心筋梗塞として緊急の対応とする
○検査で心筋梗塞に合致する異常がない ⇒ 心筋梗塞かどうかはとりあえず保留とし、診療を継続する

誤った解釈
×検査で心筋梗塞に合致する異常がない ⇒ 心筋梗塞ではないと断定する

注意:医療者の方々へ
ここで使用した心筋梗塞という言葉は、広い意味で使用している。つまり、非ST上昇型の心筋梗塞も含まれるということ。

心電図一つを、いつどう撮るかについても、これだけの深みをもった思考で行っているのだ。こういうところは、患者側の方々には、これまであまり伝えられていないのではないだろうか?さて、話を症例に戻そう。

患者の心電図に異常はなかった。T医師は、問診と身体診察をざっと行い、次に、腹部超音波(腹部エコー)検査、血液、尿などの検査を行った
T医師には、どんな疾患が頭の中に思い描かれていたのであろうか?

尿路結石・・・泌尿器科
子宮外妊娠・・・・産婦人科
肝周囲炎・・・・・・産婦人科
胆石・胆のう炎・・・・外科 and/or 消化器科
総胆管結石・・・・・・外科 and/or 消化器科
急性胃腸炎・・・・消化器科
急性膵炎・・・・・・消化器科
急性肝炎・・・・・・消化器科
急性胃粘膜病変・・・・消化器科
急性冠症侯群・・・・循環器科
胃潰瘍・十二指腸潰瘍・・・・消化器科
消化管穿孔・穿通・・・・・・・外科
アニサキス(寄生虫のこと)・・消化器科
胸膜肺炎・・・・・・・・・呼吸器科
糖尿病性ケトアシドーシス・・・代謝内科
機能性消化管異常・・・・・消化器科 and/or 心療内科
腎盂腎炎・・・・・・・・・・・・内科
急性虫垂炎(初期)・・・・・外科
肋骨骨折およびその他外傷・・・・整形外科 and/or 外科
うつ病・・・・・・・・・・・・・・精神科 and/or 心療内科

ざっと、こんな感じである。

T医師は、上記診察と検査に加えて、造影剤を使った腹部CT検査まで行い、その全てにおいて、痛みを説明できる明らかな所見を見出せなかった。
T医師は、これまでの診療経過で検討した主な疾患を具体的に挙げながら、それぞれの疾患の可能性はあまり高そうでないことを患者に説明した。そして、その後、ある疾患の可能性を説明して、その患者には帰宅していただいたのだった。

翌日、患者の経過は、T医師の予言どおりとなったのだ。
T医師の予言した疾患は、あえて上記のリストから、抜いておいた。

医療者の方々はT医師の予言した疾患が何だかおわかりになるだろうか? 少し考えてみていただきたい。
非医療者の方々は、救急初期診療に携わる医師は、これだけの幅をもって思考しないといけないという大変さを理解してほしい。しかも、これだけ考えても、やはり結果は、想定外であることもありえるという現実も真摯に認めていただきたいと思う。

翌日、患者の右季肋部下に帯状に皮疹が出現してきた。患者は、T医師の説明を聞いていたため、あわてることなく、皮膚科を受診し、帯状疱疹としての治療が開始された。

そう、T医師が予言していた疾患とは、帯状疱疹という皮膚科の疾患だったのだ。

この疾患は、特徴的な皮疹を認めている状況下で、痛みを伴なっている場合は、診断は比較的容易であるが、痛みのみが先行している状況下では、その原因探しを手広く構えないといけないのだ。

この診断過程における思考力の広さ、適切さというのは、医師の間でもばらつきがあるだろう。当然、それは、医師の専門性にもよっても異なるし、受けた教育環境によっても変わるだろう。患者から見れば、T医師の診療は、当たり前のように感じるかもしれないが、実は、T医師の診療は、すごいファインプレーの診療なのである。T医師の診療スタイルは、結果として疾患がどれであったとしても、緊急性の高いものから、確実に網に引っかかるような診療スタンスで行われているからである。それはとても地味で、誰の目にも見えにくいかもしれないけど、れっきとしたファインプレーの診療なのである。その地味さゆえに当然であるが、メディアも報道はしない。メディアは、その性質上、どうしても、医療に対して批判的、ネガティブな面に、報道姿勢が傾きがちである。だからこそ、私達医療者は、患者の目に見えにくい隠れた診療のファンプレーは、積極的に公開していく姿勢が大事だろうと思う。こういうことは、医師からの直接発信でないと、なかなか伝えることができないであろうから。そうすることで、多くの情報の受け取り手の人たちは、バランスのとれた医療情報に触れることができると思う。


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痙攣発作だ!!(追記) [救急医療]

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痙攣の患者は、救急外来にはたくさんやってくると思っている方も多いであろう。 確かに、そうだといえばそうなのだが、多いのは、圧倒的に、痙攣後の患者(来院時はすでに痙攣は止まっている状態)なのだ。

だから、救急外来といえども、痙攣中の患者を診ることは、稀とまでは言わないが、そう多いわけではない。

医師の中でも、まさに痙攣中の患者を見たことがある方は、世間の方が思うほど、そう多くはないのかもしれない。そんな背景から、いくら医療者といえども、痙攣を目の当たりにしたことがなければ、ついあわててしまうかもしれない。

そこで、本日は、痙攣患者の症例を2例ほど提示してみようと思う。

症例1   63歳 男性

糖尿病で当院通院中の患者。インスリンを使用している。 ある晩、全身倦怠感を主訴に、妻とともに救急外来を徒歩来院。

その日、その時間は、外来患者の数が多かった。当然、この患者も診察の順番を待つ必要があった。その間、患者は、長いすに腰掛け、壁を背もたれにして、ぼんやりと待っていた。

突然、「ガタッ!」と音がした。 隣の妻が、患者のほうを見ると・・・・・。

眼球を上転させ、四肢を小刻みに震わせ始めたのだ。

妻 「どうしたのっ!! 」 と声をかけるも 反応なし。

妻の大声に気がついた医療スタッフが、大至急患者を直近のストレッチャーに寝かせ、外来中のT医師を呼んだ。

外来中のT医師は叫んだ。
「痙攣発作だ! セルシン(痙攣をとめる注射薬の商品名)1アンプルを持ってきて!」
と。
「あっ!それと血糖をすぐに計って!」
と、的確な追加指示も忘れなかった。

血糖は、234だった。低血糖は否定された。

痙攣で、ややもすると低血糖を忘れてしまうかもしれない。その点は、お見事だ。

しかし、もう少し欲張って言えば、
さて、T医師の対応は、何か大切なことを忘れてないだろうか?

皆さん、いかがですか?

症例2  22歳 女性

近医の精神科に通院中の患者。詳細は不明だが、過去の当院のカルテには、「ボーダーライン」という記載が散見される。 彼氏と口論の後に痙攣発作を起こしたということで救急搬入。

搬送時は、すでに四肢の動きは止まっているようであるが、意識は三桁であった。

担当のK医師は、すぐに血糖を計った。 血糖は、87であった。 低血糖は否定された。

K医師は、患者の身体のある部分の動きに気がつき、こうつぶやいた。

「はあ~~ん、なるほど。多分、あれだな。 なら、大丈夫だ。」
と。

K医師は、それでも、型どおり救急外来で必要な最低限の検査へと診療を進めていった。
案の定、諸検査では異常はなく、ほどなく患者は、普通にしゃべりだした。
かかりつけ医の精神科のフォローを受けるようにと指導して患者は帰宅して行った。

さて、K医師は、患者の身体のどこをみたのでしょう? そして、あれって何のことでしょう?

症例1は、後日、関連図書を紹介いたします。
症例2は、患者の身体観察に関しては私自身の経験色が強く、関連図書をサポートできていません。また、皆様とディスカッションできればと思います。

皆様からいただいたコメントは、数がそこそこ集まった段階でまとめて公開いたします。
公開を希望されない方がおられましたら、その旨明記願います。
その旨が特に明記されていない場合は、公開の了承を得たものとさせていただきます。
よろしくお願いします。

(10月20日 記) 

(10月23日 追記)  10月23日 7:45AM これまでのコメント公開としました。(非公開希望者除く)

今回もたくさんのコメントをいただきました。 ありがとうございます。この両症例で私が伝えたいと思ったことは、しっかりと皆様方のコメントの中に含まれていました。

では、続けます。

症例1

外来中のT医師は叫んだ。
「痙攣発作だ! セルシン(痙攣をとめる注射薬の商品名)1アンプルを持ってきて!」
と。
低血糖を否定後、セルシンも用意され、まさに静脈注射をと思ったその瞬間には、すでに痙攣は止まっていた。患者の意識も回復している。

T医師は、重積にならなくてよかったと思うとともに、初発の痙攣なら、てんかん精査も兼ねて経過観察の入院かなあと思い始めていた。

とりあえず、状況がいったん落ち着いたので、T医師は、看護師にバイタルサインをとるように指示をした。
すると・・・・・

看護師 「先生! 脈拍が、脈拍が・・・・・ 30しかありません・・・」
T医師 「は? 30~~」

T医師は、あわてて自分で脈を取った。 たしかに、著しい徐脈だった・・・・・。 ここで初めて、モニタ装着しつつ、12誘導心電図を撮った。

それがこれである。
図1.jpg

完全房室ブロックだった。大至急、循環器当直医師をコールし、緊急対応を行った。電解質異常や心筋梗塞はその原因として否定的と判断された後、一時ペースメーカ挿入の処置が行われた。 さらに、後日、永久ペースメーカー植込が行われ、患者は元気に退院していった。

まあ、こんな経過です。つまり、T医師が、最初の痙攣用の動きを見たときに、

その原因が、VFを始めとする種々の不整脈疾患によるものかもしれない

ということが全く眼中になかったのでした。私が「何か大切なこと忘れてませんか」と問いかけたのは、このことなのでした。 多くのコメンテーターの方が、除細動器の速やかな準備やモニタ装着の処置のこと、つまり不整脈関連を念頭においた対応をすることを的確にご指摘くださいました。まさにその通りです。

痙攣という医学的キーワードを元に書籍を眺めた場合に、意外と不整脈関連の指摘がなされていないことが多いようには思っていました。(あくまで私の印象に過ぎない話です)
ところが、今回、このことを、実に気持ちよく、指摘している本に出会いました。紹介します。

レジデントノートにER関連の記事を多数執筆されている岩田充永先生がお書きになった本です。出版されてまだ間もない本です。

救急外来でのキケンな一言  羊土社 岩田充永著

この本でも様々な地雷症例が提示されています。 私からも皆様に是非お奨めの一品です。

さて、この本のP87に、研修医が痙攣発作?と思ったが、実はVFだったということを上級医に指摘される事例が紹介されています。 今回の症例はここをヒントに自験例(一部改変)を紹介させていただいたわけです。

なお、そこのページでは、こう結ばれています。

重篤な不整脈でも短時間の痙攣をきたすことがある

重要なご指摘だと思います。

引き続きまして、症例2です。

これは、過換気症候群と助産婦の手のご指摘が最も多かったように思います。症例提示そのものにあいまいさがありますから、この二つを今回の症例に当てはめても、それなりに合うかなあと私も皆様からのご指摘を受けて初めて思いました。

ですが、私が皆様に問いかけてみたかったのは、次の通りです。

K医師は、患者のまぶたがぴくぴくと不自然に動いているのに気がつき、こうつぶやいた。

「はあ~~ん、なるほど。多分、転換性障害(コンバージョン)※だな。 なら、大丈夫だ。」
と。(※ 古典的な言葉で言えば、ヒステリー。ただし、ヒステリーという言葉は、現在のDSM-ⅣやICD-10には含まれていない。参考サイト 転換性障害

かつての勤務先の救急病院では、コンバージョンの患者さんをたくさんたくさん診させていただきました。私自身、その環境の中で、指導医に教わったのか、先輩レジデントから語り継がれたのか、どこでどう教えてもらったのか全く記憶にないのですが、「まぶたがぴくぴくしている痙攣患者や意識障害の患者は、ヒステリーだ」みたいな刷り込みを受けているようです。

レジデントノートのどこかで、まったく同じ事を言っていた先生がいたような記憶があるのですが、それ以上を思い出せません。 ただ、今回、皆様のコメントを拝見するに、複数の方が、このことをご指摘されていますので、それなりの確かなことなのだろうなと私も今回感じた次第です。ありがとうございました。それでも、なんか気持ち悪いので、成書のどこかにきちんと書いてあるのを確認できればいいなあと思います。もし、ご存知の方があれば教えてください。


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意外な ○○(=解離)の症例 [救急医療]

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専門外の方にとっては、ちとマニアックかもしれませんが、こんな雑誌があります。私の知り合いの先生もたくさん登場する雑誌です。下記写真の号(画像をクリックするとリンク先に飛びます)は、特にお勧めの一冊です。短いプレゼンテーションでクイズ形式で、多数の地雷チックな症例も含めて、総数67症例も提示されています。 非常に楽しませていただいた一冊です。私も初めて教えていただいたことがたくさんありました。

ちなみにP417には、当ブログの書籍版(今年6月出版)の書評を載せていただいています。この雑誌をお持ちの方はついでにご覧いただければと思います。 この雑誌に提示されている症例と当ブログで紹介した症例に、当然ながらオーバーラップする部分が多分にあります。一部紹介します。

症例11・・・・ ついに麻疹患者がやってきた
症例16・・・・ 血圧が高い!という患者
症例25・・・・ 夏、皮膚科地雷にもご用心
症例34・・・・ 尿路結石?に潜む地雷(その2)
症例36・・・・ 消化管出血に潜む地雷
症例44・・・・ いけてる検査
症例46・・・・ もっとも当たりたくない地雷
症例50・・・・ 高齢者の腹痛に潜む地雷 
症例51・・・・ 悩ましい若い女性の上腹部痛
症例57・・・・ 肺塞栓症という地雷 、 医者を欺く肺塞栓

という感じです。雑誌をお持ちの方は、上記該当症例の当ブログの記事もあわせて目を通していただき、より多角的に地雷疾患学習ができればと思います。

さて、本題です。 本日はこんな症例を提示します。

56歳 男性   背部痛

ある背部痛の患者。以下の通り、何人ものDrがこの患者を診察している。

一人目のDr(開業医)
(X-1)日晩より、嘔気、下痢、発熱(37.5)にて、X日来院。整腸剤等処方。(X+2)日、嘔気下痢は改善したが、急に左希肋部から背部に抜けるような痛みが出現。(X+2)日夕方、当院を再診。 ブスコパン筋注とガスターなど処方で帰宅。膵炎(疑い)の紹介状を作成。

二人目のDr(総合病院、消化器内科医)
(X+3)日、上記紹介状をもって来院。本日普通便有り。来院時 BP157/100(左右差なし)、HR 75整、KT36.3、SpO2 98、RR 18。痛みは持続していると言うが自制内。腹部に特記すべき所見なし、背部叩打痛なし。WBC7500、CRP2.3。P- AMYを含めて他の生化学データに異常なし。ボルタレン座薬を使用したところ、症状の軽快傾向が得られた。内科的疾患は否定的と考え、整形外科を紹介。

三人目のDr(総合病院、整形外科医)
診察、背部痛は左側と診察。圧痛は無い。前後屈などで背部痛の誘発なし。診察時は、症状軽減していた。担当医のアセスメントは、詳細不明だが筋・筋膜由来の背部痛か? 対症療法で帰宅。

四人目のDr(総合病院、当直医(その日の当直医は泌尿器科医))
(X+4)日AM2時、左背部痛の増悪を認め、時間外受診。痛みは持続的、WBC9400、CRP1.7。担当医は、大動脈解離を疑い、造影CT施行。
「大動脈は大丈夫そうだな・・・、やはり、筋・筋膜性の痛みかな?」 と判断。帰宅を進めたが、患者家族の希望で、救急外来に待機、朝を待って整形外科医の再診をうける方針となった。

五人目のDr(総合病院、整形外科医(3人目の医師とはまた別))
(X+4)日朝、診察。画像的には、問題はなさそうと判断。ただ、筋・筋膜性にしては安静時での痛みが強すぎると感じた。本当に整形外科か?と疑問に感じた。

六人目のDr(総合病院、放射線科医)
夜間に撮られたCTを読影。 ■■■■の○○でないの? と実に鋭いコメントを診察中の整形外科医に報告。これで流れが変わり、緊急対応を要すと判断され、救急外来に患者が運ばれてきた。 (伏字は、漢字4文字と漢字2字)

いやあ、さすが放射線科医だなあと思いました。私も時間外にこれを一人で独影できる自信はありませんでした。そして、へええ、こんな疾患もあるんかいなと思いました。 

所見があるかないかわからないという前提と所見があるという前提とでは、圧倒的には前者の方が読影には不利ですが、今回は所見ありの前提とします。その前提で、放科の先生がするどいコメントを入れてきた所見のある部分のスライスです。

図1.jpg

さて、どんな疾患なのでしょう? ほんと病気って難しいですね。 ■■■■は名称、○○は病態です。 よろしくおねがいします。

(10月12日 記  コメント欄はまとめて後日に開放予定)

(10月13日 追記に合わせて、それまでいただいたコメントオープンにしました。)

皆様、コメントありがとうございます。今回は、かなり難しかったのではないかと思います。 

沼地先生、pulmonary先生、DM医先生、僻地外科医先生にご指摘いただきましたとおり

■■■■=腹腔動脈
○○=解離

でございます。ネット上では縮小された画像でわかりにくくて申し訳ないのですが、直の画像では、腹腔動脈にflapを認めることができました。

この患者は、放射線科医から指摘を受けた後は、救急外来でさらに腹部エコーを行いました。そしたら、腹腔動脈の血流はキープできつつ(ドップラーにて確認)、腹腔動脈内にflapを認めることができました。

患者は循環器科に入院となり、血圧管理の保存療法で後日元気に退院の運びとなっています。

今回この症例を選んだのは、腹腔動脈解離の症例が、がクイズとして上記雑誌に出されていたからです。(症例45 P491)
この症例の解説部分(P525)には、こんな記載があります。 

突然発症の激しい腹痛を考える場合、大動脈解離も鑑別の一つとして考えながら各種検査を進めるが、大動脈が正常であった場合、分枝の評価をせずに終了してしまうことはないだろうか?

まさに、本症例がその通りだったといえます。 放射線科医の的確な介入がなければ、もっとさらに多くの医師が診断に苦慮したと思われます。 

「解離は大動脈本幹だけでなく、分枝も解離することもある」

この知識を頭に入れておいて初めて、そういう読影が可能になると思います。 

まとめます。

本日の教訓

解離?と思うCT画像は、大動脈本幹だけでなく動脈分枝(腹腔動脈、上腸間膜動脈など)にも注意を払え!


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肺炎という触れ込み(続き) [救急医療]

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肺炎という触れ込みの続きです。長くなりそうなので、新エントリーとして立てました。 いつもながら、たくさんのコメントをありがとうございます。 今回提示した症例を通して、私が言いたいことズバリをコメントの中でご指摘くださっている先生がおられます。レントゲンも出さないという症例提示でありながら、すごいなあ・・・と思いました。

一般の方々に私が誤解してほしくないと思うのは、提示した症例からは、論理的に決してただひとつの答えが導きだされるわけではないということです。つまり、今回提示したものとの類似症例を100症例も集めれば、その最終診断はきわめて多様であるということです。 これは、医療の不確実性のひとつです。だから、○○○という診断結果から、時間をさかのぼって、「あのとき、×××をしていたら、わかったはずだ。だから、誤診だ。」という批判のやり方は適正ではないということを医療を受ける方々には理解してほしいと思います。もちろん、時間をさかのぼって議論するのは、次の診療に役立てるためであればいいとは思いますが・・・。

では、ある診察の診断プロセスの経過が適正な医療行為であったか否かを推し量るにはどうしたらいいのでしょうか?すでに私は個人的な提唱をしています。 このエントリーです。 
結果と考察-ネットで診療評価-

つまり、私の主張の核は、こういうことです。その部分だけここで引用します。

私は、適正、公平な診療行為の判断というのは、複数の医師がその結果をまだ知らされていない段階で行うことが重要と考えます。

さて、今回の症例からは、どれだけ医師の判断がばらつくのでしょうか? 
複数回答も含めて集計してみました。(10月4日午前8:30現在)

今回は地雷疾患があるという前提で述べてますので、そのバイアスがかかった回答群です。実際の臨床の現場では、地雷疾患でない結果に終わることのほうが圧倒的に頻度としては多いので、地雷疾患の存在を前提として言わなければ、またぜんぜん違った回答群にはなろうとは思います。そういうこともご理解の上で結果をご覧ください。

9票・・肺塞栓、消化管穿孔  
7票・・大動脈解離  
2票・・膵炎、心不全、食道破裂、異物誤飲、敗血症、化膿性脊椎炎
1票・・胸膜炎、誤嚥性肺炎、気胸、肺癌、心筋梗塞、縦隔腫瘍、気管腫瘍、腎盂腎炎、
       結核、壊死性筋膜炎、多発性リウマチ性筋痛症、感染性心内膜炎、間質性肺炎

さて、回答はこのようにばらつきました。

では、この症例はどんな経過であったのでしょうか? 続けます。

I医師:「先生~、この患者さんの胸部レントゲン・・・・・。何かおかしくないですか?」

I医師と私はレントゲンを見た。
図1.jpg

私:「肺炎はないなあ・・・。大動脈弓の石灰化と大動脈辺縁の陰の間がいやな感じだな・・・・・」
   (写真矢印部分)
I医師:「え、まさか解離? 熱発しますかあ?解離で?」
私:「それはとりあえず、いい。 解離として合う病歴がとれるかどうか聞き直して来い。」

こういうやりとりで、I医師は再び、患者の問診を行った。それがこの結果であったのである。

・・・体全体がしんどいを繰り返すばかりでいまいち的を得ない・・・・

高齢者の場合、病歴はあてにならないことは多々ある。だから、病歴をもとに考えることは早急にあきらめた。

私:「病歴は無理か。CTしかないな・・・・」

ということで、撮ったCT。
図2.jpg

なんと肺炎の触れ込みの患者の最終診断が、大動脈解離(Stanford B) だった。 
急遽、この人のために押さえておいた一般内科病棟をキャンセルし、循環器科の病棟に入院先を変更した。

患者は、他臓器虚血の合併が出現することなく、降圧中心の保存的加療で後日無事退院した。

病歴から想定しにくい大動脈解離の一例でした。

紹介状の情報のみの情報から、どんな思考が可能なのでしょうか? 検証してみましょう。

X日(金)のイベント・・・発熱・下痢がない嘔気が出現しています。よって緊急地雷疾患のすべての可能性はあります。もちろん、それ以上に軽症である疾患のほうが確率的には圧倒的に高いと思います。後知恵で見れば、おそらくこのときに解離を発症していたと思います。しかし、だからといって、その可能性だけで、高次専門病院に送るか?と言われるとこれだけの情報では送れないと思います。ただ、診療所でも、できれば12誘導心電図は撮るべきだとは思います。

X+1(土)、X+2日(日)  38度の熱発あ

X+3日(月)  SpO2(RA) 89%。

X+4日(火)  WBC12500 CRP 18.3

皆様のご指摘のとおり、SpO2の低下は、解離よりも肺塞栓を想定して行動を起こすのが現場的には妥当だと思います。今回は心エコーをちら見した程度でそれ以上、肺塞栓の除外はやりませんでしたが。

今回言いたいことは、赤線アンダーラインの所見についてです。ここだけの部分を疾患頻度のものさしで見れば、何らかの感染症がまず考えられます。しかし、地雷疾患を回避するための思考回路に、頻度のものさしだけでは考えてはいけないということがあります。つまり、地雷疾患のものさしも同時に考える必要があるということです。

この症例を地雷疾患のものさしで見るとすれば
大動脈解離という疾患に、炎症所見や発熱は合うことなのか、合わないことなのか?

という疑問に対する答えがどうなのかということが重要です。 「合う」ということになれば、赤線アンダーラインの所見を、地雷疾患のものさしで考えたときに、「もしかしたら、大動脈解離の所見かもしれない」と発想することになるからです。

今回のエントリーの目的は、この疑問に対する医学的見解を提示することにありました。

お二人の先生がコメントで次のようにご指摘くださっています。

まーしー先生のコメント

大動脈解離ですかね。
解離おこした人って、SIRS状態になっているためなのか、けっこう炎症反応が上昇したり、低酸素血症になりますよね。
胸部単純写真で縦隔の拡大が疑われたのではないでしょうか。

pulmonary先生のコメント

あとは血圧、背部痛から大動脈解離
これも少し時間が経つと発熱を伴う事が多いです。

私の言いたかったことです。すばらしいコメントをありがとうございます。

日本胸部血管外科学会のHPから記事を引用します。急性大動脈解離(病態) より引用。

全身の炎症反応(SIRS):血管の炎症反応や凝固線容系の活性化により惹起される。発熱呼吸障害を呈する。

まさに、まーしー先生のご指摘と同一です。これで、SpO2の低下も一元的に説明できそうです。

もうひとつおまけに、有名芸能人の病歴から・・・・。
http://kenkobiyodietyasiki.livedoor.biz/archives/51464032.html から改変して一部を引用。

加藤茶 さん(65歳)。

2006年秋
  仕事先の地方のホテルで。
  ・胃に刺し込むような痛み。今まで経験したことがないような、強烈な痛み。
  ・背中の痛み。(痛みが移動)
  ・肩の痛み。
  ・痛みは治まらず、一睡もできずに朝を迎えた。

  ・痛みは薄らいだが、身体がだるくなった

   ・発熱38.2度
      ─>(1週間後)熱は下がらず。 長引く風邪と思った
      ─>(発熱から半月後)熱が下がらず、病院へ。CTで心臓を検査。
      ─>大学病院へ入院。すぐに集中治療室へ。「大動脈解離」

解離発症時の症状の違いはありますが、その後の経過は、私が提示した症例とそっくりですよね。まさに、SIRSという病態で説明できそうです。

では、そろそろまとめます。

本日の教訓
発熱・炎症所見は、地雷のものさしで見れば、「大動脈解離の所見かも?」と考えることができる


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肺炎という触れ込み [救急医療]

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10月になった。これから、高齢者の肺炎の緊急入院の患者がしだいに増えていく時期に突入だ。秋から冬場の急性期病院は、そんな高齢者の入院で、日々満床状態が続くことが多い。軽症者を入院させることが物理的にできない台所事情をやりくりする医療者側と入院をとにかく希望する患者側(家族、施設職員、開業医の先生など)との間で、様々な交渉が展開される。 そんな交渉は、精神的にとても疲れることも多い・・・・。

本日は、そんな肺炎をネタにあげてみたい。まずは、以前に書いたエントリーの一部を再掲する。
肺炎といえども より。

時間外診療で、肺炎の患者さんと遭遇することは多い。元気で健康な人の肺炎から、高齢者で施設などで寝たきりの患者さんの肺炎まで、その種類は、様々だが、入院を扱う急性期病院の時間外診療の場では、まさに日常そのものだ。

通常、肺炎の診断にはそれほ難渋することはない。発熱、咳などの症状があり、胸部レントゲンでとると肺炎の影を認めれば、診断がついてしまうからだ。(もちろん、例外的な症例や微妙な症例は多数ある。)

診断がついたら次にすることは、外来加療でいくか入院加療でいくかを総合的に考えることになる。総合的に重症度を考えたり(A-DROPなど)、細菌性か非定型などを考えたり、時には特殊な肺炎を考えたり・・・・
まあ、そんなことを考えながら、大まかな方針をまず決めていくのだ。

時に、
肺結核の患者さんが混じってくることもあるのが、地雷的といえば地雷的かもしれない。そのためには、痰の検査が重要である。注意深い病歴も時にきっかけとなることもあり大事である。また、肺炎の中に肺ガンが隠れていることもありそれも要注意だ。

まあ、それでも、現在の日本において、診断のはっきりしない胸痛、腹痛、背部痛に比べると、地雷性がずいぶんと低いといえる「肺炎」という病気ではあると思う。

というわけで、このブログには、あまり肺炎ネタが登場しない。 

しかし、物事何にでも例外はある。ということで、本日の症例。

ある冬場の時期、日々高齢者の肺炎患者の紹介が立て続くなかでの紹介患者の一人である。以下のような紹介状が地域医療部のファックスに届き、それが救急外来に持ち込まれてきた。

81歳女性   

【紹介目的】 肺炎の加療のお願い

【既往歴】 高血圧、陳旧性脳梗塞、胃潰瘍

【経過・検査結果など】
X日(金) 全身倦怠感出現。体温36.5。嘔気あるも、便は正常。 当院にて診察、胸腹部に所見を認めず。 プリンペラン1A(吐き気止め)を入れた点滴で対応。気分改善を認めたため、帰宅。 (後日届いたこの日の採血にて CRP0.3 WBCの好中球↑)

X+1(土)、X+2日(日)  38度の熱発あり。 休日のため、自宅安静で様子をみていたとのこと。

X+3日(月)  再来。 SpO2(RA) 89%。身体診察にて、右の呼吸音がやや減弱。肺雑音は?。再度採血試行。

X+4日(火)  前日の採血結果、WBC12500 CRP 18.3。 データの悪化を認めるため、貴院にて加療をお願いする次第です。なお、当診療所ではX線の設備はありませんが、発熱、呼吸音および採血結果から肺炎と思われます。 貴院にて入院のうえご加療をお願いいたします。

【処方】

当院定期処方
オルメテック (10) 1T朝
アムロジン  (5) 1T朝
パナルジン (100) 1T朝
ムコスタ (100)  3T 分3
マグラックス(250) 3T 分3

臨時処方 (X+3)日~
クラビット(100) 4T 分2
カロナール(200) 2T 頓服 発熱時

「また、肺炎か・・・・。 データと年齢からは入院が必要そうだな・・・。もう、部屋を押さえておこう。」

この日の救急外来は忙しかった。 私は、こんな感じで、さっさとこの人の部屋をキープし、そのうえで、肺炎の評価として必要な外来で行うべく検査の段取りをI医師にまかせておいた。

当院来院時のバイタル BP 180/110、 HR 89、 RR 22、 KT 36.4、SpO2 (RA) 89。 意識は清明、見当識障害なし。心雑音なし。肺雑音はっきりせず。 胸部、背部、腰部は、触診すると、やたらと痛がるそぶりをするので、あまりまともな所見は取れていない。

ほどなくして、I医師から、私に報告が入った。

「先生~、この患者さんの胸部レントゲン・・・・・。何かおかしくないですか?」

はっきりとした肺炎像は無かった・・・・・。 だが、気になる所見があった・・・・・・。

I医師はそのレントゲンをふまえて、そのつもりで再度問診に行った。しかし、患者からとれた情報は、体全体がしんどいを繰り返すばかりでいまいち的を得ないままであった。問診で疾患を絞り込むことは不可能と考えざるを得なかった。

なお、12誘導心電図は、非特異的なT波の変化はあるが、過去の心電図と比べて新たな変化は無い。

ここまでの話で、皆様方は、どんな地雷疾患を想定しますか?

(10月2日 記) 

続きは新エントリーに書きました。
(10月4日 記)


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○○○○(=劇症肝炎)という地雷 [救急医療]

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当ブログでは、地雷疾患(疾患をこのように表現するブログ主の意図はこちら⇒地雷番付表)を紹介してきた。しかし、あるとき、健康だった人を突然死の淵に追いやってしまうような怖い疾患は、まだまだたくさんある。 そこで、本日は、当ブログで初見の疾患を紹介することにする。 

医療者側の立場からすれば、その疾患も、れっきとした地雷疾患の一つであると言えると思う。患者さん側の立場からすれば、元来若く健康な人であったとしても突然生死の境をさまようことになる疾患でもあるので、悪しき結果(死など)をつい医療者の不手際のせいではないかと疑心暗鬼になる気持ちもになるのも致し方ないのかもしれない。しかし、どんなに現代の最先端の医療が手をつくしても、その力及ばず、死という残念な結果を招く可能性が依然高い疾患であることには変わりない。

そんなとき、その人その家族にとってこんな気持ちがしばしばわきあがる。
「なんで私だけが・・・」
「なんであの人だけが・・・」

運命とは時に悲しいまでに非情である。

医療とは、その運命の流れに逆らおうとする人智のささやかなる抵抗に過ぎないものなのかもしれない。だからこそ、私達は、普段の日常生活の中で、その非情な運命が自分や自分の家族に向いてしまったときの心の拠りどころをどこに求めるかあらかじめ考えておくのがよいのかもしれない。

そんな非情な運命を受容し乗り切っていくための一つの方法が宗教といえるのかもしれない。

では、そろそろ本日の症例

22歳 男性  全身倦怠感。

元来健康。既往歴・家族歴に特記事項なし。4日ほど前より、咳と発熱が出現し、休日診療所を受診。感冒薬処方された。本日より、全身倦怠感が増悪、嘔気も少し出てきたため、G医院を受診(初診として)。近医受診時:意識は清明 BP108/63 HR 95整 KT36.8。 G医院の院長は、身体診察にて、はっきりと◇◇(=黄疸)を認めたことより、検査ができる施設にすぐに行くのがよいと判断。そのような経過をふまえて当院救急外来を独歩受診した。

私達も診察した。 全身倦怠感があるとは言うものの、本人は元気そうである。 そのうち、採血データが帰ってきた。 

「うあ~~~、こりゃいかん」 と私達は驚いた。

本人に絶対入院と伝えると
「え~~、それは困る。薬で何とかならんですか。」と私達に懇願。

私達は、患者の母親にも連絡をとらせてもらい、入院の必要性を説明。
私達の強い入院の勧めに、ようやくしぶしぶと本人納得し、入院。

そして、その日の夜、病棟で事態が動いた・・・・・。

深夜、巡回にきた看護師が、真っ暗な総室の中のカーテンで仕切られたベッドの一室で、わずかな薄暗い明りを頼りにベッドサイドのゴミ箱をあさっている患者を発見した。

看護師 「どうしまたか? Sさん(患者のこと)。」
Sさん  「おい、俺のパンツ知らないか?ないんだ、どこ探してもないんだ・・・」

声をかけられ振り向いたSさんは、そう答えるとまたすぐにゴミ箱を探し始めた。
看護師も一緒に探し、本人が読んでいたと思われる文庫本がTV台の脇に落ちているのを発見した。

その文庫本を見せながらSさんに看護師は語りかけた。

看護師 「これですか?」 
Sさん 「そう、それやそれや・・・・・・・」

Sさんは、にやにやとしながらそれを受け取った。そしてさらに何かをつぶやいていた。
看護師には何をつぶやいていたのかよくわからなかったという。

この辺でそろそろ止めておきます。

さて、この患者さんはどんな地雷疾患なのでしょう。
○○○○は、漢字四文字の疾患名。 ◇◇は、身体症候で漢字二文字です。

しばらくコメントは開放せずにいます。ある程度の数のコメントが頂けた時点でおいおいとコメント欄開放させていだきます。たくさんのコメントお待ちしております。

○○○○と◇◇は、後日追記アップ時に書換え予定です。

(9月19日 記)

(9月21日 以下追記)
皆様、ありがとうございました。 コメント欄 9月21日 午前9:00 開放させていただきました。

私の予想を超えたたくさんのコメントをいただきました。コメント解答をしばらく非公開にすることの効果でしょうか?比較的お答えいただきやすい症例だったからでしょうか? いずれにせよ、ありがたいことです。

さて、今回は統計はとりませんが、8割方くらいの印象でしょうか。私が想定していた次の解答を当ててくださいました。
○○○○という地雷=劇症肝炎という地雷、
◇◇という身体症候=
黄疸という身体症候


非医療者の方々もおられると思いますので、劇症肝炎とはどんな病気であるかというものの参考サイトを引いておきます。
難病情報センターより  一般の方向け  医療者の方向け

上記サイトより引用すれば、これくらい死ぬ病気ということです。 

救命率は急性型が56%、亜急性型が39%に昇っております。(原文引用)
ということは・・・・・
死亡率は急性型が44%、亜急性型が61%に昇っております。(ブログ主による原文言い換え)

つまり、劇症肝炎にかかると生きるか死ぬか五分五分ということですね。十分怖い病気でしょ・・・・・・。

提示した症例についてです。

主な初診時血液データ  
Hb 14.7 WBC 7100 PLT 10.8↓ T-Bil 13.6↑ D-Bil 9.1↑ AST 4039↑ ALT 5010↑ ALP 261 γGTP 145↑ LDH 1708↑ BUN 14 CRE 0.7 Na 140 K 3.8 Cl 100 CRP 2.5 AMY 35 NH3 51 PT(再検確認済)  15%↓

元来健康な若年成人の方が、初診でこんなデータをしていたら、皆様もさぞびっくりされるでしょう。なお、夜に精神症状(肝性昏睡Ⅱ~Ⅲ度)が出た後のNH3の値は233でした。

詳細は割愛しますが、この症例は、初感染の急性B型の劇症肝炎と診断されました。 移植も検討されましたが、幸いにもそこまでは行かずに、専門医による賢明な治療(ステロイドパルス・血漿交換・持続的血液濾過・抗ウイルス薬など)により、突然近くにやってきた死の淵を渡ることなく、自分の力と医療者の援助により、無事生還することできました。

この症例、診断という意味だけではあまり地雷的ではないかもしれませんが、それでも、風邪症状の患者を軽く見る対応ばかりをしていると、検査がないがしろになりがちです。そんなときは、劇症肝炎という地雷を踏むかもしれません。要注意です。

こんな報道覚えてますか? 劇症肝炎で亡くなった吉本の若手芸人の河本さんです。

25歳、吉本漫才師 ベイブルース 河本栄得さん 劇症肝炎で死去
1994.11.02 日刊スポーツ

上方漫才のホープ、ベイブルースの河本栄得さん(かわもと・えいとく=本名同じ)が10月31日午後4時48分、大阪市内の病院で劇症肝炎の進行による脳内出血で亡くなった。25歳の若さだった。疲労による急性肝炎と診断され10月19日から入院していた。吉本興業所属で、将来を嘱望されていた若手実力派だけに、関係者は大きなショックを受けている。河本さんは
13日ごろから風邪気味で熱があるなどと体の不調を訴えていた。しかし、テレビ番組のロケでミニ・トライアスロン(水泳200メートル、自転車5キロ、マラソン5キロ)をこなすなど休む間がなく、19日になって近くの病院に自分で出向いて診察を受けたところ、疲労による急性肝炎と診断され直ちに入院した。20日夕方にはICU(集中治療室)に移され、22日夜には意識がなくなり、こん睡状態に陥った。その後も一進一退が続き、31日になって容体が急変。母や妹など身内に見守られて息を引き取った。皮肉にも11月1日は河本さんの26回目の誕生日で、通夜の行われた大阪市内の葬祭場には女子高生を中心にファン約200人も詰め掛けた。河本さんは吉本興業所属で1988年(昭63)5月、相方の高山知浩(26)と漫才コンビのベイブルースを結成。90年(平2)にはNHK上方漫才コンテストで優秀賞、91年には上方お笑い大賞の銀賞に輝いた。心斎橋2丁目劇場での活躍で関西では女子中、高生に人気が高く、ダウンタウンを追いかける若手コンビとして期待をかけられていた。河本さんも「来年は1億円プレーヤーや」とはしゃいでいたが、それも夢になってしまった。この日会見した高山は「早う、仕事に戻ってきてくれ。そればかり思っていた。それが、あいつ、悪うなるばかりで、何年かかってもいいから、治ってほしかった」と涙を見せた。河本さんは医師から「何%かでも望みがある」と言われ、「先生、そんなに悪いんですか」と悲そうな声で聞いたこともあったという。今月19日にリリースされる初CD「夫婦きどり」がベイブルースとして最後の仕事になった。高山は「僕が頑張って売れれば、あいつは“伝説の人間”になる。今まであいつのおかげでここまで来れた。今度は僕が頑張る番」と言い切った。
★間「かわいそう」
河本さんを主演映画「ファンキー・モンキー・ティーチャー5」で起用した吉本興業の先輩、間寛平(45)は、10月31日に河本さんの悲報を聞いたという。「あいつ、見るからに健康的やないですか。かわいそうになあ」と声を湿らせた。間が河本さんに最後に会ったのが今年5月。「もうずっと映画に出てくれていて、プロデューサーと“パート6もあいつらに出てもらおうや”と話していたんです。二人ともまじめやったし、腰も低い。若いヤツの面倒見もいいしな」。1日、間は都内でボルネオ島で行われたサバイバルレース「レイド・ゴロワーズ」の完走会見に出席した。間は同レースで参加台数40台のうち15位でゴールし、日本人として初完走だった。会見中は「一円玉くらいの精神ハゲができた」など過酷なレースであることを、ユニークなエピソードで強調していたが、最後は「レースで汚い水飲んだりしてた僕らがなんともなくて、健康そうやったアイツが死んでしまうなんてな」とつぶやいていた。


漫才「ベイブルース」で人気の河本栄得さんが劇症肝炎で急死
1994.11.01 毎日新聞大阪夕刊

若手漫才師として関西の女子高生らに人気のあった「ベイブルース」の河本栄得(かわもと・えいとく)さんが十月三十一日午後四時四十八分、劇症肝炎による脳出血のため入院先の大阪市天王寺区の大阪赤十字病院で死去した。きょう一日が二十六歳の誕生日だった。葬儀・告別式は二日午後一時、喪主は母末子(すえこ)さん。河本さんは、「ダウンタウン」らが卒業した吉本総合芸能学院の出身。大阪市立桜宮高校野球部で同期生だった高山知浩さん(26)とコンビを組み、一九八八年に「ベイブルース」を結成、「心斎橋筋二丁目劇場」を中心に活躍。上方漫才大賞新人奨励賞(九○年)、上方お笑い大賞銀賞(九一年)を相次いで受賞。軽妙なやりとりで劇場ではトップクラスの人気コンビだった。今春からベテランにまじって「なんばグランド花月」や「うめだ花月」に出演。入院直前には二人で作詞したCD「夫婦きどり」をレコーディングし、将来を期待されていた矢先だった。先月十九日朝、発熱して動けなくなり入院。漫才仲間が交代で看病に詰めていたが、三十一日になって容体が急変した。

脳出血は、DICによるものでしょうか? 赤字に示した経過を見ると劇症肝炎の進行の怖さが伝わってきます。助からなかった一例として引用してみました。

こんな訴訟もあります。

「娘の死は診断ミス」 父親ら、病院と国を提訴
2003.12.11 読売新聞 中部朝刊

肝炎の治療を受けた中学生の長女(当時十四歳)が死亡したのは、受診したXXX市内の病院と転院先のXXXXX病院の診断ミスが原因として、XX市内に住む父親(39)ら遺族が、XXX市市内の病院と国を相手取り、約八千万円の損害賠償を求める訴訟をT地裁に起こした。原告側代理人によると、中学生は今年N月
十三日に肝炎を発症、翌十四日にXXX市内の病院で急性肝炎と診断され、そのまま入院した。しかし、症状が改善せず、十六日午前、XXXXX病院に転院したが、同日午後七時ごろ、溶血性尿毒症症候群で死亡した。遺族らは、中学生は急性肝炎ではなく、より進行が早い劇症肝炎だった疑いがあり、XXX市内の病院が症状や血液検査などから適切な診断をしなかったため、治療や転院処置が遅れたとしている。また、XXXXX病院は、ただちに輸血や人工透析をするべきだったとしている。XXX市内のこの病院は「訴状が届いていないのでコメントできない」としている。


長女の死亡は誤診が原因  XXXXX病院を提訴
2003.12.10 共同通信

黄疸(おうだん)の症状が出て入院した中学生の長女=当時(14)=が死亡したのは、医師らが劇症肝炎を急性肝炎と誤診したのが原因だとして、XXXX市の両親が、XXX市の「XXX病院」とXXXXX病院に対し、合わせて約八千万円の損害賠償を求める訴訟をT地裁に起こしていたことが、十日分かった。弁護士によると、長女は今年N月診察を受けたXXX病院で急性肝炎と診断されて入院。二日後に容体が悪化し、XXXXX病院小児科に転院したが、その夜多臓器不全などで死亡した。原告は、両病院の医師らが急性肝炎と誤診し、XXX病院は転院を遅らせ、XXXXX病院も早期の輸血と人工透析を怠ったとしている。XXX病院のT事務長は「訴状を見ていないので詳しいことは言えないが、医師は自信を持って適切な処置をしたと受け止めている」としており、XXXXX病院は「訴状が届いていないのでコメントできない」としている。

臨床経過は早そうですね。劇症肝炎の恐ろしさの一端をここにも垣間見ます。ですが、この報道では、妥当な医療が行われたのか否かについては論評不可能です。むしろ、見出しのつけ方と病院の実名報道により、医療の妥当性とはまったく関係のないところで、風評被害だけが先行しそうです。 この見出しのつけ方最悪だとおもいませんか?診断ミス、誤診とどうしてマスコミが確信をもてるのでしょう???  そして、報道しっぱなしの姿勢。  この裁判の結果をご存知の方はいませんでしょうか? 私の検索能力では、判決を知ることができませんでした。 有料新聞記事検索(G-search)で探しても、最高裁判所の判例検索を使っても、手元にある医療訴訟の本をあさっても、判決が見つからなかったのです。マスコミは、「提訴段階のみの報道しっぱなしで後は知らん」という態度であった可能性が高そうです。患者側の要求が認容されていればマスコミが報道した可能性が高いと仮定すれば、報道しなかったことは、原告敗訴ということではなかったのだろうか?と推定はできそうです。個人的な推定であり、確証はもてませんが。

劇症肝炎の患者さんが、最初から集中治療のできる病院を受診するわけではなく、感冒様の症状で、開業医なり、時間外診療なりを最初に受診する可能性が高いわけですから、高次医療施設への転送判断の時期が訴訟という観点からは大きなポイントになりそうです。

最後にまとめです。

本日のまとめ
まったく健康な人でも突然劇症肝炎で命を失うこともある。その生死は5分と5分といったところである。
医療機関は高次施設への転送判断がひとつのポイントなのかもしれない。

(9月21日 9:00AM 記)


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捻転した症例の紹介 [救急医療]

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???

本日は、4症例を提示する。この4症例は、ある共通した病態をもっている。本日のテーマはその病態である。この病態を視野に入れておくことは救急初期診療においてとても大切なことであると思う。では、さっそく症例。

症例1 16歳 男性 左下腹部痛  (自験例ベース)

6日前より発熱、頭痛、嘔気などあり、近医(N医院)を受診していた。昨日もN医院を受診して点滴加療をうけた。その診察の際腹部触診をうけた際に嘔気が増したとのことであったがそのまま様子を見ていた。本日、11:00AM、突然左下腹部痛の激しい痛みがあり、N医院受診。激しい痛みを訴えるため、N医院では対応不能と判断され、当院を紹介された。当院来院時、意識:清明、発熱なし、その他バイタル異常なし。腹部は平坦軟であるが、疼痛のためじっとしていられない状況。 腸音は正常。 WBC6600、CRP0.0、他異常なし。

担当したのは研修医。 なんと秒殺診断。 研修医先生、GJでした・・・・・・。

症例2  28歳 女性 正中下腹部痛 (自験例ベース)

月経困難症気味で、月経時は市販の痛み止めを常用していると言う。婦人科通院歴はなし。最終月経 開始日は10日前、5日間。本日12PMより、徐々に増悪する下腹部正中部の痛みが出現。昨晩作ったカレーのせいでは?と患者も母親もしきりに訴えている。14:20PM、救急車で当院へ搬送。 症状が出始めてすでに5回嘔吐している。下痢はない。当院来院時、意識:清明、発熱なし、その他バイタル異常なし。腹部は平坦軟。診察時は痛みは自制内。下腹部正中膀胱上部あたりに圧痛認めるが、リバウンドはない。腸音は正常。WBC6400、CRP0.2。妊娠反応は(-)。

腹部エコーで、な~るほど・・・・・という感じ。 

症例3 86歳女性 右上腹部痛   (引用症例 後日引用先明示)

前日の夜から右上腹部痛があり近医受診し,腹膜刺激症状を認め急性腹症として紹介来院した。体温:38.9℃,腹部全体に圧痛,反跳痛と筋性防御がある。 腹部CTの一部を供覧。
図4.jpg

症例4  80歳男性 上腹部痛  (引用症例 後日引用先明示)

数時間前に急激に発症した腹痛で来院した。痛みは上腹部から臍周囲に及び,嘔吐や下痢は ない。体温:37.0℃,左側腹部に圧痛と筋性防御がある.腫瘤は触れない。腹部エコー検査では特記すべき所見を認めない。腹部CTの一部を供覧
図3.jpg

4症例とも共通した病態があります。症例3と症例4は、ちとマニアックかもしれませんが、共通病態として引き合いに出すことで、皆様の記憶にとどまり、日本全国のどこかで早期診断早期治療をうけられる人がでると良いなあ~と勝手に期待しながら出させていただきました。

さて、4症例の共通病態とは何でしょう? 漢字二文字です。 エントリータイトルは追記時に書き換え予定。「○○する症例の紹介」というタイトルでしたが、「○○した症例の紹介」のほうが、より日本語として適切かと気がつき、修正しました。ちなみに症例1と症例2はマークすべき緊急疾患としては普段の診療の射程内においておきたいものです。症例3と症例4は、かなりマニアックなので症例1と症例2の共通病態をヒントに想像するといいかもしれません。
(9月13日 AM記事アップ PM21 エントリータイトル修正)

(9月15日 追記)
いつもながらたくさんのコメントをいただきました。ありがとうございます。今回私が想定した病態は、皆様のご指摘どおりの「捻転:torsion」でした。捻転した臓器はその程度によりますが、血行障害を伴いそれが時間とともに組織壊死につながりますから、捻転という病態は、救急初期診療的には、マークすべき重要な病態と言えます。だからこそ、クイズ形式で今回提示させていただいた次第です。

では、症例毎に。

症例1  精巣捻転

うちの部署をかつてローテートしてくれた研修医が、いい仕事をしてくれたケースです。10代(若年)男子、突然発症の下腹部の痛み というだけで、十分に急性陰のう症を疑い、陰部視診が必要です。 研修医の先生は、それを忠実に現場で実行してくれたからこそ、秒殺診断ができたわけです。このケースは、なまじ感冒や胃腸炎くさい先行病歴があるだけに、かえってそれに引っ張られ、陰部の診察をつい忘れがちになるところでした。泌尿器科にコンサルトして、精巣捻転の最終診断が下り、捻転整復に成功し事なきを得ました。私は、先行病歴の病態と今回の捻転の病態は、それぞれ別物の病態と解釈しています。(別病態と考えるのが適切かどうかは泌尿器科の先生のご意見をお伺いしたいところではありますが・・・)  関連エントリーです ⇒ 泌尿器科領域の地雷疾患

症例2  卵巣腫瘍茎捻転

エントリー数が多くなると、いつ何を書いてきたかだんだんわからなくなってきました・・・・・・。moto先生にご指摘いただきまして初めて気がつきました。なんや、もう書いてたやんこの症例!!と。関連エントリーです ⇒ 悩ましい若い女性の下腹部痛

エコー画像はこんなかんじでしたので、これでもう茎捻転から考えなくてはいけないと考えたわけです。
torsion.jpg


で、実際婦人科の先生の診察を経てそれが確定し緊急手術の運びとなったわけでした。

症例3と症例4は、いつも現場で愛用している急性腹症のCTの著者であります堀川先生のサイトから引用させていただきました。いつもありがとうございます。どちらも頻度はそんなに高い疾患ではありませんが、体の臓器はいろんなところが捻転するもんだなあとお感じいただければ幸いです。

症例3 胆嚢捻転

http://www.qqct.jp/seminar.php?id=935 から引用させていただきました。解説などはリンク先をご参照ください。 私は一例だけ経験があります。といっても遠い昔の話ですが・・・・。もちろん自分で診断したわけではなく、外科の先生に遊走胆嚢なる概念があり、それで捻転をおこすことがあると教えられて、当時「へえええ・・・」と感心した程度の経験です。


症例4 大網捻転

http://www.qqct.jp/seminar.php?id=920 から引用させていただきました。解説などはリンク先をご参照ください。意外な臓器も捻転するんですね。これは、知識としてその存在を知っておかないと、いくら画像を診ても診断することはできないと思います。 

というわけで
○○した症例の紹介とは捻転した症例の紹介というのが今回の答えでした。

それはそれとして、このエントリー:怖い失神(3) の教訓以下のところをご覧ください。 そこで、VINDICATE+Pの話をしています。その「T」の所にTorsionの「T」を加えてみたらどうかという私見を書いています。今回の症例提示を通して皆様にもご納得いただけましたら幸いです。いずれにせよ、救急診療における地雷疾患をはずさないためには、「捻転」という病態の認識は重要であると私は思います。 最後に余談になりますが、腸捻転という表現自体は、少し素人ちっくな香がしますが、これはれっきとした地雷 絞扼性イレウスのことに他なりません。


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救急の日:PUSHプロジェクトの紹介(追記) [救急医療]

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昨日9月9日は、救急(QQ、99)の日でした。昨年もこの日はエントリーとしてとりあげました。→救急の日 

ということで、今年も。

今年は、あるプロジェクトを紹介します。こんなプロジェクトです。→PUSHプロジェクト 

これは、京都大学の石見(いわみ)先生を中心とするプロジェクトです。先日、大阪地区ではテレビでも放送されていました。ご紹介させていだきます。

NPO大阪ライフサポート協会が中心となり、胸骨圧迫とAEDを地域に浸透させていくことを目標としたPUSH projectが本格始動しましたので、ご紹介させていただきます。

プロジェクトの目標は、短期間(2年毎)に人口の10%以上に胸骨圧迫のみの蘇生法とAEDの使用法をマスターしてもらい、院外心停止例の救命率を向上させること、合わせて命を大切にする教育を学校に普及させることです。

まずは、最初の2年間をキャンペーン第一期として、大阪をモデル地区に上記達成を目指すとともに、全国でこの活動を広めて行けたらいいなと構想(妄想)しています。大阪ウツタインで、この活動の効果の検証も合わせて行う予定です。今後も続々と、PUSH projectを普及させるためのイベントを企画していく予定です。

是非、趣旨にご賛同いただき、PUSHキャストになって、一緒に活動して下さい!!(キャストについてはHPをご覧下さい)周りの方にもPUSH projectを紹介していただき、この輪を広げていってくれたら嬉しいです。

※まずはモデル地区を大阪に設定していますが、活動対象は全国です!!

一般の方にたくさん参加してもらえることは、すばらしいことだと思います。私もこのブログを通して支援いたします。

突然の心肺停止に陥った患者の初期対応にあたる救急の現場に携わるものとしては、時々、「もっと早く・・・していれば・・・」と痛切に思うことがあります。我々は、何を「もっと早く」と感じるのでしょうか?

それは、早期の胸骨圧迫と早期の除細動です。

この二つの処置に関しては、救急車が到着する前に、偶然そこに居合わせた一般市民の方の手で早期に開始することが有用であることは、すでに多くのデータとして証明されています。それらは、2005年に発表された世界共通の蘇生の国際コンセンサスに多くの影響を与えています。

え?人工呼吸は? 

と一般の方はお感じになるかもしれませんが、世界の趨勢は、胸骨圧迫と早期除細動です。
その根拠は?と思われる方のために、こちらのサイトを引用しておきます。

では、そろそろ本日の症例です。(本日は、クイズ形式ではありません)

症例1   48歳男性  CPAOA(来院時心停止)

高血圧で近医通院中ではあるが、元気。某大手企業に勤務するやり手の部長(だったらしい)。部下と道を歩いている最中に、突然、胸を押さえそのまま倒れこんだ。びっくりした部下は、大声を出しながらあたりを見回すと、偶然すぐ目の前に医院の看板を発見。そこに駆け込み、助けを求めた。

看護師 「119をして、それまではうちで応急処置をしましょう」

と言って倒れた部長を部下と看護師2名で処置室のベッドに寝かせ、胸骨圧迫などが開始された。

(注:これは、ずいぶん前の話であり、AEDの普及はもちろんのこと医療従事者に対する蘇生教育システムも不十分の頃の話である。)

院長 「 挿管する。 用意して!」 

とすぐに気道確保の準備にとりかかった。元々外科医として長く勤務医経験のあった院長は、開業して以来久しく挿管手技とは疎遠だった・・・・・。そのせいだかどうかは?だが・・。

院長 「ん、難しいな・・・・」 

と悪戦苦闘。無理もない。患者はやや肥満体型で、首も短かったのだ。すでに救急隊は到着。119コールからすでに7分が経過していた。 

さらに3~4分が経過。

院長 「よっしゃ!入った。」
院長 「これで呼吸はOKだ。あとは救急隊よろしく!」 

そこで初めて車内収容時にモニタがつけられた。平坦な波形だった。もちろん、除細動適応ではない。

20分後、当院に到着した。約一時間近く心肺蘇生処置を懸命に行った。反応はなかった。高校1年の娘と中学2年の息子と奥さんに状況を告げ、家族3人立会いのもとで死亡確認を行った。 全身CTで突然死の原因を検索しにいったが何も所見はなかった。解剖まではなされなかったので確定診断には至っていないが、心筋梗塞による突然死が最も合理的な死亡原因だと推定した。

心室細動は発症すると、心筋は細胞内のATPを利用しながら痙攣を起こす。そのとき得られる心電図波形が不規則なこんな波形だ。 時間が経つとATPもだんだん枯渇していき、その振幅は段々小さくなり、やがて完全に枯渇してしまう。当然心筋の活動は終焉を迎える。そうなったとき、波形は平坦となる。時間にして10分程度でそうなると言われている。ここまで経過してしまうと救命の可能性は限りなく0に近い。的確な胸骨圧迫は、その平坦になるまでの時間を延長すると言われている。つまり、的確な胸骨圧迫を行うことによって、除細動による心拍再開の可能性が増すことになるのだ。だからこそ、胸骨圧迫の普及は重要なのだ。

「この患者も始めはきっと心室細動だったのだろう。挿管処置に費やす間に波形は平坦になったのだろう」
と私達は考えた。

そして、その考えからこんな気持ちが自然と生じる。
「もっと早く除細動がなされていたら・・・・・、
挿管に手間取るよりも先に除細動がなされていたら・・・」


こういう反省の気持ちは、更なる発展への糧になる。事実、多くの医療者がそういう気持ちを抱き続け、救命向上のための努力を続けてきたからこそ、今のAED(自動対外式除細動器:一般の人も使用可能な機器)の普及があるということを、一般の方は決して忘れてはならないと思う。

一方、この気持ちから、こういう方向性も自然と生じる。
「もっと早く除細動していたら助かった高度の蓋然性がある。
よって、賠償義務が発生する。」

という法のロジックだ。これも一つの考え方ではあろう。(個人的には、あまり積極的には受け容れたくない考え方であるが・・・・)

家族への感情や思いの側へ社会がぐっと歩み寄れば、法の考えに沿った立ち位置になるであろうし、医療を社会のインフラとして守らなければならないという思いへ社会がぐっと歩み寄れば、医師達がふだんから主張する医療の不確実性を配慮した考えに沿った立ち位置になるであろう。

社会がこれから、どういう立ち位置の方向に進んでいくのか? 私は、後者であってほしいと切に願う一人ではあるが・・・・。その答えの一つがこれから議論される医療事故調査委員会のあり方に出るのだろうと私は思っている。

さて、もう一度PUSHプロジェクトの話に戻ります。次の赤字の部分についての私見です。

院外心停止例の救命率を向上させること、合わせて命を大切にする教育を学校に普及させることです。

私は、このプロジェクトに直接関わっていないので、その実情はよく知りません。そのことをふまえて私なりの提言をしてみます。多くの市民が心肺蘇生に積極的に関わるこということになれば、必然的に多くの市民が死に直面するになるということを意味します。それは、いくら早期除細動がAEDや胸骨圧迫が有用だとしても、突然倒れた人に対する100%の治療ではないからです。ここにも当然ながら医療の限界があるのです。だからこそ、処置に参加した一般市民の救助者が、自責の念に駆られないですむように死への教育も極めて重要でないかと思うのです。これが生と死は表裏一体不可分な性質があるという考えに基づく私の主張です。

蘇生の講習会のときに併せて死への啓蒙もおこなうこと

これは極めて重要だと思います。 すでにプロジェクトの中にそのことが組み込まれているとしたならば、単に私の不勉強ということになります。ご存知の方がもしおられましたら、コメントなどでご指摘いただければ助かります。私が主催するICLS講習会では、ほんのちらっとではありますが、救助者自身が自責の念に駆られないですむようなメッセージを交えながら行っています。

最後に本日のまとめです。
PUSHプロジェクトを通して、院外突然死の死亡率がより低下することを期待します。当ブログはこのプロジェクトを応援します。

(9月12日 追記)

小児集中治療の先生からのコメントをいただきました。とても大事なご指摘ですので、エントリーに追記させていただきます。

成人と小児では、心停止にいたる原因背景が異なります。 前者は、心臓停止まずありき、後者は、呼吸停止まずありきが多いと言われています。従いまして、小児領域では、人工呼吸の有用性は高いといえます。

以下を追記します。

成人の心肺蘇生では、胸骨圧迫と除細動が先決だが、
一方、
小児の心肺蘇生では、やはり気道確保と呼吸が先決

 


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SAHはどれ?続き [救急医療]

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前回エントリーの続きです。 31名の方から回答をいただきました。ありがとうございまいた。
医師27名、非医療者4名の内訳でした。また、CT画像を診る日常性では、日常的14名、かつて日常的4名、非日常13名でした。

今回の解析におきましては、

4) 標準的な医療レベルという視点からみて見逃しは許されないと思う画像No。は?

の問いに答えていただいた28名について、正診率(過剰診断率)や、所見見逃し許容率などを画像別に算出してみました。

実は、私が一番注目してたのは、画像13番の結果です。 この画像の症例は、とても非典型な病歴でした。「頭痛なし、4日前の下痢、嘔吐、頚部痛のエピソード、来院日はなんとなく首が痛いので整形外科を受診しようとしたら、すでに受付時間を終えていたため、その理由のためだけに救急外来に流れてきた」という病歴です。画像的にも出血はうっすらで、見逃しという意味では超地雷的という症例と思いましたので、今回、皆様に画像を見てもらいその反応を知りたかったのです。その画像13は、見逃し許容率が50%であったという結果で、私的には非常に興味深い結果でした。

では、以下に各画像の結果を示します。 皆様のご感想などをコメントいただければ幸いです。


<SAHの患者の画像 1,4,7,8,13 の集計結果>
正診率は非常に高い結果となりました。個人的には画像13の結果に注目していましたが、なんと全員が所見をとる結果となりました。その意外な結果に画像クイズと実際の臨床現場との解離を感じました。もし、画像8、画像13の症例が、SAHの見逃し事例として医事紛争にまで発展したとき、鑑定医師の間でも画像解釈においてまっこうから意見が対立しそうな気がします。今回の見逃し許容率の結果から、私はそれを感じとったわけです。

 図1.jpg
27人の方が、SAH所見ありと読みました。正診率96%
そのうち、標準レベル医療において、この所見の見逃しを許容する方は、0人(0%)でした。





図4.jpg

26人の方が、SAH所見ありと読みました。正診率93%
そのうち、標準レベル医療において、この所見の見逃しを許容する方は、0人(0%)でした。

※脳内出血と勘違いしやすいタイプですが、前大脳動脈瘤破裂のSAH像です。

図7.jpg28人の方が、SAH所見ありと読みました。
正診率100%
そのうち、標準レベル医療において、この所見の見逃しを許容する方は、1人(4%)でした。

こんな臨床経過です⇒家族の検査希望が救った命

図8.jpg

20人の方が、SAH所見ありと読みました。正診率71%
そのうち、標準レベル医療において、この所見の見逃しを許容する方は、13人(65%)でした。

注:厳密にはSAH画像所見とするかどうか異論もあろうかと思いますが、SAHを見逃さないためにという視点にたち、ここではこれも1つの所見とさせていただきました。既出画像です⇒あなどれない頭重感
図13.jpg

28人の方が、SAH所見ありと読みました。
正診率100%
そのうち、標準レベル医療において、この所見の見逃しを許容する方は、13人(46%)でした。



<SAHではない方のCT画像 2,3,5,6,9,10,11,12,14の集計結果>
SAHがあるという前提で所見を捜しに行こうとする心理が働きますから、必然的に深読みが多くなることは容易に推定できます。これも後知恵バイアスの一種といえるでしょう。実際、過剰診断率(%)が思いのほか高い結果となっています。一方、見逃し許容に関しては、圧倒的にSAH患者の画像群と比べて、寛容的です。その寛容性こそが、深読みし過ぎているのでは?という回答者の心理を表しているように思います。小脳テント部分の白い部分を深読みされた方が多いのかな?という印象です。


図2.jpg
3人の方が、SAH所見ありと読みました。
過剰診断率11%
そのうち、標準レベル医療において、この所見の見逃しを
許容する方は、3人(100%)でした。



図3.jpg
9人の方が、SAH所見ありと読みました。
過剰診断率32%
そのうち、標準レベル医療において、この所見の見逃しを
許容する方は、9人(100%)でした。



図5.jpg
16人の方が、SAH所見ありと読みました。
過剰診断率57%
そのうち、標準レベル医療において、この所見の見逃しを
許容する方は、14人(88%)でした。



図6.jpg
2人の方が、SAH所見ありと読みました。
過剰診断率7%
そのうち、標準レベル医療において、この所見の見逃しを
許容する方は、2人(100%)でした。



図9.jpg
3人の方が、SAH所見ありと読みました。
過剰診断率11%
そのうち、標準レベル医療において、この所見の見逃しを
許容する方は、3人(100%)でした。



図10.jpg
13人の方が、SAH所見ありと読みました。
過剰診断率46%
そのうち、標準レベル医療において、この所見の見逃しを
許容する方は、11人(85%)でした。



図11.jpg
15人の方が、SAH所見ありと読みました。
過剰診断率54%
そのうち、標準レベル医療において、この所見の見逃しを
許容する方は、12人(80%)でした。



図12.jpg
2人の方が、SAH所見ありと読みました。
過剰診断率7%
そのうち、標準レベル医療において、この所見の見逃しを
許容する方は、2人(100%)でした。



図14.jpg
4人の方が、SAH所見ありと読みました。
過剰診断率14%
そのうち、標準レベル医療において、この所見の見逃しを
許容する方は、3人(75%)でした。


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くも膜下出血(SAH)はどれ? [救急医療]

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本日のエントリーは、くも膜下出血(略称:SAH)についてです。SAHは地雷疾患の一つとして、当ブログで頻出項目の一つですが、本日は、SAHの画像所見ということをテーマにしてみたいと思います。

ただ、その前に忘れてほしくないことが一点あります。

頭痛を訴え来院した時点では、頭部CT像は全く正常であるけれども、その後にSAHを発症し、急変するという臨床経過をとる症例が存在する。

ということです。 これについては、こちらのエントリーで → 警告出血。(注:警告出血という表現より、警告頭痛の表現のほうがより適切だと判断し、書籍版では、修正執筆しています。P7です。)

では、SAHの頭部CT画像所見は、どなたでも簡単にわかるものなのでしょうか?
本日は、それを検証するためのクイズを考えてみました。14枚の頭部CT画像を提示します。
こちらです。どうぞ。

CT1.jpg
CT2.jpg
CT3.jpg
CT4.jpg

さて、上記画像14枚のうち、いくつかがSAH患者のCTです。それがいくつであるかはあえて申しません。もちろん異常なしの画像も混ざっています。

以上の前提で、本日の問題です。

問題 SAHとして診断可能な所見のある画像番号をすべてお答え下さい。

頭部CTを普段診ない方も、非医療職の方も、私的にはどしどし気軽に参加してほしいなと思います。回答が、回答者のバックグラウンドによってどう変わるもんかなあ?と興味があるからです。


コメントは承認制です。コメントは、数がある程度集まってきた頃を見計らって、そのときにまとめて公開予定する予定です。

以下をコピペの上、コメント投稿にご利用ください。
各選択肢は、ご自分に合わせて、適宜修正し、無関係部分は削除してご利用ください。

9月5日 12:10 pm追記   

31人の方からご回答いただきました。ありがとうございます。公開Okの方のコメントを表示します。 これをもちまして、当エントリーのコメント受付は終了とさせていただいます。

皆様のご回答をふまえたエントリーは新エントリーとして次に立てる予定です。


1)SAH所見のある画像No.は?
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14

2)お立場をお教えください。
医師(専門○○○)、医師以外の医療職(○○○)、非医療職

3)頭部CT画像を診ることは日常的ですか?あるいはかつて日常的でしたか?
日常的です、日常的だったことがあります、日常的だったことはありません

4) 標準的な医療レベルという視点からみて見逃しは許されないと思う画像No。は?
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14

5)このご回答をコメントとしてブログ上に公開してもいいですか
       はい・いいえ

6) フリーコメント(何かあればでけっこうです)


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ただの腸炎のはずが?(3) [救急医療]

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???

若い女性の腹痛は、現場で悩まされることが多いものだ。だからこそ、このブログでも、多くの事例をとりあげてきた。関連エントリーを提示しておく。

悩ましい若い女性の上腹部痛

本当に腸炎でいいですか?

たかが盲腸、されど盲腸

ただの腸炎のはずが?(2)

上記エントリーでは、症例の各論的知見以外として、診断過程における「医療の不確実性」の問題や「後知恵バイアス」という人間の認知の問題も併せて指摘してきた。いわば、これらは、救急初期診診療における「診療に対する信頼」の阻害要因と言えよう。この阻害要因の存在を、一般の方々に認識してもらうことは、お互いの信頼形成の第一歩だと思う。ある一般の方が、ある診療を「医師の誤診」と考え、その原因を医師の単純な能力不足のみにあると考え、他の要因は考えなかった故に、医師一般を全く信頼出来なくなってしまうという弊害を少しでも少なくするためにも、そんな阻害要因の存在を一般に方々にも認識していただくことは意義深いことだと思う。

大多数の現場の医師は、そんな「診療に対する信頼」の阻害要因に対抗すべく、日々、患者のために診療に努力を払っているものである。そんな姿もしっかり届けることで、医師への信頼感を高めてくれればというのが、ささやかながらのブログ主の思いでもある。

本日は、そんな現場の一端を、症例提示という形でお届けします。 一般の方々には、A医師とT医師の患者さんに真摯に向き合う雰囲気を感じ取っていただければと思います。救急診療に携わる先生方には、例によってクイズ形式としました。よろしければ、お付き合いください。

症例 24歳 女性  心窩部から腹部全体への痛み

生来健康。既往歴に特記事項なし。開腹手術歴なし。最終月経は一週間前で特にいつもと変わったことはなかった。 X日午前1時頃、心窩部の痛みがあり一度嘔吐した。痛みは、突然というわけでなく、波がある感じであるという。腹痛は、心窩部から臍周囲にも広がってきている感じがある。下痢(-)。最終排便、(X-1)日、20時ごろ、普通便。

X日午前6時に来院。当直のA医師が対応した。

バイタル BP 116/65 HR 70整 RR<20 KT 36.9。 腹部は、平坦軟。 心窩部から臍周囲にかけて軽い圧痛はあるが、腹膜刺激症状ははっきりとしない。他、身体所見で特記すべきことはない。

A医師は、時間外とは言え、やはり急性虫垂炎が気になったので、採血、検尿、レントゲン、自分で行う腹エコーなどで検査をすることにした。

その検査結果は次の通り。 

採血 WBC 12000 CRP 0.2。 レントゲンでは、胸腹部に異常ガス(-)。検尿 妊娠反応(-)、潜血(-)、蛋白(-)、糖(-)。 エコーでは、少量の腹水?、明らかな婦人科疾患を思わせるmass様エコー像認めず、腸管ガス多く回盲部の観察不良、胆嚢異常なし、腎臓異常なし。

A医師は、すっきりしなかったので、CT(単純)を撮った。 こんな感じである。 (一枚スライスでごめんなさい・・・・・)
図1.jpg

CT情報も含めて、A医師は、懸念していた急性虫垂炎はなさそうだと感じた。次に、A医師は、当直の産婦人科の先生にお願いして、婦人科的診察を行ってもらった。結果、婦人科的には問題ありませんとのことであった。

ただ、患者さんは、腹部の症状も残っているようなので、そのまま、日勤の医師へと引き継ぐ方針となった。

朝8時に引き継いだ医師は、T医師である。 申し送りを聞きながら、A医師と一緒にCTを見た。

「う~ん・・・、あまり燃えてないかな・・・、」とT医師。
「腫大した虫垂は見えないので、やっぱり腸炎ということでいいっすかねえ?・・・・」とA医師。

画像で腑に落ちなかったT医師は、患者さんのお腹をすぐに触りに行った。 確かに、マックバーネーの圧痛点の痛みははっきりしない。ただ、臍下部正中の下腹部にやや強い圧痛があることが少し気になった。

これをふまえて、T医師は、ある病態をイメージし、つぶやいた。
「もし、○○部の○○炎ならば、話が合うかも・・・・・」

T医師は、ある画像検査を追加した。 そして、診断がついた。つぶやきどおりだった・・・。

さて、T医師は、何を考え、どんな画像検査をしたのしょうか?

一般に、私達医療者は、この紹介した事例の様に、あれこれ悩みながら、患者さんの診療を進めていくものなのです。検査結果というものは、我々に簡単に全てを教えてくれるとは限らないのです。少しずつ、いろんな情報のピースを集め、それを考えつなぎ合わせ、ジグソーパズルを完成させるかのように、診療行為は進んでいくのです。その難しさとそれに立ち向かう医師達の姿を感じていただければ幸いです。

(8月28日 記)

皆様、コメントありがとうございます。 とりあえず、続けてみます。

これをふまえて、T医師は、ある病態をイメージし、つぶやいた。
「もし、骨盤部の虫垂炎ならば、話が合うかも・・・・・」

T医師は、A医師が撮った単純CT画像を見ながら、A医師にこう言った。

「A先生、この患者さんの回盲部はずいぶんと骨盤内よりだよ。しかも、回腸末端部が周囲の腸管と一塊となってわかりにくいし、そのせいもあって、正常虫垂像がよくわからいよ。CTで虫垂炎を否定するときは、確実に正常虫垂を画像で捕まえられたとき行うのが無難だよ。「腫大した虫垂が見えない(わからない)≠虫垂炎を否定できる」だよ。造影CTを撮れば、腸管と虫垂を識別できるかもしれないから、今から、造影CT検査を追加するよ。」

こうして、引継ぎを終えたT医師は、患者さんに、虫垂炎という病気は時に診断が難しい場合もあるということを説明して、造影CT検査の承諾を得た。

その造影CTの結果である。先に提示した単純CTとほぼ同じ高さのスライス部分の提示である。
図2.jpg
比較用に単純CTを併記
図1.jpg

T医師が行った造影CTによって、骨盤内に落ち込んだ回盲部から、骨盤正中部にかけて伸びる腫大した虫垂が同定された。単純CTでは、壁の造影効果がないため、周囲の腸管とは区別がつかなったのだ。

(注意:実際の診断は、パソコン上でのデジタル画像の連続スライスを見ながらの慎重に虫垂の走行を同定したうえでの画像診断です。ここに提示した画像一枚だけで診断がわかるというわけではありません。)

T医師は、外科医にコンサルトし、患者さんは、その日のうちに手術された。数日後、患者さんは、合併症なく経過良好にて、元気に退院していった。

A医師とT医師の見事な連携によって、患者は、今後発症したであろう虫垂穿孔→膿瘍形成の合併症を回避することが出来たのだ。腹部症状が残存していることを気にしてすぐに帰宅させずに引き継いだA医師の臨床判断、造影CTを追加するというT医師の臨床判断、こんなナイスジャッジの連携が患者を早期診断早期治療に導くことが出来たのだ。

医療行為におけるファインプレーとは、往々にしてさりげないものなのだ。こういうさりげなファインプレーに報道がもっと興味をもってくれたら、医師への社会的信頼はもっと高まろうものになあと勝手に私は思う。

いかがでしたでしょうか?

最近、この症例や他医からの紹介事例も含めて、単純CTの結果をもって虫垂炎を否定的に考えていたにもかかわらず、最終診断は虫垂炎であった事例を立て続けに経験したので、エントリーネタとしてみた次第です。私の事例はいずれも骨盤内虫垂炎の事例でした。そんなわけで、骨盤内の虫垂炎は、診断に難渋することが多く注意が必要と考える次第です。

急性腹症の早期診断 監訳 小関一英 P61から一部引用しておきます。

骨盤部の虫垂穿孔は最も見落とされやすく、腹部疾患の中でも最も危険な病態の1つであるが、その理由は以下の通りである。虫垂が穿孔せずに緊満している場合は、虫垂の腫脹と蠕動性の収縮による疼痛は明確で激しく、主に心窩部と臍部に感じられる。穿孔が起こると心窩部の疼痛は軽減し、骨盤の右側面や骨盤腔底部の腹側に限局した骨盤腹膜炎が起こる。この場合は、通常、下腹部の筋硬直は伴わない。虫垂の腫脹による痛みは治まり、骨盤腹膜炎による疼痛はしばしば非常に軽度である。患者は、病状が改善したようにみえることもある。

骨盤部虫垂炎は、穿孔前の診断も難しいし、穿孔後もなお別の難しさがあるということですね。 骨盤部虫垂炎・・・けっこうな地雷かもしれません。

まとめます。

本日の教訓
虫垂炎 その否定は慎重に。骨盤部虫垂炎がその一例

(8月30日 追記)


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怖い失神(4) [救急医療]

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本日は、怖い失神シリーズ第4弾として、症例を提示する。

参考までに過去のエントリーを挙げておく。

怖い失神(1)
怖い失神(2)
怖い失神(3)

救急初期診療において失神を主訴にやってくる患者は多い。 しかし、その多くは軽症だ。いわゆる神経調節性失神(Nerally mediated syncope NMS)のたぐいのものだ。

かといって、失神の患者を浅い評価で、NMSにしてしまうと、ある一定の確率で確実に地雷をふむことにもなろう。

現場においては、失神患者の評価にあたり、軽症でいいのか? いや、そうではないのか? という実際的な判断(地雷回避のための臨床判断)を下すのは、とても高度な知的判断作業だ。それでも、その判断は、所詮確率に準じたものにすぎない。だから、常に事後の立場の人間からみれば、その診療が誤診と思えてしまうことがありえるわけだ。(後知恵バイアスという認知のバイアスの影響が大きい。) これが、臨床医学における医療の不確実性の一例である。

ある診療行為を誤診と責めたい人は、必ずこの医療の不確実性のことを自分なりに考え理解したうえで、自分がどうするかを自問自答してほしい。

では、本日の症例提示。 症例は、あるテキストからの引用(後日明示予定)。一部改変しての提示。

63歳、男性  失神

既往歴、家族歴 特記事項なし

現病歴
タクシーを洗車中に、急に嘔気をともない、意識消失。 同僚が119コール。救急隊到着時、意識は清明、血圧95/68、脈拍60で不規則、SpO2(ルーム)84。 酸素投与開始され、当院へ救急搬送。 救急外来到着時、意識清明、血圧112/52、脈拍64 整、SpO2(10L酸素) 97。 心雑音なく、肺音も正常。12誘導心電図を示す。
図1.jpg

担当医は、この心電図をみてつぶやいた。
「aVRのST上昇だ! 広範囲のST低下もあるし・・・・、これは最悪かも」

つまり、担当医は、左主幹部(LMT)が関係した急性心筋梗塞かもしれない!と判断したわけだ。
(参考エントリー:地雷の中の地雷

速攻、緊急カテーテルチームに召集がかかった。

来院して、わずか10分の出来事である。 まだ、採血データの結果は出揃っておらず(ただし低血糖は除外済み)、胸部X線、心エコーなどは施行されていない。

カテーテルチームに、この時点でこの速さで召集をかけること自体は、ファインプレーだと思いますが、これから先、地雷回避のために、チーム医療の中で、どんなことを考えますか?

(8月13日 記)

(8月15日 追記)
皆様、コメントありがとうございます。今回はかなり意見が多様であったようです。それは、それだけ今回の疾患が、診断困難な疾患という傍証でもあるのでしょう。それでも、もと救急医様、purmonary様、下っ端外科医様に「大動脈解離」の可能性をご指摘していただきました。今回の症例はまさにその通りだったものです。 しかしながら、SAHを指摘するご意見も多数ありました。低血圧気味という点が若干合わないのかもしれませんが、その路線を思い浮かべることも、地雷回避という点においては、極めて重要だと私も思います。 (参考エントリー:心電図変化に潜む地雷 )


今回の症例は、、胸痛診療のコツと落とし穴 中山書店 総編集 野々木 宏 先生 のP139 「急性冠症候群と思い原因疾患を見落とした症例」 という箇所から提示させていただきました。こうやって書きながら、この症例から私も勉強させていただいています。ありがとうございます。

さて、続き。

担当医より呼ばれた循環器医師達は、心電図を見て、すぐにエコーを始めた。

「LMTにしては、心機能が良過ぎるような気がする・・・・・」
「ん、・・・ Aoが何か変だぞ??? これはフラップかも。」

エコーをした循環器医師は、すぐに胸写を確認した。これである。
図2.jpg

縦隔が拡大している・・・・。循環器チームは、直ちに決断した。

「カテの前に造影CTだ!」

ビンゴだった。 造影CTでは、心のう液の貯留は認めないが、偽腔開存型のDeBakeyⅠ型急性大動脈解離であった。

直ちに、心臓外科へのコンタクトがなされ、緊急手術の運びとなった。手術準備中に状態が急速に悪化し、手術時には、血性心のう液(+)で、心タンポナーデの状態であった。 手術所見は、フラップによって左主幹部冠状動脈を塞ぐような形態の大動脈解離であった。

間一髪の臨床判断である。 見事なチームプレーである。 もし、AMIのみを考えて緊急カテーテルに進んでいたら、間違いなくカテ台の上で急死していたであろう症例である。

いかがでしょうか?以上が、テキストの症例を描写的に私が改変しながら提示したお話でした。

以下、私見です。

この症例のように、急性大動脈解離という疾患は、様々な顔で、我々医療者の前に立ちはだかる。この難敵を早期に見つける第一歩は、まさに、「もしかしたら解離かもしれない」という疾患を「想起する」という心構えだろうと思う。

もちろん、この心構えは、なんでもかんでも即CTという行動様式を意味するわけではない。「想起」と「CTという行動」の間には、それなりに考慮する要因がいくつもあるのだ。まさに、そこの考慮のあり様が腕の見せ所なのかもしれない。 

AMI治療は、時間との戦いのニュアンスが強いチーム医療である。だからこそ、AMIに似てAMIではない地雷疾患(大動脈解離、肺塞栓、くも膜下出血)の除外は、AMI治療の段取りを進める中で、同時進行で行わなくてはならないという難しさが救急の現場にはあるのだ。 

AMI患者が来院するといろんなことが同時進行でばたばたと進んでいく。それをチームで手分けして行うのだ。家族説明、カテ室の手配、患者急変への備えなどなど。そんなチーム医療の中で、AMI以外の地雷疾患疾患の可能性について考察する人が一人は必要なのだろうと思う。AMIという切羽詰った臨床状況の中でも、地雷を踏み抜かないためには、チーム医療でないとなかなか難しいだろうと私が思う所以である。

AMIと心電図で診断が付いた後は、つい急ぐが故に、心エコーやレントゲン、採血(特に腎機能)などのチェックがおろそかになりがちだ。まして、一人ですべてをやっていれば・・・・・。私自身の失敗談を告白すると、カテを急ぐ余り、心エコーをはっしょってカテ室に走ったが故に、AMIによる心破裂(woozing type)に続発した心タンポナーデの状態を見逃してしまった痛い経験がある。 チームで事を進めることによって、より正確な臨床判断が可能になると思う。

まとめます。

本日の教訓
AMI? もしかしたら、他の地雷かも? 
チーム医療で地雷を回避しよう!


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アナフィラキシー? [救急医療]

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??

救急外来で、遭遇する緊急疾患のひとつにアナフィラキシーというものがある。これは、即時型アレルギー反応の一種で、じんましん、呼吸困難、腹痛、嘔吐、下痢、および血圧低下を伴うショック状態などの症状を呈する。一般の方向けの参考サイト→こちらスズメバチに刺された直後から症状が出始めた、抗生物質の点滴を始めたら、症状が出始めたなどで救急外来に患者がやってくることはそう珍しいことではない。

典型例としては、ハチに刺されたなどのきっかけが病歴としてはっきりとしており、その直後より、全身真っ赤で、低血圧で呼吸困難を訴えて来院といったところであろうか。こういった場合は、直ちに大量輸液、アドレナリン筋注、ステロイド静注、H1およびH2受容体拮抗薬静注などと粛々と初期治療を行っていくわけだが、喉頭浮腫の進行、つまり気道確保を脅かす最悪の事態には、常に厳重な監視をしておく必要もある。

幸いにも、自分の経験上では、多くの場合は、この初期治療に患者が反応し、来院して1時間もすれば、バイタルも安定し患者も楽になっていることが多い。

そんなアナフィラキシーであるが、え?と思うパターンはないのであろうか? 本日は、そんな症例を提示してみたい。今回の症例は、自験例ではなく、ある雑誌に報告された事例をもとに一部脚色を加えたものである。引用先は、後日明示することとする。

症例 32歳男性   アナフィラキシーショックの対応依頼

ある民間企業内診療所より、受け入れ要請の連絡が入った。 「32歳男性、アナフィラキシーショックの男性です。昼食後より、気分不良とめまい、および全身紅班著明で、血圧70台です!」 との要請。その患者が救急車で来院した。 患者はこんな感じであった。 
図1.jpg
(引用先:後日明記します → 8月6日 追記欄参照)

アナフィラキシーショックと考え、直ちに型どおりの初期治療を開始した。 「 いまいち、アドレナリンの反応が悪いな? 血圧があまり上がらない?」 そこで、アドレナリンの持続点滴静注が始まり、患者は集中治療室へ入院となった。そして、程なく、また同じ診療所から、対応依頼の連絡が入った。「先生、今度は重症蕁麻疹の23歳女性です!」と。 「え、また?」と担当医は何か変じゃねえと思い始めた・・・・・。 ちなみに、社員食堂、今日の昼の定食は・・・・・だったとのこと。(あえて抜きました。)

さて、いったい何が起きているのでしょう?

(8月2日 記。  次回更新は、都合により8月6日以降になります。 コメント掲載もそれ以降になりますことご了解ください。)

(8月6日 追記)

たくさんのコメントをありがとうございます。 簡単ですが、続きです。

担当医は、二人に聞いた。「昼何を食べましたか?」
二人は答えた。「昼の定食です。」
担当医は、定食のメニューを尋ねた。
二人は答えた。「カジキマグロの照り焼きです。」

これで、担当医は、ヒスタミン中毒を最も強く疑った。

結局、その後も、患者搬送が続き、軽症者も含めて、合計13名の患者が搬送されてきた。いずれの患者も、翌日までには、症状は消失し、後遺症なく退院となった。後日、中毒量のヒスタミンが食材中に含有されていたことが確認され,今回の事例はヒスタミン中毒であったということが××県健康局より正式発表された。

いかがでしたしょうか?
この症例は、ヒスタミン中毒の症例でした。すでに、多くのコメンテーターの方がご指摘してくださったように、一見、アレルギーのように見えるけれども食中毒なのです。

今回、写真も含めて引用させていただいた論文は、「カジキマグロの照焼きによる集団ヒスタミン中毒」 日本救急医学会雑誌、 2004;15:636-40 です。日本救急医学会会員の方は、ネット上で閲覧することができます。この論文をもとに、一部脚色して症例提示させていただきした。この論文で私自身も勉強させていただきました。発表者の先生方に御礼申し上げます。

なお、最初に運ばれてた重症例の患者に関する考察としては、論文中で、次のような推論がありました。

今回はおおむね血清中ヒスタミン濃度の高い患者ほど,より強い症状を来しており,ヒスタミン中毒の重症度はヒスタミン摂取量に依存するものと思われた。

アドレナリンに対する反応が悪いような低血症例が、ヒスタミン中毒では起こりえるということを、この論文は報告してくれているとも言えるわけです。

この論文から一部引用。

Mackerel (サバ)、Tuna(マグロ)、Saury(サンマ)、Bonito(カツオ)などこれらヒスタミン中毒魚といわれている魚は新鮮であっても,室温で 4 時間放置すると魚のヒスタミン濃度は50mg/100g 相当になることが報告されており,さらに保存温度が20℃以上であると,ヒスタミン生成の反応が急速に進行するといわれている。また注目すべきは,ヒスタミンは熱で分解されず,加熱調理による中毒発生リスクの減少は望めないため,ヒスタミン中毒の予防は漁獲直後より調理直前に至るまでの一貫した適切な冷蔵に尽きるとされる点である。即ち,漁獲・輸送・流通のどの過程であっても,不適切な温度管理によって一度ヒスタミンが生成されてしまうと,その食材はその後の品質管理・調理の方法に関わらず,ヒスタミン中毒の原因になってしまう。また,原因菌とされる菌も冷凍過程では死滅しないため,解凍時や解凍後の取り扱い次第では食材中のヒスタミン含有量が急激に増加する危険があるといわれている。

ということです。この時期気をつけないといけないですね。 過去にもヒスタミン中毒の事例はいくつか報道されていました。

ブリの切り身で、23人が中毒--横浜 /神奈川
1996.09.29 地方版/神奈川 (全320字) 
 横浜市緑区のスーパーマーケット「ビッグヨーサン十日市場店」(本田洋二社長)が販売した
ブリの切り身が原因で、23人がヒスタミン中毒にかかっていたことが分かり、同市衛生局は28日、同店を営業禁止処分にした。9人が病院で手当てを受けたが、いずれも軽症という。患者のうち17人は切り身が使われた仕出し弁当を食べたことが原因のため、弁当を販売した「望月商店」(同市旭区、望月勇社長)も同日から営業を自粛している。ヒスタミンは、鮮度の落ちた魚に発生する化学物質で、じんましんのような発しん、腹痛、下痢などの食中毒症状を引き起こす。同局の調べによると、このスーパーは21日にブリ140匹を仕入れて切り身にし、26日までに5~6切れ1パックで販売していた。毎日新聞社
社員24人がヒスタミン中毒  大阪市の製薬会社
1999.01.29 共同通信 (全434字) 
 大阪市に二十九日までに入った連絡によると、同市中央区にある製薬会社の社員食堂で二十八日昼に定食を食べた社員二十四人が、胸や腹のじんましんや顔に赤みがさすなど化学物質ヒスタミンによる食中毒症状を訴えた。全員症状は軽く回復に向かっているという。市は焼いた状態で残っていた
マグロを検査した結果、ヒスタミンを検出。定食を提供した給食業者「友愛産業」(本社中央区道修町)が同製薬会社の社員食堂で営業することを三十日から二日間停止した。社員食堂は二十八日の夕食から営業を自粛している。ヒスタミンは、背の青い赤身の魚などのタンパク質に含まれるヒスチジンと呼ばれるアミノ酸がプロテウス菌などの微生物によって分解されて生成される化学物質。ヒスタミンによる食中毒は、一九九四年から九六年までの三年間で、全国で計九件の発生例がある。共同通信社
国体県選手ら食中毒 サッカー関係3人 静岡のホテル  きょう試合
2003.09.13 朝刊 30頁 社2 (全393字) 
 静岡県で十三日開幕する第五十八回国民体育大会(わかふじ国体)に出場予定のサッカー成年男子本県代表の選手ら四人が十二日、湿疹(しっしん)や頭痛などの症状を訴え、食中毒と診断された。同日のホテルの朝食が原因とみられる。静岡県健康福祉部によると、四人のうち本県の患者は二十三歳と二十四歳の選手二人と二十三歳の女性マネジャーの計三人。全員が快方に向かっており、選手の試合出場に支障はないという。十二日に朝食に出された
サバのみりん漬けを食べたことによるヒスタミン中毒とみられる。ヒスタミン中毒はマグロやサバなど赤身の魚が多く、食材を室温で放置するとヒスタミン生成菌が増殖し発生。加熱調理しても予防できないという。成年男子チームの福富和平治総監督は「試合には支障がないと思うが、直前の調整ができなかったのは痛い」と話している。 同チームは十三日の一回戦で大阪代表と対戦する。高知新聞社

また、日常診療のピットフォールを回避せよ 日本医事新報社 P4には、ヒスタミン中毒は食物アレルギーと誤診されやすいとして、警鐘を鳴らしています。

まとめます。

本日の教訓
ヒスタミン中毒の診断には、魚摂取の問診が大きなきっかけとなる


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絞扼性イレウスという地雷 [救急医療]

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腹痛という主訴は、時間外診療や救急診療において、その頻度の多さという面において、確実にベスト5に入る主訴である。そんな腹痛患者に潜む地雷として、今回は、絞扼性イレウスについて紹介する。これは、大動脈瘤破裂など即死するほどの短時間ではないものの、腸管の血行障害のために、放置すれば数日で確実に死に至る病である。

イレウスの管理の難しさは、イレウスという診断ではない。

その難しさは、絞扼しているイレウス(=外科の緊急対応を絶対的に要するもの)か、絞扼していないイレウス(=内科的保存的加療でしのぐことができるもの)を適時判断していく管理面にある。理想を言えば、開腹経験豊かな外科医が初めから慎重に観察できれば良いのだが、いかんせん、臨床の現場はそう甘くはない。 

救急外来を訪れる腹痛の患者の絶対数は、圧倒的に多いのだ。 しかし、ほとんどがウイルス性腸炎などの軽症の部類だ。当然、その軽症患者の初期対応は、主として内科の医師が行うわけだ。その絶対多数の腹痛患者のうち、イレウス患者もそれなりに含まれるわけだ。だが、そのイレウス患者だけを母数としてみた場合、そこから、緊急開腹を要するイレウス患者のほうが、少数派なのだ。だから、イレウスという診断だけで、最初から外科医にすべてをお任せできない医療施設は相当に多いのではないかと思う。イレウス患者を最初に内科系の医師が診る場合、いつどのタイミングで外科に相談すべきなのかを判断するのは一筋縄でないということは、多くの人に知っておいてほしい救急の現場事情である。

イレウスの画像をネット上で勉強するとすれば、堀川先生のサイトが最も勉強になるだろう。http://www.qqct.jp/seminar_answer.php?id=732より引用する。絞扼か否かの鑑別点についての記載を紹介する。

絞扼性イレウスの診断におけるそれぞれの所見の感受性,特異性はさまざまであるが,特に,信頼性の高い有用な所見として,腸管壁の造影不良あるいは欠如,不整な”beak sign”,多量の腹水,腸間膜動静脈の位置逆転像,腸間膜濃度上昇および鬱血像が挙げられている.

確かに、今の我々の現場でも、腹水のあるイレウス患者は、いつも「やばいなあ・・」という雰囲気が発生する。ただ、腸管の染まり方や拡張腸管の走行のイメージなど、何例みても、そのたびによくわからない・・・・と悩むのが今の私の日常である。 だから、いくら勉強しても、いくら勉強しても、結局、一例、一例は、いつも冷や汗ものだ。自験例を告白する。

80代 男性  腹痛。開腹手術歴なし。
とある病院で、私が内科病棟当直をしていたときのこと。 ちょうど病院の体制が、外科の常勤医が不足し、内科サイドもその不足を協力していこうというお触れがでたばかりであった。午前0時を回ったころ、救急外来から、イレウスの患者の入院要請が私になされた。「ほんとは外科なんだろうけどなあ~、まあ、医局会の話もあったしなあ・・・」という気持ちで、この患者を診察した。こんな感じのX線をみると、我々医師は、とりあえず「イレウス」という確定診断を下す。私がみた患者の腹部X線もそんな感じ だった。さて、問題はこれからだ。これが絞扼しているかどうか、この判断がものすごく悩ましいことが多いのだ。そして、次にCTを撮った。そう、絞扼かどうかを判別するためだ。で、私は見た。悩んだ・・・・。悩んだ挙句、深夜ではあったが、外科の当直医にも救急外来に来てもらって、一緒に画像をみてもらい、一緒に患者の腹を触ってもらった。その結果は、「腸管の血流はOKのようだ。ごめん・・・内科で頼むよ、まずは。」との外科当直医からコメントをいただいた。そうして、その患者を内科で入院させた。夜が明け、朝のカンファで、消化器内科の先生がその患者の受け持ちに決まった。ところが、昼前に外科転科となり緊急手術になった。なんと、私と当直外科医が見たCT像を、放射線科の部長が朝に読影して、絞扼性イレウスの画像診断を下したのだ。放科部長は、腸管の染まり方ではなくて、腸間膜の造影効果から絞扼と判断したとのこと。かなり専門性の高い読影だった。その鶴の一声で、転科が決まり、緊急手術となった。部長の的確な読影のおかげで患者は緊急手術を受けることができたが、それでも患者は死亡した。おそるべし絞扼性イレウスである。

こんな現場体験をしているものにとって、下記裁判なんかは、まさに、明日はわが身の心境である。

損賠訴訟:○○大病院に4600万円 △△地裁、誤診認定 /XX
2006.06.01 地方版/XX 27頁 (全411字) 
○○大医学部付属□□病院(XX区)の医師が誤診し緊急手術を怠ったため死亡したとして、都内の男性(当時69)の遺族が○○大(XX区)に約5200万円の賠償を求めた訴訟で、△△地裁は31日、約4600万円の支払いを命じた。K裁判長は「遅くとも入院の翌朝には手術をすべきだった。誤診と死亡には因果関係がある」と述べた。判決によると、男性は200X年N月X日夜、腹痛を訴え、3カ月前に胃がん手術を受けた同病院に入院。
術後にかかりやすい単純性腸閉そくと診断され鎮痛剤を投与されたが治まらず、翌日夜に死亡した。解剖で死因は、血行障害を伴う複雑性腸閉そくと分かった。K判長は、鎮痛剤が効かないことや(X+1)日に2度も血圧が急低下するショック症状になったことなどを「単純性では説明できない」と指摘。1度目のショック症状が出た(X+1)日朝の時点で「複雑性」と診断し、ただちに開腹手術をすれば男性は助かったと判断した
【高倉友彰】毎日新聞社

この報道の症例は、実際の判決文を、最高裁のHPから、閲覧することが出来る。→判決文

裁判官が認定した臨床経過を経時的に書いてみる。

X日 16:00頃
心窩部痛が出現。徐々に増悪。自制不能へ。
19:35
腹痛を主訴に、救急車で来院。
20:46
ソセゴン投与。 筋性防御、ブルンベルグなし。Xpでは、明らかな二ボー像なく、CTでは、SMAに異常はなく、腹水認めず。拡張小腸は認めるが、腸管血流は保持されている。(診察医の読影)
22:30
サブイレウスの診断の元、外科入院。体温36.3。血圧170/88。WBC10000、CRP1.0。腸音良好。筋性防御、ブルンベルグなし。
23:00
腹痛の増悪。自制不可。
 
X+1日 3:00
便秘の訴えと著明な発汗。レシカルボン座薬の指示。
4:30
腹痛の増悪。自制不可。浣腸の指示。 ソセゴン投与。
7:30
尿意の訴えあるも、排尿なし。
8:10
血圧80/52。冷や汗あり。腹痛持続。意識は清明。
8:15
血液ガス検査 PH 7.239 PCO2 21.4 PO2 119.5 HCO3 8.9 BE -16.3。過換気と診断。
8:30
CVラインを確保し、プレドパの点滴が開始。血圧92/60。
9:00
血圧90/54。腹痛の訴えあり。激しい体動あり。
9:13
腹部X線検査。
9:30
血圧209/160。 プレドパ投与中止。心窩部、左右側腹部の圧痛あり。KT37度後半。腹部やや膨満しやや硬い。腸音弱め、筋性防御はっきりせず。ブルンベルグなし。
10:00
体動激しく、不明言動も出現。
10:30
血圧(触診) 92  様子観察の指示あり。
10:55
残胃病変の可能性を考え、胃内視鏡施行。結果、残胃炎の所見を認めた。血圧 89/41。
11:00
血圧105/50。体動激しく落ち着かない。
11:20
ベッドから立ち上がる行動あり。尿道バルーンがはずれる→再固定。
13:30
胃管の挿入。100mlの暗赤血性排液あり。
13:45
急激に意識レベル低下。心肺停止状態となった。直ちに蘇生処置。心拍再開する。
20:45
再度心肺停止。
21:50
死亡確認。

K裁判官の判断もわからなくないはないですが、早期に手術できたとしても、救命できたかどうかは、誰にもわかりません。現行の法の過失認定のロジックは、医療が介入する前のすでに病気で死に行く運命にあるという隠れた前提が、考慮されなさ杉と感じるのは私だけでしょうか?

まとめます。

本日の教訓
救急の現場では、絞扼性イレウスか否かの臨床判断はとても重要。
しかし、とても難しい臨床判断。

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DESC法ってご存知ですか? [救急医療]

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社会の中で暮らす以上、人との関わりを避けて通るわけにはいきません。そんな人の関わりの中で、相手の対応を不愉快に感じてしまうこと、相手を不愉快にさせてしまうことなどの経験は、多かれ少なかれ、誰でも経験することだと思います。人間関係の中における小さな摩擦です。

そして、こういう摩擦を、なんとなく自分の性格のせいにしてしまってる人もいるもけっこう多いかもしれません。

「俺って、引っ込み思案だから・・・・・」
「私って、怒りっぽいのようねええ・・・だから、つい・・・」

などと。

本日は、そんな摩擦を軽減させるべく、ひとつのコミュニケーションの「型」を紹介してみようと思う。DESC法という「型」です。もしかしたら、こういう知識は、医師よりも看護師のほうに普及しているのかもしれないですね。というのは、次に示すネタ本が「ナースのため」というタイトルだから。

ネタ本は、ナースのためのアサーション 平木典子・沢崎達夫・野末聖香 編著 金子書房 です。 アサーションと呼ばれるコミュニケーションテクニックを看護師の現場に即した形で、紹介してある本です。看護師だけでなく医師が読んでもためになるかとは個人的に思います。この本の中で、DESC法が紹介されています。P88より引用してみます。

DESC(デスク)法は、問題解決をするための話し合いをアサーティブにするための方法です。D・E・S・Cの順番にセリフをつくっていくことで問題解決に役立つアサーティブなセリフを準備することが可能になります。このセリフづくりは以下のの3つステップから成り立っています。まず最初は、必要な問題要素を明確化することです。ここで問題としてとりあげたい事柄は何か、そのことについて自分はどのように思って(感じて)いるか、そのことについてどのようにしてほしいのか、その結果相手から返ってくる反応を予測し、そのための準備をどうするかといったことです。次にこうした点について、何を伝えたいのか選択し、それを言語化しようとすることです。そして三つめに、実際のセリフづくりとなります。DESCは、それぞれセリフづくりの手順を示す単語の頭文字です。

では、それぞれの頭文字を説明します。

D:describe 描写する
E:express, explain, empathize
??? 表現する、説明する、共感する
S:specify 特定の提案をする
C:choose 選択する

となっています。

D:describe 描写する について

状況や相手の行動など、今問題になっている場面に関する事実を的確に言語化します。 この際、相手の推量や自分の推量が混じらないように気をつける必要があります。 話し合いの前提となる状況(当然両者の間で納得できるものにかぎる)を整理するわけです。


あなたの腕が未熟だったので誤診された ・・・・・・相手の推量
「私の腕が未熟だったので誤診された」とあなたは発言している・・・・・・事実

E:express, explain, empathize
??? 表現する、説明する、共感する 
について

ここでは、自分の気持ちを表明したり、自分なりの説明をしたり、相手への共感を送ったりします。 大事なポイントは、I メッセージであり、you メッセージとならないことです。

○ 私は、あなたが間違っていると思います。( I メッセージ) 
× あなたはまちがってますね。(you メッセージ)

S:specify 特定の提案をする

ここで、相手にしてほしいことや変えてほしいことなどを伝えます。これはあくまで提案であるので、「~していただけませんか?」という形で言語化します。 「あなたが・・・・・すべきだ」などといってしまうのは、you メッセージとなり好ましくありません。 ここでの提案は、すぐ実現できる具体性のある小さな要求であることがひとつのポイントです。

C:choose 選択する

この記憶術が良いと私が個人的に感じるのは、この「C」があるということです。Sで提案したことに対して、相手は、イエスかノーのどちらかの対応をしてくるわけです。そこで、Cでは、それぞれの場合に、次に自分が打つ手を想定しておくわけです。 イエスだったら、「ありがとう」と気持ちを表明するのも良しですし、ノーだったら、「わかっていただけなくて残念です」と交渉を打ち切るのも良しですし、「では、****だったらどうでしょう」と新たな代替案を提示するのも良しです。つまり、このCを事前に考えておくことで、相手に拒否されたらどうしよう・・・とかいった自らの不安を乗り越えようというわけです。 このCを自分で考えたうえでの相手の拒否の場合は、想定外の拒否に比べるとずいぶんと心的負荷が少ないと私は自己の経験からは感じます。

本日は、DESC法を紹介してみました。 最後に、実践例をひとつ。

救急車で搬入された患者が、救急外来で怒っています。 「俺は、救急車で来たんだぞ!いつまでまた待たすのだ!」と大きな声で怒鳴り始め、ただなならぬ雰囲気が救急外来に広がり始めたところです。 騒ぎ出したところで、この患者には今待ってもらうしかないと私は考えています。そうして、この患者のベッドサイドのところへいき交渉を始めました。

私 「○○さんは、来院して只今3時間45分経っています。(D) 
????? ずいぶんとお怒りのようですね。(D)」

患者 「おい、いつまで待たすのや。 はっきりできんのか! 俺はいらいらしてるんや」

私 「ずいぶんといらいらされているのですね、そうですね。もう4時間ですものね、そのお気持ちはごもっともです。(Empathy)  あなたの診察は、すでに終了しているのですが、あいにく入院病棟のベッドが空くまで、ここでしばらく待機することになりますと、説明していたと思いますが、今現在もその状況に変わりはないのです。(Explain) あまり、大きな声をだされますと、他の患者さんはもちろんのこと、私たちスタッフもいい気持ちがしないのです。(Express)  私たちは、救急外来でたくさんの患者さんを同時にかつ一生懸命診療しています。決して私達の怠慢であなたをお待たせしているわけではないのです。(Explain)

私 「とにかく今すぐ、病棟にもう一度連絡を取り、上がる時間の見通しの再確認をしてみます。 大きな声を出さずに、静かにお待ちいただけないでしょうか?(S)

患者 「 知るか!そんなもん! とにかく早くしろ!!」

私 「わかっていただけなくて残念です。(express) 他の患者さんの診療中ですので失礼します。」と交渉打ち切り(C)。その後、事務スタッフを呼んでこのクレームの対応をお願いすることにした。(C)

結局、患者にはわかってもらえなかったが、少なくとも自分の言いたいことは言えたような気がしました。やはり、私は、Cで、相手に拒否された場合は、事務方へ連絡すると事前に心に決めていたことが大きかったと思います。 

こんな場合、一方的に患者に謝るのは、私はおかしいと思います。だから、謝りませんでした。 かといって、大声をだしている患者に何も言えないというのも癪にさわります。 だから、私は、たんたんとDESCの型にのせて、相手と向き合ったまでです。

もちろん、救急外来には、もっと危険な患者がいる場合があります。例えば、凶器をちらつかすなど。 だから、DESC法を使う以前の状況がある得ることもおかねばなりません。あくまでこれは蛇足ですが。もちろん、速攻警察ですよね・・・・。


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入院依頼の紹介患者 [救急医療]

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急性期病院で、仕事をしていると、近くの開業医の先生方から、入院させてください」という形で依頼を受けることも多い。

一方、救急初期診療の仕事は、主に「的確なdisposition」を決定することである。

dispositionとは? diposition=気質・体質・配置・処分・売却 という和訳が辞書にはあるが、直訳ではどれもいまひとつピンと来ない

救急初期診療の現場で使う「diposition」とは、次のような意味である。日本救急医学会のHPから転記する。http://www.jaam.jp/er/er/er_faq.html#erfaq06

ERドクターが行う救急初期診療とは、診断・初期治療advanced triage(disposition)をさします。ちなみに、advanced triage(disposition)とは、救急患者の方向性のことで、具体的には、帰宅させるのか入院させるのか、入院させるのならどの科にどの時点で話を持っていくかの判断のことです。

不的確なdisposition を出来るだけ減らし、的確なdipositionを出来るだけ増やすことは、患者側と病院側の双方にメリットがある。そこに、私の存在意義があるのだろうと思っている。

「入院させてください」という紹介は、dispositionを紹介元が初めから決定してくれていることになる。ならば、そのような患者に対して、救急初療の必要性は不要という具合になろう。 

なので、「入院依頼」の患者の場合は、私達の「診断思考」もつい停止傾向になる。 そこに落とし穴が潜んでいる場合もある。

いくつか実例を挙げてみよう

症例1  89歳女性  
大腿骨頚部骨折(確定済み)で、整形外科開業医から、整形外科へ入院依頼

症例2  90歳女性  
元来、ADLは自立。一人ぐらし。この一ヶ月で食欲が低下。ADLも落ち、清潔感が明らかになくなっている。この患者の初診をした内科開業医から、栄養調整目的で内科入院依頼

症例3  75歳男性  
肝硬変で近医フォロー中の患者。この二週間で意欲と食欲が低下。この患者のかかりつけ医である内科開業医から、肝硬変に対する対症療法目的で消化器科入院依頼

実際は、3症例とも、同じある専門科で対応しないといけないものだったのだ。

つまり、「入院依頼ですね。はいはい、わかりました。どうぞ!」というウェルカムスタンスだと、結局、入院を指定された科が、後になって地雷を踏まされるという可能性もあるわけだ。

この3症例のうち、一例は、残念ながら、救急外来という関所をスルーして、入院後に大変なことになってしまった。 二例に関しては、その関所でなんとか方向修正に成功している。

この3例に共通する「ある専門科」とは何科のことでしょう? 

(6月21日 記 :コメント承認制です)

(6月22日 追記)
たくさんのコメントありがとうございます。あえていろんな可能性までお示しくださり、ありがとうございました。こちらも勉強になります。では、続けます。

3例に共通する「ある専門科」とは、脳外科のことでした。 各症例の疾患です。症例1:急性硬膜下血腫、症例2,3:慢性硬膜下血腫です。

急性硬膜下血腫の頭部CT画像はこんな感じです。 ⇒あなどれない頭部打撲
慢性硬膜下血腫の頭部CT画像はこんな感じです。 ⇒こちら

症例1は、整形外科病棟で、意識レベルが低下し、急変しました。 急変後にCTを撮って、初めて急性硬膜下血腫とわかったわけです。紹介元の整形外科医も、ファーストタッチをした救急初療医も、病棟担当の整形外科医も、誰一人、骨折受傷時の状況をきちんととっていなかったのです。かといって、きちんととっていたからといって、急変する前に急性硬膜下血腫の診断ができたどうかは誰にもわかりません。急変した後から時間をさかのぼって考えるときは、誰しも後知恵バイアスがかかりますから。 それでも、受傷時の状況を誰一人として押さえていなかったこと事態は反省に値すると思います。

私が、患者さんまたは関係者(家族や目撃者など)から受傷機転に関する問診をする時、よく言うことがあります。

「私は、今お話を聞きながら、頭の中で一生懸命、絵を書いています。」「私に絵が思い浮かぶような情報を下さい」

受傷機転をきちんと押さえておくことは、適切なdispositionを決める第一歩だと私は思うからです。

この患者さんは、脳外科治療が優先され、落ち着いてから整形外科に転科となって、なんとか両者の治療に成功しています。

症例2は、私1人で対応した事例でした。

身体所見、胸腹部レントゲン、心電図、採血などでは、大きな所見はありませんでした。詳しい病歴を聞いても、なかなかピンと来ませんでした。そうするうちに、私の中では、「認知症かなあ?」などの思いがよぎり始めました。 救急診療の大原則は、「先ずは器質的疾患から」です。それに忠実に従うために、まだやっていなかった検査として頭部CTを思いつきました。それで、慢性硬膜下血腫とわかったわけです。 つまり、引き算診療という「診療の型」のおかげで無事診断にたどり着き、内科入院ではなく、脳外科紹介という形で舵を切り替えることが出来ました。

症例3は、私たちの診察の最初から、慢性硬膜血腫が射程内にありましたから、診断には苦労しませんでした。 診断が付いた後、電話で紹介元の先生に速報でお知らせしたら、「ああ~~!!、そうでしたかあ!気がつきませんでした。」と妙に感謝されました。

慢性硬膜下血腫は、時間的な経過からすれば、地雷的なものではありませんが、CTを撮りさえすれば直ぐ診断できてしまうだけに、後でわかればわかるほど、前医の立場が、見逃しという目で見られがちになってしまいます。

まとめます。 低血糖はすでに除外済みという前提での教訓です。

本日の教訓
高齢者の何か変? もうそれだけで、慢性硬膜下血腫を想起しよう

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あなどれないめまい [救急医療]

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本日は、岡山で開催されたプライマリケア学会に参加してきました。 生坂先生の講演、徳永進先生の講演などを拝聴してまいりました。これです。

■特別講演 6月15日(日)9:00~10:20 第1会場(3Fコンベンションホール)
演題:「外来診断学-その教育と問題点-」
座長:岡山大学病院総合診療内科教授    小出 典男

演者:千葉大学医学部附属病院総合診療部教授    生坂 政臣
■記念講演 6月15日(日)10:30~11:50 第1会場(3Fコンベンションホール)
演題:「かかりつけ医の症例バザール」

座長:第31回日本プライマリ・ケア学会副会頭    小谷 秀成

演者:野の花診療所院長    徳永  進

それぞれ大変興味深いお話でしたが、ここでは、そのご講演内容の報告ではなく、あくまで症例提示です。
生坂先生のお話の中から出たものを1例、ずいぶん昔の自分の体験例ベースの症例を1例提示します。

症例1 43歳女性 めまい

N月X日、短時間の動悸を感じた。X+1日昼、電話中、目線を上げた瞬間、思考力が無くなるようなめまいを感じた。10分ほどで消失。その後、後頚部の張りが残ったが、翌日には完全に良くなった。N月X+4日、千葉大学総合診療部の外来を受診。既往歴 なし(かかりつけ医なし)

症例2 56歳男性 めまい

N月X日、仕事中に突然めまいを感じた。発汗もともなった。 一瞬、しゃべりくいような自覚もあったという。頭痛や胸痛はない。 会社の同僚が119コールして当院へ搬送された。 脈不整あり。既往歴 なし(かかりつけ医なし)

症例1と症例2は、それぞれ異なる疾患です。

さて、それぞれどんな地雷の可能性を想定しますか?
特に、細かいデータは提示しません(というかありませんでした・・・症例1では)ので、確定云々とういより、ワーストシナリオをどう想定するかということになりましょうか。

(続きは後日  6月15日 記  ※コメント承認制に変更しています)

(6月17日 追記)

皆様、コメントありがとうございます。さっそく、それぞれの症例の続きに入ります。

(症例1)

もし、この症例で、目に付くキーワード 「動悸」「めまい」を中心に考えると、ついパニック発作などを考えてしまうかもしれません。生坂先生は、そういう危険性を次のように指摘されました。

言語化の遮断効果:言語化により言語化されにくい情報が処理されなくなる。

この症例で言語化されにくい情報はどこにあるのでしょうか?次の二点でしょうか。

・思考力がなくなるようなめまい
・症状が完全にもおさまっているにも関わらずいきなり大学病院を受診する強い受療動機

ぶっちゃけていえば、何か変?という感覚です。
たしかに、私もよくわかります。 私は、現場ではこの非言語的な感覚をオーラとか言っています。

こうした何か変という感覚をもって、今一度病歴を眺めなおすと、

突然発症の症状+後頚部のはり

というのが、ワーストシナリオに結び付けて考えることができるかもしれません。

この症例は、CTではっきりとわかるくも膜下出血(SAH)だったのです。 生坂先生は、どんな原因によるSAHかについては言及なされませんでしたが、この症例は、椎骨脳底動脈解離にともなうSAHだったのでしょうか? とすれば、めまいも合うような気がしますが? 脳外科医の先生の専門的なご意見をお伺いしてみたいものです。

ただ、この病歴でSAHの診断に到達できなかった場合に、「すぐにCTさえ撮れば、簡単に診断できたはずだ」と診療の批判するのは、酷な症例だと私は思います。

この症例のように、SAHの診断は、大変困難場合があるということを強調しておきます。そして、この症例は、そういう困難な症例を、見事に千葉大学総合診療部が的確に診断しえたものだと評価するのが妥当だと思います。まさに、「診断力」の勝利だといえると思います。

一般の方々に誤解されたくないのではっきりといいます。この診断レベルはものすごく高いです。だからこそ、我々が勉強させていただく価値があるのです。だからこそ、生坂先生は学会で講演を依頼されるわけです。 この診断が、世の標準レベルと思ってもらったら困ります。その点はよろしくお願いします。

生坂先生の本で、お勧めの本があります。
めざせ!外来診療の達人―外来カンファレンスで学ぶ診断推論  第2版

この本は、生坂先生のすばらしい診断プロセスの思考過程を読み物形式で通読することができます。 

さて、次は症例2です。

これは、症例1と類似したケースを出したくて、自験例からの提示です。 すでに皆様のコメントにありますとおり、私たちも、心房細動(AF)+脳梗塞の病態を最も想定しました。 そこで、AFを確認するために来院最初に12誘導心電図を当然のように撮るわけです。

ところが!ところが!ところが!

AFだけでなく、なんとST上昇型心筋梗塞(STEMI)の所見も呈していたのです。 これには、正直驚きました。STEMIは全くノーマークでした。その心電図を見た後なので、我々は、胸痛などの心筋梗塞関連の諸症状を積極的に問診にいくわけですが、その問診にヒットしたのは発汗くらいでした。

結局この患者さんは、循環器科入院になりました。ただ、脳梗塞様の症状があったこととバイタルや自覚症状が安定していたことにより、循環器スタッフが十分な検討の末、まずは、侵襲的なこと(冠動脈造影検査のこと)をせずに点滴加療のみで様子をみることから始める方針となったのです。 翌日にCPKが1200でマックス、AFは洞調律になりました。後日の頭部MRIと待機で行った冠動脈造影検査は、ともに異常なしでした。

以上のことから、あくまで推定病態の域には留まらざるを得ないのですが

発作性心房細動+同時塞栓症状(一過性脳虚血発作+心筋梗塞)

と考えました。

絶対に問診では、わからないSTEMIがあるよということを伝えたくて、この症例を挙げてみました。

どうでしょう? 
2症例ともめまいの触れ込みで救急外来に関わらず、それぞれ全く異なる代表的な地雷疾患であったわけです。

めまいもあなどれないですね・・・・・

「めまい=耳鼻科疾患」という発想では、いつの日か地雷を踏んでしまうことでしょう。 

めまい症例に遭遇したら、全例CTとECGというわけでは決してありませんが、何かオーラを感じる場合は積極的にできる検査をやっておいた方がいいかもしれませんね。とにかく、何年やっても救急外来は恐ろしいところです。

非言語的感覚(オーラ)を体得していくのは、日々現場で患者と接する他は無いのかもしれませんね。

まとめます。

本日の教訓
めまいといえども恐ろしい地雷疾患の場合もある

 


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