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救急外来でのある看護師の涙 [救急医療]

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今日紹介するのは、ある救急病院のある日の一こまです。医師会員制の某サイト内に紹介されたものです。本日は、その一部をここに紹介し、救急医療というものを皆様一人ひとりが考えてくだされば幸いです。

ストレッチャーを病院じゅうからかき集め、救急初療室はもちろん、観察室も人が通れないほどの患者様で埋め尽くされました。

方々から赤ん坊の泣き叫ぶ声、お年寄りのうめき声が聞こえ、誰かが看護師・医師を呼べば、また次が呼ぶということが繰り返され、そのたびに仕事が中断し、医師も看護師も病院職員も、食事を摂る間もなく朝から夜まで一生懸命働き続けました。

まるで大災害の後のような光景でした。

本当にみんなよくやったと思います。
こんな状況でも決して救急要請を断ることなく、急患の受付も断らなかったのですから。

でも、とても悲しいことが何回もありました。

それは、病棟になかなか上がれないこと、結果の説明が遅れていること、診察が遅れていることに腹を立てられた多くの患者やその家族から、何度も医師や看護師に対する苦情があったことです。

激昂され収まりがつかない患者・家族の場合、その対応に私が呼ばれました。
私は、謝罪した上で、「大変多くの患者様が来院されており、重症の患者様から順番に診させて頂いているのでご理解下さい」と誠心誠意お話ししました。
ですが、何人かの方から私達の心が折れてしまいそうな辛い言葉を浴びせられました。

「それなら何で受け入れたの?無責任じゃない。対応できないとわかっていて何で前もって言わないの?」と。

確かに患者様とそのご家族の立場に立てばその通りでしょう病気のつらさ故、肉親の急変に動揺したが故のキツイ言葉だったのかも知れません。
でも、あまりにつらい言葉でした。

ある看護師は耐えきれず控え室で泣いていました。

私は、どんな患者も決して断ることなく受け入れることにより患者を幸せにし、その喜ばれる姿を我が幸せとする為に今の仕事をして来たつもりです。
ERの仲間達の多くも同じ気持ちだと思っています。

でも、双方ともにハッピーになれていないのはなぜなんでしょうか?

「それは一部の人だけだよ。大部分の人はハッピーになっているよ」と仰有る方もあるかも知れません。
ですが、私にはそうは思えませんでした。
救急初療室、観察室、ウォークイン待合室、どこを歩いても、その場にいる患者や家族から一斉に私に鋭い視線が注がれ、そのどれもが厳しい眼差しでした。

長くなって申し訳ありません。
そこで皆様にお伺いしたいこととは、こんな場合、どうすれば双方少しでもハッピーになれるか、ということです。

いかがでしょうか? 以前、私も似たような環境にいましたので、この現場の様子、痛いほどわかります。そして、看護師さんの涙もわかります。

はたして、医療を受ける側の方々は、こういう状況にあっても、医療者は救急患者を受けるべきなのでしょうか?それとも、受けるべきではないのでしょうか?

そして、こういう状況の中で生じた悪い結果は、世間は許してくれるのでしょうか?
ちなみに、世間ではこんな判決もあります。⇒待ち時間に潜む地雷

生へのこだわりは、人間の根源的な欲望です。 そして、今の日本社会は、欲望実現をめざす社会です。そんな社会だから、この記事にありますように、「双方ともハッピーになれない」という事態が発生するのだろうと最近の私は思っています。 医療者の方と、医療を受ける方とでは、それぞれ立場が違いますから、いろいろなご意見があろうかと思います。 皆様の自由なご意見をお聞かせ願えれば幸いです。


悩ましい若い女性の下腹部痛 [救急医療]

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過去のエントリーで、こんな話をした。 悩ましい若い女性の上腹部痛

そこで、本日は、下腹部痛の症例を提示する。

一般に、若い女性の腹痛の場合は、男性の場合に比べて、考えることが増えるので大変だ。 それは、婦人科疾患か否かいう視点が増えるということだ。 

実際例でいくつか提示すると・・・・

月経困難症(婦人科疾患)だと思ったのに、実は急性虫垂炎だった(外科疾患)。
PID(婦人科疾患)だと思ったのに、実は、急性腸炎だった(内科疾患)。
急性虫垂炎だと思ったのに、実は、卵巣出血だった(婦人科疾患)。
尿路結石だと思ったのに、実は、子宮外妊娠だった(婦人科疾患)。

まあ、こんな感じである。個人個人の症例レベルは、まさに千差万別。
それ故に、教科書どおり診断が進まないことも多々ある。

そのことを知らない人が、気安く、あるいは悪気なくとも「誤診」という言葉を使ってしまう。誤診という言葉には、そういう私達医療者の苦悩に対する微塵の配慮も感じさせない冷たい言葉であると私は思う。多くの人が、「誤診」という言葉に慎重であってほしいと思う。

なぜ、私がそう思うのか? それは、以下の理由による。

そもそも、私達の診断プロセスは、確率的であるからだ。
参考エントリー:診断とは確率にすぎない
これは、ある時点で、どんなにベストの判断を行ったとしても、事後から見れば、診断が外れていたという出来事は避けられないということを意味する。つまり、診断過程における医療の不確実性そのものなのだ。

だから、ある意味、我々の診断プロセスは、黒ひげ危機一髪ゲームと同じことといえるのではないかと思う。もし、黒ひげの首が飛んだとき、それは、「誤診」として医療者が裁かれるときと想像してもらいたい。そう考えてもらうことで、我々の気持ちが少しは伝わるのではないだろうか?ちなみに、これが黒ひげ危機一髪ゲームである。 → シュミレーション 

そうは言うものの、私達医療者は、患者のよりよい転帰を目指し、日々苦悩の毎日である。世間の風は、何かにつけて私達医師-患者関係を破壊しようとするが、患者側が、医療の不確実性に理解を示してくれると、現場の医師-患者関係は上手くいくことが多くなるであろう。


ということで、そろそろ、今回の症例。

<診察の場について>
あなたは、とある急性期病院の救急外来で外来患者の対応をしている状況。なお、消化器外科医、産婦人科医、消化器内科医などの各専門家には、コンサルトは可能である。エコー(腹、心)は自前でやる。 CT(造影も)は全身可能。MRは不可能。そのような設定である。

31歳 女性  下腹部痛

当院初診。妊娠出産歴なし。既往疾患に特記すべきことなし。普段の月経はやや不順。最終月経は、10日前。昼食時に焼き飯と惣菜を食べてから、次第に下腹部痛が増強してきた。自宅で様子をみていたが、買い物から帰ってきた母親が、娘の様子をみて、救急車を呼んだほうがいいと判断し、16時頃、救急車で当院へ搬送された。自宅で、4,5回の嘔吐有り。下痢はない。最終排便は昨日で普通便。本人、母親ともに昼食があたったようだと訴えている。

バイタルサイン BP 105/72 HR 63整 KT 36.1 RR 14 SpO2 99
腹部  平坦、軟。手術痕なし。正中下腹~左下腹にかけて圧痛(+)であるも、リバウンド(-) 他、特記すべき身体所見なし。 
検尿 妊娠反応(-) 潜血(-)ケトン(±) 蛋白(-) WBC(±)
末梢血・生化  WBC 6100 CRP 0.1 他特記すべきことなし。
胸腹部 レントゲン  特記すべき所見なし。

腹痛は、来院してから1時間後(ボルタレン座薬25mgを入れて30分後)の時点で、十分に自制内の状況である。

さて、時間外の救急初期診療などでありがちな場面だと思います。

この時点で、確定診断を求めるわけではありません。 皆様方にお尋ねしたいことは、次の3点です。

Q1 頻度の軸からみたありそうな疾患 ベスト3
Q2 地雷の軸からみたマークしたい地雷疾患 ベスト3
Q3 次にやりたい一手
できれば、ご自身の専門などのバックグラウンドを差しさわりのない範囲で添えていただけるとなおわかりやすいかもしれませんが、そのあたりのご判断は各自におまかせしておきたいと思います。似たようなケースでの皆様方の苦労話も差しさわりのない範囲でお教えいただるとうれしく思います。

医療者の判断というものは、こんなにいろいろ考えないんといけないんだなあということ、だから診断って大変なんだなあということ・・・・多くの非医療者の方々に、私達のこんな苦労を感じてほしいというのがブログ主の今回の狙いです。

では、よろしくお願いします。 (5月21日 記)


(5月24日 追記)
皆様、コメントありがとうございました。22名の方のご意見を集計してみました。A.>B>Cの場合、Aを3点、Bを2点、Cを1点として、A,B,Cと併記の場合は、A=B=C=2点として、集計しました。 さて、その結果です。

Q1  頻度の軸からみた鑑別 上位5疾患

急性腸炎  48
PID      16
虫垂炎   13
憩室炎    8
尿路結石  8


Q2  地雷の軸から見た鑑別 上位5疾患

卵巣腫瘍茎捻転  40
虫垂炎     24
子宮外妊娠   13
上腸管膜血栓症 9
卵巣出血      7

Q3 次の一手
ほぼ全員が、腹部エコー

22人という数としては少ないですが、はっきりと傾向が出ているようですね。私は、以前のエントリー:結果と考察-ネットで診療評価-で、診療の適切性を判断する際には、その診療の転帰そのものが、適切性の判断に統計的に優位に影響することを示しました。それをふまえて、このエントリー中で次のような提唱を行っています。

<提唱>
診療判断をする医師複数を、分野に応じて事前登録しておきます。そして、何がしかの事例が発生したら、誘拐事件が起きたときにメディアが報道自主規制をするのと同じ倫理に基づいて、いっさい報道は行わずに、登録医師に有害事象の結果を知らせないままで検討し、複数の評価を集めます。そして、統計的に判断をくだします。

さて、今回の症例では、
たとえ痛みが自制内でも、
たとえ痛みが突然発症ではなくても、
たとえバイタルに異常がなくとも
たとえ採血データに異常がなくとも
たとえ本人や家族が、食あたりかもしれないと主張しても、

卵巣腫瘍茎捻転をまったく疑わない診療をして、急性腸炎としての対応のみ(投薬、患者説明などを含めた対応をさす)で、帰宅させるという診療は、救急初期診療としては、不十分なのかもしれません。Q2に対する皆様のコメントがそれを示唆しています。ですが、おそらく、そんな(不十分な)診療をしても、何も問題のないケースがほとんどでしょう。それは、疾患頻度として急性腸炎が圧倒的に高頻度だからです。悪い診療の結果というものは、いつもきちんとやるべきことはやった診療をしていてる誠実な医師であっても起きるときは起きるし、意外と、不十分な診療ばかりをつづけている医師には起こらなかったりします。確率とはそういうものです。

ちなみに、非医療者の方々のために・・・
卵巣腫瘍茎捻転とは、こんな病気です ⇒ こちら
一方、急性腸炎は、感染性や非感染性などありますが、救急外来で出会う患者の多くは前者。さらに、前者は、感染源によって、ウイルス性や細菌性などに分類されますが、一般に前者は軽症で自然軽快、後者は、前者に比べ重症感があることが多いです。今回の症例では、感染性腸炎だとしてもまだ発症初期であるため、ウイルス性、細菌性(毒素型も含む)のどちらかをすぐに鑑別することは不可能です。さしあたり経過を見ながら考えることになります。自然に治ればウイルス性でいいでしょう。一方、さらにひどくなるようであれば、便培養などを提出し、細菌性としていろいろ手を打ち始めていきます。

さて、長くなりました。症例の続きです。この患者を担当したのは、私一人でした。

私が最初に思ったこと
患者の解釈モデルにこちらが引っ張られてはいけない
ということ。

やたらと食事との関連性を訴えるので、私は患者とその母親にこう言いました。
女性の腹痛の場合には、食事とは関係なく緊急性の高い疾患があります。まず、それからチェックしていきましょう

病歴聴取の際に、そのように伝えて、妊娠反応、採血などの検査をだした後、皆様のご指摘どおり、型どおり、自分で腹エコーの手順にもっていきました。

そこで、「おやっ?」 です。 なにやら、左下腹部に大きな何かが見えました。10センチくらいありました。 その部分に一致して、圧痛もある。

「はあ~ん・・・なるほど・・・ これかああ・・・」

この段階で、私は、患者と家族に言いました。
どうも、卵巣が腫れているかもしれません。これが痛みの原因と即断するわけにはいきませんが、婦人科の先生には必ず診ていただかないといけない状況です。

で、私はこの時点で早々と、婦人科の先生にコンサルトしました。婦人科的診察の結果、卵巣のう腫があり、周囲に腹水もあるとのこと。卵巣腫瘍茎捻転を強く疑うため、直ちに手術が良いという結論になりました。

術中所見としては、左の卵管が紫色に変色し血行障害を示していたが、捻転を解除すると同時に血行も改善し色は回復したとのこと。卵巣腫瘍は切除され、後日の病理では良性の所見だったとのこと。合併症なく退院していきました。

ということで、今回の症例は、皆様も最も懸念した地雷:卵巣腫瘍茎捻転の一例でした。

今回の症例を腸炎としてあっさりと帰宅させるという対応をしてしまっていたら、後日、紛争となったかもしれませんね・・・・

それにしても、すごいなあ・・・・ さすが、専門の先生の眼だなあ・・・・と思ったコメント。スーザン先生のコメントでした。今回の症例は本当にその通りでした。

どーしてもこの症例が、卵巣腫瘍茎捻転に見えて仕方ありません。
他の疾患が考えられなくてすみません

深い専門を持たずに、手広く構えて、問題点の絞り込みまでを主たる日ごろの業としている私にとっては、到底到達し得ない感覚です。 初療医としては、そういう各専門家の先生がもつ専門分野の鋭い感覚もタイミングよく参考にしたいものです。どこまで自分で整理して、どこから専門家の先生に参画してもらうか?このあたりの分別にはそれなりの経験を要しますし、診療の場毎にも大きく異なります。ときに、診断がまだ確定していない救急初療の現場では、専門家の先生のもつ感覚は、時に諸刃の刃になりえるという認識も重要です。・ 参考エントリー:専門引き寄せ症候群

まとめます。

本日の教訓
卵巣腫瘍茎捻転 いつも激痛とは限らない

 


頭痛を訴える若い女性 [救急医療]

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本日のエントリーは、頭痛を訴える若い女性の症例を元に行います。 いつも如く、症例は、実話をベースにしながら、個人特定にならないような脚色を適度に加えたものです。

今回は、ネット鑑別診断という試みをします。

とりあえず、医療者の方々は、お気楽にご参加ください。

今回のエントリーの狙いは、後日のお楽しみということで・・・・・・。

では、こちらから、お入りください ⇒ ネット鑑別診断へ(終了しました:5/17 20:15)

(コメント欄は、しばらく閉じておきます。 コメント欄は、この試みの終了時に解放します。)

(5月15日 記)

コメント欄解放しました。

たくさんのご意見をいただきありがとうございました。全部で78人の方から回答をいただきました。
これが、提示症例です。

25歳女性

元来健康。既往歴に特記すべきことはないが、肩こりや頭痛に悩まされることは時々あるという。200X年X月N日、午後20時ごろ、コンビニ弁当を食べた。同日23時頃に、腹痛、嘔気、嘔吐、下痢が出現。食事が取りづらい状況だったので、翌(N+1)日の朝、近医で点滴を受けた。(N+1)日夕方から、嘔気は改善傾向にあったが、前頭部が締め付けられるような左右差のない頭痛を自覚した。一時、38.6度まで発熱を認めた。その症状は、比較的急速であったと本人は感じている模様。(N+2)日の朝、近医再来し、昨日の経過をふまえて、抗生剤、整腸剤、解熱剤などが処方されたという。(N+2)日の夕方、症状の改善が思わしくないと思い、ある総合病院の救急外を受診した。ただ、解熱剤が効いて熱は下がっている感じはするとのこと。

来院時
血圧110/68 HR 65/分 体温36.5度。 意識 清明。瞳孔 異常なし。項部硬直(+)。胸腹部 特記事項なし。

WBC 10300 CRP 0.8 他特記事項無し。
頭部CT 脳外科医読影にて出血の確証はなし。(ただし、頭蓋骨のアーチファクトも強くやや荒い画像) 

ちなみにこの症例の最終診断は、くも膜下出血でした

さて、この症例は、私のブログの中での再出でした。お気づきの方もいたかもしれません。
髄液検査の明と暗のエントリー中の「明」と「暗」の2症例をベースにしています。

設問の後半を変えて、3種類を用意しました。クリック時にランダムに飛ぶように仕込みました。

1群は、最終転帰が髄膜炎と知ったうえで、回答する群
2群は、最終転帰はいっさい知らされずに、回答する群
3群は、最終転帰がくも膜下出血と知ったうえで、回答する群

最終結果を知らされることが、どれくらい回答に影響するかということを調べたいと思ったからです。
残念ながら、今回の症例では、最終転帰の影響は全くでなかったようです。
本音は、後知恵バイアスを示したかったのですが・・・・。
今回の症例はあまりに非典型杉だったのが失敗の要因だと思いました。群間に差が出なかったので、総数でのみ、結果を表示します。 N=75 (ルンバールの結果を明らかに判断に組み込んだとわかる3例は除きました)
図1.jpg
この結果を見れば、わかるように、この症例において、くも膜下出血はほとんどの医師が想定していないことがわかります。 群別の回答を公開中⇒1群(25名) 2群(26名) 3群(25名)


というわけで、以下の話は、くも膜下出血の診断は、ときにこんなにも困難なのか! ということに絞ります。


今回提示した症例の第3群は、髄液検査の明と暗のエントリー中の「暗」の訴訟症例を強く意識して作成しています。皆さんの回答から明らかなように、この症例は、本当に、くも膜下出血らしくない病歴ですよね。

ちなみに、その「暗」の訴訟症例も、本当にくも膜下出血らしくない病歴です。ですが、判決の中では、たくさんたくさんある、医療判断要因の中から、たった一つだけ(髄液所見の解釈)の不備を指摘して、それをもって、過失の構成を組み立てていました。私のブログの中では、人間の体の不可思議性、神秘性に基づいた驚きの症例などを紹介しています(例1例2例3)。そのような医療の不確実性、確率的分散が数ある中で、たった一つの判断が適切でないといって、過失と認定されるわけです。それって何かおかしくないですか? ちなみに、その判決文はこちらにあります⇒ 判決文

この判決文 P22-30 あたりにある裁判官認定の臨床経過です。

1月13~15日  頭痛、関節痛、発熱(37.8) 15日クリニック受診
1月16~17日  点滴加療など
1月18日     頭痛増悪訴えあり。 WBC12700 CRP1.4
1月19日(土)   髄膜炎疑いで、H病院(被告病院)へ紹介
            内科外来当直医(C医師)は、CT試行のうえ、入院
            内科病棟当直医(D医師)が、ルンバール 
            淡血性 ⇒トラウマティックと考えた。(手技の手間取りあり)
1月20日(日)   頭痛持続。 
1月21日(月)   主治医決定。神経内科のA医師に。A医師、ルンバール再検
           キサントクロミーあり。これは19日の影響と判断

           (A医師は、D医師より、土曜日のルンバールの話を聞いていた)
           CT再検。 A医師、19日のCTと併せて、両者問題なしと判断
           A医師も髄膜炎と診断。
2月2日      軽快退院
2月9日      自宅で倒れていた。 JCS300。救命センターでSAHと診断。
           緊急脳外科対応。
           右内頸動脈後交通動脈分岐部に動脈瘤 ⇒クリッピング

一命をとりとめたものの、左半身麻痺がのこり、身障1級となる。

で、裁判官の判断。 C医師、D医師には、過失無し。A医師過失あり。 判決文P43から引用。この新聞記事は、髄液検査の明と暗を御参考ください。

A医師が,1月21日の時点で原告を脳神経外科医に紹介するなどしていれば,更にMRIやCTを用いた脳血管撮影検査が行われることにより,くも膜下出血及び脳動脈瘤の存在が確定的に診断されていた可能性は極めて高く,その場合,破裂脳動脈瘤に対し,早急にクリッピング術などの再破裂を予防するための処置がとられることとなるところ,同月21日の時点における原告の臨床症状がくも膜下出血としては軽度であったことをも考慮すれば,上記処置により2月9日に発症したような重篤なくも膜下出血を防止することができたことが認められる。以上によれば,本件において,被告病院の担当医師の過失がなければ,原告に発症した後述の後遺障害が生じなかった高度の蓋然性が認められるというべきであるから,被告は,不法行為責任(使用者責任)に基づき,原告が被った後記損害を賠償すべき義務がある。

患者側は、こんなになったのは医者のせいだという気持ちがでるのは止む無いこととは思います。ただ、社会システムの中で、その気持ちがそのまま形になってしまい、結果として医療者を追い詰める・・・・・・。そして、それが今の医療崩壊の一因となっている。

今回の回答状況をみれば、このケースも早期診断できなくても、それは当然だといえます。今回の判決では、C医師、D医師には過失を認めておらず、その点については、妥当な判断が出ているといえます。しかし、この流れがあれば、A医師も過失無しで良いのではないでしょうか?しかし、裁判官は、A医師には過失を指摘しました。

裁判官は、患者救済ありきであれば、100の標準的プレーの中にも、たった1つのエラーさえあればそれを元に過失を構成し、賠償命令できます。だから、この裁判事例においても、どにかくどれか一つだけでも取り上げて、なんとか過失を構成し、患者救済を実行しようとしたのでしょうか?

とにかく、我々は、地雷回避の知識として、髄膜炎的なくも膜下出血症例も存在するということを知っておくことは重要なのかもしれません。

今回のコメントの中で、ある脳神経外科の先生がこんなことを教えてくれました。

脳神経外科専門医です。
年齢や発症様式・経過はくも膜下出血の中では比較的稀な部類に入るとは思いますが、症例報告レベルでは無く、脳神経外科専門医ならば、何度かは経験したことがあるような症例でしょう。

過去に、私は、こんなエントリーを書きました。SAH再出血の怖さ つい最近、この報道事例が、書類送検されたという報道がでました(医師の実名報道です。どうしてでしょうね?)。 ⇒ これです

その中で、家族の言葉として、こんな一文があります。

哲さんは「医師はくも膜下出血の症状をよく知らなかったようで憤りを感じる。

これは、ひどいでしょう。遺族がそうお感じなるのは、ある意味医学的も当然です(悲嘆のプロセス)。それはいいです。私が、問題視したいのは、報道です。医師の心に対する配慮、医療そのものの不確実性への理解および医師患者信頼関係に及ぼす影響度などいくつかの因子を考慮すれば、たとえ遺族がこう言ったとしても、記事としては書かないという積極な選択ができるのではないですか?にもかかわらず、報道がこんなことを書くということは、医師-患者関係の破壊行為に等しいと私は指摘します。メディア報道が、医療崩壊に多大なる貢献をしているという一つの証拠だと思います。

私のこのエントリーを見てください。家族の検査希望が救った命

これも臨床経過は、書類送検事例と紙一重ですよ。 
今回の書類送検の事例も、この私が経験したのと同じような、微妙な病歴だったのかもしれませんよ?
そういう視点で報道するメディアなんて一つもないですよね。 だから、私が、メディアが指摘しない可能性をここに指摘しておきます。 もしかしたら、大変微妙な病歴で、過失といえるものは何も存在しないにも関わらず、また一人、医師が、日本の社会システムの犠牲(法の犠牲と報道風評被害)になろうとしているかもしれないということを。

私達医療者は、現場で、人間の体の複雑多様性を、いやという程感じながら、仕事をしています。でも、多くの人はそれを知りません。メディアもそういうことは、一生懸命報道しようとする姿勢は乏しいと言わざるを得ません。どうかお願いです。私たち医療者の言うことを信じてください。そして、人間の不確実性を国民の一人ひとりが受け容れて下さい。そのうえで、医療をお受けください。お願いします。

まとめます。

本日の教訓

髄膜炎とまちがいそうになるくも膜下出血も、稀ながら存在することを知ってお


人間の複雑多様性を認識し、医療と付き合おう

え?と思った患者の訴え [救急医療]

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???

ここしばらく、総論的なエントリーが続いていましたので、本日は、日ごろの救急診療での平凡な一こまを書いてみたいと思います。

医療の判断のために利用する情報には、客観的な情報(血液データなど)、主観的な情報(患者、医師それぞれあり)、視覚的な情報(画像)、触覚的な情報(腹部触診など)、言語化し難い情報(いわゆる患者の発するオーラみたいなもの)などたくさんの種類があります。診療中には、それらの種々雑多な複数の情報が、リアルタイムで次から次へと入ってきます。そして、我々医療者は、それらの情報の質を、随時評価しながら、随時修正しながら、適宜、診断仮説も変更しながら、その現場に応じた最適解というものを探しにいくわけです。しかも、救急診療というのは、その作業に投入できる時間と資材が大変限られているという事情もあります。

私は、その難しさ、不確実性を、広く救急診療をうける方々に伝え、少しでもわかってほしいと思っています。

そんな日常診療には、「え???」「なんで・・・・・??」「どうして!!!」

私達医療者が、こんな反応をすることが、ごろごろしています。

本日の症例を通して、そんなことを皆様方に感じていただければと思います。

症例  81歳 男性 主訴 左側の腹痛

左側の腹痛という触れ込みで、救急車にて搬入された患者。当院には、術後イレウスで何度か入院歴がある患者だった。 ADLは自立との由。ここに、救急隊が我々に手渡してくれた観察メモの控えをそのまま再現してみよう。 

氏名  ○○○   生年月日  ××
住所  XXXXX
発生場所  自宅
主訴  左側の腹痛 嘔気  持続痛 圧痛あり
意識  清明
呼吸  18 正常呼吸音  正常呼吸様式
脈拍  97  体温 35.0
血圧  155/89
SPO2  95(ルーム)
現病歴および既往歴
本日 夜 1:30~  嘔吐2,3回  下痢なし 既往歴 胆嚢摘出(H4) 腸炎(H18) イレウス(H19)

午前9:30来院。 患者は、すでに到着時には、痛みは軽快傾向にあるようだった。本人に、痛みの部位を問うと、左上腹部のあたりを指し示す。だが、はっきりとした圧痛の所見はなかった。お腹は柔らかく、少なくとも左側に腹膜刺激症状はない。腹部正中に手術痕あり。やや膨満している感を認める。それを家族に問うと、その膨満についてはいつもこんな感じという。

以上が、来院しての一瞬のやり取りだ。すくなくとも、急性腹症として超緊急性のある状態ではなそうだ。

最近のイレウスの既往もあるし、開腹歴もある。我々の第一印象は、「イレウス」 だった。

カルテには、前回イレウスで入院時の退院時サマリーがはさんであった。それによると、H4年に胆嚢摘出術施行、その後5回ほど術後イレウスを繰り返していたとのこと。この入院時では、保存的加療で回復していた。

腹部レントゲン(立位)ができた。こんな感じだった。
図3.jpg

「やっぱりイレウスだな。絞扼性の路線は薄そうだが、CTでさらにチェックが必要だ。」

我々は、CT検査へと段取りを進めた。その際のCTをオーダする際の我々のコメント次の通り。
左側腹部痛、嘔気と嘔吐。Xp上二ボーあり。閉塞機転のチェックと絞扼性イレウスの除外をお願いします。

他の所見もだんだんとそろい始めた。WBC14000 CRP5.3 血液データ 他特記事項なし。 尿潜血(-)。cXp、ECGも特記事項なし。

さて、皆様は、この時点でどんな疾患を想起しますか? ちなみに、CTをみて、私達は、「ええ~、何でえ?」と思った次第です。

(5月13日 記)

(5月15日 追記)
たくさんのコメントをありがとうございます。いろんなご意見をいただきました。多数派のご意見が、尿路結石でした。確かに私も経験があります。イレウスと思ってCTを撮りにいったら、尿管膀胱移行部にしっかりと「石」が写っていたことが・・・。でも、そのときの反応は、「なあんだあ~~~、石かあ~~」ってなりません? 今回の症例のメッセージは、タイトルに込めていました。「え?っと思った患者の訴え」です。そういう意味で、元ライダー先生のコメントとそれを受けての環器内科研修中医先生のコメントの中に核心的なご指摘がございました。

では、続けます。

CTができた。これである。
図4.jpg

私と研修医Iとで、このCTを眺めた。

I先生「あれ、なんかイレウスっぽくないな? 腸管の拡張がそうでもない」

私「おい、これなんや? 燃えてんで、ここ。」

I先生「あれ、ホントですねえ。でも、左っすよ、左。痛いのは。先生」

私「右側、触った?」

I先生「はい、お腹が出てる人でしたけど、触りましたよ。痛そうでなかったです」
   「それに、本人も奥さんも救急隊も皆、左って言ってましたよ」

私「まあ、いい。とにかく、この燃えてるところを狙ってもう一度腹を確認しよう

I先生「はい、ちょっと丁寧にみてきます」

しばらくして、I先生が戻ってきた。

I先生「先生!先生! 所見あります。かなりそけい靭帯に近いところまで注意して
    しっかり触りにいくと、ありました。ありました。 リバウンドが!
    あんまりお腹が出てるし、左という先入観が強かったから、右側の診察
    が注意深くできてなかったのかもしれません」

私「 ええ~、それで何で左の訴えやねん。わからんなあ????
   心か部痛でアッペはよくあるけどなあ。左でもあるのかなあ???」

臨床の現場では、このように、わからないことは、ごろごろしている。それが日常である。
だから、私達は、そこはそれ以上は深く考えずに、画像所見を最重要所見と判断して、診察を進めた。

私 「憩室炎?虫垂炎? ちょっとわかりにくいね
   ただ、虫垂炎→限局性イレウス→写真で二ボーあり のストーリーは合うね」

I先生 「腹水も出てますよ(注:この写真は出していません)。外科ですね、これ。」

私 「そうだな。外科の先生にも相談しよう。」

外科の先生も放射線科の先生の読影も、はっきりと腫大した虫垂を画像上特定するには至らなかったが、虫垂炎を強く疑い、開腹の方針となった。救急外来から直のオペ出しとなった。

結果、虫垂炎だった。虫垂は、小腸・S状結腸と高度に癒着していた。手術所見としては、phlegmonous。その後の病理レポートでは、壁全層の壊死を伴った高度の炎症細胞浸潤ありで、gangrenousとなっていた。つまり、いつ穿孔してもおかしくない虫垂炎だったのだ。

結局、この患者の訴えは、むしろ問題の本質から遠ざける因子となってしまっていた。患者の訴える痛みの場所 「左側」にとらわれれば、とらわれるほど、それは顕著になっていっただろう。臨床判断というものは、AHA蘇生のガイドラインで言うところの、気管挿管の確認のコンセプトに似ているところがあると私は思う。つまり、一つの所見だけで、100%断定したり、100%否定してはいけないということ。複数の情報を総合的に考え、バランスよく判断することが、現場の臨床判断として重要だと思う。

ちなみに、見逃し症例から学ぶ日常診療のピットフォール 生坂政臣先生著 医学書院 P90には、こんな記載がある。

腹部が膨満している場合、浅い触診では圧痛が誘発されなかったり、圧痛部位がMcBurney点などから離れた所に存在する可能性も留意する

なるほどである。今回の症例は、腹部内臓脂肪で元々腹部が膨満気味の人であった。最初の段階では、誰もが左側の腹痛であると信じて疑わなかったなどの要因があった。 だから、CTを見る前の腹部診察では、右下腹部の所見を見出すことができなかっただろうと思う。 

結果だけをしって、我々のこの初療の一連の流れを知らない人の中には、こう言い放つ人もいるだろう。

最初から、きちんと腹を診察していたら、右下腹部の所見はわかったはずだ。

と。

こういう言い分こそが、まさに、後知恵バイアスである。 一般に、医事紛争の中では、双方の主張がぶつかりあうわけだが、患者側の言い分の中に、いかに後知恵バイアスに基づいた主張が多いことか! 参考エントリ-(後知恵バイアスについて) 本当に腸炎でいいですか? 

メディア関係者の人に、医事紛争の増加という社会的弊害を減らすための私の二つの提案を聞いてほしい。

1.患者遺族側の悲嘆のプロセスのさなかにある遺族の感情を報道しない 
2.人間の認知には、元来「後知恵バイアス」という認知の特性があることを広く報道する

まとめます。 今回の症例は、患者の訴えと非常に結びつきにくいところに問題の本質がありました。種々の情報を総合的に考え、そして判断するセンスが求められます。腹痛患者を診察するときには、常に虫垂炎を想定しておく必要があることを改めて考えさせられる症例でした。特に腹部が膨満している人の理学所見を拾う場合には、よりいっそうの注意が必要ということも我々に教えてくれました。
そんな症例でした。

本日の教訓
腹痛患者は、常に虫垂炎を念頭に置こう。右も左も関係なく。

救急診療をうける方へ(2)-怒号が響くある日の救急外来- [救急医療]

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今日は久々に、一般の方々へ、救急診療に関して私がお伝えしたいこと第二弾です。 ちなみに第一弾は、こちらでした。⇒救急医療を受ける方へ(1)

救急診療は、社会の中における重要な公共の社会資源の一つであると私は考えている。だからこそ、利用する側である一般市民の方々自身に、救急外来とはどんなところであるのかという理解をしてもらうことは重要だ。日ごろは、どんなに医療とは無縁な人であっても、突然の外傷や突然の病気に襲われるという運命に遭遇することは十分にあり得るからだ。

公共の社会資源に関して、こんな話をご存知の方も多いと思う。

コモンズの悲劇(コモンズのひげき、The Tragedy of Commons)とは、多数者が利用できる共有資源が乱獲されることによって資源の枯渇を招いてしまうこと共有地の悲劇ともいう。たとえば、共有地(コモンズ)である牧草地に複数の農民が牛を放牧する。農民は利益の最大化を求めてより多くの牛を放牧する。自身の所有地であれば、牛が牧草を食べ尽くさないように数を調整するが、共有地では、自身が牛を増やさないと他の農民が牛を増やしてしまい、自身の取り分が減ってしまうので、牛を無尽蔵に増やし続ける結果になる。こうして農民が共有地を自由に利用する限り、資源である牧草地は荒れ果て、結果としてすべての農民が被害を受けることになる。 (ウィキペディアより引用)

まさに、救急医療は自由に誰もが利用できる共有地の牧草。そして、今、その牧草が荒れ果て、枯渇しようとしている。では、この牧草地をどうするか、それは、国民の代表である政治家の先生方が主導を取ってより良い解決を模索してくださることに期待をしたい。だから、この記事を書くこと事態、救急現場の医師の声の一つとして、議員の先生方にお届けしたいことに他ならない。

私は、断言する。

厚労省の第三次試案をそのまま通すことは、この牧草地の水源を絶つことに値する

と。 救急医学会はすでに反対声明を出している。厚生労働省(第三次試案)について

では、救急外来という場がどういうところであるか。ある日の当院救急外来の様子を紹介する。突然、現場が急に忙しくなり始めたときの様子だ。

ある日の当院の救急外来。午後を回りだしたとたん、急に患者が同時にやってきだした。

地域の開業医からの紹介でやってきた徒歩来院の患者、自力でやってきた徒歩来院の患者、内科外来から救急対応を依頼された患者および救急車来院をした患者などと、ほぼ同時にやってきて、あっという間に救急外来は大混雑になってしまった。 つまり、overcrowding(混雑)の発生だ。

救急外来という場所は、時にovercrowding(混雑)になる。 そんなときは、今診療中の患者にトリアージをかける。つまり、現時点での不確実な情報のままであるが、それで診察患者の優先順位を、ラフに決定するのだ。そんな時、診察を後回しにすると判断した患者さん達には、主に医療スタッフで、ときには医療事務員などにもお願いして、次々と患者達に「待っていてください」と声をかけていく。

待ちの患者には、スタッフで手分けして、このような案内をしていく。
「申し訳ございません。今、重症患者から優先させて診療させていただきます。しばらくお待ちいただかないといけませんが、何卒ご協力ください。」

ほとんどの方は、私達に協力的だ。紳士的に待っていてくれる。

ところが、その日は、患者から怒号を食らってしまった。

「おい!どうなってるんだ!いつまでかかるんや!・・・」と大声を上げるのは、60代の男性患者だった。

救急外来での診療は終了し、後は入院のために病棟にあがるを待つだけの患者だった。だから、この患者にスタッフがちゃんと「待ってください」の声かけができていたかは定かではない。もしかしたら、誰も声をかけなかった可能性も高い。なにせ、すでに診察は終わっている患者だったから。

とにかく、私は、すぐに患者の元へ駆け寄った。そして、こういった。

「申し訳ございません。みんな一生懸命やっているんです。どうかご協力をお願いします。」

患者の怒号の同じぐらいの響きがでるように、渾身の力を声に込め、頭を下げながら言った。
そしたら、すぐにおとなしくなった。奥さんがそばで申し訳なさそうに小さくなっていたのが印象的だった。

大きな声には大きな声で返す・・・・相手の口調に合わせた対応をする。しばしば、効果的だと思う。

さて、一人の騒ぎを収めたと思ったら、今度は、またホットラインだ。
こんなときに限って、ホットラインが鳴り続くものだ。

救急隊 :「76歳、男性、腹痛です。下腹部の痛みです。本人は便秘だといっています。受け入れお願いします。」

私が、Nsに指令を出す。「今、手一杯、無理! 他から、当たってもらって!」

Nsが救急隊にその旨を告げた。しかし、救急隊も、すぐには、引かない。

救急隊 :「だめですか? 家族をそちらを強く希望しているのですが?」

Nsが私の対応をまた求めてきた。

私:「ああ~、もう! 待てる患者なのか?」

Nsを介するよりも、直接、私が救急隊とやり取りするのが早いと思った。

私:「ごめん、今いっぱいいっぱい。どうしてもって言うのなら、その患者には待ってもらわざるを得ないよ?待てる患者?

救急隊:「 はい、腹痛は自制内です。待てると思います血圧146/66 脈拍 72 意識は清明です。」

救急隊の返事は早かった。

私は、待ちのことを了解してもらった上で、結局、この患者を引き受けた

患者が到着した。

私達が見ると、患者は苦悶様で、しかも腹部は板状硬だったのだ・・・・。

「だ・ま・さ・れ・た」と感じる医師も多いかもしれない。それほどの認識の相違だった。

「待てるといったじゃないか!! どういうことだ!!」と、こんな言葉を救急隊にぶつけたくなる状況だ。

しかし、これを現場で、感情にまかせて言ってはいけない。
そもそも、救急患者を電話のみで適切に選別すること自体が無理なのだ。つまり、電話トリアージの限界だ。この限界性を、救急に携わる医師はよく心得ておく必要がある。だから、自分の判断で救急要請を受けた以上、救急隊に文句を言っても仕方がない。限られた資源と人材で、私達はベストをつくすしかないのだ。

私は、すぐにまた、場のトリアージをやりなおし、患者の診療順序を組みなおした。
この患者を患者を優先順位一番に格上げした。我々の場の能力では、救急患者を2列同時で診療するのが限界なのだ。三列は無理である。だから、先の優先順位2番目で診療中だった患者の診療を中止せざるを得なかった。

予想通り、この患者は、重症だった。わかる方々はこの一枚ですぐわかるでしょう。
20080317CTperfo.jpg

そう、S状結腸穿孔で当院外科で直ちに緊急手術となったのだ。

待てると踏んで、私が受け入れた患者がこれである。 
もし、この患者の診療を優先したがために、他の待ち患者に悪い結果が起きたとしたら・・・・

それは、私の判断ミスでしょうか?過失でしょうか?

この患者は、断固、受け入れを断るべきだったのでしょうか?

常に、私達には、そんな不安があります。そんな悩みがあります。

多くの方々にそんな私達の苦悩をわかってほしいと思います。

そうやってばたばたしているうちに、なんとか、超多忙の救急外来の一日が終わった・・・・。

いかがでしょうか? いつもいつもこんな日ばかりではありません。 もちろん、まったり過ごせる日もあります。忙しいときは、こんな感じということが少しでも伝われば幸いです。

最後に、救急外来を利用する方々へのお願いです。 

(1)何卒、混雑時の救急診療の待ち時間にはご協力を下さい。
(2)救急医療の多くは、専門医療ではありません。各専門医の方々の善意と応援で構成されていることが殆んであるとご理解ください。
(3)救急外来という場は、(1)(2)のために、提供できる診療の質が一定でないことをご理解ください。
(4)だからこそ、たとえ結果が悪くても、医師の責任?と考える前に、自ら考えてほしいことがあります。

それを、荘子(そうじ)から引用します。 ※ 荘子(人名)は「そうし」。荘子(書物名)は「そうじ」。

荘子 山木篇 第二十

船を並べて河を済(わた)るに、虚船の来たりて船に触るるあれば、惼心(へんしん)のあるの人と雖も怒らず。一人其の上に在るあれば、則ち呼びてこれを張歙(ちょうきゅう)せしむ。一たび呼びて聞かれず、再び呼びて聞かれず。是において三たび呼ばんか、則ち必ず悪声を以ってこれに随(したが)わん。向(さき)には怒らずして今や怒るは、向(さき)には虚にして今は実なればなり。人能(よ)く己を虚にして以って世に遊べば、其れ、孰(たれ)か能くこれを害せんと

(和訳)
船を並べて川を渡っているとき、空舟がやって来てこちらの船に接触したとしますと、どんな怒りっぽい人でもあきらめて腹を立てることはないでしょう。ところが一人でも船の上に乗っていたとなると、あちらへ向けろこちらへ向けろと声をはりあげるものです。一度呼びかけてもとどかず、二度呼びかけても届かない。そこで三度めということにもなれば、必ず罵りのことばがいっしょに飛んでいきます。前の場合には、腹をたてなかったのに、こちらで怒るのは、前の場合は空舟で虚であったのが、こちらでは人が乗っていて実であったからです。人の世渡りも同じことで、己を空しくして無心の境地でのびのびと世を過ごすなら、だれもそれを害することはできないものです。  荘子 第三冊 金谷 治 岩波文庫 P80

(和訳 2chより引用)
小船が河を横切っているときに、別の誰も乗っていない船が ぶつかりそうになる。 苛立ちやすい人でも、これにかんしゃくを起こすことはない 。ところが近づいてきた船に、人が乗っていると 船をぶつけるな!と怒鳴るだろう。 さらにぶつけられた時など、悪口雑言が口からでることは必至である 。前者の場合には怒りがなく、後者の場合には怒りがあった。 人が乗っているか、乗っていないかが、分別の有無を分けた。人間というのもこれと同じで、ただ虚として人生を過ごすならば、誰がその人を害しうるだろうか。

いかがでしょうか? そもそも、病気や外傷というのは、人生というあなたが乗っている船に、誰も乗ってない船(空舟)が偶然衝突するトラブルなのではないのでしょうか? たとえ、その船に誰か(医師)が乗っていても、それは空舟と考えてみてはどうでしょうか? そうすれば、あなた自身の怒りの心が自然と収まってきませんか? それとも、船がぶつかってきたのは、その船に乗っていた人(医師)のせいとだけ考えて、あなたの人生をこれから先、ずっと憎しみと戦いのために費やしますか? それって、人生もったいなくないですか?


謎の胸痛 [救急医療]

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夜間の時間外診療にしろ、正規の内科外来診療にしろ、徒歩来院を対象とした患者層の中には、本人が症状を訴えるにも関わらず、レントゲン、心電図、血液、尿などの検査には、何ら異常がない人はかなり多い。

諸検査で、異常がないとき、私達はしばしばこう言う。

「よかったですね。検査には異常はありません。今日のところは様子を見てください」

私達のこの台詞に対して、患者のリスポンスは様々だ。例えば、両極端な二つの例を挙げる。

「はあ~~、良かったああ・・・異常がなくて・・・」
「え?、そんなはずは?異常がないなんて・・・・」

前者の場合は、我々の対処も楽だ。診療は、スムーズに終了する。
問題は、後者の場合だ。

この場合、極端に病的な場合は、「心気症」という診断が下される場合もあるが、ここでは、そこまで極端な例を除いて考えておくことにする。

後者の反応をする人たちは、しばしば、こんな質問を私達に投げかける。

「じゃあ、私の症状はどうして起きるのですか?」

ややもすると、私達医療者は、余りに簡単に、こう答えてしまわないでしょうか?

「心因性かもしれないですね」
ストレスのせいかもしれないですね」

この時点で、患者と医師のコミュニケーションが上手くなされないと、患者の症状は、さらに悪化し、慢性化する場合さえあるかもしれない。

本日は、そんなことを考える症例を提示してみたい。

患者さんは、Hさんとしておく。

45歳男性  早朝の安静時胸痛

5,6年前よりほぼ毎朝5時ごろ、約20分間の安静時胸痛を自覚していた。そのため、循環器科で心臓カテーテル検査が昨年行われた。結果、冠動脈に狭窄を認めなかったため、冠攣性狭心症(VSA:vasospastic angina)が疑われ、カルシウム拮抗薬が開始された。現在も服用中である。しかし、カルシウム拮抗薬が開始されてもなお、毎朝の胸痛は改善せず、循環器科で、薬の増量や他薬併用をしているが、改善していない。効果がないので、時々、本人は怠薬をするようになったが、怠薬にても胸部症状が逆に増悪することもなかった。循環器科の主治医は、逆流性食道炎(GERD:Gastro-Esophageal Reflux Disease)を疑い、消化器科に紹介し、胃内視鏡検査を施行してもらった。結果、軽度のびらんが認められるものの、GERDとして胸痛を説明できるほどの所見は認められなかった。

そんなHさんが、朝の時間外を受診した。今度も同じような胸痛だった。ただ、いつもより症状の程度が強かったため、不安が高じて、正規の外来を待てずに、受診したのだった。

担当した当直医師は、型どおりの検査と診察を行った。異常はなかった。だが、もうしばらく待てば、正規の外来が始まるので、それまで、本人に救急外来で待機してもらうように伝えた。

Hさんは、その指示に従い、待った。そして、循環器科の外来を受診した。 Hさんの外来主治医は、本日カテーテル検査日だったので、別の循環器科医師(K医師)が、Hさんの対応を行った。 Hさんとその医師は、初対面だった。

Hさんは、K医師に告げた。
「最近、朝の胸の痛みがひどい気がします。食欲もなく、眠れないのです」 

K医師は、少し長めの問診と身体診察を行った。結果、胸痛以外の症状としては、頭痛と食欲低下および不眠があることがわかった。パニック発作は問診から否定的だと判断した。

K医師は、患者のこれまでのカルテや入院時のサマリーを読みながら、少し考えた。
そして、おもむろに、患者さんに、今自分が考える病態の説明を始めた。

もし、皆様がK医師の立場なら、どのような説明を患者に行いますか?

本日のお題は、確定診断を求めるわけではございません。 頭の中ではそれなりに鑑別をたてながら、患者さんにどのように説明するのかということをテーマにしてみました。

いろんなご意見をお待ちしております。あのお・・・地雷にはこだわらずに普通に考えていただいてけっこうです。

(4月29日 記)

たくさんのコメントありがとうございます。ほぼ全員の先生から、「うつ」の可能性のご指摘をいただきました。たしかに、それはあると思います。ですが、私が、この症例から伝えたいと思ったことは、「うつ」の指摘ではありません。キーワードは、機能的疾患。 そして、そのことを念頭に置いた病状説明です。

とりあえず、症例を続けみます。

K医師は、Hさんにこう告げた。
「確かに、胸部の痛みが悪くなっているようですね。こういうときは、気分がどうしても落ち込むものです。そうするとまた、痛みを感じやすくなってしまいます。悪循環が生じちゃうんですよね・・・・・。んん・・・、一度、お困りの胸痛の問題を、心身両面からアプローチするのが得意な内科の先生に診てもらうのも、一つの手かもしれませんね。今日の処は、様子を見ていただいて、次回の定期診察のときに、主治医とご相談ください。カルテには、その旨きちんと書いておきますから」

Hさんは、K医師の言葉を聞いてやや安心した。そして、その指示に従った。

K医師はカルテに次のように記載した。

#1 安静時胸痛の増悪、薬の効果乏しい
      ⇒ NCCPとして胸痛を鑑別する必要あり
        (注:NCCP non-cardiac chest pain
#2 うつ状態の合併の可能性
      ⇒#1の増悪因子となっている可能性あり

○○先生へ
#1、#2の問題があるようです。Q大心療内科への紹介はいかがでしょうか?

数日後に、これを見た主治医は、Hさんと相談のうえ、Q大心療内科を紹介受診することとなった。そこで、入院の上、精査。結果、入院後の24時間食道内圧、pH同時測定検査にて、有症時に食道内圧高値を認め、その波形から、胸痛の原因は、びまん性食道痙攣(DES diffuse esophageal spasm)と診断された。また、面接と心理テストなどから、軽症うつ病の合併も認められた。 患者には、入院中の時間をかけた説明を通して、胸痛は心臓や消化管の器質的疾患ではなく、食道の機能異常、つまり機能的疾患であることを理解してもらった。この病態説明による保証と亜硝酸薬、抗うつ薬の内服開始開始により、諸症状は劇的に改善した。

いかがでしょうか?

ネタ元は、胸痛診療のコツと落とし穴 中山書店 P34 食道機能障害による胸痛の実例と治療ポイント(九州大学 心療内科 久保千春教授) からでした。 注:症例は一部改変してあります

なお、NCCPの鑑別疾患については、心療内科 初診心得 中井吉英 三輪書店 P170に次のように書いてあります。 (リンク先は、上から5段目の心身医学の欄の中からこの書籍の選択ができます)

1.食道
 1)びまん性食道痙攣
 2)Nut-Cracker esophagus
 3)GERD
 4)食道アカラシア
2.胃・腸管
 1)空気嚥下症
 2)脾彎曲症候群
 3)肝彎曲症候群

NCCPの各論よりも私の言いたいことは、次の2点です。

■器質性疾患が否定的なとき、つい心の問題のみに走ってしまわないでしょうか? 
■機能的な疾患を疑うという視点をつい忘れがちではないしょうか? 

こんなことを自戒をこめて言いたかったのです。

次に、P先生のコメントを引用させていただきます。

こういう患者さんをご紹介いただくとき、内科の先生方にお願いしたいのは、すっぱり精神科に送るのではなく、いっしょに診ていく、という姿勢を患者さんに示してほしい、ということです。
「検査をしましたが、異常ありませんでした」ではなく、
これまでの検査では、異常が見つかりませんでした(今後も必要に応じて検査をいたします)」というご説明をお願いします(実際にもこちらが正しいですよね)。
精神科では、
「痛みの原因は実際にあって、それが
今の検査では見つけられない、ということかもしれません。ただ、この外来では原因よりも痛みを和らげる方法を考えましょう」というアプローチをします。

患者さんがお感じなる痛みを否定しない、患者さんとともに考えるという姿勢を示す・・・・・・
とてもすばらしい御指摘だと思いました。 いつもこのような説明をすることができる自分でありたいものです。お題であったどのような説明とは、まさにP先生のような説明ということになるかと思います。

体は、内科。心は、精神科。 こんな風に、完全二分化してしまうと、その狭間に落ちる患者さんが必ず出てしまいます。 器質的疾患と精神疾患の間で、機能的疾患のことを考える視点が、このような完全二分化を避けえることに少しはつながらないでしょうか? もちろん、身体面と心理面の両者を上手く扱って患者を診察する専門家が、心療内科の領域だと思います。心療内科≒精神科と思われがちですが、これはちがいます。心療内科≠精神科、心療内科⊂内科 というご理解をしていただきたいです。
もう少し詳しく知りたい方へ⇒心療内科は誤解されています

ということで、原因のよくわからない身体症状に出くわしたら、心の問題に視点をあてるだけでなく、機能的疾患に視点をあてる目を、普段の日常診療から養っておきたいものだと私は思います。

まとめます。

本日の教訓
機能的疾患は?という発想も大事です

一見地雷的でない地雷症例 [救急医療]

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世の中、いろんな患者さんがいる。 そんな中、最初の見た目と最後の結果とのギャップに驚かされる患者さんも、ときに存在する。 例えば、ある60台の開腹手術歴のある男性、激烈な腹痛で救急車で来院した。 膨満した腹部は堅く、腸音も減弱していた。 

「絞扼性イレウスだ! やばい!」

と我々医療者側が緊張に包まれた。 

そして、我々の印象を確定するために種々の検査が始められた。

だが、我々の緊張は、いい意味で裏切られた。

患者は、なんと尿管結石だったのだ。イレウス確診のために撮りにいった腹部CTで、しっかりと膀胱尿管移行部に石が移っていた・・・・・。全くの想定外だった・・・・・。

結局、わずか数時間で患者の痛みは完全軽快し、何事もなく帰宅していった。

こういう症例が、一見地雷的、でも結局地雷でない症例なのだ。

では、その逆はどうだろうか?

つまり、一見地雷的でない地雷症例だ。 こちらの方が、現場としてははるかに怖い

本日は、そんな症例を皆様と共有してみたいと思う。そして、後半は、私見ではあるが、ある視点から患者を眺め、私なりの考察を加えてみたいと思う。

では、お題です。

症例1  51歳男性  右前胸部のピリピリ感

生来健康。当院は初診。19:30頃より、右前胸部のピリピリ感と気分不良が出現。軽い吐き気も伴った。市販の胃薬を服用したしたが、改善しないため、21:05、長男が運転する車で、当院を独歩受診。来院時、意識 清明。 バイタルサイン BP 118/75 HR 65 KT 35.3 RR 16 SpO2 99%

症例2  54歳男性   ふらつき、めまい

生来健康。当院は初診。昨日、21時ごろ、入浴中にふらつき感が出現した。軽い嘔気と発汗を伴ったとのこと。30分ほどで軽快し、そのまま昨日は早めに臥床したとのこと。本日、朝、軽いめまい感とふらつきがあったものの、いつもどおり出勤した。 仕事中も、ふらつき、めまい感が持続していた。 胸痛は背部痛は、いっさい感じなかったとのこと。 ただ、症状が持続するので、さすがに仕事を早めに切り上げて、18:30 当院時間外来を独歩受診。来院時、意識清明。バイタルサイン  BP 81/55 HR 45 KT 36.3 RR 18 SpO2 98%

2例とも、一見すると、まったく重症感がありません。 が、同じ疾患でした。

さて、どんな地雷を想定しますか?

(4月25日 記)

たくさんのコメントをありがとうございます。今回は、皆様方のご指摘がほぼ一点に集まっていたように思います。この2症例は、見た目は、本当に本当に本当に地雷的でなかったのです。そのあたりがなかなかネットでは伝え切れません。で、その地雷疾患ですが、それは皆様のおっしゃるとおりで、ECGを見ればすぐわかる疾患でした。 これです。 

図2.jpg

これは、症例1のものですが、症例2もこんな感じだったので割愛します。 そう、STEMI(ST上昇型心筋梗塞だったのです。症例1は、予診の段階で看護師が心電図をとってくれ、担当医もすぐにSTEMIと気が付いたので、後の段取りは、完璧でした。でも、担当医は、とても不思議がってしました。

「こりゃあ、最初の心電図がないと、帯状疱疹と思っちゃうよ?なんでこんなに重症感がないのよ???」

と。最初に示した嘔気などの病歴は、後から結果を知った上での問診です。 予診の段階で、本人の口からでた言葉は、「右胸のピリピリ感」だけだったのです。

症例2は、低血圧、徐脈というバイタルのため、看護師がすぐに心電図をとったにも関わらず、担当医は悩みました。病歴がSTEMIとはあまりにもかけ離れていること(担当医が積極的に胸部症状を聞いても本人から何一つないという)、本人の見た目がとにかくシックでない、ならば、この人の心電図のST上昇?は正常亜型である早期再分極のパターンなのか? 等等の迷いです。結局、脱水???として、しばらくの感(約30~40分)、担当医の頭を悩ませ続けました。そのうち、採血のデータから、心筋梗塞逸脱酵素の上昇(CPK、CKMB、AST、LDHなどの上昇とTnT強陽性)が判明し、ようやくここで、担当医もSTEMIと確信して、循環器内科医が呼ばれたのでした。 

症例2を振り返れば、「対応が遅かった」と非難されるパターンです。なにせ、12誘導心電図という動かぬ証拠があるのですから。

だけど、非難する人たちには、言葉だけで伝えきれない「重症感のなさ」というものを、どれだけわかってくれるでしょうか?これは、何も証拠を残すことができないのですから。

つまり、症例を振り返るということは、一部の言語や検査結果という後に伝えることの出来るだけの一部の情報だけでしか行えないのです。診療を後から振り返る人達には、こういうこともわかっておいてほしいです。つまり、

「自分は症例のことをほんの一部しか知らない」という自覚です。

そんな自覚をもつことが、「後だしじゃんけん」の理不尽な批判を、自分が無意識のうちにしてしまわないという一つの方策となると私は思うのです。症例を振り返るとは、こんな難しさもあるのです。

症例2は、症例1よりも胸部症状に乏しい症例でした。おそらく発症は、前日の入浴時で、STEMIを発症しながら、翌日に仕事に出て行くという荒業をやり遂げています。眩暈感は、徐脈と低血圧による脳血流低下によるものと考えると話が合うと思います。

二人とも、糖尿病などの指摘はありません。なのに、なぜ、痛みをあまり感じず、自ら訴えないのでしょう? 私の疑問はそこにあります。

こんなことを考えました。

お二人とも、家族の大黒柱として働かないといけない年齢層です。様々なストレスに曝されているであろうことは、十分に想定できます。だけど、彼らは、生きていく中で、そのストレスに適応して生きていかざるを得なかったのはないでしょうか? 

ストレスは、時に身体症状として、我々にメッセージを送ってくれます。 いわゆる、サーモスタットとしての役割です。中には、この身体症状への気づきが鈍いかたもおられます。そのような方々を心身医学領域では、アレキシソミア(失体感症)と呼んでいます。

この二症例の方々は心筋梗塞を発症しているにも関わらず、痛みを初めとする身体症状に乏しかった理由に、このアレキシソミアが関係しているのでは?と私は考えてみました。

こういうことは、結論を出すのは難しいと思うので、もうこれくらいにしておきますが、時間外診療で、地雷を回避する術としての予備知識にはなると思います。つまり、

「痛みを初めとする諸身体症状が、失体感症によりマスクされることがある」

という認識を持っておくことが、諸検査を有用にかつタイミングよく使うことにつながると思うからです。

まとめます。

本日の教訓
重症感のないSTEMIの患者に注意!

開業医も遭遇する地雷 [救急医療]

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???

最近、こんな本が出版された。 誰も教えてくれなかった診断学 野口善令 福原俊一 医学書院 

私が、このブログ上で書いている診断の話とかなりの共通点がある。それは、当たり前といえば当たり前だが、この本を読んで私が新鮮だと思ったのは、鑑別診断をたてるプロセスを「カードを引く」という例えで、わかりやすく表現していることだった。 そのカードには、インデックスがついており、どういうインデックスを考えるかでカードの中身が変わってくるというわけだ。 正しい診断に早く正確にたどり着くためには、効率的なインデックスをどう考えるかが重要だなどと解説されている。

たとえば、頭痛というインデックスがついたカードを引いてきても、そのカードに書いてあるリストは、膨大すぎてつかいものにならない。

ところが、突然発症の最悪の頭痛で、嘔吐と軽度の意識障害をともなうもの というインデックスをつけたカードを持ってくれば、そのカードには、クモ膜下出血が筆頭にあげられていて、そのリストの数もそう多いものではないことがおわかりいただけると思う。

つまり、初療の段階では、どういうインデックスを立てるのかという、思考プロセスがとても重要となってくるわけだ。

じつは、私もこのブログ上で同じようなことをすでに述べている。 

これらのエントリーである ⇒ いけてる問診(4) 突然発症という病歴

また、この本の後半には、2x2表を使った診断確率の計算の解説が載せられている。
私のサイトのこの部分を併用して、この箇所は眺めていただくとよりわかりやすいかもしれない。
なんちゃって救急医の物置場

というわけで、本日は、こんな症例を通して、こんなカードもあるんだということをお届けしたい。l

症例 23歳 男性 (Aさん)  全身倦怠感 咳 嘔吐

元来、健康。既往歴に特記事項なし。二日ほど前から、全身倦怠感、咳、嘔気、嘔吐が出現するようになった。そのため、午前9時頃に、自分一人で、開業の内科医O先生のもとを訪れた。

O先生 「Aさん、どうぞ」
Aさん 「はい」  

Aさんの足取りや顔色から、O先生には、それほど苦しそうな状態には見えなかった。
診察室の椅子に普通に腰掛けた状態で、O先生の問診が始まった。

O先生 「どんな感じですか?」
Aさん 「 二日前からしんどいんです・・・・・ (上述のような症状を言う)」
      それと昨日体温を測定したら、37.5度ありました。」

O先生 「咳はどんな感じですか?」
Aさん 「夜がしんどいです。喘息の発作なんでしょうか? 痰はありません」
     「関節痛もあったし、のども痛かったです」

O先生 「頭痛、腹痛、胸痛はどうでしょうか?」
Aさん 「いえ、それはとくにありません」
     「ただ、少しお腹が張った感じがします」

O先生は、患者の身体診察を始めた。 

169㎝,76㎏  意識 清明  バイタル BP 106/72 HR 89 整 SpO2 97 KT 36.8。
扁桃の軽度発赤と軽度の腫脹を認めた。口腔内はやや乾燥気味。胸部は特に問題なし。腹部は、やや膨満気味。腸音やや弱い。腹部の圧痛はない。そのほかは特記すべき身体所見はなかった。

Aさん 「どうでしょうか? 風邪だとおもうんですけど」
O先生 「う~ん、うちでは検査がねえ・・・。 検査できるところへ行きますか?」

Aさん 「それよりも、風邪が早く直る注射をしてください。」
O先生 「そんな便利な魔法の注射は存在しないよ。でも、水分補給の点滴をしておきましょう」

患者は、2時間ほど、その医院の隅で、ビタミン剤入りの点滴を受け、感冒薬の処方を受け取って、一人で帰宅していった。

その翌日の朝、O先生に、電話が入った。なんと警察からだった。

Aさんが、自宅で倒れているところを家人に見つけられ、救急病院で死亡が確認されたとのことだった。O先生は、警察から、いろいろと昨日の診療について聴取をされるはめになってしまった・・・・・。

開業医の先生にとっては、こんな経過なんて想像もしたくないことだと思います。まず、こんな経過をとりうる地雷の代表格として劇症型の心筋炎はひとつあるでしょう。ただ、今回の地雷は、心筋炎は想定していません。

地雷を探知するのに、有用な病歴をとることは重要です。そのことに、開業医の診療環境でも、救急病院の診療環境でも全く差はありません。 

実は、上記の臨床経過、あえて、超重要な病歴を意図的に抜いて記載しています。

さて、どんな地雷が隠れていて、どんな重要な病歴が抜けているのでしょうか?

(4月15日 記)

コメントありがとうございます。 pulmonary先生、moto先生、DM医先生にご指摘いただきましたとおり、今回の地雷は、劇症Ⅰ型糖尿病でした。したがいまして、意図的に抜いた病歴は、口渇でした。 今回のネタは、先日東京で行われた内科学会の中での教育講演で花房教授をお話を聴講させていただいたのがきっかけです。 私は、それなりにはこの疾患の病態は知っているつもりでした。ところが、今回花房先生の講演を聞いて、私の認識の甘さを知らされました。こんなにまで経過が早いのか!という驚きでした。 

報道から引用します。

見逃すな「劇症糖尿病」/風邪に似た症状、膵臓の細胞破壊
短期間で合併症発症/予防は困難、まず診断
2007.10.29 河北新報記事情報 (全945字) 


 風邪のような症状や嘔吐(おうと)、腹痛などの後、インスリンを出す膵臓(すいぞう)の細胞が破壊されて急激に悪化し、治療を受けなければ死亡する「
劇症1型糖尿病」。2000年に日本の医師が専門誌に発表したこの病気は、合併症が短期間で出る可能性が高いことが分かってきた。だが、一般の医師に病気があまり知られておらず、依然として見逃されるケースがあるという。全身がだるいと訴える男性に、診察した開業医は精神安定剤を処方した。だが、男性は改善せず翌日、心肺停止に。命は取り留めたものの、血糖値が非常に高いことが分かり、劇症1型糖尿病と診断された。「最初にちゃんと問診すれば、のどが渇いて大量の水分を取るなど糖尿病の兆候が分かり、血糖値を調べれば診断できたはずだ」。花房俊昭大阪医大教授(内科)は指摘する。原因不明で死亡した後に、解剖で高い血糖値が判明、この病気と考えられた人もいたという。花房教授らは、1型糖尿病の中に数日で悪化する劇症タイプを見つけ発表。日本糖尿病学会は04年に、可能性がある患者と判断するスクリーニング基準と病名を確定する診断基準を、それぞれ定めた。糖尿病の0.4%、数千人の患者がいるのではないかという。その後の研究で、神経障害、網膜症、腎症などの合併症が5年以内に起きる人は、通常の1型糖尿病では5%未満なのに対し、劇症型では25%に達することが判明した。生活習慣病とされる2型糖尿病では、合併症は10-20年後に起きるのに比べると、非常に早い。劇症型では、特定の白血球の型の人が多いことも分かってきた。花房教授は、何らかのウイルスが膵臓の細胞に感染し、自分の免疫細胞がウイルスだけでなく膵臓の細胞を壊す過剰反応が原因と推定する。ウイルス感染や膵臓の炎症によって風邪症状や腹痛などが起きるとみられる。ただ予防は難しい。「診断さえつけば、脱水状態の改善とインスリン投与で治療できる。できるだけ早く見つけることが重要で、医師の責任は重い」と花房教授は強調する。一般の人は、一晩に数リットル以上の水分を取るような異常なのどの渇きがあれば、医師の診断を受けるべきだという。
河北新報社

この報道にある専門誌というのはこれです。 New England Jounal of Medicineという超一流の医学誌です。

Volume 342:301-307 February 3, 2000 Number 5

A Novel Subtype of Type 1 Diabetes Mellitus Characterized by a Rapid Onset and an Absence of Diabetes-Related Antibodies

Akihisa Imagawa, M.D., Toshiaki Hanafusa, M.D., Ph.D., Jun-ichiro Miyagawa, M.D., Ph.D., Yuji Matsuzawa, M.D., Ph.D., for The Osaka IDDM Study Group

ABSTRACT
Background and Methods Type 1 diabetes mellitus is now classified as autoimmune (type 1A) or idiopathic (type 1B), but little is known about the latter. We classified 56 consecutive Japanese adults with type 1 diabetes according to the presence or absence of glutamic acid decarboxylase antibodies (their presence is a marker of autoimmunity) and compared their clinical, serologic, and pathological characteristics.
Results We divided the patients into three groups: 36 patients with positive tests for serum glutamic acid decarboxylase antibodies, 9 with negative tests for serum glutamic acid decarboxylase antibodies and glycosylated hemoglobin values higher than 11.5 percent, and 11 with negative tests for serum glutamic acid decarboxylase antibodies and glycosylated hemoglobin values lower than 8.5 percent. In comparison with the first two groups, the third group had a shorter mean duration of symptoms of hyperglycemia (4.0 days), a higher mean plasma glucose concentration (773 mg per deciliter [43 mmol per liter]) in spite of lower glycosylated hemoglobin values, diminished urinary excretion of C peptide, a more severe metabolic disorder (with ketoacidosis), higher serum pancreatic enzyme concentrations, and an absence of islet-cell, IA-2, and insulin antibodies. Immunohistologic studies of pancreatic-biopsy specimens from three patients with negative tests for glutamic acid decarboxylase antibodies and low glycosylated hemoglobin values revealed T-lymphocyte?predominant infiltrates in the exocrine pancreas but no insulitis and no evidence of acute or chronic pancreatitis.

Conclusions Some patients with idiopathic type 1 diabetes have a nonautoimmune, fulminant disorder characterized by the absence of insulitis and of diabetes-related antibodies, a remarkably abrupt onset, and high serum pancreatic enzyme concentrations.

さて、ここで提示した症例ですが、実はある訴訟症例の判決文を元に創作した物語でした。判決文の中で、患者の死因の可能性の一つして、この劇症Ⅰ型糖尿病が挙げられていました。しかし、劇症Ⅰ型糖尿病は、まだ報告された直後で、広く多くの医師に知れ渡るものではないという裁判官の判断で、予見できなくても無理はないという判断となっていました。さらに、患者側の自己責任的な要素もあり、医師側勝訴の判決が出ている裁判です。(大阪地方裁判所平成16年 第9561号損害賠償請求事件 平成18年3月15日判決)

ただし、今後、このような症例が、訴訟まで進んだとき、裁判官がどのような判断を下すのでしょうか? 心配です。

さて、花房先生が、講演の最後に、この疾患を見逃さないためのTipsをご紹介してくださいましたので、それをここでも紹介します。(参考:日本内科学会雑誌2008 第97巻 P108)

1)感冒症状、腹痛などで発症することが多い
2)風邪や胃腸炎と思っても口渇の問診
3)尿糖と尿ケトンがともに強陽性であれば、Ⅰ型糖尿病を強く疑う
4)次に血液検査(血糖値、HbA1c)は必須
5)血糖値が高いのにHbA1c≦8.5%なら、劇症Ⅰ型糖尿病を強く疑う。直ちに入院治療
6)グルコース入りの点滴は死を早める!

ほんとうに怖い病気ですね。でも、医師として救命のしがいのある病気でもあります。

最後にこんなカードを作ってみました。まとめの代わりとさせていただきます。
コピー ~ 図1.jpg


あなどれない頭重感 [救急医療]

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??

ぼんやりと頭が重い。肩もこる。疲れ気味だ・・・・・・。 こんな不快な症状に悩まされる人も多いと思う。しかし、わざわざ病院にまで足を運ぶ人は少数派かもしれない。いわゆる緊張型頭痛だ。頭痛の中で、最も多いタイプだ。 

しかし、いったん、「頭重感」という主訴を持って、病院を正式に受診すれば、私達は、気軽に緊張型頭痛として手短に診療を終わらせるわけにはいかない。 

慎重な問診、慎重なバイタルサインの解釈、慎重な身体診察、そして慎重なCT読影だ

100人の頭重感の患者を、適当なざる診察をしても、98人は、大丈夫であろう。しかし、その診療で見逃された2人の中には、恐ろしい転帰をとる地雷疾患も紛れている。

慎重な診療は、そういう2人を拾い上げるために、行うのだ

こういう努力は、なかなか、患者側には伝わりにくい。したがって、メディアも報道してくれない。
このブログのエントリー一つ一つがそういう一医療者の努力と受け取っていただくとブログ管理者としてはありがたい限りである。

医療に限界は、存在する。 だから、こういう努力をしても、不幸な転帰をむかえる人は必ず出てしまう。

残念ながら、それは事実だ。だから、国民一人ひとりが、日ごろから、運命を受け容れることができるように心の準備をしておいてほしい。どういうわけか、国は、そういうことは、決して言わないので、せめてこのブログでは言っておく。 何でも、人のせいにする国民性が、今あるとすれば、それこそが、医療崩壊の元凶であろう。

人は、死亡という結果から、時をさかのぼって考えようとする性からどうしても脱却できない悲しい習性がある。だから、たださえ、わかりにくい医療者の努力は、なかなかわかってもらえずに、あるいはわかろうとせずに、ひたすら何かミスがあったのではないかと勘ぐられ、そして訴訟へ発展していくのだろう。

普通に、医療を行ってるものから見たら、本当に逃げ出したくなるほどの悲しい現実だと私は感じる日々である。

では、本日の症例にそろそろはいります。

42歳 女性   3日続く頭重感

元来健康。3日前、出勤前に頭痛を感じたが、その日はそのまま出勤した。同日、夜、自宅で入浴中に気分不良あり、嘔吐一度あり。2日前は、朝から、頭重感は残っていたものの、その日もそのまま出勤した。
本日も同様であったため、仕事を終えたその足で、当院の夕診を初診で受診した。

来院時 バイタル  血圧 152/100 脈85 呼吸数14 体温36.4  
     意識 清明  身体所見 特記事項無し。

担当医は、緊張型頭痛だとは思いつつも、救急部の上司から、頭痛の怖さの話を聞かされているため、念のためにCTをとった。これである。
図2.jpg

さあ、この患者さん、どうしましょう? (4月9日 記)


(4月11日 記)

コメントありがとうございます。側脳室の白いハイデンシティの部分を出血と読めるかどうかが第一関門です。まさに、皆様のご指摘の通りです。では、これが出血だとしたら、病態は?と考えるのが第二関門です。病歴がかぎになります。

ポイントは、3日前の発症でした。

3日前に、何らかの基礎疾患(動脈瘤、脳動静脈奇形(AVM)、もやもやなど)をベースにくも膜下出血(SAH)を発症したと考えてみましょう。その直後であらば、その出血量にもよりますが、CTで一番出血を検出できる可能性が高いと思われます。しかし、時間が経つにつれて、髄液循環によって、最初の出血はwash out されていきます。再出血がなければ、ついには完全にwash outされてしまうでしょう。そうなった後にCTをとっても正常所見ということになります。

今回撮ったCTの写真は、一回目の出血がほとんどwash outされていて、たまたま側脳室にごく少量の血液が残存していたのでしょう。

このような病態仮説を立てると、この患者は、SAHを最も想定しないといけないということになります。

さて、SAHの地雷的な怖さは何だったでしょう? それは、このエントリーでした。SAH再出血の怖さ

ということで、この患者さんは、脳神経外科に直ちにコンサルトするとともに、髄液検査が試行されました。
結果、血清の髄液でした。 そのまま脳神経外科へ緊急入院となりました。

古い症例で、SAHをきたした疾患の最終確定診断が何であったを、フォローすることができませんでした。申し訳ございません。

SAHの怖さが、これから新たに時間外診療に出て行く先生方へ少しでも伝われば幸いです。それが、今回のメッセージです。

こんな記載もあります。ご参考ください。

ER流研修医指導医 まる秘心得47 加藤博之先生著 P90~91に、本日のエントリーの主旨と関連することが述べられている。第4脳室部分にHDAがあり、あたかも小脳内のごく小さな血腫と見間違いそうなCT像をみて、ある研修医が、これを軽い脳出血と診断しそうになるというエピソードが紹介された後、加藤先生ははこうまとめている。以下に該当部分を引用。

「チョー軽い」脳出血がくも膜下出血
その心は、CT上の血腫は、確かに小さいものですが、これは正確には血腫ではなく、第Ⅳ脳室内の出血です。このような場合には、出血の原因として動脈瘤破裂、脳動静脈奇形破裂、椎骨脳底動脈系の動脈解離などが考えられ、今後急激に悪化する可能性も否定できません。直ちに脳神経外科医に相談すべき疾患であり、脳神経外科医は上記のような疾患を考えて緊急で血管造影をする場合が多いと思います。CT所見が激しくないからといって、決っして、”かわいらしい”などと侮ってはいけません

もし、今回のような緊張性頭痛とまぎらわしい病歴でやってきたがために、帰宅の転帰となって、直後に自宅で再出血を起こして死亡したら、今の日本ではどんな評価がなされるのでしょうね? 

これは医療事故でしようか?それとも患者の運命でしょうか?

こういう症例が、これから設置されるであろう国の調査委員会でどう評価されるかが、興味あるところです。後知恵バイアスのことを自分自身になんら意識しない人が、評価者であったならば、「これはわかったはずだ、回避できたはずだ」といって批判するのはないでしょうか? 厳しい人ならば、「CTの出血を見逃したのだから、著しく標準から外れる医療だ」と言う人もいるかもしれません。もし、私が評価者の立場になったら、あくまでこのケースは診断困難な非典型な症例だったので、仕方がなかったという判定をくだすような気がします。なぜなら、病歴と来院の仕方がが非典型だからです。 おそらく、こういう事例は、評価者間でそうとう意見が割れるのではないでしょうか? きっと真実はだれにもわかりません。そもそも、真実って何よ?と感じるのは私だけでしょうか?そうして、結局は再発予防として、「CTのダブルチェックを」とかいうありきたりの結論がでるのでしょう。 医療のニーズと、提供のリソースには、物理的に大きな解離があるにもかかわらず・・・・・・・。

私は、そう感じます。

CT読影がからむくも膜下出血死亡事例の報道記事です。

200X.XX.XX 夕刊 夕社会 (全628字) 
くも膜下出血見逃し死亡 昨年2月 ○○○病院 CT画像を誤診

○○大は十九日、○○○病院で記者会見し、昨年N月にコンピューター断層撮影(CTスキャン)の頭部画像を誤診した医療ミスで、○○県内の三十歳代男性患者がくも膜下出血で死亡した、と発表した。会見した△△副学長と□□病院長の説明によると、男性は昨年N月上旬の午後十時ごろ、頭痛や吐き気を訴えて救急外来で来院した。当直の内科医師がCTスキャンを実施。
実際は、くも膜下出血が発生していたものの、風邪薬などを処方するにとどまった。男性は三日後と同月中旬にも内科系の診療科に来院したが、いずれも鎮痛剤などの処方だけで帰宅させた。三回目に来院して帰宅した夜、心肺停止状態で同病院高度救命救急センターに運ばれ、一時間後に死亡したという。その日の救命措置時のCTスキャンで、くも膜下出血を確認した。○○○病院は患者死亡後に医療事故調査委員会を設置。診療記録を調べた結果、初診時のCT画像で既にあった出血を見落としたことや、再診時でも脳神経外科や脳神経内科の専門診療科に引き継ぎしなかったことが、患者の死亡に結びついたと結論づけた。○○○病院は医療ミスを認めて遺族に謝罪、既に示談が成立したという。△△副学長は会見で「深くおわび申し上げる。全職員を挙げて再発防止に努める」と陳謝した。
XX新聞社

記事では、あっさりと次のように書いてありますが・・・・・

実際は、くも膜下出血が発生していたものの
初診時のCT画像で既にあった出血を見落としたこと

我々現場のものからしたら、これがどの程度のものであったがすごく気になります。 例えば、今回私が出したような所見のパターンでさえ、報道では、こう書かれてしまいそうな気がしています。

ほんとうに医療者が、とんでもない見落としをしていたかどうかは、結果を知らない複数の医師に、診療状況と画像だけを見せて、どのように結果の解釈が分布するのかを統計的感覚でしらべないと、上記の記事が適切な表現であるかどうかは、私には判定できません。

でも、ほとんどの人は、この記事の表現なら、「この医師の能力が低いので見落とした」と解釈するのではないでしょうか?

まとめます。

本日の教訓
出血がwash outされていく過程をイメージしながら、CT画像を眺めると、再出血前のSAH患者を診断できるかもしれない

肺炎といえども [救急医療]

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本日は、クイズ形式の症例提示は無しです。

時間外診療で、肺炎の患者さんと遭遇することは多い。元気で健康な人の肺炎から、高齢者で施設などで寝たきりの患者さんの肺炎まで、その種類は、様々だが、入院を扱う急性期病院の時間外診療の場では、まさに日常そのものだ。

通常、肺炎の診断にはそれほ難渋することはない。発熱、咳などの症状があり、胸部レントゲンでとると肺炎の影を認めれば、診断がついてしまうからだ。(もちろん、例外的な症例や微妙な症例は多数ある。)

診断がついたら次にすることは、外来加療でいくか入院加療でいくかを総合的に考えることになる。総合的に重症度を考えたり(A-DROPなど)、細菌性か非定型などを考えたり、時には特殊な肺炎を考えたり・・・・
まあ、そんなことを考えながら、大まかな方針をまず決めていくのだ。

時に、肺結核の患者さんが混じってくることもあるのが、地雷的といえば地雷的かもしれない。そのためには、痰の検査が重要である。注意深い病歴も時にきっかけとなることもあり大事である。また、肺炎の中に肺ガンが隠れていることもありそれも要注意だ。

まあ、それでも、現在の日本において、診断のはっきりしない胸痛、腹痛、背部痛に比べると、地雷性がずいぶんと低いといえる「肺炎」という病気ではあると思う。

とはいうものの、数年前のSARS騒動を思い出せばわかるように、いつ、肺炎が恐ろしい地雷疾患となって、我々の前に猛威を振るう疾患となりえる可能性は否定できないが・・・・・。

そんな肺炎でさえ、容赦なく訴訟は存在するようだ。今日は、そんな報道記事を二つほど紹介する。

法廷=死亡の患者遺族が病院提訴-S地裁
199X.XX.XX 朝刊 23頁 (全527字) 
夫が死亡したのは病院が
肺炎にかかっていたのを見落としたためとして、F市の妻(73)ら遺族がN日までに、I郡F町のK病院を相手に合わせて約二千二百万円の損害賠償を求める民事訴訟をS地裁に起こした。訴えによると、死亡した男性は平成X年Y月2日の日曜の昼すぎ、救急外来でK病院を受診し、発熱や不整脈などの症状を訴えた。対応した医師は体温や脈を測り、脳CTや心電図を取るなどしたが、聴診や胸のレントゲン写真の撮影はしなかった。男性は異常がないとしていったん帰宅したが、容体の悪化で午後七時に再び救急外来を受診し、重症の肺炎と診断されて緊急入院。十八日に死亡した。遺族側は「病院は最初の受診の際、七十九歳という年齢や訴えから肺炎などの呼吸器系の病気を疑う注意義務があった。最初から必要な処置をしていれば死亡しなかった」と主張し、慰謝料などの支払いを求めている。訴えに対し病院側は「訴状を見ていないのでコメントできない」としている。            S新聞社

いやあ、この時間関係で、訴訟ですか・・・。正直たまりませんね。私達の戦略としては、一回帰宅してダメなら、再来して再評価するということは、よくやる手です。この訴訟事例の時間的経過では、そういう戦略であった可能性もあります。記事に書いてあることを真に受ければ、「聴診」をしなかったというのが、家族側の心証を悪くしたのかもしれませんが。 このケースは、最初に入院しても結果は同じであったと私は思います。
ちなみに、このケースは、後日和解となっており、裁判所は、診療と死亡の因果関係には言及しておりません。

誤診で65歳女性死亡 病院は4300万円支払え 地裁判決=T
200X.XX.XX 朝刊 31頁 (全433字) 
K町の医療法人「S内科」で入院中の妻(当時六十五歳)が死亡したのは、主治医が
急性心筋炎の症状を見逃した誤診が原因として、夫ら遺族四人が同病院を相手取り、慰謝料など約五千五百万円の損害賠償を求めた訴訟の判決がX日、地裁であった。M裁判長は「適切な治療を受ける機会を与えていれば、助かった可能性は高い」として、同病院に約四千三百万円を支払うよう命じた。判決によると、妻は一九九X年X月六日、同病院で吐き気や呼吸困難などを訴え、医師が初期の肺炎と診断。同日、妻は入院したが、点滴を受ける度に吐き気を訴え、翌日から血圧が急激に低下、入院から四日後に死亡した。判決で、妻の血液検査から、急性心筋炎にかかり、低血圧による心原性のショックで死亡した可能性が高いと認定。M裁判長は「肺炎では説明のできない症状や、他の疾病と合併していた可能性を疑わせる症状が多数出現していた」と指摘した。S院長は「今後の診療の教訓として厳粛に受け止めたい」と話している。

劇症型心筋炎の経過ですね。心筋炎は、ほんとうに怖い病気です。患者さんの運命であったと思います。おそらく救命不能であった可能性が高いと私は思います。
なのに、こんな経過で、

適切な治療を受ける機会を与えていれば、助かった可能性は高い

こんなことを言う日本の裁判システムに私は失望します。

初期の段階で、 うっかりと「肺炎」などと断定的言ってしまうと、その後の経過が悪くなってしまったとき、このようなパターンで、誤診だと言って、相手から責められてしまう可能性があるということです。

「肺炎だとは思うけれど、現時点では断定はできません。人間の体には、何が起きるか分かりませんから。だから、注意深く見ていきますよ」

こういうトーンで常に病状説明をしておくのが固いかもしれないですね。


地雷の香感じますか? [救急医療]

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 4月になった。 初期研修を終えて、いよいよ自分で全責任を背負った始めての時間外当直を経験するレジデントの先生方も今たくさんいらっしゃることと思う。そんな先生達へ、本日は、こんな症例をお届けしてみたい。

31歳 男性  両下顎痛

<問診>
健康な男性。既往歴にも特記事項なし。2日前まで、婚約者と国内旅行をしていた。 その婚約者は風邪気味であったという。昨日、昼頃より寒気を感じたが、激しく身体が震えるほどのものではなかった。その日の夕方、体温計で熱を測ると39.5℃であった。市販の解熱剤を飲んで、早めに就寝した。なお、頭痛なし、咳なし、のど痛なし、下痢なし、腹痛無し、側腹部痛なし、胸痛なし、呼吸困難なし、背部痛なし、排尿時痛なしであった。本日、朝午前6時ごろ、両下顎痛を自覚。30分ほどで軽快したとのこと。同日、午後14時ごろ、再度、両下顎痛が出現。今度は、自制内だが、痛みが持続するため、救急外来を15時30分に受診した。なお、虫歯の治療はうけており、最近とくに歯痛に悩まされていたことはない。

<身体診察>
バイタル KT 35.8 BP 132/87 HR 77整 RR<20 SpO2 99
意識 クリア。咽頭 軽度ほっ赤あり。 扁桃腫大なし。  耳下腺、顎下腺 腫脹、圧痛ともになし。 頚部リンパ節 触知せず。 甲状腺 圧痛、腫大なし。心音異常なし。肺音 正常肺胞音。

さあ、あなたの診察で、ここまではわかりました。時間外診療で使えるツールは、一般の採血、検尿、レントゲン、心電図、CT(造影も可)、心および腹エコー(ただし自分でおこなう)、インフルエンザ迅速、トロップ、Dダイマー。

問診、身体所見からの判断で、検査無しで様子もみるのもありかもしれません。

ですが、時間外診療は、常に地雷原を一人歩くようなもの。地雷探査機は、あなた自身の嗅覚とそれを補助する諸検査です。

あなたなら、次の一手をどうしますか?地雷の香を感じますか?

(4月2日 記)
たくさんのコメントありがとうございました。

先ずは、この患者の続きです。

担当医は、看護師の予診では、耳下腺が痛いとのことではあったが、自分の診察では、ムンプスでもなさそうだし、患者は元気そうだったので、検査をどうしようか?と少し悩んだが、インフルエンザの流行時期でもあったことから、インフルエンザ迅速検査を行うこととなんだかよくわからない患者の訴えだから、とりあえずルーチンの検査でもして、それらの結果を見てから、担当医は考え直すこととした。

検査結果がそろった。 
インフルエンザ迅速は、陰性。
Hb 15.2 PLT 22.1 WBC 12000 AST/ALT 78/34 ALP 145 LDH 350 AMY 25 GLU 110 BUN 10 CRE 0.65 Na 141 K 4.2 Cl 105 CPK 985 CRP 8.3

担当医は、想定外のCPK高値をはじめとするAMIパターンの異常値を見て、まさか!?と思いながらも、CK-MBとトロップ、そして12誘導心電図を確認した。

CK-MB 88  トロップ陽性

そして12誘導心電図がこれ。しっかりとST上昇を認めている。
図1.jpg

直ちに、循環器科の当直医が呼ばれた。心エコーでは、下壁の動きが悪かった。
年齢と病歴を鑑みて、AMIというよりむしろ急性心筋炎の疑いで、循環器科入院となった。緊急CAGを行うか否かについては、複数の循環器医による検討と家族や本人の希望をふまえ、まずは、データとバイタルの厳重な経過観察、状況悪くなりそうならば、直ちに血管造影で確認するという方針となった。

結局、その後状態が悪化することなく、保存的加療のみで、軽快退院となった。 

つまり、両下顎痛は心筋炎と関連した放散痛と考えることができると思います。

いかがでしたでしょうか? 血液検査をしなかったら、風邪でしょうねということで、きっと終わったことでしょう。 このような軽症の心筋炎の症例は、潜在的には結構いるのかもしれません。その心筋患者群の一部の方が劇症化の末死亡の転帰をとるものと思われます。 劇症化する人を早期発見し、救命につなげるためには、このような軽症例を拾い上げる診療体制が必要なのかもしれません。

とにかく、今回のケースは、血液データがアラームサインとして機能して、事なきを得ました。

このケースから教訓を引き出しておくとすれば、クーデルムーデル先生からいだきましたコメントがよろしいかと思います。

繰り返す痛みであり、しかも2回目は持続性ということもあり、両下顎痛は重要なサインと考えるべきと思います。臨床所見の情報からはまずは大動脈緊急症などの放散痛と考え、心電図と胸部レントゲンをオーダーします

日ごろの臨床で、放散痛に気がつけるかどうかは、地雷回避という意味合いにおいて、きわめて重要だと思います。

心筋炎という症例は、健常者のよくある風邪症状を呈する患者群の中から出てきますから、まさに地雷的なのです。 

過去の心筋炎のエントリーです。ご参考ください。
小児地雷:心筋炎の2例たかが風邪なのに・・・たかが風邪なのに(続編) あなどれない風邪

ほんとうに怖い病気で、いくら医療者が努力しても、勝てないことがある手ごわい病気であることも事実です。それでも、私達がお手伝いし、少しでも助けることができたらいいなあとは個人的に思っています。だからこそ、年度初めの今回のエントリーとして挙げてみました。

急性冠症候群と放散痛の関連については、ER・救急のトラブルファイル のP74 真実を知る歯から引用してみます。(要約のため一部短縮あり)

72歳の女性が歯の痛みを訴えて救急部を受診した。昨晩、この痛みで起こされたが、次第にひどくなってきていた。患者には高血圧と糖尿病の既往があった。バイタルサインは正常だった。打診で歯痛は起らなかったが、いくらか左の顎関節に圧痛があるようだった。痛みはどうも顎の開閉にいくらか関係しているようであった。救急医は、顎関節症候群か早期の歯感染と暫定的に診断をつけて、痛み止めを処方し帰宅させた。3時間後、患者は完全に心肺停止状態で救急部に搬送された。蘇生は成功しなかった。剖検では、心筋梗塞の所見が認められた。

大動脈緊急と放散痛の関連については、過去のこのエントリーから紹介します。  死の意味を考える  

以上のことから、放散痛は、 急性冠症候群、大動脈緊急、急性心筋炎 のいずれの地雷疾患でもありえるということです。特に、急性心筋炎は、元来健康な人でも十分起りえますから、年齢、性別、既往歴で、検査前確率を落とすことができないという点が、他の2疾患と決定的に異なります。この点をふまえて診療に望むかとが重要だと思います。今回の症例は、まさにそのことをお伝えするのに最適だろうと私は思いました。

まとめます。

本日の教訓
急性心筋炎も放散痛あり!健常者の放散痛にも注意!

腸炎?という触れ込み [救急医療]

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さて、本日は、前振りなしで、いきなり症例から入ります。

75歳男性  嘔吐、下痢

ADLは自立。高血圧で近医通院中。当院の受診歴はない。ある日の深夜午前1:30、そんな患者の受け入れ要請が入った。

救急隊「夜10時から、下痢が3~4回。0時から、嘔吐が5~6回です。
     バイタルですねえ・・・、血圧142/74、脈拍56、ルームでサチュレイション100です。
     意識クリアです。受け入れよろしいでしょうか?」

看護師「頭痛、めまいは、ありますか? 体の痛みをどこか訴えていますか?」

救急隊「頭痛、めまいは、ありません。 下腹部痛の訴えがあります。」

看護師 「つきそいの方はいらっしゃいますか? 当院の受診歴はありますか?

救急隊 「息子さんが同乗しています。そちらの受診歴はありません。」

看護師 「既往は何かありますか?」

救急隊 「近医で高血圧でかかっているそうです。その他は特にありません。」

看護師は、医師に確認を取って、この患者の受け入れを受諾した。


さて、この触れ込みから、どんな疾患を想定しますか?患者搬送前の頭の準備運動という気持ちをもちつつ、諸情報は救急隊からの生情報の段階であるということも考慮しつつ、考えてみてください。

もちろん、ピンポイントで疾患を当てろという意味ではありません。ただ、幅広く発想する柔軟性は重要かと思いましたので、このような形の提起としてみました。

なお、今回のテーマは、私自身学術的に興味があるところで、是非皆様の教えをいただきたいと思っています。

普通に考えれば、まず思い浮かぶのが腸炎のたぐいですよね。ところがどっこい・・・というのが本日の症例です。まさに現場の現実をお届けしています。

現場を体験しない方々から、後になってあれこれ注文や批判をつけられることが、どれほど現場に携わるものの心にマイナスに響くか・・・・。 多くの人にそのことを少しでもわかってほしいと思っています。

そのためには、こういう症例の存在を知っていただくのが良いと思っています。

(3月30日 記)

皆様、コメントありがとうございました。

あいまいな情報提示のみにもかかわらず、たくさんのコメントをいただきました。ありがとうございます。その中から、飛び切りのすばらしいコメントだと私が感じたものは、pulmonary先生の次のコメントです。

嘔吐の場合は特に消化器疾患以外から考えるようにしています。

私は、この事例の報告を受けたとき、ホットラインを最初にとる救急外来の看護師さんたちに、教育的意味をこめてこんなことを言いました。

「嘔吐+下痢の第1報だったら、嘔吐から先に注目してください。とりあえず下痢は無視してていいです。 嘔吐は、何でもありの症候ですから。だから、嘔吐がある人には、こちらのほうから、救急隊に、頭痛、胸痛、腹痛、背部痛、発汗などを積極的に質問しましょう。

ちなみに、消化器疾患とまちがえそうなAMIの話は、去年の夏にこんなものを書いています。
消化器疾患?実はAMI

さて、この患者さんの話に戻しますが、まず、結論からいきます。これです。

図1.jpg

最終結論は小脳出血です。驚きの方も多いかもしれませんが、事実です。

ですが・・・・、「下痢と脳出血や脳梗塞は何か関係があるのかもしれない??」・・・(*)

これが、私の学術的興味です。 なぜ、私がこんなことを考えるのか?

このブログの記念すべき第1エントリーをご覧ください。 医師を助けた看護師の一言
これも嘔吐+水様性下痢頻回の触れ込みで救急搬送された患者が、脳出血でした。

私が、研修医の頃、ERセミナーという毎週の症例検討会の中で、こんなことを教えてもらったことがあります。「腸炎と間違えるPICA梗塞があるから、気をつけろ!」 ※PICA:後下小脳動脈

しかも、今回の症例を担当した内科医師は、過去にも、下痢で来た人で小脳出血の人がいたと言っていました。

何か下痢と脳疾患に関係性がありそうだと思いませんか?

以上のような背景もあって、(*)が一体学術的どうなのだろう?という疑問を今もっています。
というか、調べたことが過去に一度あるのですが、類似報告を捜すことができませんでした。

(*)に関して、論文の有無とか、あるいは類自体験の例とか、何かありましたら、ご教示ください。

患者の話に戻します。 患者さんは、診断がつき次第、脳外科の対応できる病院へ転送させていただきました。基本的には、緊急脳疾患対象の患者は、救急隊による病院選定の段階で、当院は選ばれませんから、今回の症例は、ある意味、病院前トリアージの限界といえる症例です。 

医療の不確実性とは、こんなところにも存在しているのです。

この患者さんで、どうして頭部CTをとるに至ったのか? 診療を担当した医師から、私は直接に話を聞きました。この医師の話と救急隊の情報を突き合わせて、私が検証してみました。

1)意識レベル クリアという情報について
本人は、目をつぶっていた。 開眼すると気分が悪いと言っていた。眼振があった。 名前とかはちゃんと言えるが、語尾がちょっと?という印象だった。クリアとは言えないが、意識障害としてすぐにワークアップしようとまでは思わなかった。

結論: 救急隊の判断と医師の判断に若干の差異があった 

2)頭痛無し、めまい無しの情報について
本人は、「気分が悪い」というのが精一杯の状況だった。 とても患者が救急隊と会話したとは思えない。ただ、来院直後に頭痛がないとは言っていた。同乗の息子は、「下痢したあと吐き出したんです。頭痛とかめまいとはなかったです。」と言っていた。救急隊は、息子の情報をそのまま電話で看護師に送ったのではないか?

推論: 救急隊が電話で伝えた情報は、息子の情報であった可能性大。
     常に情報のソースを意識して情報の解釈に当たるのが重要。

3)下腹部痛について
たしかに、正中やや下腹部に、軽いが圧痛を認めていた。

推論: 腸管蠕動の亢進なのだろうか? 何か病態的につながるものはないのか???

とにかく、担当医師は、患者が到着した時点から、「何か違うなあ」という第1印象を持ったとのことです。
その印象は、耳鼻科的なめまいで、たまたま腸炎を合併しているのかなあ?とのことでした。

来院後、担当医は、めまいの点滴で様子を見始めました。
2時間くらいって、 「だいぶ楽になりました」と患者。
担当医の方針は、点滴によるめまいの改善がいまいちならば、CTをとる予定にしていたとのことでした。だから、この患者の発言を聞いて、帰そうかなあ?と考えてた矢先に、

今度は、「頭が痛い」と本人。

これを聞いた担当は、ここで、あわててCT。そして出血の診断。

こんな流れでした。

本人の申告がなければ・・・・・。危うく地雷を踏むところだったというわけです。

それにしても、小脳出血の患者は、悩ましい情報で来院することがありますね。このこのエントリーも御参考ください。 入院!と強く希望する家族     読み直して気がつきましたが、これも下痢がありますね。

まとめます。

本日の教訓
救急隊からの情報は、その限界を十分に知って診療に当たろう

(3月31日 記)


地雷遭遇確率 [救急医療]

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このブログは、救急初期診療や時間外診療における地雷疾患について語ることをメインにしている。では、救急診療をやっていて、一体どのくらいの確率で地雷疾患に遭遇するのだろうか?そんなことを考えてみたい。

本日、救急医専門医セミナーを聴講した。その中の講師の一人に、私が尊敬してやまない箕輪先生がいらっしゃった。 箕輪先生はたくさん本を書いていらっしゃるが、特に私のお気に入りの2冊といえばこれである。
救急総合診療Basic20問 、 医療現場のコミュニケーション

そんな箕輪先生の講演タイトルが、「ERディジーズ-ハイリスクである致死的疾患を見逃さないために-」であった。

そのご講演の中で、大変興味深い具体的なデータが提示された。

自施設の徒歩来院患者で、トリアージナースによるトリアージはかからずに、夜間救急センターで通常の外来診療をおこなった患者群を母数として、一体その中に、致死的疾患(Killer Disease:まさに、このブログで言うところの地雷疾患といっていよいだろう)が、どれくらいまぎれてくるかというstudyの結果だ。

結論は、0.3%であった

先生の施設は、聖マリアンナ医科大学病院である。この施設において、2005年9月~翌3月の間に徒歩来院し、トリアージナースによって併設の救命センターにトリアージされることなく夜間救急外来に来た患者4229名のうち、Killer Diseaseが13名まぎれていたというのである。その13名の内訳には、AMI2名、SAH2名、脳内出血2名、DKA1名、SMA血栓症1名、喘息発作2名、外傷3名となっていた。なお、このデータは、聖マリアンナ医科大学の田中拓先生がおまとめになったデータです。

なるほどである。

会場からある先生が質問をした。2次の施設で勤務される先生であったようだ。
「私の感覚では、0.3%よりもっと多い気がします」 
ということであった。

箕輪先生は、大学病院という性質と、じつはもっと見逃しがあるのかもしれないというご返答だった。

私は、0.3%・・・そんなもんじゃねえかなあ?と思いながら、じっと聞いていた。
(会場で発言はしませんでした)

さっそく、自分のその感覚を確かめるべく、ある病院のデータベースを調べてみた。7年間で約10万人の徒歩来院患者の転帰や疾患名などがすべてそこに残されているのだ。

徒歩来院患者全数101721人。その中から、緊急カテや緊急手術となりICUに収容された患者数を調べてみた。多くは、SAH、AMI、PTE、緊急開腹手術を要する急性腹症などの疾患がそれに該当する。
327名だった。 つまり、その比率でいえば、0.32%である。

なんと、箕輪先生のデータと一致した。恐ろしいまでの一致である。

今の施設ではどうだろうか? 記録はアナログで集めているので、客観的統計的データをすぐには出せないが、体感でいくと、自分が関わる徒歩来院患者1000~2000名/年くらいとして、記憶に残る地雷的疾患の数が10人いるかいないかという感覚なので、大体1~0.5%くらいということになる。

ということで、本エントリーの結論

急性期病院の夜間診療で、地雷疾患が隠れている確率は、0.3%くらいなのかもしれない。

では、これをふまえて、算数を一つ。 

あなたの施設では、時間外(当直帯)診療一回当たり、14名の徒歩来院患者を診察します。
あなたは、その施設で、毎月2回の当直が回ってきます。

さて、あなたは、この施設のこの勤務状況で、一年間で少なくとも1回は地雷疾患に遭遇する確率は、大体どれくらいになるでしょうか?

なお、地雷疾患が徒歩来院患者群に紛れ込んでくる確率は、箕輪先生のデータをそのまま用いることとする。つまり、地雷疾患存在確率P=0.003(0.3%)とする。

いかがでしょうか? このブログとお付き合いの長い方はピンとくるかもしれませんね。

(3月29日 記)

(3月30日 追記)
physician先生ありがとうございました。 正解でございます。 「少なくとも一回は・・・・」を見たら余事象を考えて見ましょうという確率問題における定石を使うことで、比較的簡単に立式できます。後は機械計算あるのみです。

一回あたりの試行で、ある事象が発生する確率P(Pは十分に小さい)が与えられたとして、そのPの値から、何回くらい試行すれば、すくなくとも一回はその事象がどれくらい起こりやすくなるのかということを、もっと気軽に体感できる方法はないでしょうか?

あります。私はある計算式をこのブログ上で発表していました。

合併症を算数する  、 合併症を算数する(続編)

です。

要点は、以下の通りです。

確率がp(十分に小さい値)である事象(合併症など)を繰り返し試行(検査など)する場合において、その試行回数と発生確率の関係についての公式

1) 1/p回試行(検査など)した場合、
63%の確率で、少なくとも一回はその事象(合併症など)に遭遇する。

2) 5/p回試行(検査など)した場合、
99%の確率で、少なくとも一回はその事象(合併症など)に遭遇する。

これをこの問題に適用してみます。P = 0.003ですから、1/P = 333、5/P = 1667 です。

つまり、330回程度当直すれば63%の確率で一回は地雷にあたります。1700回程度当直すれば99%の確率で一回は地雷にあたります。

そんなことを上記式が教えてくれます。

本問での年間当直回数が、14x2x12=336回ですから、地雷に一回は当たる確率は約63%とわかるわけです。付け加えて言えば、5年も続けたら必発であるともいえます。

夜間の時間外診療を継続業務として、お持ちの方は、やはり、日ごろから地雷疾患対策を練っておく必要があるという結論としてよいように私は思います。

地雷疾患存在確率のデータは、ほとんどないと箕輪先生が講演の中でおっしゃっておりました。
今後、データがもっと蓄積されれば、またいろんな新たなことがいえるかもしれませんね。


血圧が高い!という患者 [救急医療]

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救急診療での大切な型は、地雷を見逃さないことをめざす診療の「型」である。具体的には、引き算診療という「型」である。こちら⇒引き算診療という考え方

しかしながら、地雷的なものを引き算したところで、患者が気にしている身体症状が解決するわけではない。医療者は、このことをよくわきまえておく必要はあるかと思う。

次のような台詞は、あまり好ましくないと私は個人的には思っている。

「あなたの症状は、気にする必要はないですよ。」
「あなたの痛みは、心因性かもしれませんね。」
「あなたの症状は、ストレスかもしれませんね。」

では、医療者側が、安易にこのような説明をしないためにはどうしたらいいのだろうか? 本日のエントリーはそんなことを考えてみたい。


症例  77歳男性  血圧が高い(心配)

近医で高血圧で通院中。現在、ARB単剤が処方されている。一人暮らし。すでに妻は半年前に他界している。妻他界の直後に当院に一度近医からの紹介で入院し、高血圧の精査を循環器科で行ったばかりである。二次性高血圧は否定的と判断されている。最近、顔のほてりとともに、急に血圧が上がった感じを自覚するようになり、手元の血圧計で測ると230もあるので、どうしようもない不安感に襲われ、救急車を呼んでしまうことが、この3ヶ月間で4,5回も繰り返されている。救急外来につくと、血圧は150くらいにいつも落ち着いている。 最初のころは、血液や心電図、頭のCTなどをチェックしてくれて、異常がないと言ってくれたが、ここ1,2回は、医師は検査もしてくれなくなった。それどころか、これぐらいで救急車を呼んではいけないと医師側から諭されることもあったという。 最近の記載には、「不安神経症?」「心因性?」「精神科へ紹介の必要かも?」などと書かれている。 そんな患者が、また救急車でやってきた。やはり、今回もこれまでと同じようだ。

問診というものは、病態を積極的に想定して初めて診断に役に立つ情報源になり得ると思います。
今まで診察した医師は、その病態を想定においた診察はしてこなかったものと思われます。

この症例をみて、皆様方は、どんな病態を思い描き、どんな問診を追加しますか? 
それをふまえて、この患者にどんな説明をしますか? 

この症例は、地雷的ではありません。時間外の診療は、こんな患者さんも多数来院しています。もちろん、狼少年のようになってはいけませんので、同じ主訴で来院でもある程度は、毎回引き算の型を流すことはそれなりに大切だと私は思っています。(どこまでやるかは、別としても)

しかし、現場では、地雷を引き算さえすれば、終わりというわけではありません。もちろん、後は、正規の診療につないでもらったらいいだけなのですが・・・・・。ただ、どうつなぐかが問題で、そのためには、病態考察は、日ごろから深めておくことが好ましいのかもしれません。

(3月25日 記)

(3月27日 追記)
皆様、コメントありがとうございます。いろいろな視点からご意見をいただきました。とりあえず、想定していた話を続けてみます。


さて、患者がやってきました。今回も来院時は、すでに血圧が、146/87に落ち着いていた。

「先生、すみません。何度も・・・。すごい不安なんです」

不安げな患者の様子と、過去のカルテ記載から、私は、ある一連の問診を試みた。

1:「胸痛はありませんでしたか?」 ⇒ ○
2:「息苦しい感じはありませんでしか?」 ⇒ ◎
3:「胸がどきどきとしませんでしたか?」 ⇒×

4:「めまい感、ふらつき感はどうでしたか?」 ⇒◎
5:「体のしびれがしびれるなど異常な感覚はどうでしたか?」 ⇒×
6:「手足が震えたり、体が身震いしたりしませんでしたか?」 ⇒×

7:「現実的でない感じや自分が自分でない感じがしませんでしたか?」 ⇒○
8:「自分をコントロールできない恐怖感はありませんでしたか?」 ⇒◎
9:「このまま死んでしまうという恐怖感はありませんでしたか?」⇒◎

10:「汗はでませんでしか?」   ⇒◎
11:「体が冷たい感じまたは熱い感じはありませんでしか?」⇒ ◎
(10,11は、患者の身体を触りながら行う)

12:「窒息感はありませんでしたか?」 ⇒ ○
13:「「吐き気や、腹痛あるいは腹部の不快感はありませんでしたか?」 ⇒×

以上13個のうち、6~9項目がこの患者には該当した。

さらに、
・これが10分以内でピークに達し、30分ぐらいで消失するということ
・また起きるんじゃないかという不安感が存在すること
・一連の不快感はすべて血圧が高いためだと思っていること
などを確認した。

以上より、この患者は、パニック発作に併発した発作性の高血圧という病態を想定した。

そして、患者には次のように説明した。

「よくわかりました。救急車で来ざるを得なかったわけもわかりました。確定ではありませんが、パニック発作という病気の可能性があります。これは、脳の中にある内臓のセンターが急に乱れることで、血圧圧がたかくなり、同時にいろんな身体症状や精神症状が出現するのです。命には別状はないので、その点はご安心ください。私の判断を手紙にしておきますので、明日にでもかかりつけ医を受診してください。」

患者は、その手紙をもって帰宅していった。

いかがでしょうか?想定病態は「パニック発作」でした。

救急の現場では、意外と多いと思われます。ただ、気をつけないといけないのは、確定診断は、正規の継続診療の中で行うというスタンスだと思います。というのは、二次性高血圧の除外は、長い時間軸の中で併診で考えておく必要があると考えるからです。時間外診療の一回こっきりの診療で確定診断とするのは、地雷を踏む元になります。

ただ、このように自分なりに病態がイメージできた場合は、なるべく具体的にそれを説明する努力をします。

では、もし、病態イメージはいまひとつだが、ただ地雷は引き算できたと判断した場合は?

「人間の体は、わからないことだらけです。だから、私達がすぐに説明できない症状も存在するんですよ。今日は、少なくとも命にすぐに関わるような重大な病気の可能性は低いと思います。その点はどうかご安心ください。私の説明をお薬だと思ってご安心いただければ幸いです」

などと言うと思います。私は、患者の訴える身体症状を承認し、「心因性」「気のせい」というフレーズ等で、患者とのコミュニケーションを断絶させない努力をしているつもりです。


さて、パニック発作ですが、DSMでは上記13個の身体・精神症状のうち4つ以上を満たすことが診断基準のひとつに上げられていますが、覚えにくいですよね、この13個。次のように考えたら覚えられないでしょうか。こんな覚え方を考えてみました。

循環器内科の診察室をイメージして 上記1,2,3の問診
神経内科の診察室をイメージして 上記4,5,6の問診
精神科の診察室をイメージして 上記7,8,9の問診
皮膚科の診察で実際の患者の手や顔に触れながら、上記10,11の問診
消化器内科の診察室をイメージして 上記12,13の問診  (窒息は食道と関連付けイメージ)

パニック発作と高血圧をググッてみたら、ちょうど今回のエントリーを補強するいい題材がぐうぜんみつかりましたので、最後にそれを引用しておきます。

http://paxil.jp/clinical/clconfer/20070610_1.php

急な血圧の上昇と身体症状を訴える患者の中にパニック発作が潜んでいる日常診療において、動悸、手のしびれ等の身体症状と、急な血圧の上昇を訴えて受診する患者さんがいる。家庭血圧計が普及し、血圧の上昇と身体症状を訴えるこのような患者さんの中に、パニック発作が含まれていることがある。高血圧の背後にあるパニック発作がみつかりにくい理由として、患者さんは、気分が悪い、何かおかしいと感じると血圧を測り、血圧が高いので、血圧上昇が身体症状の原因と考えてしまう為、医師への訴えも血圧に集中してしまうことなどが考えられる。

動画はこちら
http://paxil.jp/clinical/clconfer/forum_003_dl/forum_003_1.html


「気分不良」と言われても [救急医療]

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「気分不良!」という第一触れこみにて、患者が救急車で搬送されてくることがある。ところが、患者を受ける我々の立場としては、「気分不良」と言われても、なかなか難しいものがある。 「気分不良」を訴える患者群の中には、すべての地雷疾患が含まれていると言ってよいだろう。それらは、いわゆる重症疾患(隠れた重症疾患も含めて)だ。一方、機能的疾患群(パニック発作、一過性の血圧低下など)もその群に含まれているだろう。これらは、救急の現場では、軽症と区分される疾患だ。

救急初療の短い時間の中で、「気分不良」を訴える患者の重症度を的確に判別するのは、大変難しいのである。

本日は、そういう難しさの実際を伝えてみたい。

症例1 80歳女性 主訴 気分不良

ADLは自立。定期内服無し。医療機関にはほとんどかかかったことがない。当然、当院の受診歴無し。ある日のできごと。その日は、朝からとくに変わりなかったが、夕方18時ごろ、夫が部屋に行くと、「しんどい・・気分が悪い・・・」と言って、臥床していたという。半年ほど前から、元気に乏しくなり、外出することも少なくなったという。 気分が悪いという訴えは、これまでにも4,5回は聞いたことがあるという。夫は、しばらく様子を見ていたが、今回は、なかなか改善しないため、23時50分、救急要請を行った。

なお、来院後に当直医が、本人と夫の両者から確認したclosed questionの結果は以下の通り。
頭痛(-)、胸痛(-)、背部痛(-)、腹痛(-)、腰痛(-)、嘔気(-)、嘔吐(-)

来院時、身体および各種所見
バイタル BP 138/80、HR100、SpO2 99、RR<20、KT 35.7
意識 清明  その他身体的に特記すべき所見無し
ECG  CRBBB (比較できるECGはなし)
cXp  特記すべきこと無し
Labo WBC12000, Hb 9.0, Ht 29.3, BUN/crn 49/3.1, K 6.6, DD 17 他特記すべきこと無し。

担当した医師は、救急外来での一通りの検査の後、次のようなアセスメントを立てて様子観察で入院の方針とした。

#1  腎機能の低下 ⇒ 慢性腎不全の悪化?
#2  高カリウム血症  #1によるものかも
#3  DD高値  ⇒ 入院後、全身精査を要する
#4  貧血  ⇒ #1の結果? 出血など他の原因も要チェック

症例2  75歳男性  主訴 気分不良

ADLは自立。胃潰瘍、虫垂炎の手術歴あり。他特記すべきこと無し。定期内服、定期通院なし。当院は初診の患者。

(妻より) ここ一週間変わりなし。今朝も起床時からとくに変わったことなし。朝風呂にいつものように入ったら、なかなか出てこないので、見にいったら、湯船にもたれかかるようにして、ぐったりとしていた。「どうしたの?」と聞くと、「しんどい・・・気分が悪い・・・・」と返答があった。ただ、その反応もにぶく明らかに様子がおかしいので、救急車を私が呼びましたとのこと。

なお、来院後に当直医が、妻のみから確認したclosed questionの結果は次の通り。
頭痛(-)、胸痛(-)、背部痛(-)

来院時、身体および各種所見
バイタル BP 右70(触診) HR 64 KT 36.2 SpO2 96 RR 20
意識  E3V5M6 他特記すべき身体所見無し。
ECG  NSR (bradycardia気味)、STEMIに合致する所見はない
labo   特記すべきこと無し
cXp   下図の通り
図1.jpg

この2症例は、患者自身の訴えは、ほぼ同じです。ですが、転帰は大きく異なっています。
気分不良を訴える患者の対応の難しさを考えさせられる対照的な2症例です。

皆様は、どちらの症例がより地雷的とお感じになりますか?

(3月22日 記)

(3月24日追記)
皆様、コメントありがとうございます。 症例1を地雷的とされた方が2名、症例2を地雷的とされた方が5名、どちらともいえないという判断の方が2名という感じでコメントをいただきました。

今回のエントリーで、言いたかったことは、気分不良って難しいということです。皆さん方のコメントを通して、救急医療の現場の苦悩と限界が、多くの方々に伝わることを望んでいます。


まずは、症例2の続きから。

意識障害+血圧低下+縦郭の拡大?
から、私は、真っ先に急性大動脈解離Stanford Aから考えた。 

速攻でエコーをした。 経胸壁から、エコーの入りが悪く、心のう液貯留がないことの確認は取れたものの、大動脈については結論をだすことは到底不可能と判断した。当然、造影CTを行った。

答えは、異常なしだった。

そんなこんなで考えているうちに、患者のバイタルと意識は完全に正常に戻った

諸検査で異常がないことと患者の自然回復の経過から、次のように考え、患者には帰宅してもらった。

病態仮説と私見 
入浴と関連する血管拡張により、血圧が低下した。それによる脳血流の低下により、意識障害が発生した。高齢者のもつ自律神経系の反応性の低下ゆえに、血圧低下と意識障害が遷延した。結果として正常に戻るまでに3時間ほどを要した。その3時間の間に、我々が介入することになり、種々の検査が行われた。この症例は、高齢者の入浴中の死亡事故の病態を考えるのに有用なヒヤリハット症例とも考えられる。」

というわけで、症例2は、大動脈緊急疾患と強く疑ってかかったにも関わらず、ハズレだった症例である。結果論だけでいえば、この症例は、家で様子をみてるだけでよかった症例だ。

しかし、いったんこうして病院に来てしまえば、我々はこうして検査せざるを得ないのである。

では、症例1の続き。

当直の深夜帯で、この患者の外来評価も終わった。午前3時過ぎの頃だ。後は、いったん病棟に上がり、夜が明けて日勤帯になれば、受け持ち医も決まり、本格的な診断や治療が始まるという算段のはずだった。

と・こ・ろ・が・・・・・・・・・

病棟にあがる直前の出来事だった。

「先生!先生!患者さんが!!!!!」
患者が突然、全身性の痙攣を起こしたのだ。

「おい!、ホリゾンだ。ホリゾンを早く!」
患者の痙攣は治まった。

患者の意識は清明だったが、血圧70代、脈拍120というショックバイタルだった。

この時点で、何らかの急性のショックを想定し、循環器の当直医師Mに応援を要請した。
M医師が心エコーを行ったが、hypovolemic schokが考えられ、急速輸液の指示だった。

1500mlの輸液が急速に入れられた。脈は100程度になったが、今度は呼吸が失調性になってしまった。

気管挿管された。

そして、ショックバイタルではあったが、診断を優先し、造影CTが行われた。

そこに答えがあった。これである。
図1.jpg

皮肉なことにCTから帰室した直後に、脈拍30代となり、PEAになってしまった

蘇生を試みたが、患者の心拍が二度と再開することはなかった。

午前3時30分に急変し、一連の格闘が終わったときには、すでに午前6時30分だった。

おそるべし腹部大動脈瘤の破裂である。 まさに地雷炸裂の症例だった。

この地雷は、果たして回避可能だったのだろうか? 

来院時の病歴、バイタル、来院時間などの諸因子を勘案すると、回避できなかったのは止むを得なかったのではないか?

腹部エコーをあてていれば、わかったはずだというのは、まさに後知恵バイアスのかかった意見だと私は思う。なにせ、この患者は、痛みをまったく訴えてくれなかったのであるから。

大動脈緊急は、こうして医療者の目を欺くのである。大動脈緊急疾患が診療で発見されず、突然死してしまった場合、それは、必ずしも医療者の技術や能力が劣っているための結果とは限らないことを多くの人にわかってほしいと思う。

本日の教訓
大動脈緊急疾患の患者は、医療者の目を欺く主訴で来院することがある

自分の家に帰れたある老人の話 [救急医療]

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「死」という問題は、一人ひとりに必ずいつかは訪れる決して避けることのできない問題である。特に高齢者自身や高齢者を介護する立場にある方々にとっては、よりいっそう切実なる問題だと思う。「死」はとても個別的な問題であり、社会的に統制することの難しい問題でもある。しかも、人間が本来持ち合わせている「生への固執」という本能故に、「死」は、つい社会から遠ざけたくなる問題であることも事実である。

しばしば、救急の現場では、予期せぬ急変で、何の心の準備もなしに、いきなり唐突に「死」の問題に直面さぜるを得ないことがある。そんな場合に患者やその家族がとまどうのは、まだ無理もない。しかしながら、十分に「死」の問題について時間をかけられたはずの臨床経過が存在するにも関わらず、関係者(医療者さえ含む)が誰一人として「死」の問題に直面してこなかった(あるいは直面させなかった)という症例に救急の現場で遭遇することも少なくない。

その一方で、ずいぶん昔に、こんなケースも経験した。今にして考えてみても、このご家族は、「死」に対してしっかりと芯の通った覚悟を持っていたものと思う。今思い返しても本当にたいしたものだと思う。

81歳 男性  左半身麻痺、意識障害

元々ADLは自立していた方。突然の左半身の完全麻痺で救急搬送。脳梗塞の急性期との診断で入院となった。3日後、意識レベルがダウン。JCSⅢ-200となってしまった。なんとか脳浮腫を抑えたいところであったが、厳しい状況と思われた。それでも当時の私は、指導医であったT医師といろいろと相談しながら、積極的に加療していこうと思っていた。その矢先のことである。家族から、突然の申し出があった。

娘 「 退院できないでしょうか? お家に帰らせてほしいのです」
私 「とても、戻れる状況でないです。無理です。」

娘の決心は固かった。

娘 「父は、ずっと前から死ぬときは、家で死にたいと言ってたんです。
   お願いします! 家で看取りたいんです。」

私 「・・・・・。わかりました。検討してみます。」

私は、その勢いに負けた。 T先生に相談を持ちかけた。

私 「○○さんのとこのご家族が、家で看取りたいと言ってます。」
T医師 「へえええ・・・。珍しいね。 ん、いいんじゃない。」

指導医は、あっさりと退院を許可した。 そこで、私は、考えた。

・もしかしたら、理想と現実のギャップを感じて、すぐに病院に戻ってくるかもしない。
・往診してくれる医師との連携が必要だ。
・当院の救急外来との連絡も必要だ。

私は、いろんなことを考えた上で、もう一度娘と話をした。
それでも、娘の決心は変わらなかった。

種々の根回しを終えて、病院のドクターカーで、私が同乗し、患者を家まで送り届けた。

その別れの際、娘は、泣きながら、何度も私の手をしっかりと握って、お礼を言ってくれた。

当時の私は、何もしないことでこんなに感謝されるなんて・・・・・と考えていた。

患者は、翌日の昼過ぎに、呼吸が止まり、その後、往診医師が死亡確認をしたと報告を受けた。
私が根回ししておいた救急外来に患者が戻ってくることはなかった。

患者さんは、かねてからのご希望通りにお家に亡くなることができたのであった。

住み慣れた家で最後を迎えたい。迎えさせてあげたい。

多くの人が、考える、いわば「死」の理想形かもしれない・・・・
しかし、現実は、理想とは異なり、さまざな物理的問題や「不安」を代表とする精神的問題などがあって、そのハードルは高いといわざるを得ない。それが現状ではないだろうか?

でも、こんな風に考えるとなんだかそれが出来そうな気にならないだろうか?

あなたも私も仕事が終われば家へ帰る。それと同じように人生という仕事が終わるときは家に帰ろう。

これは、ある冊子の表紙に書いてある文章からの引用である。
その冊子とは、このブログ上でも一度紹介したことがある ⇒ 思い通りに死ねない日本社会

「あなたの家にかえろう」という在宅での看取りを支援するプロジェクトから出ている冊子のことである。
http://www.reference.co.jp/sakurai/

この冊子は、本当に良くできていると思う。まず、言葉が優しい。そして、イラストも優しい。在宅での看取りを考えておられる方には、本当にお勧めの一冊だと思う。

この冊子から、また別の箇所を引用紹介する

健康なときは、自分自身や自分自身の大事な人の障害、病気・・・まして死など、とても考えれらないし、縁起でもない。しかし、今生きている人すべてに、いつかその時は訪れます。この冊子は、「住み慣れたところで最後まで」と願う人たちへの道しるべです。
病院での死が増えると同時に、死は人々から遠くなってしまいました。家では、家族や周りの人々の役割が増える分、死は近くなります。しかし実際、旅立つ姿を自分の目で見て、その手で触れるのは、とてもつらいことです。去り逝くこと、看取ることとは、本来苦しいもの、悲しいもの。楽なものではありません。しかし、死を見つめるとは、生を見つめることに他なりません。その中で何か言葉を越えたものが伝わってくる。温かいこともあれば、良いことではないかもしれない。しかし、何かが伝わる・・・・。それが「いのちのバトン」というものかもしれません。
「生・老・病・死」が医療にとりこまれ、日常から隔離されてしまいました。20世紀の科学の進歩は、人々に幸せをもたらすかに見えましたが、必ずしもそうではなかったし、また医療の進歩も例外ではありません。日常のほとんどを専門家に依存して暮らしている私たちは、自分自身の最後をどこで迎えるか・・・ということさえおまかせしなくてはならないのでしょうか。

多くの人たちが、身近に「死」を感じること、感じれること・・・・・その延長上で在宅死が当たり前に思えること。そんな社会変化が、間接的長期的かもしれないが、医療崩壊を回避する一助となれないだろうか? 少なくとも私は、そう思っている。

私は、自分がまだ駆け出しのころに、この患者さん、この御家族に出会えたことに感謝している。


ある心肺停止患者 [救急医療]

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急性期病院の救急外来であるならば、心肺停止患者に対応することは、日常の業務に近いことだとは思う。そのような病院の救急外来で従事する者にとっては、心肺停止患者の初期対応のスキルは、業務上必須といえる。しかしながら、突然の心肺停止患者は、病院外のみならず、当然、入院中の患者にも発生することがある。しかも、この場合、スキルをもった専門家をただ待っているだけというわけにはいかない。たった、3~4分間の放置のみで、脳がやられてしまうからだ。それゆえ、心肺停止患者の初期対応のスキルは、医師の専門に関わらずすべての医師において、同時にすべての医療従事者において、その習得が求められている。

その具体的なスキル習得にあたり、今では、ずいぶんと教育体制が整えられている。アメリカ心臓協会(AHA)のトレーニングコースや、日本救急医学会認定のトレーニングコースが、日本のいたるところで受講できるようになっている。

そのようなコースを通して、しっかり勉強している人には、すぐわかるかもしれないが、本日は、ある心肺停止症例を皆様に考えていただきたいと思っている。

症例  70歳女性  CPAOA
糖尿病で近医通院中の患者。内服はあるが詳細不明(ただし、インスリン自己注射はなさそう)。昨日、13時ごろより飲酒をし始めたという。その日の夕方、酔っ払って足が立たなくなり、服を脱いだりして周囲のものに迷惑をかけていたようだ。それでも、一人飲み続け、家人も就寝したため、夜間の行動は不詳。翌朝、8:30頃、酔っ払った状態で家族と会話したらしい。その10分後、声をかけても反応がないことに家人が気がつき、救急要請の運びとなった。

8:47 119
8:55 救急隊 現着 初期調律VF 現場で除細動→PEA
           引き続き、気管挿管およびルート確保
9:26 病院着  直ちに二次救命処置が始められた。
最初の20分で、リーダのY医師が命じた処置とその結果は次の通り。
「モニタは何だ?」 → wide QRS brady のPEAだった。
「挿管の確認をする」 → 一連の確認作業、問題なし。
「血糖は?」    → 243が判明した。
「エコーもってこい!」 → 腹部:腹水(-)、大動脈径 大丈夫そう。
                 心: 心のう液(-)、右室拡大(-)。
「エピ、硫アト投与!」 → それぞれ1A、2A 投与が2回なされた。
「採血しろ!血ガスもだ!」  → トロポニンTも含めて、採血がなされた。
<そんなこんなで、次のリズムチェックの時間がやってきた。
「リズムチェックする」
「VFだ! 除細動!」  →  360Jで除細動が一回なされた。
「おい!血ガスどうだった?」 → K4.1 PH 7.321が判明した。
2分経過し、次のリズムチェックがやってきた。
「VFだ! 除細動!」 →  360Jで除細動が一回なされた。
また2分経過し、次のリズムチェックがやってきた。
「VFだ! 除細動!」 →  360Jで除細動が一回なされた
「リドカイン投与!」   → リドカイン75mgが投与された。
さらに、また2分経過し、次のリズムチェックがやってきた。
「VFだ! 除細動!」 →  360Jで除細動が一回なされた。
救急隊の処置も含めると合計5回の除細動がなされた。
難治性のVFだ・・・・・・

リーダのY医師は、緊急の心カテとPCPSが必要かもしれないと思い始めた。

いかがでしょうか? ここまでの経過で、おや?と思うことありませんか?
(3月12日 記)

(3月13日 追記)

皆様、コメントありがとうございます。 なるほどですね、アルコールの情報からは、Mgは考慮すべき薬剤だったかもしれませんね。 それは、思いつきませんでした。現場では。 皆さんからいただけるコメントは本当に勉強になります。

とりあえず、続きを書いてみます。

リーダのY医師は、緊急の心カテとPCPSが必要かもしれないと思い始めた。

そこに、H医師が助っ人に加わった。 卒後20年近くになるベテランだった。救急の経験も豊富だ。
H医師は、これまでの流れをY医師たちから聞いた後、
H医師は患者の足を触った。冷たかった

そして、指示を出した。

「おい! すぐに直腸温の測定だ!」 ⇒ 27.5℃だった。
「重度の低体温だ!」
除細動中止! 薬剤投与中止! まず、復温だ!!

43℃の生理食塩水を用意しろ!」

あいにく、この病院の救急外来ではPCPSなど高度な医療装備はなかった。
原始的だが、この43℃の生理食塩水での輸液、胃洗浄、膀胱洗浄など原始的な内加温を行った。もちろん、電気毛布や加温ブランケットを病院からかき集めてきて、外加温の併用も行った。

ひたすら、胸骨圧迫と加温療法が、続けられた。

しばらくすると、直腸音のデジタル表示が、コンマ1づつあがり始めた。

「よ~し、いいぞ。 そのままがんばれ」 H医師はチームを励ました。

約1時間後、直腸音が30.5℃に達した。
そして、リズムチェックの時間が来た。
ず~~と、低振幅のVFだった波形に変化が起きた

「波形が出ている。チェックパルスだ!」 ⇒ かすかに頚動脈が触れた。

「心拍再開! 血圧を測れ」 ⇒ 触診で60だった。

10分後、また心停止になった。 今度は心静止(asystole)になってしまった。 直腸音は32℃になっていた。

ここからさらに1時間近く蘇生を試みたが、asystoleは変わらなかった。

患者が搬入されて約3時間あまりの格闘の末、この患者の蘇生を断念した。

患者のご家族も、この蘇生チームの医師たちに深々と頭を下げて感謝の意を示してくれた。

この患者さんは、この蘇生チームの医師たちに、低体温下でのVFは除細動ではなく、復温によって回復することがあるということを、自分の命をもって、教えてくれたのだ。

こうして、日々の患者さん一人一人から、医療者は学ばせてもらっているのだ。

教科書に次のように書いてあるかもしれないが、この患者さんの蘇生に加わった医師たちの心には、この患者さんの経験がずっと心に刻み込まれ、きっと次の患者さんに遭遇したときに、この経験を生かしてくれるだろう。そう、今回のH医師の適切なアドバイスのように・・・・・・。

救急蘇生法の指針<2005> 医療従事者用 P80

中心部体温が30℃以下でVFが電気ショックに反応しない場合は最初の1回の電気ショックにとどめる。アドレナリン(=エピネフリン)などの蘇生薬剤の投与は中心部体温が30℃以下では行わない。これは、著しい低体温症ではその効果が期待できないだけでなく、薬物代謝の障害により薬物血中濃度が中毒域に達することがあるからである。

まとめます。

本日の教訓
重度の低体温(<30℃)は、除細動や薬剤よりも復温優先で

心電図所見の伝え方 [救急医療]

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動悸を訴え、夜間の時間外外来を訪れる患者も多い。その患者を最初に診療する医師は、必ずしも、循環器内科の医師とは限らない。むしろ、夜間の時間外外来という場であれば、研修医を含めた若手の医師が、初療にあたることのほうが多いのではないだろうか?



そんなとき、「動悸」だから・・・・「心電図で脈が速い」・・・・なんて理由だけで、循環器内科の医師をすぐにコールしてしまうのは、ちょっといけてないかもしれない。「動悸」を主とする主訴で、いつどこから、循環器内科の医師が、専門として、その診療に参画するかは、あるいは、参画できるかも含めて、病院の規模、診療の時間帯、院内取り決めなどで、様々ではあろう。



そこで、ここでの話は、次のような状況であると明示しておく



時間外診療(内科系)・・・・・若手医師(卒後6~7年目まで)。若手医師の専攻は、様々。

応援体勢・・・・・・・・・・・・・・循環器医師は、循環器病棟の当直医として常駐はしている。

                 原則、初期診療にはタッチしないが、外来からのコンサルトは受ける。

                 ただし、「丸投げ」診療の依頼は、原則受けない。



本日のエントリーの主旨は、循環器領域を専門としない医師が、心電図所見をどのように、循環器の医師へ伝えるかを目的としたものである。 不整脈診断の一発診断を目的とするものではないということはあらかじめことわっておく。


それでは、3症例のECGを提示する。 いずれも、自覚症状は動悸のみ。バイタルは安定。胸部レントゲンでも心不全像などは認めていない。採血データもこれといった大きな動きはないものとしておく。なお、3症例は、いずれも同じ不整脈疾患である。

図1.jpg

図2.jpg

図3.jpg


いずれの症例も、初療に当たった医師は、総合的に考えて、上室性の不整脈が今対応すべき問題と判断を下した。そして、循環器医師とともに、不整脈の治療に当たりたいと考えている。



さあ、皆さんが、初療医の立場だとして、循環器当直医師に電話でどのように伝えますか?



以下、初療医Aが循環器当直医Bへ電話をしている様子。



初療医A 「あ、B先生ですか? 先生、今よろしいですか?」

循当直B 「はい、どうぞ。」

初療医A 「○○歳、男性。 動悸の患者さんです。症状は今も続いています。

       バイタル安定で、意識は清明です。

       心電図所見は、・・・・・・・・・・・・です。一緒に診ていただいてよろしいでしょうか?」

循当直B 「わかりました。では、一緒に診ましょう。いまからそちらへ行きます。」





私のお勧めすることは、無理に(自分の)不整脈診断を伝えようとするのではなく、心電図波形の認識を伝えるという循環器医師への情報提供の実践です。



循環器を専門としない方は、初療医Aの立場に立って、3症例に共通するような言い方を考えてみましょう。 

また、循環器を専門とする先生は、このような状況で、自分だったらどう言われるのがいいかというご意見をいただければ幸いです。 私とは、また違うご意見がいただけるかもしれませんね。



(続きは後日 3月5日 記)


(3月7日 追記)



皆様、いつもコメントありがとうございます。 皆様のご指摘どおりです。 それと、5年目整形外科医先生のコメントの中にありました「心電図をもって病棟に走る」というのは、いいですね。私自身、状況を考えて、「心電図をもって循環器外来に行く」や「胸部レントゲンをもって呼吸器内科外来に行く」というのは、日常茶飯事です。Dr間のコミュニケーションを良好にするためのフットワークの軽さは、潜在的な地雷回避につながる診療スタイルだと考えています。


初療医A 「あ、B先生ですか? 先生、今よろしいですか?」
循当直B 「はい、どうぞ。」
初療医A 「○○歳、男性。 動悸の患者さんです。症状は今も続いています。
       バイタル安定で、意識は清明です。

       心電図所見は、
       RR間隔整のnarrow QRS tachcardiaでHR 150bpm前後です。

       一緒に診ていただいてよろしいでしょうか?」

循当直B 「わかりました。ああ、なるほど、
       HR150ね。ならば、AFL2:1も考えなくてはならないね。

       一緒に診ましょう。いまからそちらへ行きます。」



という感じで、スムーズに循環器当直医の応援も得られ、ATP(アデノシン3燐酸)の急速投与が行われた。(adenocardという不整脈専用のアデノシン製剤はあるにはあるが、日本では使えないようである)


ちなみに、3つのECGはすべて、ATP投与で、flutterの粗動波を確認しています。 ECG1、ECG2では、粗動波の存在がわかりにくいですよね。でも、ATPを投与して、一時的に房室伝導を抑えると次の写真のようにはっきりとわかります。


図4.jpg

これで、心房祖動の診断がつきます。(あくまで診断であり、治療ではありません)

心房祖動の場合は、心房レートは約300/分といわれています。従って2:1の割合で心室へ伝導するならば心室レートは150となります。そういう背景から、HR150程度の規則的な上室性の頻拍は、2:1AFLが自然と鑑別に挙がってきます。 もし、HR190~200くらいのnarrow
QRS regular tachycaridiaなら、もうそれだけでAFLの線は薄いかなと思うわけです。



そういうわけで、頻拍発作の心電図の認識を循環器医師へ伝える場合、QRSの幅、RR間隔だけでなく、心室レートも伝えておくとよいと思います。


まとめます。


本日の教訓

HR150 ・・・・・2:1AFL診断の鍵

ある意識障害の患者(2) [救急医療]

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只今ブログ主より、コメンテーターの方に個別にお話ししたいことがあり、下記のようなご案内をさせていただいておりますが、たくさんの方々からご連絡をいただきました。まことにありがとうございます。引き続きご案内しておきます。


<ご案内>

コメンテーターの方に個別にお知らせしたいことがあります。 ある個別なお願いです。この場でオープンにするには、まだ早いと考えていますので、これまでにコメントくださった方は、h1b1k0rey0r0zu@mail.goo.ne.jpまで、メールの表題を「XXX(ハンドルネーム表記)です」という具合にして、本文は空でもけっこうですので、私にメールを下さい。そのメールアドレスに、折り返しこちらから、そのお願い内容を添えたメールを返信させていただきます。すでに、何らかの方法(SNS、個別メール)にて、連絡をさせていただいている方々には、とくにご連絡の必要はありません。



特に私のほうから、是非連絡を取らせていただきたい方々は以下の通りです。なお、ここのリストにない方々も、今後のことがございますので、連絡をいただければ幸いです。



hiropon様

Rホーリック様

落ちこぼれ消化器内科医様

ただの小児科医様

ツネツネ様

匿名様(このエントリーのコメント)

ねこ様(このエントリーのコメント)

のうげみならい様

ひろとも様

マルモ院長様

元脳神経外科専門医様

tidalwave様

ドクターサイコ様

ご連絡お待ちしております。


さて、本題に入ります。 今日は、救急初期診療で、研修医の方々と一緒に仕事をしていて、ありがちなお話を一つ。

今回の症例提示は、第一回目の限定提示情報だけでも一発診断できる人は、できるかもしれません。ただ、この症例のメッセージは、一発診断できるかどうかでなく、もっともっと基本的なことです。


症例 86歳 男性  主訴 意識レベルの変化 何かおかしい





当院初診のPt。詳細は不明だが、家族が持ってきたお薬袋から、ノルバスク5mg、ワーファリン2mg、ラシックス40mg、アルダクトンA 25mg、ディオバン80mgが定期内服として処方されているようだ。元々は、松葉杖で自力歩行が可能。10日ほど前に転倒し、頭部打撲および挫傷。近くの市民病院で3針ほどの縫合処置を受けたという。頭部CTは問題なしとのことだった。その後、家族は、なんとなく様子がおかしいことを漠然と感じるようになった。杖歩行ができなくなり、車椅子を使うようになった。5日ほど前には、かかりつけの整形外科を受診。整形外科的には、問題ないとのことで様子をみるようにいわれた。昨日は、前のめりに転倒し、上唇を軽度挫傷した。本日、デイサービス先で、職員がその様子の変化に気がつき、医療機関受診を勧められ、当院受診の運びとなった。


来院時意識 GCS13(E3V4M6) 
来院時バイタル BP128/70 HR44整 RR<20 SpO2(room) 95 KT 36.5


担当したのは、一年次臨床研修医のAだった。



A先生は、意識障害の枠組みで、診療の型通りに仕事を始めた。



A先生「 血糖をとってください」

看護師「 はい、 145です!」・・・・・低血糖発作は消えた



A先生はラインを確保し、ルーチンの血液の検査オーダと胸部レントゲンをオーダした後、患者の身体診察に入った。



神経学的所見を熱心に取り始めた。妙に熱心だ。時間がかかる・・・・・。

まあ、それもありかなと介入せずに見守ることにした。



その結果、A医師は、右のバビンスキが陽性ではないか?という所見を見つけたようだ。

指導医サイドにもその報告が届き、一緒に見たが、う~~ん・・・・、どうかなあ?微妙やなあという具合だった。



私は尋ねた 「どうするの?」

A医師は答えた 「はい、脳梗塞が一番です。10日前のエピソードがあるので、

           外傷由来の出血も考えます。まずCT、その結果次第でMRIも必要です。



確かに、それはそうだと私も同意した。



だが、私は尋ねた 「何か忘れてない?」

A医師は戸惑った 「 は?・・・・・・・・・」



私は、A医師に何を促そうとしたのだろうか?

なお、その後出てきた血液データと胸部Xpには特記事項なし。 PT-INR 2.18。



(3月1日 記  続きは後日)


(3月2日 追記)



たくさんのコメントありがとうございます。とりあえず、続けます。


だが、私は尋ねた 「何か忘れてない?」
A医師は戸惑った 「 は?・・・・・・・・・」



私 「いつも言ってるだろ。バイタルよ、バイタル」

A医師 「はい、血圧は大丈夫でしたよ」



私 「バイタルは、血圧だけか?」

A医師 「 そういえば、脈がおそいですね・・・・」

     「あっ! 12誘導心電図だ」



とまあ、こんな感じで、A医師に気づいていただいて、12誘導心電図をとったわけだ。

それが、下図である。


実は、彼が時間をかけて患者の身体診察をしている間に、スタッフサイドでは、お薬袋をもとに、病状照会を進めていたのだ。その結果、患者は、慢性心房細動、慢性心不全、高血圧で加療中であることが判明していた。さらに、最近の心電図をファックスしてもらい、心房細動の心電図を確認済みであった。過去も含めてジギタリスの内服がないことも確認、さらに家族に他医からの内服がないこと、救心を常用していないことも確認しておいた。



図1.jpg


ECGは、一気に不整脈診断をしようとするよりも、波形パターンの認識という段階を意識することをお勧めします。そうすると、これは、「RR間隔が整な幅の狭いQRS幅の徐脈」と認識できますよね。それをふまえて不整脈診断の考えどころだと思います。

ほぼこれで、心臓のproblemは確定的となりました。ならば、頭のwork upは何処まで仕上げておくか・・・・・ここは、意見が割れるかもしれませんね。 皆様のご意見をお伺いしたいところであります。



ちなみに、当院一年目研修医に、この患者の流れを軽くプレゼンした後、この12誘導心電図を見せたら、程よく悩んでくれましたので、こうやってアップするに至った次第です。


続きはまた後で。



(3月3日 追追記)

たくさんのコメントをありがとうございます。ECGを提示する前の段階ですでに、次のようなコメントをしているシモイグ様のコメントが、今回の症例では、ほぼビンゴでした。ありがとうございます。


内服薬から考えると、基礎疾患に高血圧、心不全がありそう。ワーファリンも飲んでいるので、心房細動も。となるとHR44は危ない。12誘導がとられていませんがどうなんでしょうね。実はAMIからのブロックとか? でも生化学は正常でしたか・・・加齢による徐脈でしょうか。昔、「ボケたボケた」と言われていた方が、実は徐脈によるLOSで、ペース―メーカー入れたら見事に社会復帰された経験があります。


class=caption>by シモイグ (2008-03-01 12:24) 

私は、この心電図が判明した時点で、 完全房室ブロックが頭に浮かび、その目で病歴を眺めると、一元的に説明可能だと感じました。 パズルが解けた瞬間の頭の感じでした。こういうのをAha体験というのでしょうか。


【心電図所見】  完全房室ブロック

元々心房細動があるので、P波とQRS波の不規則性を見ることができないところに、気がつきにくいところがある。

徐脈でかつRRの規則性から発想するのが大きなポイントなる。



【病歴】 繰り返す外傷をともなう転倒の高齢者

房室伝導の加齢性障害(SSSなど)の進展の末の完全房室ブロックが生じたと考えるのは、妥当。その際の病歴は、数週間スケールの話となるのは、極自然であり今回のエピソードこそぴったり合うと考える。徐脈性の低心拍出(LOS)による一過性意識障害による転倒には、しばしば外傷を伴うので、これも話に合う。



あえて、言葉で書けばこのような感じでしょうか? 実際の現場では、「ひらめき」みたいな一瞬の感覚でした。



だいぶ以前に、地雷を踏まない思考法として、私はこんなエントリーを書きました。

引き算診療という考え方


何か一元的に説明できる病態を”はっ”と思いついた後は、得てして、ついついそれに走ってしまいたいという衝動に駆られます。しかし、引くべきものは、きっちりと引き算はしておくという診療の型は、地雷回避のためには、極めて重要であると私は考えます。



という背景から、この症例で、特に今、引き算せねばとなるぬと判断したものは以下の通りです。


1)完全房室ブロック → 急性冠症侯群の評価が必須、電解質、薬剤などの確認も必須

2)転倒に伴う頭蓋内病変  → 頭部CTが必須

3)脳血管病変 → 頭部MRIが必須(特に2)が否定されたとき)


1)は循環器の先生にお願いしました。なお、循環器にコンサルトした後も、救急部で、2)3)の引き算の仕事を引き続き行いました。従って、途中からは、循環器の先生と一緒になって、この患者の診療をしました。結果、2)、3)はほぼ確実に引き算でき、循環器の先生は、安心して、自分の専門治療に打ち込むことができたわけです。



この患者さんは、一時ペースメーカを挿入し、後日、永久ペースメーカ植え込み術が施行され、無事独歩退院の運びとなっております。


まとめます。今回のエントリーからは、3点ほど抽出しておきたいと思います。


本日の教訓

・意識障害が主訴でも、バイタルサインの解釈は重要!

・心房細動患者の完全房室ブロックは、心電図診断の意外な盲点!

・病態整理が付いたと思っても、地雷の確実な引き算は重要!

謎の両肩痛 [救急医療]

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最近、医療関係者以外の方々も多数訪問してくれるようになって、アクセスも増えました。嬉しい限りです。とはいうものの、本来のこのブログの趣旨は、時間外診療や救急初期診療の場における診療のピットフォールなどを語り合うための情報の提供の場であると考えています。

そこで、今回のエントリーは、その原点に立ち返ったものとしてみたいと思います。

それでは、本日のお題です。

診療の第一歩は、患者の主訴である。主訴とは、患者が困っていることと言い換えてもいい。つまり、患者は、その困っていることを何とかしてほしくてそのために病院へやってくるわけだ。だから、当然、診療の第一歩は、患者のその主訴を手がかりに始まるわけだ。 では、この症例はどうだろうか? 症例を提示する。

42歳 男性  主訴 両肩痛

元来健康。職業は、建設業で、現場は山中であることが多いとのこと。現在通院中の疾患はなく、定期内服もない。独身。見た目は、よく日焼けしており、がっしりとした筋肉質、スポーツ刈りの頭で、表情は明るい。海外渡航歴はない。そんな男性が、この5日間続く両肩の痛みを訴えて、時間外診療を受診した。特に体動時に痛むようだ。この数日間、なんとか痛みを我慢をしながら、仕事をしていたが、どうにもこうにもならんということで、仕事を早めに切り上げて、17時に時間外を受診した。

来院時バイタル 血圧100/68 脈112 体温 39.8 呼吸数 19 SpO2(room) 98  看護師トリアージのECG: ST上昇なし。 洞性頻脈。見た目は、とても元気と看護師の印象。

とりあえず、問診を始める前に、肩を触ってみた・・・・。 熱感がある。圧痛がある。 でも、水泡を伴う皮疹とか、皮下出血があるとか・・・・いわゆる地雷的な壊死性筋膜炎とかではなそうな印象だ。

問診を続けた。 全身倦怠感はあるも、感冒症状や、頭痛、嘔吐、呼吸困難、腹痛、背部痛など、発熱とリンクする身体症状は問診から、何一つつかまらない。発熱があるなんて、本人にしてみたら、想定外で、ここで言われて初めて気がついたという。しいて言えば約10日前に、下痢があり近医を受診し、感染性胃腸炎といわれたというが、その後下痢症状は消失している。

身体診察をした。肩以外の所見がでてこない・・・・。 頭、喉、首、胸部、腹部、背部、四肢、神経学的所見、全身の皮膚などくまなくみた・・・・何もない。いや、何も見つけられないだけなのだろか? それでもしいて言えば、右側腹部あたりに、ごく軽い叩打痛を認めるぐらいか・・・・  という感じである。

もちろん、血液、画像検査ができる施設での診察であるから、診療の最初の段階で、スクリーニング的な検査はすべて走らせてはいる。だが、ここでは、あえてこの検査情報は提示しないでおくことにする。

もし、上記のような情報を研修医が、私のところに相談にきたら、私は、真っ先に、あれはどうなの? あったの? って問います。

みなさんが、指導医だったら、どんなことを指導しますか? どんな想定疾患を思い浮かべてみますか?

一点集中で今回の答えのみを当てるというよりは、幅広く鑑別を上げて、その中に解があるというのが、思考としては、より役に立つ思考だと思います。

検査を見てしまえば、気がつくことも良しですが、問診、身体診察のみから、想像力を膨らませておくことを普段からくせにしておくことによって、地雷回避の思考が育つと私は考えているわけです。

というわけで、情報提示は、ここまでにして、皆様のコメントを待ちたいと思います。  

(2月23日 記)
皆さん、たくさんのご意見ありがとうございます。 検査データも何一つ出さず、大変失礼しました。提示情報だけで、答えが出せるものではない、考えることの重要性、難しさを、非医療者の方々にも、伝わればいいなと思って、こんな提示の仕方をしております。

<全身感染症関連>
ツツガムシ病・・・やや多数派
ライム病
レプトスピラ
敗血症
尿路感染
心内膜炎
淋菌感染
Q熱
回帰熱ボレリア
旋毛虫
エルシニア感染後の関節炎
泉熱

<その他>
横紋筋融解症
熱中症
肩の蜂窩織炎
石灰沈着性腱板炎
リウマチ性多発筋痛症(PMR)
ギラン・バレー
関節リウマチ
成人型Still病
循環器救急(IHD、大動脈緊急)

このようなものがあげられています。 さて、情報提示を続けます。この患者さん、主訴にはなかった体温39.8度が、私はすごく気になりました。 高熱の人をみたら、確認しておきたい病歴は、過去のエントリー( いけてる問診(4) )で出しましたように、悪寒戦慄の有無です。 私は、この患者さんに、単なる悪寒か、悪寒戦慄なのかを注意深く意識しながら、問診しました。その結果、この患者には、悪寒戦慄があると私は解釈しました。 「元気そうなのになあ~~、なんだか変な感じだなあ~」と思いました。

この悪寒戦慄の病歴を私が採択した時点で、患者の主訴を中心とした対応よりも悪寒戦慄を伴う発熱に対する対応が先であると私は考えを切り替えました。

即刻、私は、血液培養を取り、フォーカス探しをメインに考えました。 胸部のレントゲンは異常無しでした。私も皆様のおっしゃるとおりで、ツツガムシを想定し、全身くまなく刺し口の所見に探したりしましたが、これという所見はありませんでした。これがないからといって完全否定をするわけではありませんが。
主な採血は、WBC25000 Hb11.5 Plt10.7 CRP 19 AST/ALT 79/78 ALP 411 CPK170 検尿 特記すべきことなし でした。

小出しでごめんなさい。 ここまで来ると、疾患は見えてくるのではないでしょうか? 

(2月24日 追記 続きは後日)

(2月27日 追記)

so-netのブログメインテナンスが入るのをうっかり忘れていました。すみません。少し間延びしてしまいましたね。 たくさんのコメント本当にありがとうございます。

悪寒戦慄をキーワードに、主訴である肩痛よりも発熱の問題を攻めるほうが優先事項と判断したということ及び血液データの提示まで行っていました。

皆様方のコメントから

悪寒戦慄+発熱  ⇒ 1)感染性心内膜炎
               2)白血病
               3)肝膿瘍

などの可能性が指摘されました。実に的を得た御指摘だと思いました。私は、この3パターンすべて経験があります。そういう意味においても、「悪寒戦慄」というキーワードを重要視しているのです。

この患者さんは、元気でしたが、唯一といってもいい身体所見は、右側腹部叩打による軽い痛みのみでした。

私は、これを手掛りに、腹部エコーを当てました。すると、肝S8の部分に怪しげなlow echoicなmassがありました。 この時点で、肝膿瘍を強く疑いました。そして、引き続きの造影CTにて、画像的確診に至りました。

ここまでが、救急初期診療での仕事でした。

主訴:両肩痛でやってきた男性が、結局、肝膿瘍で入院という結果でした。

おそらく、救急外来で診断がつかなくても、どうせ入院にはなったことでしょう。しかしながら、主訴と診断の間に解離があるこんな症例に対し、いろいろ頭を使うこと事態は、知的労働としては面白いなあと個人的には思っています。 今回の謎解きの鍵は、「悪寒戦慄」を自分で引き出せたことでした。

ちなみにこの患者さんは、入院後に、肝ドレナージが施行され、SBT/CPZとCLDMの抗生物質投与が行われ、軽快しました。そのメインの治療と並行して、両肩痛については、MRIを施行され、関節内にeffusionが認められました。化膿性肩関節炎の診断のもと、穿刺もされていますが、採取が困難で、培養で陰性でした。
結局、肝膿瘍の軽快とともに関節痛も自然軽快しました。患者さんは、約3週間の入院で完全軽快退院しています。

まとめます。主訴と違うところに真の問題点が隠れていることもある。まさに、そんな教訓が当てはまる症例です。ちなみに、過去のエントリーでも、この視点を指摘しているものがあります。⇒これです

本日の教訓
主訴とは違うところに真の問題点が隠れていることもある

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